今話にはアカメは登場しません。彼女は少しどう言ったキャラにしようか迷ってるので次回へ持ち越しです。
それでは、どうぞ。
クロメとタツミが血に塗れた邂逅を果たしていた時、ライはナジェンダがいるアジト内部に足を運んでいた。
「こうして会うのも久し振りだな、ライ。……いや、ライゼル将軍と言った方がいいかな?」
「……止めてくれ、ホームでまで気苦労を背負いたくない」
からかうようなナジェンダの言葉に、本気で嫌そうに表情を歪めて、ライははあ、とため息をついた。
「おや?天下の将軍さまにも敵わない奴がいるのか?」
ナジェンダの言葉に何処か遠い目をしながらライはポツリと呟くように、
「……妹が、な」
ナジェンダは、そっと目を逸らした。
どうやら察してくれたらしい。余計な言葉を交わすことなく事情を分かってくれる辺り、付き合いの長い友人と言うのは素晴らしい。が、今はその気遣いが少しだけ胸に痛いライであった。
「んんっ。ーーそれで?珍しいな。お前とクロメが別行動をするなんて」
場の空気を変えるように咳払いを一つ。
しかしその疑問がその場しのぎのものでないことは、彼女の不思議そうな顔で分かった。
「確かにクロメと一緒に行動することは多いが、だからと言って四六時中一緒にいるわけじゃないさ」
「そうか?日頃のお前たちを見ていると、お前はともかくクロメの方が離れたがらないと思うが」
「僕もクロメも人間だからな。一人になりたい時もあるさ」
「ふむ……そういうものか」
納得したように頷くナジェンダだがーー実際、その考察は当たっている。
宮殿内での立ち位置からライの傍を離れることなど一部の例外を除き、存在しないクロメだが、それはあくまでも任務。
そんなんじゃ一緒にいたことにはならない!ーー以前、クロメに注意した時に言われた言葉である。
何とかしないといけないと思いつつも、どうにもならない現状にため息が溢れる。
「まぁ、もっとも過酷で危険な任務を遂行してるんだ。私の言えた義理ではないが、余り無茶するなよ。キバットから聞いたが、監視を潰すためにワザと尾行させたそうじゃないか。ん?」
幸いにしてナジェンダはそのため息を別の意味に受け取ったらしく、ライの思考とは別のことを話題に上げる。もっとも、それがライにとって救いになるわけではないのだが。
(あの蝙蝠もどきめぇ……!)
もう片方の付き合いの長い友人はどうやら余計なことを言ってくれたようである。
冷静沈着な顔を殴りたくなる衝動に駆られるが、ため息と共に飲み下す。
「……仕方ないだろう。置いてきた影武者の方に余り負担をかけたくないんだ」
「だからって無茶しすぎだ、馬鹿者。お前が倒れれば多くの人間が悲しむし、革命軍にも致命的なダメージになってしまうからな」
バツが悪そうに顔を背けるライに呆れたように、ナジェンダはため息混じりにそう言った。
「分かってるさ。だからこうして不安材料を潰して行ってるんだろう?」
「やれやれ……。私はそう言うお前の方が心配だよ」
はあ、と今度はナジェンダがため息を吐いて、眼前に立つくすんだ銀髪の青年を見やる。
彼女の知る限り、彼以上に優れた人間はいない。その力は、誰にも扱えないが故に『欠陥品』の烙印を押された帝具を扱い、帝都宮殿内へ瞬く間に将軍の座に収まったことが証明している。自身もかつては将軍だったが故に、その地位に就くのがどれほど難易度の高いことかは分かっている。
その力に溺れず、なおも己を高め続けるその姿には、一人の武人として、また人間として尊敬している。ーーまぁ、本人の前では絶対に言わないが。
だからこそーー彼の抱える危うさを危惧しているのだ。
並外れた知略と帝国最強に並び立つとされる常識外の武力を保有する彼の、『人間』としての致命的な欠陥を。
「ーーまあいい」
そう、幾ら気にしたところで、本人に自覚がなければ指摘するだけ無駄だろう。指摘したところで何一つ変わらないであろうことも容易に想像できる。
ならば、彼女の想定する“最悪の未来”にならないよう、いるかも分からない神にでも祈っておくことにするとしよう。
「それで?首尾はどうだ?」
「……四割程度、と言ったところか。此処の所大臣に警戒され始めてな……。この程度、とも言える」
「いや、十分過ぎる。大臣に目を付けられつつある以上、それ以上の動きを見せるのは危険だ」
「僕と同意見か。できるなら半数以上の数値に持って行きたかったんだがな」
「上々だよ。誇っていい。流石だな。お前の手際には称賛するしかない」
「……なんだ。嫌に持ち上げるな。何かあったのか?」
ジト目でナジェンダを見やるライに思わず苦笑する。
どうにも彼は称賛されることに慣れていない……と言うより嫌っているフシがある。どうも彼は昔から自身の手柄を誇るよりも他者に押し付けようとするのだ。そのくせ、他人の犯した失敗やその尻拭いは全て自分一人でやってしまうのだから始末に負えない。
彼の妹曰く、ライは昔からそうだったらしいが。
「正当な評価だよ。正直な所、この程度の言葉しか贈れないことがもどかしくてたまらない」
「止めてくれ。背中が痒くなる」
本気で嫌そうに柳眉を顰め、顔を歪めるライ。彼の珍しい表情を見ることができて満足したナジェンダは、唐突に“あること”を思い出した。
「そうだ。ライ。ナイトレイドに新しく仲間が加わることになった」
「ーーは?」
ポカン、とする彼の表情は非常に珍しい。
「ああ、断っておくが、無理矢理仲間にしたわけじゃないぞ」
「当たり前だ」
憮然としてライは言う。
「ま、今日はそいつにお前たちの紹介を兼ねて歓迎会と行こうか」
そう言って、ナジェンダは席を立つ。後ろで、「殺し屋に歓迎されても嬉しくないと思うが……」と言う言葉は無視する。
人間、都合に悪い言葉は聞き流した方が得である。
「ーーあれ?あんたは……」
会場(と言ってもアジトの外なだけだが)に着くと、見慣れない少年が自分を見て首を傾げてた。
ーーなるほど。彼が新入りか。
あっさりと目標に人物が見つかったことに若干拍子抜けしつつ、ライは少年の方へ近付いて行く。
「初めまして、かな。ナイトレイドのライだ。よろしく」
挨拶と笑顔は人間関係を円滑に進めるための重要なファクターである。何事も第一印象が大事というが、その第一印象も挨拶から始まるのだ。更に笑顔は人の警戒心を解き、相手に好印象を与えることができる。
「あ、ああ。俺は今日ナイトレイドに加わったタツミだ。こっちこそよろしくな!」
ライの姿を見た時警戒していた彼も、狙い通りに警戒心を解いたのかニッ、と笑う少年ーータツミは何処からどう見ても無邪気な普通の少年にしか見えない。
ナイトレイドは殺し屋集団。日の目を見ることのない日陰者の集まりだ。そんな集団の中で彼がこれから先やっていけるのか、一抹の不安に駆られる。ーーが、そんな内心の不安など表情には一切漏らさずに、ライはタツミと握手を交わす。
「……ああ、そうだ。今日加入した新入りなら、クロメのことも知らないか」
ポツリとこぼした呟きは、しかしタツミの耳に届いたらしい。
「クロメって……もしかしてアイツのことか?」
「?知り合いだったのか?」
常時ライにベッタリなクロメに、ライの知らない知人(しかも異性!)がいたことに驚くライ。
「いや……知り合いっつうか、なんと言うか……」
苦渋の表情で言葉を絞り出すタツミを怪訝そうな目で見詰めつつも、取り敢えず妹(クロメ)を呼ぼうと思ったのか、周囲に視線を巡らせる。と、その時だった。
「おおっ!誰かと思えばライじゃねえか!久し振りだなぁ!」
「ん?ブラートか。確かに久し振りーーって酒臭いぞ」
背後から肩に腕を回し、アルコールで真っ赤に染まった顔を近付けるブラートを鬱陶しそうに手で制していると、
「オイオイライくぅん?なぁにをそんな隅ぃーっこの方で新入りと二人で話してるんだぁ?んん?」
「君らがそうやって酒臭い顔を近づけて来るからだよ、レオーネ」
反対側から同じように肩に腕を回して体重を預けてくるレオーネにウンザリしたように苦言を申し立てるライだが、アルコールにドップリ浸かった頭では理解できたかどうか怪しいところである。
「んっふふふふ。そんなこと言ってぇ、ホントはおねーさんに抱き着かれて嬉しぃんだろー?素直に言っちゃいなよぉ。“コレ”はお前の妹にもシェーレにだってないもんなんだからなぁ」
悪戯っぽく笑いながら、レオーネは自身の豊かな乳房を押し付ける。
あの威力に覚えのあるタツミは生唾を飲み込みつつ戦慄する。
ーーなんて羨まsじゃない、なんて威力なんだ!
「……生憎だが、妹をそんな目で見たことはないぞ。と言うか何故そこでシェーレが出てくる?」
「またまたぁ。そんな澄まし顔したっておねぇさんは全てお見通しだぞー?」
「オイオイレオーネ。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「黙れ、酔っ払い」
強引に二人を振りほどきつつ、酔っ払い二人の後頭部に軽く手刀を当てて昏倒させる。
一連の動作に一切の無駄が無い。洗練された動きであり、技術の無駄使いであると言えた。
「スゲェ!今の一体どうやったんだ!?」
先程の一連の動作に興奮を隠せないのか、キラキラした眼差しで見上げて来るタツミに苦笑しつつ、ライは「そもそも」と前置きして、タツミに解説し始めた。
「今のは二人にアルコールが回ってたからであって、平時の状態ならああも上手く出来なかったよ」
「ーーそれでも、レオーネとブラートの二人を一撃で昏倒させるなど、並の人間にはできないがな」
と、そう不意打ち気味に二人に声をかけてきたのは一人の女性。
「あ、ボス」
ナイトレイドのリーダー的存在のナジェンダである。
片手を挙げてタツミに応えつつ、二人に近付く。
「ああ。どうだ、タツミ。ちゃんと楽しめてるか?明日からは存分に仕事をこなしてもらうからな。今の内に英気を養っておけ」
「お、おう!」
「ーーって待て、まさか行き成り仕事を任せるんじゃないだろうな?」
「それこそまさかだ。ま、しばらくは雑用兼見習いとして私たちについて学んでもらうさ」
「……まぁ、ならいいか」
取り敢えず、タツミがなんのノウハウもなく暗殺業などできる訳がないので、そこは安心する。
「何はともあれ、タツミ。初陣ご苦労だったな。……が、先程も言った通りお前には殺し屋としてのノウハウが欠けている」
暗殺者と言うのは、何も腕が立つだけでは勤まらない。
気配の消し方は勿論のこと、闇夜に紛れて正確に対象を始末する技術、暗殺成功後に素早くその場を離脱する状況判断能力や空間把握術などなど、学ぶこと、身に付けることは山ほどある。
流石に全てを身に付けられるわけではないが、ある程度は身に付けないと暗殺の成否に関わってくる上、自身の生死にも直結する。
その点で言えばタツミはまだまだ未熟極まりないのである。
「ライ。此処には何時までいられる?」
「今日を入れなければ三日だな」
ナジェンダの問をあらかじめ予想していたのか、淀みなく答える。
「というわけだ、タツミ。お前は明日から三日間、ライの下で勉強しろ」
「べ、勉強?」
「ああ。ーーコイツの下にいれば、お前は今までよりも一つ上のステージに行けるはずだ」
確信に満ちたナジェンダの台詞に何処か釈然としないものを感じながらタツミは頷く。自分が新参者なのは自覚しているつもりである。だったら、上司の決定に逆らうべきではないだろう。
「それはそうとしてお前たち。なんでこんな隅の方にいる?」
「ああ、それはーー」
ライが答えようとしたその時、再び第三者の横槍が入った。
「そんなのレオーネとブラートが酒臭いのが原因でしょ」
高慢そうな声で入って来たのはマイン。その横にはシェーレの姿もある。
「久し振りね、ライ。宮殿内の様子はどう?」
「お陰様で毎日大忙しだよ。最近はやっぱりナイトレイドの話題が多いな。大臣も相当苛立っていたぞ」
「ふんっ!いい気味ね。そのままストレスで禿げて疲労で死んじゃえばいいのに」
「その前に高血圧と心臓病で死にそうだがな……。まぁ、余りいいことばかりでもないんだが」
険しい視線で帝都の方向を睨みつつ、くすんだ銀髪をかき上げる。
こんな動作の一つ一つにも気品が見えるのだから、実は王族か貴族だったりするんじゃないかしら、コイツ。などとマインはありもしない妄想を笑おうとしてーーふと思い至った。
(あれ?そう言えばライって確か……)
行き成り考え込んだマインを不思議そうに眺め、それからシェーレの方へと視線を向けた。
「シェーレも、久し振り」
「はい。お久し振りです、ライ」
ふわりと優しげに微笑むシェーレは相変わらず殺し屋には見えない。まぁ、それはナイトレイドメンバーほぼ全員にも当てはまることなのだが。
綺麗な顔立ちをしているが故に、右の頬に付いた一筋の傷跡が痛々しい。ーーもっとも、傷が付いた経緯を聞くとそんな感想など消え失せるのだが。
優しく微笑むシェーレに対するライの対応も何処か柔らかく、口元には微笑みが浮かんでいる。
「任務の様子はどうですか?何か不安なこととか悩みごととかありませんか?怪我や病気になってませんか?私に出来ることならなんでも言って下さいね。全身全霊でお世話しますから!」
「いや、そこまで気合を入れなくても。と言うかその言葉はそっくりそのまま君に返すぞ?」
言ってから、苦笑する。どうにも彼女は自分に対して世話を焼きたがる傾向にある。
別に迷惑というわけではないのだが、“かつての世界”の時も含めてこう言った扱いは受けたことがないので反応に困るのが現状である。『兄』扱いを受けたことはあっても、『弟』のような扱いをされたことはなかったので。
「そう、ですか?残念です……」
しゅんと肩を落とす彼女を見ていると自分は悪くない筈なのに罪悪感を覚えるのは何故だろう?らしくもない考えに自分でも苦笑するものの、
「……まぁ、何かあった時はよろしく頼む。頼りにしているよ、シェーレ」
「ーーッ!はいっ!」
たったこれだけで眩しいくらいの笑顔を見せてくれるのだからまあいいか、と納得する。
「ーーって、違う。話が逸れた」
そう、そもそもライはクロメをタツミに紹介しようと思ったのだ。
それが何時の間にかこんなことになっていた。
「二人共、クロメが何処にいるか知らないか?」
「クロメ、ですか?さあ、何処でしょう?」
「シェーレ……アンタも見てたでしょうに」
何時の間にか思考の海から上陸していたマインが呆れたようにシェーレを諌め、ライに向き直った。
「クロメならアカメと一緒に向こうの方にいるわよ」
「アカメと?だったらまだ二人切りにしておいた方がいいかな」
別に紹介するのは明日でもいい訳だし。
「あ〜。ライは行った方がいいわよ」
「?そうなのか?」
「そうよ。……今頃ちょっと大変なことになってるかもしれないし」
「大変なこと?」
聞き返すが、マインは視線を逸らすのみ。大変なことが何なのかは全く分からないが、取り敢えず行ってみれば分かるだろう。
本人は否定しているが、立派なしすkーーもとい妹思いの兄であるライが看過できるものではなく、一もなく二もなくライは妹の元へと急ぐ。
「ーー済まないが、タツミのことは任せた。悪いがタツミ、話しはまた後で」
早口に言い切って、ライは早速走り去って行った。
「……って、ちょ、ええ!?行き成りなんなの!?」
「気持ちは分かるけど気にしない方がいいわよ」
妹が絡むとライは大抵あんなんだし、とマイン。
「へぇ、家族思いでいい人なんだな!」
「アンタはお気楽ねぇ」
「何だと!?」
「何よ!?」
行き成り言い争いに発展する二人を他所に、
「……やっぱり、まだまだアカメとクロメには及びませんか」
何処か残念そうにシェーレは呟いた。
「あれ?俺は?」
アカメは一体どういうキャラにするか……素直クールなクーデレかキャラ崩壊必至でデレデレにするか……それとも両方の要素をブチ込むか……みなさんはどう思います?
……え?誰か忘れてる?さぁ……思い当たりませんねぇ♪~(´ε` )