ISGジェネレーション   作:京勇樹

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墜ちる七剣

「トライアド1よりトライアド隊、ガーディアン3、フォース1に通達! トライアド隊はナイトロ機を殲滅! ガーディアン3とフォース1はウィンダムを対応! 他は戦域から離脱しろ!」

 

直哉がそう言うと、箒が

 

「待て! 私だって、戦えるぞ!」

 

と声を張り上げた。

それに対して、直哉は

 

「下がれ! 邪魔だ!」

 

と言うと、先頭に立って突撃した

邪魔扱いされたのが不満らしく、箒は歯を食い縛った

しかし、直哉は箒達に《人殺し》をさせたくなかった

直哉の脳内に響く声

 

(殺……して……)

 

(僕を……)

 

(私を……)

 

(俺を……)

 

(殺して……!)

 

死を懇願する声

ナイトロはサイコミュ装置である

そしてサイコミュ装置というのは、人の脳波に関する装置だ

つまり、最低でも脳が必要ということ

その証拠に、《生体反応は胸部からしか感知されない》

彼らは、機体の生体部品にされたのである

こうなっては、もう戻れない

そもそもナイトロを使われた時点で、例え機体から助け出しても、彼らの運命は決している

ナイトロが公に確認されたのは、宇宙世紀0096年

しかし、その始まりはもっと前だった

宇宙世紀0088年

つまりは、グリプス戦役である

グリプス戦役中に、地球連邦軍のとある高官が発案した計画

それが、ナイトロ計画である

このナイトロ計画というのは、経費と時間が掛かる強化人間を産み出す実験を短縮し、安価に早く強化人間を作り出し、その強化人間による部隊を作り出そうという計画だった

そして、作り出された初期型ナイトロを搭載したのが、ティターンズ陣営に与したNT研究所製やジュピトリス製の機体だった

しかし、初期型のナイトロには欠点があった

あまりにも効果が強すぎて、一回でパイロットを廃人にしてしまうのだ

そういったデータから改良されたのが、直哉の機体

ガンダムデルタカイに搭載された、中期型ナイトロなのだ

もちろん、中期型が存在するならば、後期型も存在する

とはいえ、説明は割愛させてもらう

直哉達が突撃すると、サイコガンダム、サイコガンダムmkーⅡ、デストロイは全身に装備された火砲を放って迎撃を開始した

それは、嵐と呼ぶのも生温い程の攻撃だった

死の暴風

ビームが、砲弾が、ミサイルが

雨霰と直哉達に殺到する

しかし直哉達は、それに恐れることなく、まるで無人の広野を駆けるように、砲撃の隙間を最高速で駆け抜ける

もちろんだが、接近を阻止しようとウィンダムやハンブラビが動いた

しかし、ウィンダムに対してカオルとジュリが攻撃を開始

ハンブラビはそのまま直哉達に迫るが、一瞬

たった一度の交差で、三機のハンブラビは胴体を切り裂かれた

 

(………ありがとう……)

 

「っ………!」

 

直哉の脳内に消え入りそうな感謝の言葉が聞こえた数瞬後、三機のハンブラビは爆散した

 

「……何時かは分からないが、俺達もそこに行く……」

 

「会ったら、罵倒してくれて構わない……」

 

「せめて、君達の仇は討つ……!」

 

三人は口々にそう言うと、三機のMAにそれぞれ突撃した

少し時は遡り

 

「なぜ、神崎は私達を………っ」

 

箒は直哉が後退命令を下したのか分からず、納得がいかない様子だった

 

「人殺しを、させたくなかったんだと思うよ?」

 

簪のその言葉を聞いて、箒の表情は変わった

 

「人殺し、だと?」

 

「うん……あの蒼い炎が噴き出してる機体……小さいけど、生体反応がある」

 

箒が問い掛けると、簪はハンブラビや三機のMAを指差しながらそう言った

 

「なっ……一夏達は、気付いてるのか……?」

 

「うん……彼ら程の戦士だもの……気付いてないわけがない」

 

箒の問い掛けに対して、簪は淡々と返した

裏に関わる彼女だから、三人が戦争を駆け抜けてきたことに気付いた

そして、戦争というのは命のやり取りである

迷っていたら、自分や仲間が死ぬ

戦場では迷うな

躊躇うな

情け、容赦は無用

殺すか殺されるか

戦場では、その二択しかない

生か死か(デッド・オア・アライブ)

直哉達は二年間、その戦場に居た

殺しあいに身を置いていた

数多くの命を、その手で奪ってきた

誰が何と言おうが、直哉達は人殺しだ

今さら、その事実から逃げはしない

否、逃げられない

何時か必ず、その仇を討つ者が現れる

戦争というのは、憎しみの連鎖だ

殺して、殺される

それを止める術を、直哉達は知らない

だからせめて、全てを背負う

それが、直哉達の覚悟だった

殺した事実を

殺される事実を

その全てを背負い、最期まで生きる

 

『命を捨てろ……人を殺す覚悟を持て』

 

セシリアは、以前に直哉が言ったセリフを思い出した

 

(今分かりましたわ……直哉さん達は、戦争を生き抜いた猛者……そして、力の振るい方を知ってる強者………何よりも、誇り高き戦士なのだと……!)

 

直哉の言ったセリフが、戦場に立つ者の覚悟なのだと悟った

何よりも、セシリアの脳内に声が聞こえていた

正確には、セシリアだけではない

シャルロットもだが、死を懇願する声が聞こえていた

もしかしたら、自分もああなっていたのかもしれなかった

二人がそう思った時、直哉達はハンブラビを一撃で切り裂いた

その直後、セシリアとシャルロットの脳内で

 

(………ありがとう……)

 

という感謝の言葉が聞こえ、僅かに涙が流れた

彼らはもう、もとの姿には戻れないのだと、分かったから

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ハンブラビを撃破した三人は、MA目掛けて突撃した

一夏はデストロイへ、直哉と弾は背中合わせでサイコガンダム、サイコガンダムmkーⅡへと

 

「TRANSーAM!」

 

一夏はトランザムを起動し、デストロイの砲撃を回避しながらデストロイの真上へと

直哉と弾はサイコガンダム、サイコガンダムmkーⅡの砲撃を回避しながら、二機の間目掛けて

ただ、一夏はこの時は気づかなかった

右足下腿部の粒子噴出孔でほんの一瞬、バチバチと火花が起きていたことに

 

「せめて、一撃で決める!」

 

三人はそう言うと、それぞれ構えて

 

「ハイメガ………」

 

「ハイマット……」

 

「トランザムライザー……」

 

直哉はサイコガンダム、弾はサイコガンダムmkーⅡ、一夏はデストロイに狙いを定めて

 

「キャノン!」

 

「フルバースト!」

 

「ソード!」

 

最大級の一撃を放った

三機のMAはそれぞれ、防御機構を発動させて耐えようとした

しかしほんの僅かな抵抗の後、防御機構を突破

三機のMAは、撃破された

直哉達は三機のMAが完全に動かなくなったのを確認してから、サーシェスの方向に振り向いた

そして、一夏は粒子残量が大分減っていたことからトランザムを切ろうとした

その時だった

一夏の機体の右足下腿部で、爆発が起きた

 

「なにっ!?」

 

一夏は体勢が崩れた機体を立て直そうと、必死になり

 

「一夏!?」

 

直哉と弾は反射的に一夏の方へと、意識を向けた

一夏の機体が爆発した理由

それは、箒を助けた時の被弾とトランザムの使用である

箒を助けた時、ファングの一発が右足下腿部の粒子噴出孔を掠めていたのだ

その後のトランザムの使用

通常の戦闘出力だったら、恐らくは耐えられただろう

しかし、トランザムの高出力に損傷していた場所が耐えられず、オーバーロードに近い状態になり爆発したのである

そして、この絶好の隙を

あの男が見逃すわけがない

 

「ハッハー!」

 

気付けば、サーシェスが一夏の目の前でバスターソードを振り上げていた

 

「くっ!?」

 

それに気づいて、一夏は盾で防御しようとした

だが、間に合わず

 

「チョイサー!」

 

サーシェスの降り下ろしたバスターソードが、右肩から左腰まで切り裂いた

 

「一夏ぁ!?」

 

その光景を見た箒の一夏の名前を呼ぶ叫び声が、戦場に響き渡った


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