ISGジェネレーション   作:京勇樹

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セカンドステージ

「どこだ、ここ……」

 

直哉は周囲の光景に見覚えがなく、思わず呟いた

上を見上げると、視界一杯に星空が広がり、足下は足首辺りまで水に浸っている

左右前後には陸地はない

近くに、巨大な機体が横倒しになっていた

近くに寄ると、それはジム改だとわかった

ジム改

直哉にとって、思い出深い機体だった

なにせ、ジェネレーションワールドに行く前に三人でプレイしていたゲーム

戦場の絆で、直哉が愛用していた機体だからだ

二丁マシンガンを装備したジム改で直哉が遊撃を担当し、ビームナイフとサブマシンガンを装備したピクシーで一夏が格闘戦闘(ドッグファイト)を担当

そして、射撃型

ジムキャノンⅡに乗った弾が、的確に射砲撃を行う

三人の連携はかなり高く、戦果も上げて、披撃墜率も低かった

だから、馴染みのゲームセンターでは二つ名で呼ばれていた

その名は、三機将

そう、トライアドだった

今の直哉達のコールサインにして、三人を表す名前

かの世界でも、三人に付けられた二つ名

偶然なのか?

否、運命だったのだろう

直哉達が出会った時から、三人は戦場を駆け抜ける定めだったのだ

三人で様々な戦場を駆け抜けた

荒野、市街地、廃都市、宇宙、デブリベルト、月面、コロニー内、海上、上空、衛星軌道、森林、山岳………

気付いてみれば、三人はあの世界に行ってからノンストップで走ってきた

だったら、少し位休むのも

 

「悪くないな………」

 

そう判断すると、直哉は横倒れになっていたジム改の掌に昇った

そして、嘗ての愛機の掌の上に寝転がると、直哉は目を閉じた

今、直哉の耳に聞こえるのは水の音だけだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「織斑先生、良かったんですか?」

 

山田先生が心配そうに問い掛けると、千冬は

 

「防衛庁からは、中止命令は来ていない……どちらにしろ、やるしかない……」

 

と、苦い表情で返した

 

「そうですが………」

 

山田先生が画面を見ると、そこには福音に対して陣形を取り始めている専用機持ち達の姿が映っていた

今、無事な専用機持ち達によって、第二次福音撃墜作戦が開始されていた

発案したのは、カオルだ

発案した理由は

 

《こんな任務を押し付けたクソ野郎を、絶対に見返してやる》

 

というものだった

普段の千冬だったら、絶対に許可しなかった

しかし、カオル達の気持ちは痛いほどわかった

直哉と弾の二人がMIA

一夏が重傷

普通だったら、作戦は即座に中止し後の部隊に任せるべきである

しかし、防衛庁の高官は中止を許可せず

まるで、その命が尽きるまで戦えと言わんばかりに続行命令を出してきた

しかも、その命令を出したのは女性権利主義者だと分かった

それも、男は皆奴隷というかなり過激な思考らしい

その情報を教えてきたのは、(千冬としては意外だったが)束だった

束のその情報を聞いて、カオル達の心に火が点いた

しかも、焚き火とかのレベルではない

石油科学コンビナートに大引火レベルだ

実は、千冬が許可を出したのも、カオル達の怒気に圧されたからである

 

(あれほどの怒気を感じたのは、何時以来だ?)

 

千冬が過去を振り返っていると、戻ってきてオペレーションを再開したセツコが

 

「織斑先生、戦闘が始まります!」

 

と告げた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その場所で福音は、静かに膝を抱えていた

そして、思い出していたのは自分に手を差し伸べてきた相手だった

自分の声に気付いてくれた相手

福音はただ、守りたかっただけなのだ

《自分のパイロット》を

新装備らしいヘルメットを被り、機械に意識を支配されたパイロットを

そのヘルメットは敵意に敏感に反応し、自分に敵意を向けた相手を最優先に殲滅する

それに、あのパイロットは気付いた

だから、敵意と武装を納めた

そして、優しく手を差し伸べた

後もう少しで、パイロットを助けられた

だが、それは遮られてしまった

あの、赤い機体によって

それが、残念にならない

ふと、その時

福音は、自分に向けられた敵意に気付いた

次の瞬間、激しい爆発が福音を襲った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「初弾命中! 次弾行くよ!」

 

と言ったのは、80ミリ狙撃砲を構えたシャルロットだった

デュノア社とモルゲンレーテが共同開発した装備だ

その全長はシャルロットより長く、約2メートルに達する

その上、重量が50キロ近くあり、人では持てない装備だ

特筆すべきは、撃てる弾頭の多さと命中率の高さだ

弾種は定番の通常弾、徹甲弾、徹甲榴弾、炸裂弾、爆裂弾、成形炸薬弾、等々………

そして、命中率の高さの理由

まず、ハイパーセンサーと狙撃砲センサーを合わせることによる精密化

更に、人工衛星を使った照準システム、通称、鷹の目(ホークアイ)

敵の機動予測

そして、最適な弾を搭載されたAIが教える、スマートシステム

これらにより、誰でも高い命中率を出せるというコンセプトだ

しかし……

 

(速すぎる! 機動予測が、間に合ってない!?)

 

表示されてる機動予測は、残像だらけとなっていた

シャルロットはそれでも、スマートシステムに従って次弾装填

 

「つっ!」

 

シャルロットが放った弾を、福音は避けようとした

しかし、それは叶わなかった

なぜならば、その弾がまるで花弁のように開いて中から大量の鉄の矢が吐き出されたからだ

フレシェット弾

それが、シャルロットが撃った弾だ

本来だったら、対地攻撃に向いた弾である

しかし、その矢は貫通性が高いために対装甲車にも使われる

更に、爆発した時に広範囲に広がるので機動が高い敵にも有効だ

福音は矢に気付いて、静止

一気に上昇した

そこに

 

「はああぁぁぁ!」

 

双天牙月を持った鈴が、上空からまるで猛禽類のように襲撃した

福音はその一撃をビームクローで防ぐと、鈴を蹴り飛ばした

そして、鈴がバランスを崩すと追撃として銀の鐘(シルバーベル)を放とうとした

だが

 

「させませんわ!」

 

それを、両手にライフル

右手にスターライトMkーⅢ

左手に大口径レーザーライフル、スターライトブレイカー

を持って、セシリアが妨害する

更に、セシリアの周囲には約三十機のビットが展開していた

そして、両手のライフルを構え直すと

 

「乱れ撃ちますわよ!」

 

両手のライフルと合わせて、レーザーによる弾幕を形成した

 

ここから、彼女達の雪辱戦が始まる


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