東方禁初幻譚   作:鈴華

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お待たせしました。
今回はあの神様とあの巫女の先祖の登場です。

それでは、本編どうぞ。


Ep,2 諏訪の国

カルマはどことなく足を進めていた。神綺に魔界を与え、翌日に様子を見に行くと、どうやら気に入ったらしい。そのため、魔界を消すようなことをしなかった。神綺に別れを告げ、旅に出ることにしたのだ。

 

「しかし、あの都市の痕跡が全くないな。あいつら、月に無事着いたのか。・・・今の俺には関係ないか。」

 

―イヤアアア!!―

 

突然、響き渡る悲鳴。おそらくここから近い。方角は西南。カルマは様子を見るために、駆け出した。木々の影から覗くと、10代後半辺りの女の子が妖怪に襲われていた。

 

「こ、来ないでください!」

「キャシャアアアアア!!」

「ひっ!」

 

少女は後退る。胸にはなにかを抱え込んでいるようだ。このままでは彼女の命がないだろう。カルマ自身はここでなにもせずに去るということも考えたが、後味が悪いと判断した。

 

―第22禁忌魔法“磔十字”―

 

無演唱による魔法の発動。突如、妖怪の背後の地面から大きな十字架が生えてきた。そこから飛び出す鎖が妖怪の手足に絡みつく。そして、妖怪は十字架に磔にされた。

 

「い、一体何が・・・。」

「さっさと立ち去れ。」

 

カルマが影から姿を現す。少女は彼の存在に気づいた。

 

「あ、あれは貴方が?」

「そうだ。」

「あ、ありがとうございます!」

「・・・いいからさっさと行け。」

「はい!」

 

彼女はもう一度頭を下げ、お礼を言うと駆けていってしまった。少女の姿が見えなくなると、彼は磔にされている妖怪に視線を向ける。妖怪は脱出しようと暴れるが、それも弱いものへと変わっていく。

 

「貴様、話せるだろ?生きるか死ぬか、選べ。」

「・・・生キタ、イ。」

「ふん。」

 

十字架から開放すると、妖怪は力なくそこに倒れ込んだ。彼はその妖怪から視線を外すと、その場を去っていった。

 

 

 

気がつけば、もう日は傾いてきていた。カルマは、これは野宿せざるを終えないだろうと、思い始めたとき、大きな道へと出た。そして、その道なりに進むと大きな集落が見えてきた。

 

「止まれ!」

 

入口となる場所に2人の男が立っていた。門番だろう。どちらも槍を持ち、それをカルマに向けている。もう日が暮れるという時間帯に訪ねてきては、誰もが怪しむだろう。

 

「ただの旅人だ。1日過ごせる場所を探している。」

「旅人だと?」

「1日だけでいい。泊めてもらえないか?」

「・・・・・・。」

 

どうやら警戒しているようだ。このままでは埒が明かない。とその時だ。

 

「あ、あー!貴方はあの時の!」

 

門の向こうから女の子の声が聞こえてきた。青を中心とした巫女服に緑色の髪、そして蛙と蛇の髪飾りの女の子。間違いない。彼女は先刻、カルマが助けた少女だ。

 

「こ、東風谷さま?どうしてここに?」

「買い物でここの近くまで来たんですよ。そしたらこちらが騒がしいので。」

「し、失礼しました。」

「あと、その人を通してあげてください。私の命の恩人です。」

「そうだんったんですか?ならいいでしょう。」

「通っていいぞ。」

 

入る許可が降りたようだ。通されたカルマに東風谷と呼ばれた少女は話しかける。

 

「あの時はありがとうございます。おかげで助かりました。」

「気にするな。ただの気まぐれだ。」

「でも、助けてもらったのは事実です。ありがとうございます。」

「・・・ふん。」

「私は東風谷水咲(こちやみさき)と言います。貴方は?」

「カルマだ。」

「カルマさん。お礼として私の神社に招待しますね。」

「お、おい?」

 

いきなり手を引かれ、付いて行くことになった。到着したのは一つの神社だ。

 

「諏訪子さまー!ただいまでーす!」

「おかえりーって、あれ?」

 

奥から現れたのは、大きな帽子をかぶった金髪の女の子。だが、ただの女の子ではない。カルマはツクヨミたちと暮らしてきたのだ。彼女から彼ら程ではないが、神力を感じることができる。

 

「水咲ー。私は買い物を頼んだのに、男を連れてこいなんて言ってないんだけどー。」

「あー!忘れてました!今から行ってきます!」

「・・・・・・。」

 

先も言っていたが、彼女は買い物をしていたようだ。そこにカルマが来たことで忘れてしまっていたらしい。取り残された2人の間に気まずい空気が流れる。

 

「え、えーっと。上がってくかな?」

「そうさせてもらおう。」

 

神社の中は至って普通のようだ。ただ、通常のものよりも小さいような気もする。

 

「そこで待ってて。お茶出すから。」

 

本来あの巫女がやることなのだろうが、あいにくと水咲はここにいない。少女が戻ってくると、カルマにお茶を出した。

 

「とりあえず、自己紹介しとくね。私は洩矢諏訪子。」

「カルマだ。」

 

自己紹介を済ませ、お茶を啜る。諏訪子は彼をどのような存在なのか、見定めようとしているようだ。じっと見つめている。

 

「聞いてもいいかな?」

「・・・なんだ?」

「ここにはなんの用で来たの?」

「安心しろ。少なくとも、お前の国を荒らすつもりはない。偶然通りがかっただけだ。」

「ならいいんだけど。私の国で何かしたら、容赦しないからね?」

 

諏訪子の神力が膨れ上がる。どうやら歓迎されていないようだ。カルマは涼しげな顔でそれを受け流す。伊達にツクヨミたちと暮らしているわけではないのだ。

 

「ただいま戻りましたー。」

 

しばらくして、水咲が神社に帰ってきていた。両手にはたくさんの食料を抱えている。

 

「そういえば、水咲はどこでカルマと会ったの?」

「ほら、私が薬草を頼まれて取りに行ったじゃないですか。その時、妖怪に襲われそうになったんですけど。カルマさんがそれを助けてくれたんです。」

「そうだったんだね。」

「はい。命の恩人です。」

 

ここまで絶賛されていては、見なかったことにしようとしていたなど、口が避けても言えなくなる。現に、カルマは顔をしかめ、そっぽを向いていた。

 

「そうです!お礼として、カルマさん、ここに泊まりませんか?」

「なに?」

「ほら、さっき泊まるところを探しているとか言ってたじゃないですか。ならここに泊まりましょうよ、そうしましょう。」

 

確かに野宿よりはマシだろう。一応ここの神である諏訪子に視線を向けるが、肩をすくめるだけ。彼女としてはどちらでも構わないようだ。

 

「俺は構わない。」

「じゃあ、お泊まり決定ですね!早速晩ご飯を作りましょう。」

 

かくして、カルマは諏訪の国に暮らすこととなった。

 




うーん、早苗のイメージがそのままって感じがします。
遺伝って怖いw
因みに、今のところ水咲のデザインは早苗とほぼ同じです。
ちょっと変えてみようとは思っています。

次回の更新は遅れます。
理由はカリキュラムが更に本気を出したことと、次回に入れる挿絵を描くためです。
だからデザインの話をしたのよw

今回、カルマが使った禁忌魔法です。
第22禁忌魔法“磔十字” ― 十字架を出現させ、触れた対象を磔にする。徐々に魔力や妖力、霊力といった力を奪い、それが尽きたら生命力を奪う。この能力を抑えることで鈍器のように扱うことが可能。プロローグの戦闘がこれにあたる。

それでは、間違い等がありましたら、ご指摘のほどよろしくお願いします。
感想も待っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。


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