ISGジェネレーション   作:京勇樹

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衝撃の事実

合宿最終日

この日はいくらIS学園一年女子達が元気とはいえ、朝から終始静かだった

それは今も同じで、バスに乗った女子学生の大半は寝てしまっている

直哉達も席に座り目を閉じているが、寝ているわけではない

体力の消耗を、少しでも抑えるためだ

起きていても、目を閉じているだけで随分違うものだ

そして、出発時刻まで待っていたら

 

「神崎、五反田、織斑」

 

と千冬が呼んだ

三人が視線を向けると、千冬は無言で手招きしていた

三人は内心で首を傾げながらも、千冬に近づいた

すると、千冬は小声で

 

「静かに着いてこい」

 

と言うと、歩きだした

三人は千冬に続いて、歩いた

しばらく歩くと、あの高台に来た

そこには、二人の女性が居た

一人は、福音のパイロット

ナターシャ・ファイルス

そしてもう一人は、この旅館の女将

清洲景子だった

三人が到着すると、まずナターシャ・ファイルスが近寄って

 

「あなた達が、トライアドね?」

 

と三人に問い掛けた

三人が頷くと、軽く会釈しながら

 

「知ってるみたいだけど、改めて自己紹介するわね。私は、ナターシャ・ファイルスよ」

 

と名乗りながら、右手を差し伸べた

それに対して、三人は握手に応じながら

 

「神崎直哉です」

 

「織斑一夏です」

 

「五反田弾です」

 

と名乗った

三人が名乗り終わると、ナターシャは

 

「今回、私のせいで迷惑を掛けたわね……覚えてるわ」

 

と言った

どうやら、暴走時の記憶があるらしい

 

「いえ、あれはあのイカれたヘルメットが原因ですよ」

 

直哉がそう言うと、ナターシャはいぶかしんだ様子で

 

「そもそも、あのヘルメットはなんだったの? 私は、相手の行動が予測出来るようになるって聞いたわよ?」

 

と言った

それを聞いて、直哉は小声で

 

「あれは、相手の敵意に反応してその相手を優先的に攻撃するための代物です。早い話、パイロットを機体の生態部品にするための狂気の開発です」

 

と説明した

それを聞いて、ナターシャが固まっていると

 

「恐らくは、アメリカさんも騙されたのかと……黒幕は、戦争を望んでるみたいですから」

 

と小声で、直哉がそう言った

 

「戦争を、望んでる?」

 

ナターシャは理解出来ないといった様子だったが、直哉は構わずに

 

「ええ……何のためにかは分かりませんが、戦争を望んでるのは間違いないですね……」

 

直哉がそう言うと、ナターシャは拳を握り締めた

そして、静かに

 

「そんなことのために、あの子を……っ!」

 

と憤っていた

直哉はナターシャが落ち着くのを待ってから

 

「アメリカのデータベースからは、ナターシャさんのデータは全て消されてます」

 

と告げた

それを聞いて、ナターシャは目を見開いた

 

「恐らくは、帰国することすら出来ないでしょう……ですから、俺は選択肢を提示します」

 

「選択肢……?」

 

ナターシャがそう問い掛けると、直哉は一枚の紙を取り出して

 

「貴女に、オーブを紹介します」

 

と差し出した

 

「なんで、君がオーブを?」

 

「それは………俺達が、オーブ軍の特佐だからです」

 

ナターシャからの質問に答えた直後、千冬が目を見開いて

 

「オーブ軍の特佐だと!?」

 

と驚愕していた

 

「千冬姉。俺達の機体は特殊でな、普通の所じゃあ部品は作れない。そこで、オーブ軍と取引したんだよ」

 

「俺達の戦闘技術を、オーブ軍に教えるってな」

 

千冬にそう説明したが、それは偽りだ

本当だったら、嘘は言いたくなかった

だが、言うわけにはいかない

それは、依頼を受けた傭兵としてである

傭兵として、依頼人(クライアント)と依頼内容は秘匿すべき情報である

故に、偽ったのだ

プロの傭兵として

 

「話を戻しますが、どうしますか?」

 

直哉がそう言うと、ナターシャは少し考えてから

 

「どうせ、帰る場所が無いんだから、決まってるわ……行くわ、オーブに」

 

と言って、直哉が持っていた紙を受け取った

 

「その紙には、オーブのとある方の電話番号が記載されています。そこに電話を掛けて、大使館に行けばいいでしょう……後は、オーブに任せれば大丈夫ですよ……福音も含めて、アメリカには何も言わせないはずです」

 

「わかったわ」

 

ナターシャはそう言うと、千冬の隣まで下がった

それを確認してからか、少し間を置いてから清洲景子が前に出た

 

「神崎直哉君。でしたね?」

 

「はい、そうですが……?」

 

景子が名前を確認し直哉が肯定すると、景子は懐かしんだ様子で

 

「ああ……確かに、あの人達の面影があるわね」

 

と言った

それを聞いて、直哉は驚愕の表情を浮かべた

直哉だけでは無く、弾と一夏も驚愕の表情を浮かべていた

 

「そ、それは、どういう……?」

 

「あら、ごめんなさいね……今から十数年前にね、一組の若い夫婦が泊まりに来たのよ」

 

直哉が口ごもりながら問い掛けると、景子は袖の中から一枚の写真を取り出した

そこに写っていたのは、二十代と思われる若い男女だった

しかも、その女性は子供を《二人》抱いていた

その写真を見て、直哉が固まっていると

 

「結婚して産まれたばかりと言ってたわね。大層幸せそうだったわ」

 

と嬉しそうに語る景子

しかし、直哉の耳には入ってこなかった

その直後

 

「妹さんは、お元気?」

 

と直哉に問い掛けた

直哉は、少し間を置いてから

 

「い、妹……?」

 

と景子に視線を向けた

 

「ええ……確か……六華ちゃんだったかしら?」

 

「俺に、妹………?」

 

直哉が写真を見つめていると、景子は手を叩いて

 

「ああ、忘れるところだったわ……君が来たら、これを渡すように頼まれてたのよ」

 

と言って、袖の中からUSBメモリーを取り出した

直哉は、それを受け取ると

 

「こ、これは?……」

 

と景子に問い掛けた

すると景子は、昔を思い出しながらか

 

「君のお母さん。百合さんがね。もし将来に君が来たら、渡してほしいって、私に託したの」

 

と答えた

 

「あの、中は?」

 

「見てないわ。お客様からのお預かり物だし」

 

「そうですか……」

 

直哉は努めて冷静にそう答えると、ポケットにしまった

 

「直哉……」

 

「つっ……」

 

一夏と弾は何かを言おうとしたが、口を閉じた

すると、千冬が

 

「三人共、バスに戻るぞ」

 

と言った

どうやら、出発の時間が近づいているらしい

三人が頷くと、千冬はナターシャに顔を向けて

 

「お前はどうする?」

 

と問い掛けた

すると、ナターシャは

 

「一緒に行くわ。どうせ、今のところ帰る場所は無いんだしね」

 

と言った

それを聞いて、千冬は

 

「ならば、着いてこい。教員席ならば空いてる」

 

と言って、歩きだした

直哉達も着いていくと、景子が手を振って見送っていた

そしてバスに戻ると、シャルロットとセシリアが直哉の異変に気付いたらしく

 

「直哉、どうしたの?」

 

「直哉さん?」

 

と問い掛けたが、直哉には答える余裕はなかった

そして、そうこうしている内にバスはIS学園に向けて出発したのだった

直哉のポケットの中には、USBと写真が入っていた…………


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