ISGジェネレーション   作:京勇樹

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歪な力

ラウラが悪魔の囁きを受け入れた時

 

「これは、悪意!? しかも、この悪意は!」

 

戦っていた直哉は、ラウラの機体から覚えのある悪意を感じた

その直後

 

「があぁぁぁぁぁっ!?」

 

ラウラの機体から紫電が放たれて、攻撃していたシャルロットも吹き飛ばされた

しかも、事態はそれだけでは収まらなかった

ラウラの機体に劇的な変化が起きた

ラウラの機体は、装甲や武装全てがドロドロに溶けだしたのだ

その現象は、決して形態移行ではなかった

形態移行では、基本形態からそんなに大きな変化は起きないし何よりも、確認されてる形態移行とは起きてる現象が違った

ドロドロに溶けた機体は、グニャグニャと不気味に蠢いて、ラウラを取り込んでいった

 

「ぐうっ! うあぁぁぁっ!?」

 

ラウラは苦痛の絶叫を上げながら、取り込まれていった

その時になって警報音が鳴り響き、観客席を守るためにかハッチが降りた

そして、通信ウィンドウが開いて

 

『神崎、聞こえるな?』

 

と千冬が、直哉に通信を繋いだ

 

「織斑先生、これは?」

 

『第一級警戒態勢が発令された。今から教師部隊が事態の沈静に向かう』

 

直哉が問い掛けると、千冬は毅然とした態度でそう答えた

しかし、ラウラの機体が形作った姿を見て舌打ちした

高い踵に、丸い肩

両手に持った刀型実態剣に、クワガタを彷彿させる頭部

そして背中にあるコーンと、そのコーンから排出されているオレンジ色の粒子

その機体を、直哉は知っていた

 

「織斑先生。第一級どころではないですよ……特級警戒態勢を提言します」

 

『なに? あの機体を知っているのか?』

 

千冬の問い掛けに対して、直哉は構えで返した

 

「機体名はスサノヲ……疑似GN粒子を使った機体です!」

 

直哉の言葉に、千冬は息を飲んだ

 

「幸いにも毒性はありませんが、ISに異常が発生する恐れがあります」

 

直哉の引き続いての報告を聞いて、千冬は歯噛みすると

 

『そいつの相手は、神崎に一任する。教師部隊は、避難誘導に回す』

 

と告げた

 

「了解」

 

「直哉、来るよ!」

 

シャルロットがそう言った直後、疑似スサノヲは高速で直哉達に迫って刀を振るった

直哉はその一撃を素早く抜刀したビームサーベルで防いだが、違和感を覚えた

 

(この太刀筋は………三佐じゃない?)

 

直哉は、その太刀筋が本来のパイロットのものでないことに気づいた

本来のパイロット

グラハム・エーカーは左利きのパイロットである

故に、戦う時の攻撃も左手の攻撃が中心となる

しかし、今戦っている疑似スサノヲは右手が中心だった

 

(しかし、この動き………どこかで………)

 

直哉が思いだそうとしていた

その時だった

ザギンという何かを切り裂く音がして、続けて崩落音が響き渡った

その音を直哉が疑問に思う前に

 

「お前はあぁぁぁ!?」

 

という聞き覚えのある怒声が、直哉に聞こえた

そして、疑似スサノヲに一夏が斬りかかった

 

「一夏!?」

 

「このぉぉぉ!」

 

直哉が驚愕の声を上げるも、一夏気にした様子もなく疑似スサノヲに攻撃を叩き込んだ

しかし、疑似スサノヲは一夏の攻撃を防御

一撃で一夏を吹き飛ばした

 

「落ち着け、一夏!」

 

遅れてやってきた弾が制止したら、一夏は歯噛みして

 

「あの太刀筋……俺が見間違えるかよ……二刀流だが、千冬姉のだ!」

 

と低い声で言った

一夏のそのセリフを聞いて、直哉は納得した

 

(なるほど、千冬さんだったか……見覚えがあるわけだ)

 

直哉は納得しながらも、ビームライフルで牽制を続けた

なお、シャルロットはハンドサインで下がらせている

そして直哉は、疑似スサノヲが動きを止めたのを確認すると

 

「一夏、落ち着け。落ち着かないと、勝てる戦いも勝てないぞ」

 

と忠告した

直哉の忠告を受けて、一夏は数秒してから

 

「悪い……感情的になった」

 

と謝罪した

 

「分かったなら、大丈夫だ……分かってるだろ? 戦場では」

 

「冷静さを失った奴から死んでいく、だろ?」

 

直哉の言葉に一夏が続けて言うと、直哉は満足したように頷いた

そして、構えている疑似スサノヲを見て

 

「しかし、スサノヲとはな……」

 

と呟いた

直哉としては、疑似GNドライブではなく、GNコンデンサーだと予測した

もし疑似GNドライブを搭載していたら、最初から疑似GN粒子を放出していた筈だからだ

それに、力にあれほど固執していたラウラならば、最初から使ってきただろうことも予想出きる

しかし、疑似GN粒子が放出されたのは変わったあと

もし、変わったあとに強くなれるのを知っていたのなら、変わっていたはずである

しかし、変わったのは負ける直前だった

しかも、今この時、機体からはラウラの意思を感じない

そこから分かるのは、今のラウラは何らかのシステムに支配されていること

そして何より、あの紫電が放たれる直前に感じた悪意

それに、直哉は覚えがあった

 

「直哉………俺は、あいつの機体に異変が起きる直前、感じた覚えのある脳量子波を感じた」

 

「一夏、俺もだ………あの悪意………間違いない……」

 

二人がそう言うと、弾も近寄ってきて頷いた

弾も、ある存在の気配を感じたのだろう

三人の脳裏に過ったのは、ジェネレーションワールドで人類の救世主を気取った存在だった

人を見下し、自分こそが至高の存在と思い込んだ存在だった

 

「あいつが関わってるなら、止めるぞ」

 

「ああ………」

 

「今を生きる人々を、あいつの好きにさせるかよ」

 

三人はそう言うと、それぞれ構えた

そして、直哉は少し考えると

 

「一夏。俺と弾が隙を作る。一撃で決めろ」

 

と告げた

 

「了解……」

 

直哉の指事を聞いて、一夏は頷いて構え直した

三人が構えると、疑似スサノヲも構えた

その光景を、少し離れた位置かはシャルロットは見ていた

 

(なんて緊張感………まるで、本物の戦場に居るみたいだよ……)

 

シャルロットは代表候補生だが、実際の戦場は知らない

そもそも、ISに通常の現代兵器は通用しない

しかし、IS同士での戦闘はある(殆どの人の認識は試合だが)

だが、今この場所に於いては、戦場だった

疑似スサノヲからは凄まじい敵意が放たれて、直哉達からは押し潰されそうな闘気を感じる

その雰囲気に圧倒されて、シャルロットは我知らずに息を飲んだ

その瞬間、四機は同時に動いた

疑似スサノヲは両手の刀を振り上げたが、左手の刀は弾のビームライフルによって弾き飛ばされた

しかし、疑似スサノヲは構わないと言わんばかりに、右手の刀に持ち直して、直哉に対して降り下ろした

しかし、直哉はその一撃をビームサーベルを使い、最小限の軌道変更をさせることにより避けた

それにより、刀は地面にめり込んだ

その刀を、直哉は足で踏んで押さえ込んだ

 

「一夏!」

 

「おおっ!」

 

直哉が呼ぶのと同時に、一夏は突撃した

疑似スサノヲは刀による攻撃を諦めたのか、腰部側面のGNクローで一夏を攻撃しようとした

だが、その目論見は失敗した

一夏の両側をビームが走り、GNクローを破壊したのだ

そのビームを放ったのは、後方の弾だった

弾の放ったビームによりGNクローを破壊されて、疑似スサノヲは逃げようとしたが、一夏のほうが早かった

疑似スサノヲの懐に入った一夏は、GNソードⅢを振るった

数瞬後、疑似スサノヲの腹部が開き、中からラウラが出てきた

それを、一夏のカバーに入ろうとしていた直哉が横抱きに受け止めた

だが、直哉はラウラをすぐに地面に横たえて

 

「マズイぞ……生体反応が弱ってる……このままじゃ、保たない! 一夏!」

 

「分かった! ……TRANS-AM・BURST!」

 

一夏がそう叫んだ直後、一夏の機体から夥しい量のGN粒子が放出されて、アリーナの一角を覆った

そして、命を助ける対話が始まる


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