ISGジェネレーション   作:京勇樹

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整備室の少女

鈴が転校してきた日の放課後

 

三人はカオルとジュリの二人を伴って、整備室へと来ていた

 

要件は、オーブから送られてきた部品の確認である

 

「しっかし……こうしてると、ケイさんの有り難さが分かるなー」

 

と部品の確認をしながら、直哉が呟いた

 

すると、一夏と弾も頷きながら

 

「だなぁ」

 

「頭が上がらないな」

 

と同意した

 

すると、カオルが首を傾げて

 

「ケイさんって誰だ?」

 

と三人に問い掛けた

 

すると、三人は一瞬アイコンタクトを交わしてから、カオルに視線を向けて

 

「ケイさんってのは、俺達が所属してたフリーMS部隊スピリッツのメカニックチーフだ」

 

「機体の補給や整備、果てには機体の改造も請け負ってくれた人だよ」

 

「姐さん気質でなぁ……俺達も、何回もお世話になったよ」

 

三人は立て続けにそう言うが、最後の一夏が言った時、三人は何故か震えていた

 

だが、カオルは聞かないことにした

 

誰にだって、思い出したくないことは有るものである

 

「うーん……やっぱり俺達だけじゃ、完璧には出来ないか……ハロ、手伝ってくれ」

 

一夏がそう言うと、一夏の足元にあった青い球体

 

球体型ロボットのハロが、目を光らせながら

 

「了解、了解!」

 

と飛び跳ねた

 

このハロ、見た目は愛らしいマスコットロボットではあるが、実際は何でもこなす万能ロボットである

 

専用ユニットをつければ、機体の整備も行い、医療も行えるという万能さである

 

そして、なぜそんなハロがここに居るのか

 

このハロは本来ならば、ジェネレーションワールドにしか存在しない筈である

 

しかし、存在する理由は以前にオーブに向かった日にまで遡る

 

三人がオーブに行き、会談を済ませた後に代表たるウズミ・ナラ・アスハの計らいで機体の予備部品を供給してもらうことになった

 

そこで、オーブの一大軍需企業であるモルゲンレーテ社に行き、機体を展開、部品の確認を始めようとした時に

 

『ハロハロ、一夏、一夏!』

 

という、ハロの声が聞こえたのだ

 

まさかと思い、一夏は機体のコンソールを操作した

 

すると、機体の足元に青い球体

 

つまりは、ハロが現れたのである

 

この青ハロは、一夏の機体の背中に付いている元支援戦闘機

 

オーライザーを運用して、一夏のサポートを行っていた個体であった

 

それがまさか、ISとなった機体の中にあったとは、一夏も思っていなかった

 

そして、モルゲンレーテ社の好意で専用ユニットも作ってもらい、機体の整備を手伝ってもらっていた

 

一夏はハロが跳ねると、箱の中から四角い台座から二本の足が生えた専用ユニットの窪みに、ハロを嵌めた

 

するとハロは、専用マニュピレーターを動かして機体の確認を始めた

 

それを見ながら、三人は

 

「やっぱり、ハロが居ると楽だわな」

 

「ああ……ハロ、恐るべしだな」

 

「ハロ、万能説は伊達ではない」

 

と感嘆していた

 

その時だった

 

整備室の五人が居る場所とは反対側の奥の方から、金属が落ちる音がした

 

その瞬間、五人は振り向きながら拳銃を取り出して

 

「誰だ!?」

 

と構えた

 

数秒後、足音がして

 

「う、撃たないで……」

 

と一人の少女が両手を上げて現れた

 

髪は水色で内側に跳ねた癖っ毛で、目は赤でメガネを掛けていた

 

「……君は?」

 

直哉が問い掛けると、女の子はビクビクと震えながら

 

「さ……更識簪(さらしきかんざし)……です」

 

と名乗った

 

少女、更識簪の震えている姿を見ると、カオルは拳銃を下ろして

 

「確か……四組のクラス委員だったか?」

 

と問い掛けた

 

すると、簪は頷いて

 

「う、うん……お願い、撃たないで……」

 

と震えた

 

するとカオルは、まだ一夏達が拳銃を構えているのに気づいた

 

「下ろせよ。この娘なら大丈夫だろ」

 

とカオルが言うと、四人はようやく拳銃を下ろした

 

四人が拳銃を下ろすと、カオルは簪に顔を向けて

 

「えっと、簪でいいか?」

 

と問い掛けると、簪はおずおずと頷きながら

 

「うん……名字では呼ばないで……」

 

と言った

 

「あいよ。で、簪はなんで整備室に居たんだ?」

 

カオルがそう問い掛けると、簪は奥のガントリーに視線を向けて

 

「私の専用機を……組み上げていたの」

 

と語った

 

「専用機を、組み上げる?」

 

「どういうこった?」

 

「普通、組み上げられてから渡されるものだろ?」

 

一夏達がそう問い掛けると、簪は三人を見ながら

 

「ある意味では……あなた達も関係してる」

 

と言った

 

簪の言葉の意図が分からず、三人は思わず首を傾げた

 

「以前、あなた達に日本が専用機を与えるって話があったでしょ?」

 

簪がそう問い掛けると、三人は頷いて

 

「ああ、覚えてるぜ」

 

「まあ、断ったがな」

 

「誰がモルモットになんかなるかよ」

 

と三人が言うと、簪は俯いて

 

「あなた達に渡されるハズだった専用機を組むように通達されたのは、倉持技研で……私の専用機……打鉄弐式を開発してたのも、倉持技研なの……」

 

簪がそう言うと、三人は目を見開いて

 

「まさか……」

 

「俺達の専用機を組むために、人員を削減したのか!?」

 

「それは……悪かったな……」

 

と言うと、揃って頭を下げた

 

すると、簪は首を振って

 

「あなた達は悪くない……それに、途中で受け取ったのは私だし」

 

と言うと、ガントリーに固定されている打鉄弐式を見上げた

 

「どうして、途中で受け取ったんだ?」

 

カオルが問い掛けると、簪は両手を握り締めて

 

「私もお姉ちゃんみたいに、自分で組み上げたいの……」

 

と語った

 

「お姉ちゃん?」

 

簪の姉が誰か分からず、一夏達三人は首を傾げた

 

すると、カオルが

 

「IS学園生徒会長にして、ロシア代表の更識楯無(さらしきたてなし)だよ」

 

と説明した

 

「学生なのに、既に国家の代表になってるのか……」

 

「そいつは凄いな……」

 

「んで、そのお姉さんは自分の機体を組み上げたと?」

 

直哉と弾は驚き、一夏は簪に問い掛けた

 

すると、簪は頷いて

 

「うん……だから、私も自分で組み上げたいの……」

 

と語った

 

すると、五人は顔を見合わせて

 

「いやぁ……さすがに、それは無理なんじゃないか?」

 

とカオルが言った

 

「無理なんかじゃ!」

 

カオルの言葉を聞いて、簪は反論しようとしたが、それより早く一夏達が機体を見ながら

 

「その楯無さんだって、完全に一人で組み上げた訳じゃない筈だし、機体だってほとんどが組み上がってた筈だぜ?」

 

「この世には、完璧な人間なんて居ない」

 

「誰にだって、欠点がある」

 

と三人が言うと、続くようにカオルが

 

「もし完璧に見えるのなら、それはその人が必死に努力してるだけだよ。しかも、誰にも見えないようにね」

 

と言った

 

すると、簪は機体を見ながら

 

「お姉ちゃんが、努力してる……」

 

と呟いた

 

すると、カオルが簪に顔を向けて

 

「んで、どこらへんまで出来てるんだ? 見た目的には、完成してるが?」

 

と問い掛けると、簪はハッとしたように

 

「構成自体は出来てるけど、この機体の主武装……マルチロックオンを使った弾道ミサイル《山嵐》が出来てないの……」

 

と言うと、一夏達は顔を見合わせた

 

「マルチロックオン……」

 

「ということは、FCS全体か……」

 

「わりかし致命的だなぁ……」

 

と三人が話していると、カオルは少し考えてから

 

「なあ、弾の機体の奴使えないか?」

 

と弾に言った

 

すると弾は、後頭部を掻きながら

 

「まあ、多少デチューンする必要はあるだろうが、出来るだろうな」

 

と答えた

 

それを聞いて、カオルは簪に顔を向けて

 

「俺の一存じゃ決められないが、先に言うとだな、機体の組み上げに協力するぜ。オーブがな」

 

と言った

 

すると、簪は目を見開いて

 

「オーブが、協力してくれるの?」

 

とカオルに問い掛けた

 

すると、カオルは頷いて

 

「ここで会ったのも、なんかの縁だ。それに、困ってる奴を無視出来ないしな」

 

と言いながら、カオルは笑みを浮かべた

 

カオルのその笑顔に、簪がポーッとしていると

 

「まあ、オーブのモルゲンレーテ社と日本の倉持技研との技術提携って形になるだろうが、少し待ってくれや」

 

とカオルが言うと、簪は我に返って

 

「う、うん……」

 

と頷いた

 

そして、この後は簪の機体の組み上げを見ながらも、五人は送られてきた部品の確認を行っていた

 

その最中、簪は確認を手伝っていたハロが気になったらしく、一夏に売っているのか訪ねた

 

売ってはいないが、モルゲンレーテ社で作れないかをジュリに訪ねた所、作れることが分かったので、簪には民間用のコミュニケーションタイプを渡すことにしたのだった

 

そして数日後、正式にモルゲンレーテ社と倉持技研の技術提携が成立し、簪の専用機たる打鉄弐式の組み上げに協力することになった




ふふふ……
予想外だったでしょ?

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