何せ、どうもスランプなのか微妙な話になってしまい、いつも以上に駄文となってしまいました。
結構迷ったのですが、前回でタツミ達ナイトレイドがメインだったので今回はライ達に焦点を当ててみた結果、なんとろくに原作キャラが登場しない事態に。
マインとタツミの市政調査及び任務は丸々カット。大臣と処刑されるショウイの話もカットしましたが、こちらは一応次回に書く予定です。
なお、今回はそのまま最後まで書き進めると長過ぎることになってしまいますので、不自然ながらも途中までで中断しました。
内容に賛否両論あるかとは思いますが、広い心でご観覧ください。
あ、受験受かりましたヽ( ´ ▽ ` )ノ
ーー夢を見た。
とても……とても懐かしい夢だ。
自分が今いる世界ではない、此処とは異なる別の世界でのできごと。
懐かしくて、幸せで…………そして、とてもとても悲しい夢。
「ーーーー」
夜。自室で仮眠をとっていたライは目を覚ました。
「すぅ……すぅ……」
そっと視線を移せば、そこには自身に抱きつくようにして寝息を立てる妹ーークロメの姿がある。
安心し切った幸せそうな、見るだけで癒されそうな穏やかな寝顔。それが自身を信頼してのことだと理解できないほどライは鈍くはないつもりだ。
そんな妹の姿に小さく微笑んで、ライは彼女の抗い難い拘束を慎重に解いて行く。
折角気持ち良さそうに寝ているのだ。起こしてしまうのは忍びない。
ーーそう思ってのことだったのだが、どの道ライの気遣いは無駄になってしまった。
「ん…………おにいちゃん……?」
「……ごめん、起こしたかな?」
クロメの拘束を解いた直後、当の本人が起きてしまった。
まだ半覚醒状態……つまりは寝起きだからなのか、ボンヤリとした表情でライを見詰めている。
「どうしたの……?」
「ちょっとね。……ああ、起きなくてもいいよ。そのままお休み」
姉に似て艶やかな黒髪を梳くように撫でてやれば、心地よさそうに目を細め、ゆっくりと微睡みの中へと意識を沈めて行く。
しばらくはそのままクロメの髪を梳いていたライだが、彼女が完全に寝付いたのを見届けると、起こしてしまわないように細心の注意を払ってベッドから抜け出した。ーーのだが、
「おにいちゃん…………行かないで…………」
「………………本当に、鋭いと言うか、何と言うか」
咄嗟に振り返ってクロメを見やるも、彼女が起きているような様子はない。ならこれは寝言と言うことになる。
だが、それにしても何と言うタイミングだろうか。
「大丈夫だよーー僕は、ずっと傍にいるから。どんな時でも、二人の傍に」
幼い頃にそうしたように。怖い夢を見たと言って中々寝付いてくれなかった妹達に繰り返し聞かせてきた言葉を、耳元で囁く。
あの頃と同じように、優しさと愛しさを込めて。
するとーー何処か苦しげだったクロメの表情が、穏やかなものへと変わる。
そっと額に口付けを落として、ライは音を立てずに窓を開いてバルコニーへと移動する。
ーー美しい三日月の夜だった。
「………………本当に、懐かしい夢を見た」
それは、ライがこの世界に転生する前の世界。アカメとクロメの二人と出会う前のできごと。
昔は毎晩のようにかつての世界を夢想した。だが、時が立ち、二人の妹に“紛い物”ではない“本物”の愛を注げるようになってからは、あの世界のことを夢に見ることは少なくなって行った。
別に忘れたわけではなく、“今”と“過去”をはっきりと区別できるようになったからだろう、とライは思っていた。
だが、本当にそれは“思っていただけ”だったらしい。でなければーーこれほどまでに望郷の念に駆られることもないはずだから。
「クッーー本当に、弱くて愚かだな、僕は。救いようがない」
自嘲するように呟く。
未だに未練たらしく二度と戻らない過去に縋っているなど、本当に救いようがない。
今の自分の姿を見たら、あの親友達になんと言われるか。
“あの日”から何年過ぎ去ったかは定かではない。もしかしたら数百年も時間が経過しているのかもしれないし、未だに一年も過ぎていないのかもしれない。だが、ただ一つ言えるのは、彼らは今こうしている間にも、己の成すべきことを全力でやっているということだ。
みんな、戦っているのだ。きっと、今もずっとーー
「……いけないな。こうも感傷に浸るとは」
年だろうか?などと苦笑混じりに考えてみる。前世も合わせるとそろそろ中年に差し掛かろうかと言う年齢だ。感慨深くなるのもある意味当然なのかもしれない。
ーーと、不意に一段と強い風が吹き、くすんだ銀髪が激しく揺れる。
「……嫌な風だ。こういう時は何時も何か不吉なことが起こる」
気分転換も兼ねて、少し外でも歩こうかーーとライはバルコニーから躊躇なく身を投げた。
下から吹き荒れる強風に煽られつつ、クルクルと猫のように空中で身体を回転させ、音もなく着地。
そのまま何事もなかったかのように歩き出す。ーーとんでもない外出経路だが、部屋で寝ている妹を起こさないようにと言う配慮故なのである。まさにシスコン此処に極めり、である。
ーー夜の街は、存外静かなものだった。
オーガの一件から時間が経ち、宣言通りライは公務を終えた後に街を巡回している。が、その時間帯はあくまで昼過ぎから日が沈んでしばらくの間。
このように真夜中にまで出歩くことはほとんどない。それでいいのか、と思われるかもしれないが、もとよりライはナイトレイドのメンバー。支援こそすれ邪魔建ては必要がなければしない。
民衆を安心させるために巡回しているものの、実際に出歩いているのは、“将軍が実際に動いている”と言うポーズを取るためなのだ。
民衆の支持を集め、己への信頼を高める。そうしておけば、来るべき革命の際に避難誘導がやりやすくなる。そう思っての行動だ。
だからだろうか。何時もは何かしらの理由があって外に出ていたが、その理由もなく外出するのが妙に新鮮に感じる。
「ククッ…………らしくなく感傷に浸ってるな」
これも、かつての世界を夢見たせいか。何時もより感慨深くなっているらしい。
はあ、と重たいため息を吐き出して、気の向くままに足を動かす。
なんだかんだ言ってライも人間なのだ。知らない内に負担が溜まっていたのだろう。
時にはこうして……何も背負うことなくゆっくりとくつろげる時間を持つのも必要かもしれない。
「ん…………?」
ーーふと、幾つかの気配を感じ、すぐにああ、と納得する。
(帝都警備隊か……オーガ殺害の犯人探し、と言ったところかな)
感じる気配がやけに殺気立っているのはそのためか。
他人事のように考えながら、自然と足が動いていた。警邏の巡回経路をより深く把握しておこうと思ったのだ。
そして、そんなことを考えた自分自身に苦笑する。
(仕事中毒って、こういうことを言うんだろうな)
などと考えつつ、足を動かしているーーと、
『ギャアアアアアアッ!?!?』
「っ、悲鳴!?」
夜の街に響き渡る絶叫に、意識する間もなく走り出す。
ただ一度聞こえた悲鳴を頼りに場所を絞込み、到着したのは人目に付かない路地裏。そこでライが見たのは、首を切り落とされて息絶えた二人の帝都警備隊隊員。
流れ出した血が地面を赤く染め上げている。
「これは…………」
呻くように呟く。
犯人はナイトレイドではない、誰か。この日は確か、大臣の縁者であるイヲカルを暗殺するはず。
彼の屋敷はこの辺りからは離れたところにある。時間的にも距離的にもありえないし、そもそも理由がない。
「おやおや。こんな夜更けに出歩くとは、いけないなぁ」
ーー気配。
視線だけを後ろにやって姿を確認すれば、そこにはライよりも一回り体格の大きい男が下卑た笑みを浮かべて立っていた。
「じゃないと俺みたいな殺人犯に、首を刈られてしまぞ?」
「なるほど。犯人探しの手間が省けたな」
言いつつ、落ちていた二つの武器ーー剣とハンドガンーーを拾い上げる。
息絶えた二人の物だろう。彼らの流した血が付着し、白い手を汚すものの、特に気にはしない。
「勇ましいねぇ。もしかして、俺を捕まえる気なのかい?」
「どうだろう、な!」
振り向きざまに発砲。
高速で放たれた弾丸。それも至近距離からの銃撃を、
「おっと!いきなり攻撃してくるとは中々過激だな!」
あっさりと両手の双剣で弾かれる。
(至近距離での銃撃に反応するとはな。少しは本気で行かないと不味いか?)
「へぇ、大層な自信だな。本気になれば俺を倒せると思っているのか?」
不意に投げかけられた言葉に、目を見開く。
(今、思考を……)
他者の心を覗く。そんな芸当を可能にできる要因はライの知る限り二つ。
一つは、自身にとって馴染みのある力。だが、この力がこの世界にある確率は限りなく低い。
なら、考えられる可能性は残りの一つは。即ちーー
「ーー帝具か!」
「帝具について知っているとは博識だねぇ。そうさ。こいつが俺の帝具さ」
そう言って男が指さしたのは額に付けられた目玉。
「博識な君に教えて上げよう。何、気にするな。冥土の土産と言う奴だ。この帝具、“スペクテッド”。五視の能力を持った帝具さ」
(五視……なら先程の読心術は帝具の能力。更に言えば銃撃を躱したのも帝具の能力で動きを先読みしたからか?)
「ピンポーン!大正解!心を読んだのは五視の一つ、“洞視”。表情などを見ることで考えていることが分かるのさ。攻撃を躱したのは“未来視”。筋肉の機微で、次の行動が読める」
「ご丁寧に能力を教えてくれるとは、親切な奴だな」
唇を吊り上げ、酷薄に笑う。既にライの意識は戦闘時のそれに切り替わっている。
「趣味はお喋りだからな。そう殺気立たずにもうちょっと俺に付き合ってくれよ」
「ふん……断る」
「そう言わずにさぁ……『ギアス』とやらについて教えてくれよ」
瞬間、再び発砲。
放たれた弾丸を剣で弾き飛ばし、男は笑う。
「おいおいそう怒るなよ。『マオ』って奴のことを教えてくれるだけでいいんだって」
止まることなく引き金を引いて銃弾を発射するものの、それら全てを回避される。
どうやら、帝具の能力だけでなく、本人の戦闘能力もそれなりであるらしい。でなければ、幾ら動きを先読みしようと至近距離での弾丸に対応できるわけがない。
銃弾を撃ち尽くしたハンドガンを無造作に投げ捨てて、地面を蹴って高速で接近する。
「勇ましいねぇ!だが、心を覗かれた状態でどう対応できるのかな!?ーーッ!?」
振るわれた剣の速度はまさに閃光。
余りの速さに対応が遅れ、手傷を負ったのは男の方であった。
(こいつ……!ただの一般市民や警備隊じゃなさそうだな)
「……例え心を読まれようと、反応するのは人間。であれば、当人が反応できない速さで攻撃を仕掛ければいいと思ったがーー」
一拍の間を空けて、ライは冷笑を刻む。
「どうやら“この程度”で問題ないらしいな」
「ーー嘗めるな!!」
先程の巫山戯た様子は何処へやら。一瞬で激昂した男は双剣を構えて突進を仕掛けてくる。
だが、その程度に対応できないようなライではない。
ほぼ同時に地面を蹴って男に合わせて動き始めている。鏡合わせのように全く同じ進路で走りながら、数瞬で近付いていて行く。
一秒にも満たない間で、二人がぶつかり合うーーことはなく、
「なっ!?消えた!?」
驚愕の声を上げたのは男。彼らが激突する刹那に満たない間にライの姿が視界から消失していたのだ。
その直後、
「ーーッ、ぐううッッ!?」
背中に走った悪寒に、後先考えずに全力でその場から離脱する。
結果的にその行動が男の命を救ったが、僅かに遅かった。
「……浅かったか」
ぼそりと呟くライ。彼が握るその手の剣には鮮血が付着していた。
刀身に付いた血が流れ、切っ先からポツリポツリと地面に滴り落ちる。
「貴様、一体どうやって!?」
脇腹を切り裂かれた男が、驚愕の声を上げるものの、ライの表情は変わらない。
付いた血を振り払う様に一閃し、切っ先を男に向けて突き付ける。
「答える必要はない」
一瞬の攻防だったが、彼我の実力差は明確に理解できたらしい。
脇腹から血を流しながら、男は智謀を張り巡らせる。
心を読んでも、動きを読んでも届かない高みに眼前の男は立っている。このまま戦ったところで、自分は確実に死ぬだろう。
今生きているのは間違いなく運が良かったからに過ぎないことは、誰よりも理解している。
ならば…………“アレ”を使うしかないだろう。
「やれやれ……このままだと死んでしまうかもしれないな」
「そうか。なら死ね。今なら苦しまずに殺してやる」
さらりと物騒な言葉を言い放つのは、無遠慮に己の内に土足で踏み込まれたせいか。
今のライは、平時とは違い気が立っていた。
「そうかいだが、そういうわけにも行かないんでねぇ!!」
男の額に付けられた目玉が目を見開く。
何をするつもりなのかと思わず身構えたライの目に、信じ難い光景が移り込んだ。
「なっ、あっ」
呻く。蒼いその目は驚愕により見開かれ、表情が強ばり身体が硬直する。
倒すべき敵を前にして、茫然自失となることが如何に危険で愚かなことなのか、理解していないわけではない。
だが、それでも、ライの前に広がる光景は、彼を硬直させるには十分過ぎて。
もしライを知る人間がこの場にいたら、驚愕の声を上げていたことだろう。それほどまでに、今のライの様子は有り得なかった。
「どれほど卓越した技量を持っていようと、人間である以上『心』がある。それはお前も例外ではなかったようだな!」
三日月のように唇を歪ませて、男は嗤う。
傷は負ってしまったが命に別状はない。戦闘行動も問題なく行える。
であればーー今眼前で棒立ちとなり呆然としている男の首を刈り取ることなど赤子の手をひねるよりも容易い!!
男の判断は正しい。
如何なる達人とはいえ、それなりの使い手の前で茫然自失となることは「殺して下さい」と言っているようなものだ。
傷を負っているとはいえ、所詮は浅傷。剣を振るうのには何の問題もない。
ならば、こうして実際に立ち尽くす青年の首を切り落とすのに、何の障害があろうか。
男の判断は正しかった。過去に何度も同じような手で人を切り殺してきたが故に、この状態となった人間に抵抗することなどできないことは理解している。
男は間違ってはいない。だが、そう。
彼は単に、手を出す相手を間違えたのだ。
ーー剣閃が閃く。
防御しなければ死ぬ、と言う生存本能からの警鐘に咄嗟に体の前で交差させた双剣が、力尽くで破壊され、その衝撃の余波で男の身体が強引に押し戻された。
「なっ、馬鹿な!?有り得ない!?貴様は今確かにーー」
「ーーよくも」
動揺を隠す余裕もなく、狼狽する男の声は、地獄の底より響いてきたかのような低い声に遮られた。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくももッッッッ!!!!」
背筋が凍るほどに冷たかった声が、次第に熱を帯びてくる。
それは、誰かを暖かく包み込むものではないーー全てを焼き尽くしてしまうかのような、地獄の業火にも似た怨嗟の響き。
常人が触れればただちに発狂してしまうかのような、憤怒と憎悪に彩られた苛烈な声。
「よくもこの“私”にーー『あの娘』を斬らせてくれたなああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
剥き出しの殺意と憎悪に触れて、理性ではなく本能で理解する。
わざわざ思考を読むまでもない。彼の考えていることは、凍り付くような殺意が言葉よりも明確に教えている。
「くっ、くるな!!!」
震えを帯びた男の声に耳を傾けることもなく、ライは血走った瞳で男を睨み付ける。
「殺してやる……絶対にぃ、殺してやるッッッ!!!!!!!」
狂ったように感情を剥き出しにしてあらん限りの殺意と憎悪を向けてくるライの姿は、まるで『悪魔』。
ライの痩身が殺意という鎧を纏って何倍にも肥大化したかのような錯覚を、男は覚えた。
(こんな化物と戦っていられるわけがない!!)
瞬時にそう判断できた男はまだ冷静だった。
コートのポケット手を突っ込み、
「悪いがまだ死にたくはないんでね!」
中から取り出した小さな球を地面に叩き付ける。
「逃すものかーー!!」
ーー瞬間、鮮血が舞った。
所変わって、ライが普段使用している自室。
「ん…………」
不意に寒気を覚えてベッドで眠っていた一人の少女ーークロメが目を覚ました。
寝起き直後のぼやけた頭のまま、我が身を襲う冷たさに、何時もそうしていたように隣りの温もりに縋ろうとしてーー
「え…………?」
何時もならあるはずの場所に、なくてはならないものがものがない。そのことに気付いた瞬間、クロメを襲ったのは凍えるほどの冷たさだ。
己の身体が、心が、急速に凍て付いて行くのを感じる。
「お兄ちゃん?何処にいるの?」
呼びかけに応える声はない。
「お兄ちゃん、どうして返事してくれないの?ねえ、どうしてこんな意地悪するの?お兄ちゃんは知ってるよね。私はね、お兄ちゃんがいないと生きていけないんだよ?なのになんでいないの?お兄ちゃんは私のこと嫌いになった?…………違うよね。お兄ちゃんが、優しいお兄ちゃんが私のことを嫌いになるはずないもんね、アハハ」
空虚な笑みで、淡々と言葉を口にする。
だけど、相変わらず部屋にクロメ以外の気配が生じることはない。
兄のーーライの気配は意識して探るまでもなく探知できる。ライが意図的に気配を殺している場合はその限りではないが、どの道本気でクロメが気配を探れば見付けられる。
だからこそ、分かる。分かってしまう。
どれほど否定しようと、此処にライはいないのだということをーー
「あ、あ、あ、ああああああああああ!!!嫌!嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやぁ!!!!!嫌だよ!クロメを一人にしないでよ!傍にいてよ!お願い!お願いします!ねえ?ねえどうして?クロメ悪いことした?教えてくれないと分かんないよ。クロメはあたまがわるいから、お兄ちゃんがいないと何もできないの。だから教えてよ。あやまる。あやまるからぁ!一杯ごめんなさいするからぁ!だから、だから一人にしないでぇ、おにいちゃん…………」
その事実に気付いた瞬間、クロメは絶叫していた。
ボロボロと涙をこぼし、恥も外聞もなく泣き喚きながら、クロメはライを求め続ける。
駄目なのだ。自分から離れた時や、兄に言われて一時的に離れる時とは違う。
何の言葉も事前の予定もなく離れられると、クロメという少女は一瞬で精神崩壊寸前まで追い込まれる。
以前、ナイトレイドのアジトに戻った時、一人で行動することもあった。だが、あの時とはわけが違う。
あの場所にはライの他にも姉ーーアカメがいた。それに、ライとは自ら(不承不承とは言え)離れていたし、夜中にこっそり抜け出した時もヴァイオリンの音色を聞いていたからこそ安心できた。
しかし、今回のように事前の心構えもなく、不意打ちのように姿を消されると、クロメは今の状態に陥る。
半狂乱……あるいは恐慌状態に陥るのは一重に、クロメがライに対して重度の依存を抱えていることが原因だ。
依存しているという点ではアカメもクロメと同じだが、アカメの場合は『唯一心置きなく甘えられる相手』としてでの依存であり、クロメのそれと質が違う。
クロメの依存は、アカメのそれよりも遥かに重く、深い。そう、自身の存在意義さえもライに依存するほどに。
ライがほぼ四六時中クロメと行動を共にするのは、何も護衛と言うだけではない。この依存があるからこそ、ライも迂闊に離れることができないのだ。
「こわいよぉ……つめたくてさびしいの…………たすけてよ、おにいちゃん……」
とめどなく涙を流しながら、虚ろに呟く。
色を失った世界で、クロメは一人だった。
「………………これは、不味いな」
窓の外よりボソリと呟いた黒い影は、ため息をこぼしながら夜闇の中へと消えて行った。
「ーーっち、逃がしたか」
無造作に剣を放り捨てて、ライは舌打ちする。
(手応えはあった、が、致命傷には程遠いな)
別に油断していたわけではないが、本気を出していなかったのは事実だ。先程の舌打ちは、敵を取り逃がしたことに対するものではなく、自分自身の不手際に対するものだった。
ーーあの時、男は攻撃ではなく逃げるために閃光弾を使用した。小型ながら高性能な最新型である。
結果、瞬間的に視力を奪われたライは気配と音を頼りに剣を振るったわけだが、残念ながら仕留め損なったようである。
「はあ…………」
既に感情は落ち着いている。男が去ったことを気配で察し、ライは瞬時に己の感情に蓋をした。
ーーそうでもしなければ、目に映るものを衝動的に破壊してしまいそうだったから。
「いっそ笑えるくらいに滑稽だな、僕は…………」
むしろ笑ってもらった方がいいのかもしれない。
などと自虐的に嗤いながら、ライは軽く頭を振った。
「さて…………」
麻痺した視力も回復し、感情も落ち着かせた。後のことは警備隊に任せて一足先に戻るとしよう。
何せ、こちらは返り血を浴びて色々と不快なのだ。一刻も早く汚れを洗い落としたい。
あの男については、正直余り警戒はしていない。致命傷には至らなかったとは言え、男にはそこそこの手傷を負わせた。すぐに行動するということはしないだろう。
如何に帝具使いと言えどーーいや、帝具使いであるが故に負傷した状態での騒ぎは望まないはずだ。
帝具の能力も大体の予想はつく。傷が癒え、行動を開始使用とする前には決着を付ける。
「……落とし前は付けてもらうぞ。必ずな」
暗い感情と共に吐き出した言葉は、夜空に消えて行き…………見上げた空に、蠢く影を見付けた。
その影は真っ直ぐにライを目指して飛翔してくる。
影の正体には覚えがあった。と言うより、忘れることなどできはしない。
「ようやく見付けたぞ、ライ」
「キバット?一体どうしたんだ?」
どことなく顔に疲労を滲ませた表情でキバットが息を吐く。
何やら憔悴している様子だが、こんな彼を見るのは珍しい。
不思議に思って尋ねた所、キバットによって爆弾発言が齎された。そう、ライにとっては前世における戦略級フレイヤ並の破壊力を持つ情報を。
「クロメがお前がいない内に目を覚ました」
ピシィッ!と一瞬で石化する。
ギギギ……、とぎこちなく首を動かして滞空するキバットを正面から見詰め、恐る恐る、と言った風体で口を開いた。
「それは、本当、なのか?」
対するキバットの返答は無情だった。
「俺が嘘を言う理由があるか?」
「……………………………………………………………………………………………………………………ない、な」
随分と間を空けて、その言葉を肯定する。
ライとてたまには現実逃避がしたくなる時があるのだ。そっとしておいてやりたいところではあるが、そういうわけにも行かない。
彼ら三人をもっとも間近で見続けてきた身の上としては、現状がどれほど“危ない“状態のなのかが身に染みて分かっているのだから。被害の削減に尽力するのは当然とも言える。
「キバット」
「なんだ?」
「力を貸してくれ」
「おい待てこんなところで寿命を縮めるとか正気か貴様と言うかお前なら此処から数分も経たずに到着できるだろうが俺の力を使うとか一体何を考えてるんだそもそもキバの鎧をなんだと思ってるんだ軽々しく使用できないと言ったのはお前だろうが全く」
怒涛の勢いで話しまくるキバット。…………冷静そうに見えて彼も彼で、混乱しているようであった。
しかし、キバットが全て言い終わらない内にライは既に走り出している。
「やれやれ……全く、世話のやける兄妹だな」
自分よりもよほど取り乱している相棒の姿を見て逆に冷静になったキバットは、嘆息混じりに呟いて、彼の後を追って翼をはためかせるのだった。
~ヴァイオリンの音色~
キバット(以下キ)「今回はこの俺、キバットバットⅡ世が後書きコーナーを務めるぞ」
ライ(以下ラ)「……キバット。僕はいつまでヴァイオリンを弾いていればいいんだ?」
キ「決まっているだろう?コーナーが終わるまでだ」
ラ「結構疲れるんだけど!?」
キ「黙れ。少しは気張れ。さて、というわけで今回の話だが……まあいつもながら駄文だ。許せ」
ラ「なんでお前が偉そうなんだ」
キ「そして前書きでも言った通り今回は前後編に分けるそうだ。長すぎてしまうのでな」
ラ「おかげでだいぶ不自然な終わり方になったけどね」
キ「考えもなく作品を書いているからだ。さて、本編の話はここまでにして、ちょっとした質問だ」
ラ「原作一巻であった大臣とショウイの話について、僕が回想と言う形で書くか、それとも裏で手を回してイベントに発生を阻止していたことにするか。どちらがいいか意見を活動報告などで書き込んでくれると嬉しい」
キ「貴様、俺のコーナーで俺のセリフを奪うとはいい度胸だな。一度俺の力を思い出させてーー」
ラ「!?キバット!危ない!!」
キ「!?!?」
パアアアアアアアアアアン!!!
突如として虚空より現れた電車。その進路方向にはキバットが。
果たしてキバットの運命や如何に!
次回へ続く!!