俺にもっと……力(財力)があれば!!!!
人がやがて朽ちゆくように、国もいずれは滅びゆくーー
千年栄えた帝都すらも、今や腐敗し生き地獄。
人の形の魑魅魍魎が、我が物顔で跋扈するーー
ーーならばこそ、天が裁かぬその悪を、闇の中で始末するーー
我ら全員、殺し屋稼業ーー
帝都宮殿、謁見の間。
祭壇上の玉座に腰掛けているのは、未だ年端もいかない幼い子供。
彼がこの国を治める皇帝なのだと、一体誰が想像できようか。
本来、強力な後ろ盾でもいない限り、彼が世継ぎ争いで玉座を射止めることは出来なかっただろう。
だがしかし、現実として彼は玉座に座り、皇帝の地位に着いている。ーー例えそれが、お飾りに過ぎないのだとしても。
「ライゼル将軍」
幼き皇帝が、口を開く。
声をかけた先にいるのは、二人の人物。
一人は、全身を黒い衣で覆い隠し、男女の区別すら付かない上に、白い仮面をつけており、顔すら分からない。
更には謁見の間だというのに帯刀しており、それを誰にも咎められないことこそが、仮面の人物の立場を物語っている。
まさに不審者ここに極めりだが、その横で跪く青年が、それらの悪印象を吹き飛ばしていた。
くすんだ銀の髪に、蒼のグラデーションがかった神秘的な瞳。白磁のように白い肌はシミ一つなく滑らかで、その顔立ちは寒気を覚えるほどに整っている。
性別は間違いなく男だが、誰よりも何よりも『美しい』と言う言葉が似合っていた。
だが、それだけではない。肝心なのは人間離れした美貌ではなく、彼が醸し出すその雰囲気だ。
ーーただ一人の例外もなく竦み上がらせる永久凍土の如き冷徹な表情と、その場にいるだけで室内の体感温度を下げるような、絶対的な威圧感。
その二つが合わさり、彼を世界を支配する覇者へと見せている。
そんな彼が跪いているこの光景は、ひどく違和感を誘うものだった。
「はっ」
短く、ライゼルと呼ばれた青年が返答する。
「今度の戦、僅か一週間で終結させるとは見事であった!褒美として黄金一万を用意してある」
「ありがたき幸せ。戦に疲弊した兵たちも喜びましょう」
「ヌフフフ。あの奇襲夜襲を得意とし、我が軍も何度となく苦渋を舐めさせられたナワ族を僅か一週間で殲滅するとは恐れ入りましたよ。ええ、ええ。余りにも早すぎるモノですから、私もついつい貴方がナワ族と通じているのではないかと疑ってしまいましたよ」
皇帝の影より出てくるのは、でっぷりとした肥満体型を軍服に包んだ中年男性。
登場して早々かなり際どい言葉を言ってくる彼こそが、この幼い皇帝を世継ぎ争いで勝たせ、実質的にこの帝都を支配している男である。
「おや?これはオネスト殿。よもや私の陛下への忠義を疑いになるおつもりですか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんよ。ただこれから先の諸国制圧に役立てようと思っているだけですよ」
胡散臭い笑に胡散臭い言葉。誰がどう聞いてもその言葉が本心でないことは明らかである。
現在、この帝都を実質的に支配しているこの大臣に逆らうことは即ち『死』を意味する。が、そんなもの知ったことかと言わんばかりのこの態度。肝っ玉が座ってるというか単に図太いだけというか。
両者ともに第三者からすれば肝の冷えること間違いなしのブラックジョークを交わしながら、互の腹の底を見定めんとする。
「ーーそう言えば」
ふと、皇帝が口を開いた。
「ナイトレイドの件はどうなっておるのだ?」
「お言葉ですが陛下、直接の管轄でない話を私にされても困ります」
「む、それもそうだな。ーーよし、それではライゼル将軍、下がって良いぞ」
「はっ」
小さく頭を下げて、立ち上がって踵を返すライゼル。
「ーーああ、そうだ。伝え忘れておりました」
ふと、その足を止めて、ライゼルが振り返った。
「どうされました?」
怪訝そうに眉をひそめる大臣に対して、どこか皮肉げに唇の端を吊り上げる。
「宮殿内で"ネズミ"が何匹か彷徨いておりましたので、全て始末しました。ーー事後承諾となりますが、宜しかったでしょうか?」
「……ええ、構いませんよ。ですができれば生け捕りが望ましいですねぇ。もしかしたらナイトレイドの一味かもしれませんし、情報を握っているかもしれませんし」
「ですが、この宮殿内に侵入できるほどの暗殺者が捕まってしまった場合、生け捕りにしたとしても自害する可能性が高いですので、あまり期待はされませんよう……」
「ええ、分かっていますよ」
「そうですか。では、今度こそ私はこれで」
もはや要は済んだと歩き去る青年の後を追うように、黒装束の人物も退室した。
「……やはり危険ですねぇ、あの男は」
皇帝との謁見を終えたライゼルは、黒衣の人物を従えて自身の執務室に戻っていた。
「………黒」
「周囲に人気配なし。視線も感じないし、監視はいないと思う」
黒、と呼ばれたのは黒装束の人物。驚くことにその声は高い、女性のものだ。
「となると、ここには私たち二人きりと言うわけか……」
呟いて、ライゼルはようやく肩の力を抜くように息を吐いた。
「ーーお疲れクロメ」
「えへへ、どういたしまして、お兄ちゃん」
ーーと二人の雰囲気が変わった。
室内に漂っていた危険な雰囲気はものの見事に霧散し、代わりに穏やかな、優しい雰囲気が満たす。
黒ーークロメは仮面と身に纏っていた全身を覆うローブを脱ぎ捨てて、ライゼル改めライに抱き着いた。
何も知らぬ第三者が見れば、顎が外れるほどに驚愕するであろうこと間違いなしだが、どちらかというと先程までの姿が偽りであり、今の姿が本来の彼らである。
ライに抱き着きながら、クロメは非難の眼差しを送る。
「もう!いつものことだけど毎回大臣を挑発しないでよ!見ている私の身にもなって!」
「いや、だがあれは大臣に対する牽制にもなるし、監視の数をこれ以上増やさないための示威行為でもあってーーごめん」
つらつらと理由(言い訳)を述べていたライではあるが、段々と涙目になっていくクロメにあっさりと降参する。
慰めるように艶やかなショートカットの黒髪を撫で、苦笑を浮かべる。
「お兄ちゃんが無茶なこと、平気でする人なんだって知ってるけど、心配なの。お兄ちゃんは誰よりも強くてカッコイイけど、此処(宮殿)で大臣に敵対されれば、いくらお兄ちゃんでも死んじゃうかもしれない。私じゃ守り切れないかもしれない」
それが怖いの、とクロメは涙混じりに言う。
「ーー死なないよ。例え何があろうと、僕が二人を残して逝くわけがないだろう?」
微笑を湛えながら、力強くライは言う。
ーーそう、"まだ"死ぬわけには行かない。僕にはまだ、やらなければならないことがあるのだから。
心中で再度己の意思を再確認し、場を和ませるために努めて明るい口調で呼びかける。
「明日からはしばらく休暇だ。これを機に、一度アジトに戻るとしよう」
久し振りにアカメにも会いたいし、と付け加える。
「やった!お姉ちゃんにも会えるね!」
楽しそうにクロメが笑う。
やはりこの子には笑顔が似合う。悲しい顔など似合わないな……もっとも、悲しい顔をさせている原因が今の所自分のせいであると言うのが痛いが。
「念の為に影武者は置いておいてくれよ。もしバレたら流石に不味いことになる」
「了解。お兄ちゃんの頼みだもん。なんとしてでもやり遂げるよ」
「……いや、毎回やってることだし、そこまで気負わなくてもいいんだが………」
やる気に満ち満ちているクロメに苦笑を浮かべながら、ライは部屋の片隅で逆さ吊りになっている相棒へと呼びかける。
「ーーキバットもそれでいいか?」
キバットと呼ばれたそれは、黒い蝙蝠のような姿をしていた。
「俺はもとよりお前に従うだけだ。が、ちょうどこそこそ隠れ住むのには飽きていたところだ。アジトへ戻るのは賛成だな」
明らかに人語を話せないように見えて、驚くことに蝙蝠ーーキバットと呼ばれたそれは人の言葉を話していた。
しかし、ライは勿論、クロメもまた気にした様子はない。
「よし、なら決まりだな。ーー久し振りに帰るとしようか。僕らの家ーー」
「ーーナイトレイドに」
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
後書きにちょっとした主人公の設定を載せようと思います。
では、
【character file】
名前:ライ
容姿:くすんだ銀髪に蒼のグラデーションをした瞳。白い肌と十人中十人が振り向く端整な顔立ちの持ち主。体格はスレンダーで華奢な青年。
帝具:絶滅魔王「キバ」
備考:超がつく美形主人公。アカメとクロメの兄ではあるが、実際の血の繋がりはなく、幼き頃に二人の親に拾われ、以後は奴隷のように扱き使われていた。拾われる以前の記憶はなく、出自は不明である。
その正体は転生した『LOST COLORS』の主人公ライであり、ギアス編後、C.C.によって眠りから覚め、以後は黒の騎士団として戦って行く。ルルーシュの正体が発覚したときは人芝居をうち、全て自身が仕組んだこととしてルルーシュと黒の騎士団の決壊を防いだ。その為、シャルルとマリアンヌの計画はライがたった一人で崩壊させ、二人の魂さえも消し去った。その代償として三度目となるギアスの暴走が起こり、自らの命がそう長くないことを悟る。最終決戦ではルルーシュ及びシュナイゼル率いる黒の騎士団とスザクを初めとするラウンズの連合軍にギアスで奴隷化した兵と、自身に心酔する腹心を引き連れ、勝負に挑みーー後は、原作のルルーシュと同じような最後を迎えた。
その後、Cの世界の集合無意識に「明日が欲しい」とギアスをかけた影響により、『アカメが斬る!』に転生した。ちなみに、アカメとクロメの二人と血の繋がりがないことをライは秘密にしているが、二人共普通に知っている。そのことをライは知らない。
幼い頃より守られていた影響からか、アカメとクロメ共にライへ依存しており、特にクロメが重症。更に無意識なのか束縛癖や独占欲があり、近頃はそれがライの悩みだとか。
一度死んでいる、という経験からか、自身の命に対する価値観が希薄で、自分の命を『無いもの』として考えることが多く、妹二人を不安にさせている。
なお、拾われる以前の記憶はないらしく、気付けば生まれ変わっていたとのこと。
生身のままでも人間離れした身体能力と戦闘能力を誇り、エスデスに匹敵するほどであり、ナイトレイド及び革命軍の最強の切り札であり、革命軍の決起の際にはエスデス及びその配下の三獣士を相手にすることになっている。
頭も相当切れ、現在はその能力をフル活用して帝国将軍にまで登りつめ、宮殿内の情報や暗殺対象の情報など様々な点でも暗躍している。
また、かつての世界で王となっていただけはあって、相当なカリスマ性を持ち、彼の配下の兵は彼がナイトレイドの一員だと知っても迷うことなくついて行くだろう。
二人の妹のことを常に気にかけており、二人を守り抜くことを誓いとしている。
一人称は「僕」または「私」
絶滅魔王「キバ」
鎧の帝具。最強の鎧を造り出すことを念頭にして造られたためか、装着者への負担を一切考慮しておらず、その負担はインクルシオの比ではない。それ故、装着者を殺す「死の鎧」として永年封印されていたものの、ライの並外れた「資格者」としての力に反応する。
危険種の素材や今では採掘できないとされる超希少なレアメタルをふんだんに使って造られ、その力は「世界を作り変えるほど」。強大な力を持つが、それ故においそれと使用出来ないものでもある。
絶大な力を悪用されないために選定には慎重を期し、資格者の第一印象、鎧の最終装着決定権を持つキバットの裁量、そして鎧自身による最終選定と、三つの課題をクリアしなければならないと言う規格外の帝具。
副武装は`ザンバットソード´
外見及び能力は仮面ライダーダークキバ