東方禁初幻譚   作:鈴華

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それでは、本編どうぞ。


Ep,6 西行妖 後編

第16禁忌魔法“テンペスト”の応用である“レクイエム”を放った後、カルマは息を乱しながら膝をついた。“教会領域”だけでなく、他にも魔法を使えば、流石に息切れもするだろう。だが、現実はそれほど甘くはなかった。

 

「…チッ。」

 

満身創痍となったカルマに向けて、根の鉾が襲い掛かる。ソウルイーターを消し、依代となる鎌を使って地面を押し、バネのように飛び出すことで、攻撃を回避した。いきなり飛び出した為、着地には失敗し転がるが、鎌を杖替わりに起き上がる。

 

「ま、不味い!」

 

妖忌の焦った声が聞こえてきたと同時だった。いきなり西行妖の妖力が膨らんだかと思えば、それが凝縮し始める。

 

「紫殿、急ぎなされよ!満開を迎えてしまう!」

 

想定はしていたが、西行妖の満開がはじまってしまった。紫の額にも汗が流れる。

 

「紫…。」

「待って、幽々子。あと少し、あと少しなのよ…。」

 

見守ることでしかできない幽々子が心配そうに見つめてきた。あと少しで実行されるのは事実だ。しかし、紫の葛藤がそれを阻んでいた。大切な友人を失うか否か。彼女は受け入れてくれた。紫自身も受け入れている。

 

「紫様!」

 

藍の焦った声に視線を上げれば、西行妖の満開が始まってしまっていた。満開となった桜は神々しく、灰色の世界に灯る暖かい光のようだ。だが、それは甘い蜜。今この瞬間、現世では沢山の人間が命を落としているはずだ。

 

「紫、大丈夫よ。」

「幽々子…。」

「私が消えても思い出は残るもの。悲しみだけじゃない。私たちが培ってきた喜びや楽しみがあったじゃない。」

「でも、私は―。」

「私を大事に思ってくれているのは嬉しいし、誇りに思うわ。でも、私たちで決めたことじゃない。今更変えることはできないわ。」

「――ッ」

 

紫は涙を流し、唇を噛んだ。

 

「カルマさん。」

「なんだ。」

 

いつの間にか結界内に入り、紫の傍に来ていたカルマに幽々子が呼びかけた。

 

「紫のことを任せてもいいかしら?」

「気が向いたらな。それより、そういうのはこいつの従者にいうもんだろ。」

「それもそうね。それじゃあ、紫。お願いね。」

 

幽々子の言葉に心を動かされた彼女は手を一杯に振り上げた。一瞬止まったが、意を決し、そのまま振り下ろす。

 

「―ぁぁぁぁぁああああああああああああッッッ!!!」

 

術式が発動し、西行妖の封印が始まった。幾重にも重なった術式が樹を包み込む。西行妖の妖力が解放され、封印に抵抗しだした。紫も負けじと力を込める。

 

「くぅ…。」

「チッ…。」

「…カルマ?」

 

見かねたカルマが術式に触れ、魔力を注ぎ込む。元々が彼の魔力によって発動した術式の為、彼の方がコントロールに適していた。封印の力が増し、西行妖を抑え込む。

 

「カルマ!貴方、魔力が!」

「知るかっ!魔力など数日寝れば、少しくらい回復する!」

 

カルマの魔力はほとんど無くなり始めていた。魔力も寝れば回復するが、それは禁忌魔法を使うカルマにとっては燃費の悪い方法だった。彼にとって魔力の回復は建前でしかない。本当は死ぬ人間の中に『ある女性』がいることに危惧したためだ。

 

「紫様!」

 

封印への抵抗に力を集中しているため、西行妖の攻撃が止んだ。手の空いた藍が紫の元へと駆けつける。妖忌は刀を杖に膝をついていた。息を切らせ、まともに動けないながらも、こちらを見ている。

 

「お手伝い致します!」

 

藍は紫の背に触れ、妖力を流し込んでいく。藍の今の力は紫を経由して得られたものだ。藍から戻ってきた妖力で紫の力も増していく。どれくらい時間がたっただろうか。気が付けば、封印は終わっていた。各々が力を使い果たし、地面に倒れこんでいた。そんな中、幽々子が紫の傍に腰掛けた。

 

「お疲れ様、紫。」

「……ゅ…こ。」

「無理に喋らなくてもいいわよ。」

 

紫の瞳から涙が止めどなく流れてきていた。無理もない。封印の生贄として組み込まれた幽々子は今、身体が薄くなってきていたからだ。

 

「カルマさんも器用なことするわね。私が消えるまでの時間を引き延ばすなんて。」

 

禁忌魔法についてカルマの右に出るものはいない。彼が術式に触れた時、少し弄っていたのだ。驚いた紫はカルマに視線を向けるも、彼は地面に刺した大鎌に背を預け、背をこちらに向けていた。

 

「ありがとう、紫。私の我が儘を聞いてくれて。本来なら、あの西行妖は切り落とされて当然だけど、父や仕えてくれた人たちが眠る場所だと考えると、どうにもそう思えなかったの。」

 

幽々子の父親は西行妖の根本で命を絶った。それに続くように従者たちも同じように絶命していった。聞いてみる限りでは、曰く付きのようにも思えるが、幽々子にとっては、西行妖は家族の墓標のようなものだったのだ。

 

「あら、もう時間が無くなってきちゃったみたいね。」

 

気付けば、彼女の姿はさらに薄くなっていた。少しずつ空気へと溶け込むように消えて行こうとしてる。

 

「幽々子ッ!」

 

【挿絵表示】

 

最後の力を振り絞り起き上がると、紫は彼女を抱きしめた。いきなりのことに幽々子も驚いたが、ゆっくりと彼女の背に手を回す。

 

「幽々子、私のかけがえのない友達。」

「ありがとう。私の友達。」

「今までの事は絶対に忘れないわ。例え貴女が忘れても、私は絶対に忘れない。」

「そうね。私も忘れないわ。覚えていなくても、忘れないわ。」

「ふふ、何よそれ。矛盾してるじゃない。」

「記憶になくても、心が覚えてるってことよ。」

「なるほどね。」

「………。」

「………紫?」

「………ゅ、ゆゅこぉ…。」

「…泣かないで、紫。逝きにくくなっちゃうじゃない。」

「うるざぃ。あ゛なだだって…泣いでるじゃない゛。」

「ふふ。バレちゃったわね。」

「……幽々子。」

「…そろそろ、みたいね。」

「…また、会いましょう。私の…かけがえのない、友達。」

「…えぇ、また会いましょうね。私のかけがえのない、大切な、友達。」

 

 

 

 




飄々としている紫にしては珍しく感情を出した回でした。
まぁ、かけがえのない存在を無くすのは辛いですからねぇ。
・・・あれ?
こういう展開、前にも書いたような気が・・・(;・∀・)

さて、死者を操った攻撃をしない理由ですが。
死人とは言え、幽々子の家族を倒していくわけですからね。
幽々子的に辛いような気がしたんです。

ところ変わってカルマが漸く魔力枯渇になりました。
つまり、今回以降のカルマは休眠状態になります。
これがカルマの弱体化の正体です。
・・・すぐ起きるんだけどねw
「寝込み襲っていいですか?いいですよね?」
「(誰かこいつを止めろおおおおおおおおおおっ!!)」

それでは、間違い等がありましたら、ご指摘のほどよろしくお願いします。
感想も待っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




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