東方禁初幻譚   作:鈴華

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前作からお待たせしました。
今作からでもwelcomeです。
それではどぞ。


序章 カルマの誕生プロローグ
Ep,0 プロローグ


広い荒野に彼は佇んでいた。あたりには荒れ狂う穢れたちで埋め尽くされている。彼の金髪がその中で唯一の光であるかのように輝いていた。彼は穢れの大群に右手をかざした。

 

「第16禁忌魔法“テンペスト”。」

 

すると、彼の手からなんの挙動もなく凄まじい光の奔流が放たれた。それは太陽の光と間違えそうな程の―いや、それ以上の光量と規模だ。光に飲まれた穢れは身体を灰へと変えていく。これで大半の穢れが消えた。

 

「があぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!」

 

背後から襲ってきた穢れに対し、彼は振り返ることはしない。

 

「第22禁忌魔法“磔十字”。」

 

すると、地面から等身大の十字架が現れた。飛びかかってきた穢れの腹にその先端が叩き込まれた。怯んだ穢れは後ずさるが、彼がそれを許さない。片手で十字架を担ぐと、そのまま汚れの頭に叩きつける。穢れの頭は潰れ、血が彼の服を汚した。

 

「次だ。」

 

彼は十字架を穢れに叩きつけたままにすると、常人では視認できない速度で駆け抜ける。黒い軌跡が通りすぎた後には、穢れが血を吹き出し倒れていった。彼の手は穢れの血で赤黒く染め上げられていた。

 

「つまらん。」

 

手に付いた血を落とすようにひと振りすると、彼は再び残像も残さない程の速さで穢れの間を縫うように駆け抜けていく。軌跡に沿って穢れの血が吹き出し、赤い道を作っていく。

 

「仕上げだ。第16禁忌魔法“テンペスト”。」

 

すると、地面に大規模な魔法陣が浮かび上がった。それは彼と穢れの死体もろとも覆い尽くす大きさだ。

 

「消えろ。」

 

凄まじい光量が地から天に向けて柱となるように放たれた。光が消えると穢れは灰になるように気化していく。その中、彼―カルマは服や顔を血で汚しながら佇んでいた。

 

 

 

“月下巨大都市”。幻想郷が誕生する数億年前に地球上にあった唯一の都市の名前。この都市の科学技術は発達し、そこに暮らす人々は不自由なく生活をしていた。そして、都市の中心には巨大な集会場があった。カルマはその一室の前にやってきていた。

 

―コンコン―

 

「入れ。」

 

中からは威厳のある男性の声が聞こえてきた。カルマは扉を開けると、部屋の奥にある机と椅子に向かう。その椅子に腰掛けているのは、1人の男性だった。彼の名はツクヨミノミコト。後に月の神となる神族の男だ。

 

「カルマ、ただいま戻りました。」

「ご苦労だったな。して、異常か何かはあったか?」

 

ツクヨミはカルマに穢れ殲滅の命令を下さしていた。なんでも最近、穢れの動きが活発化しているらしい。そこでカルマに様子見がてら倒すことを命令したのだ。

 

「結論から言えば、わかりません。ただ―」

「ただ?」

「私の予想が正しければ、近々、今回以上の穢れの大群が押し寄せてくる可能性があります。」

「・・・そうか。わかった。下がっていいぞ。」

「失礼します。」

 

何か考え始めたツクヨミにカルマは一礼すると、部屋から出て行った。

 

「・・・そろそろ“計画”について考えなければいけないな。」

 

 

 

「あーあー。やっぱり折れてるじゃない。」

 

カルマが次に訪れたのは病室だ。―と言っても、彼は行く気がなかったのだが、集会所の通路でばったりある女性に会ってしまい、挙句には一瞬で負傷に気づかれ、病室に連行されるはめになったのだ。

 

「これくらいなんてことないだろ。一度死ねば治るんだから。」

「その死ぬまでの間が長いんじゃない。」

「そう言うがな、永琳。」

「はいはい。口答えしない。」

 

彼を病室に連行したのは八意永琳だった。この巨大都市において彼女を知らない者はおらず、彼女の功績は皆が高く評価している。

 

「これでよしっと。」

「・・・はぁ。」

 

結局、為すがままにされてしまったカルマは左腕にギプスを付けることになってしまった。

 

「で、カルマはこの後どうするの?」

「どうするも何も、部屋に帰るだけだが?」

「なら、気をつけて帰りなさいよ。」

 

彼は永琳に半眼を向ける。明らかに呆れている顔だ。だが、何か言おうと考え、口を開きかけたが、いつものことだと判断し、ため息にとどめることにした。

 

「お前が俺に負い目を感じているのはわかるが、そんな心配されるような筋合いじゃないだろう。俺は俺でこの身体を気に入ってるんだからな。」

 

カルマはそう言って、病室を後にした。残された永琳はそばの机に向かうと頬杖をつき、ため息をついた。

 

「私があなたに負い目、ねぇ。」

 

今から十数年前、カルマは人間から人間でないもの、通称魔人へと替えられた。そこに携わった1人が永琳だ。彼は永琳の薬を使われ、人間を捨てることとなった。永琳自身、上層部からの命令で作らされた薬であって、何に使うのかはわからなかった。それが人間に、しかも彼女にとって幼い頃から一緒に育ってきた弟分に使うと知った時は耳を疑った。最初は反対をしたが、カルマの意思でもあるということを言われ、渋々引き下がることになってしまったのだ。そして、今に至るわけだ。

 

「カルマ・・・。どうしてあなたがそんな選択をしたのか、私にはわからない。でも、それで本当によかったの?」

 

 

 

部屋に戻ったカルマはベッドに横になると、左目に手をかざした。彼の左目の瞳は血のように真っ赤に変色している。これは彼が人間を捨てた時に色が変色したらしい。らしいというのは彼が魔人となって約3日間、目を覚まさなかったからだ。

 

「・・・俺がどこで何をしようが関係ない。ただ・・・誰かを守れる力が手に入ったんだ。」

 

彼はベッドから起き上がると、厳重に保管されている本を本棚から取り出した。本棚には10cm程の厚さの本が並べられていた。数は99冊。この本はカルマ以外が触れることを禁止されている。この本は全て禁忌の魔法が記された本だ。1冊に1つの魔法が記述されている。禁忌魔法、それは常人が使えば、必ずそれ相応の贄―1人分の命が必要となる魔法だ。しかし、カルマはそれを無代償で使うことができる。それが彼の身体だ。

 

「カルマ、帰ってきているの?」

 

扉の向こうから綺麗な女性の声が聞こえてきた。彼は慌てて本を厳重に鍵をし、本棚も戻す。

 

「あぁ、今開ける。」

 

扉を開けるとそこには1人の女性が立っていた。彼女はツクヨミと同じ神族であり、姉でもあるアマテラスオオミカミだ。

 

「アマテラスか。なんのようだ。」

「いえ、帰ってきているならいいの。でも、その腕は?」

「永琳にやられた。」

「彼女らしい。あなたを大切に思っている証拠ね。」

「・・・冷やかしに来たんだったら帰れ。」

「そう邪険に扱わないで。一緒にどこか食べに行こうかと思ったんだけど、その腕じゃ無理そうね。よし、私が何か作ってあげる!」

「・・・はぁ。好きにしろ。」

「じゃあ、早速好きにさせてもらうね。」

 

彼女はカルマの部屋に入るとキッチンを漁り始めた。カルマはもう一度ため息をすると、椅子に腰掛ける。自分がどうあろうと、彼はこんな日々を過ごし、これが続いて欲しいと願っていた。

 

だが、それはそう長続きしないものとなることは誰も知る由もなかった。

 




次話は明日になります。
内容はカルマの設定です。
間違い等がありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。感想も待っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

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