今回で玉藻編は終わりです。
それでは、本編どうぞ。
「最後にあの人に合わせてください。」
それが玉藻御前としての最後の望み。
「会えば、別れが惜しくなると思うわよ?」
「問題ありません。決心は付いています。」
「そう・・・。ならいらっしゃい。」
スキマを開き、彼女を誘う。スキマの異様な景色に驚かされるが、怖気づく程玉藻の心は弱くない。
「先に言っておくけど、時間はそんなに取れないわ。まだ陰陽師やら兵やらが帝の周りを警邏しているから。」
「わかっています。それほど時間を取るつもりはありません。」
スキマを開き、帝のいる部屋へと移った。部屋には帝1人で机に向かっていた。
「久しぶりですね、帝様。」
「ん、あぁ。いつぞやの妖怪か。」
「報告が受けていると思いますが、玉藻御前が岩へと変化したということになっています。」
「今その書を読んでいた所だ。」
彼は机の上にある紙束と指先で叩きながら示した。最愛の人が倒されたというのに、悲しんでいる様子が見られない。
「最も私は玉藻が生きていると信じているが。」
最愛の者を信じるというものは、愛故にできる所業なのだろう。
「えぇ。生きています。そして、彼女は私の式となることを了承しました。」
「そうか。それはよかった。」
「だから、玉藻御前としては死に、私の式として生きることになります。彼女の最後の願いとして貴方に逢いたいそうです。」
「・・・なに?」
紫が場を退き、彼女の影から玉藻が姿を現した。
「玉藻・・・なのか・・・?」
「あぁ、そうだ。」
「時間の猶予はあまりないから、時間になったら迎いにくるわね。」
そう言い残し、スキマを閉じる。
「玉藻、すまない。」
「え?」
帝はいきなり玉藻に頭を下げた。何のことだかわからず、戸惑ってしまう。
「私がもっとしっかりしていれば、お前を苦しめることもなかった。」
彼は玉藻を傷つけてしまったことを後悔していた。しかし、それはどうしようもないこと。この時代、人間と妖怪が互いを思いやることは難しい。いるとしてもごく一部だ。
「気にしないでくれ。私は貴方が愛してくれるだけで十分だ。」
「玉藻・・・。私を許してくれるか?」
「許すもなにも。怒ってなどいない。」
「・・・ありがとう。」
「それはこっちの台詞だ。最後まで私を愛してくれてありがとう。」
愛し合っている2人は抱き締めあった。お互いの瞳には光るものがあった。だが、その抱擁も長くは続かなかった。
「お熱いところ悪いけど、時間よ。」
紫がスキマを開け、玉藻を迎えに来た。外からも誰かの声が近づいてきていた。
「玉藻・・・元気でな。」
「ありがとう。さようなら、あなた・・・。」
スキマの中、玉藻は紫の胸で泣いていた。最愛の者との別れとは想像もできないほど、心に傷を負わせる。紫は優しく彼女の頭を撫でていた。
「落ち着いたかしら?」
「・・・はい。」
目はまだ少し赤いがもう泣いてはいなかった。
「それなら場所を移しましょう。」
場所は博麗神社。スキマを開こうとした矢先、勝手に開いた。―というよりはこじ開けられたという方が正解だが。
「紫、探したぞ。」
「あ、やば。」
カルマは紫の襟を掴み、スキマの中から放り出す。いきなりのことに玉藻は唖然としていた。
「麗夢。そっちいったぞ。」
「はーい。いらっしゃいませ、紫さん。」
襖が開き、そのまま放り込まれると、すぐに戸が閉じてしまった。
「あ、あの・・・。」
「お前が玉藻御前か?」
「は、はい。そうですけど、紫様は・・・。」
主として仕える者として、心配なのだろう。
「気にするな。式神にする儀式はもう少し待ってろ。すぐ済むからな。」
「は、はぁ。」
未だに状況が飲み込めない玉藻。視界の端に見覚えのある妖怪が写り、助けの視線を向けるも、彼女は肩を竦めるだけだった。
「気にしないで。いつものことだから。」
「・・・。」
紫の消えた部屋から物音1つしないことが彼女の不安を大きくしていた。
数時間後、襖が開き紫と麗夢が姿を現した。しかし、麗夢は笑顔であるのに対し、紫は疲れた表情をし、カルマを睨みつける。
「カルマ。仕返しにも限度というものがあると思うのよ。」
「知らん。それは麗夢次第だ。」
「ごちそうさまでした。」
紫はため息を吐き、気を改める。
「玉藻御前は?」
「隣だ。」
「ありがとう。麗夢、儀式の準備をお願いね。」
「はい、わかりました。」
紫は玉藻を呼び、違う部屋へと案内した。床には複雑な幾何学模様が描かれている。玉藻は陣の中心に立つと深呼吸した。
「準備はいいわね?」
「はい。」
「それじゃあ始めるわね。麗夢。」
麗夢に合図をする。彼女は頷き、陣に霊力を流し込んでいく。麗夢は今では半妖と変わらないが、元々はこの神社の巫女として育てられていた。霊力の扱いにも長けている。儀式はスムーズに進んだ。本来、式神は強制的なもので手に入れる。抵抗すればするほど、それなりの痛みが訪れる。だが、今回は同意の元で行われているため、苦しむことはない。
「終わりました。」
「えぇ、ありがとう、麗夢。気分はどう?」
「問題ないですね。」
少し服装が変わっているが、問題はないようだ。
「貴方は今から玉藻御前でなくなったわ。これからは八雲藍と名乗りなさい。」
「はい、紫様。よろしくお願いします。」
こうして、八雲紫の式神―八雲藍が生まれたのだった。
大切な者との別れは泣けるところがありますよねぇ。
ほら、東方3次創作のアレとか・・・(´;ω;`)
八雲藍の式神に麗夢が一枚噛んでるってのは考えてなかったんです。
今回急遽入れました。
だって、妖怪の紫に式神とする霊力があるとは思えなかったのでw
間違い等がありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。感想も待っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。