ISGジェネレーション   作:京勇樹

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三機将、壊滅

「トライアド2、被弾! バイタルレッド、危険です!」

 

山田先生の悲鳴混じりの報告を聞いて、千冬は歯を食い縛った

 

(だから、篠ノ之を入れるのは反対だったんだ………!)

 

千冬がそう思った時、サーシェスが追撃をしようと構えた

しかし、それを直哉と弾が阻止

一夏を救出した

すると、通信画面が開いて

 

『トライアド1よりHQ! トライアド2被弾、大破! パイロットのバイタルレッド! これより、フォース1に部隊の指揮権を移譲し、部隊は撤退させる!』

 

と告げてきた

 

「待って、直哉君と五反田君はどうするつもりですか!?」

 

話し方に疑問を覚えたのだろう

セツコがそう問い掛けた

 

『俺とトライアド3は残り、撤退時間を稼ぐ! なお、福音は戦闘中に離脱。追跡は不可能だ』

 

直哉がそう言うと、千冬は視線を山田先生に向けた

すると山田先生は、直哉の言葉を肯定するように頷いた

 

「神崎………」

 

『千冬さん……後、頼みます』

 

直哉がそう言うと、通信画面は閉じた

そして千冬は、無力な自分を呪った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「カオル! ジュリと共に部隊を率いて離脱しろ!」

 

直哉がそう言うと、カオルは

 

「お前達はどうするつもりだ!」

 

と直哉に問い掛けた

すると直哉は、ライフルを装備して

 

「撤退時間を稼ぐ……」

 

と言った

そして、弾が一夏を箒に引き渡すのを確認しながら

 

「カオル、五分は確実に稼ぐ……その間に最低でも、二㎞は離れろ」

 

と言った

それを聞いて、ジュリが

 

「何をするつもりですか?」

 

と問い掛けた

少しすると、直哉は静かに

 

「SDSを使うかもしれない……」

 

と言った

SDS

それを聞いて、カオルとジュリは息を飲んだ

それは、ある装備の略称だ

使えば、パイロットの命は保証出来ない

 

「大丈夫だ。俺達だって、そうそう使うつもりはない……最終手段だ」

 

直哉はそう言うと、ライフルを向けて

 

「弾、行くぞ」

 

「ああ……」

 

弾を率いて、サーシェスへと突撃した

仲間の為に

 

「サーシェス!」

 

「ハッハー!」

 

直哉と弾はライフルを連射しながらサーシェスに突撃

サーシェスは二人の射撃を避けると

 

「行っちまいな! ファング!!」

 

と腰部装甲内から、ファングを射出した

 

「弾!」

 

「わかってる!」

 

二人は声を掛け合うと、背中合わせになり弾幕を形成

ファングの迎撃を始めた

ファングは上下左右から二人に攻撃を開始

二人は背中合わせのまま、機体の向きを複雑に動かした

これにより、死角を少なくしながら迎撃しやすくするのだ

もちろんだが、生半可な技術で出来ることではない

少しでもタイミングがズレたら、機体がぶつかる

しかし、二人はぶつかることなく次々とファングを迎撃していった

そして、最後の一機を破壊した直後

 

「チョイサー!」

 

爆発の煙を突き破って、弾の前にサーシェスがバスターソードを振りかぶりながら現れた

しかし弾は慌てることなく、それを盾裏のビームブレイドで受け止めた

すると、弾の後ろから直哉がビームサーベルを抜きながらサーシェスの背後に回った

その光景を撤退していたシャルロットやセシリアは、視界に表示されていた映像を見ていて倒せると思った

しかし、その直感は裏切られた

 

「ところがギッチョン!」

 

直哉の攻撃は、左足の爪先から出力されたビームサーベルによって防がれた

サーシェスはバスターソードで防ぎながらも、体を横倒しにして左足のビームサーベルで直哉のビームサーベルを防いだのだ

曲芸染みた防ぎかただ

それにシャルロットとセシリアは驚くが、直哉と弾はすぐに離れた

 

「弾、出し惜しみ無用だ!」

 

「あいよっ!!」

 

直哉の言葉に、弾は分かりにくいがSEEDを発動

直哉は機体の間接から、蒼い炎を噴き出した

それを見て、シャルロットとセシリアは目を見開いて

 

「あの蒼い炎は!?」

 

「直哉さん!?」

 

と、止まろうとした

だが

 

「止まるな!!」

 

というカオルの言葉で、二人は止まれなかった

 

「今戻っても、足手まといになるだけだ!!」

 

カオルのその言葉を聞いて、二人は歯を食い縛った

なにせ、今見えている戦いも別次元と分かるからだ

互いに死角を狙い、必殺の意思で以て攻撃を繰り出す

それは正しく、殺し合いという戦争

互いの命を刈り取る戦い

それは、セシリアやシャルロットだけでなく、殆どのメンバーが経験したことない領域だった

その時、簪が

 

「最大Gが、14G……PICの限界を超えてる」

 

と呟いた

 

「14G!?」

 

「あの様子じゃあ、耐Gリミッターを解除したな……」

 

簪の言葉を聞いて、鈴は驚きカオルは呟いた

14G

これだけ言われても、恐らくはピンと来ないだろう

しかし、体重70㎏の人の場合は

70×14=980

となる

つまり、機動中は常に約1tの負担が掛かるということだ

それだけの大G戦闘、彼女達は経験したことはなかった

直哉達も、普段の模擬戦ではそれほどの大G戦闘はしない

つまり、サーシェスはそれほどの大G戦闘をしないとまともに戦えない相手だという証拠だった

しかも、サーシェスは主武装を一つ失っている

つまり、それだけ攻撃手段を失っている

だというのに、サーシェスは二人相手に互角に戦っている

つまりは、個人戦闘だと負けているという証拠だった

そこに戻っても、二人の負担が上がるだけ

サーシェスは、自分達よりも遥か格上

別次元の敵だった

戻ったら、一撃で殺されるだろう

しかも、一夏の怪我も酷い

今は、一刻も早く治療させる必要があった

だから、直哉達の下には戻れない

それを自覚して、シャルロットとセシリアの二人は後ろ髪を引かれる思いで、戦域から離れていった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それからも、直哉と弾の戦いは続いた

上空で、海面ギリギリで激しい高機動戦闘が続いた

互いに殺意を向けて

 

『ぐっ……つっ!』

 

通信越しに直哉の苦痛に苛まれた声が聞こえて、セツコが涙目で

 

「織斑先生! 神崎君の脳波が異常な波形です! これ以上は保ちません!」

 

と報告した

それを聞いて、千冬は山田先生に視線を向けて

 

「山田君、撤退部隊の現在地は?」

 

と問い掛けた

 

「撤退部隊は現在、戦闘区域から約2、5㎞付近。間もなく教師部隊と合流します!」

 

「神崎、五反田! 撤退部隊は充分離れた! お前達も離脱しろ!」

 

千冬がそう言うと、《音声のみ》と文章が表示されて

 

『それは出来ません、千冬さん……』

 

と直哉の声が聞こえた

 

「どういうことだ!?」

 

『今ここで撤退しても、あいつは追撃してくる可能性が高い……下手したら、民間人に被害が出る!』

 

直哉からの通信を聞いて、千冬は息を飲んだ

直哉の声音は、確信に満ちていたからだ

 

『あいつは相手が無抵抗だろうが、民間人だろうが容赦なく攻撃する! そういう奴なんだ! あの男は! だから、ここで落とす!』

 

そうこうしている間に、二人は一旦距離を取った

 

『それに、言ったでしょ? 後を、頼みますって……』

 

「お前達ーー!!」

 

千冬達は、直哉達が死ぬつもりだとようやく気付いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「弾……」

 

「皆まで言うなよ、付き合うさ」

 

二人は短く会話すると、ビームサーベルを構えた

そして、ある装置の準備を始めた

すると、視界に

 

《SDS起動、パイロットは脱出してください》

 

という文章が表示された

恐らく、撤退部隊と司令室には

 

《SDS起動、付近の友軍は半径1、5㎞圏内から離脱してください》

 

と表示されているだろう

二人がやろうとしているのは、自爆攻撃である

それも、戦術核に匹敵する威力を有する高性能爆薬だ

二人はこれまで、サーシェスを倒すためにあらゆる手を尽くした

しかし、どうしても一手足りなかった

一夏が居たら、勝てたかもしれない

しかし、居ない人物を頼ってもしかたない

だったら、命を賭けるしかない

 

死力を尽くして、任務に当たれ

生ある限り最善を尽くせ

決して犬死するな

 

この手が、今の二人に出来る最善策だった

 

「行くぜぇぇぇぇ!!」

 

「おおぉぉぉぉ!!」

 

二人は雄叫びを上げると、最速で突撃を始めた

すると、二人の耳に司令室と撤退部隊から辞めるように懇願する声が聞こえてきた

だが、二人は止まらない

止まれない

もう既に、矢は放たれた

災いの芽は、一つでも断つ

サーシェスは二人が近接格闘を挑むと判断したのだろう

バスターソードに内蔵されているビームライフルで迎撃を始めた

しかし、二人は回避機動をとらない

数発被弾したが、二人は速度も緩めない

そこでようやく、自爆攻撃を仕掛けてきたと気付いた

 

「てめぇらぁぁぁぁぁ!!」

 

「一緒に逝こうぜ、サーシェスーー!!」

 

そして、もう逃げられない距離にまで近づいた

それを確認して、起爆しようとした

その時だった

 

「今ここで、そいつを失う訳にはいかないんでね」

 

という声と共に、全てを焼き尽くさんばかりの殺気が満ちた

次の瞬間、二人の体を幾条もの閃光が撃ち抜いた

二人はその殺気と声、そして攻撃方法から一人の男を思い出した

人類全てを憎み、全てを焼き尽くそうと暗躍した一人の男を

その証拠に、二人の視界にはノイズ混じりで一機の機体が表示された

白銀に輝くボディに、まるで後光を背負ったかのような天帝の名を冠するガンダムタイプ

その名は………

 

「プロヴィ………デンス……!」

 

「ラウ・ル・クルーゼ………っ」

 

二人がその名を口にした直後、直哉の腹部を紅い凶刃が貫き

弾の胴体を、ビームが貫通した

数秒後、二人の体から力が抜けて力なく墜落

海中に沈んだ

数瞬後、二人が墜落した場所で巨大な水柱が上がった

それと同時に、司令室と撤退部隊の視界から二人の識別コードが

消えた………


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