もんすたーな世界にもんすたーで転生?   作:ひなあられ

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蝕みの風

「…何これ。」

 

「妾に聞くでない。」

 

「ど、どうするにゃ?」

 

「逃げるか。」

 

「そうじゃな。」

 

「にゃぁぁあ!!大賛成ですにゃぁぁあ!!」

 

…えー。突然ですがこの光景、どう思います?

暗い夜の中、不気味に赤い目を光らせて徘徊する人々。

女男子共老人を問わず、唸り声をあげて食物を貪っております。

その様はまさにアンデッド…。

 

あれー?いつの間にここはバイオ○ザードの世界になったんだ?

でも見た感じ、ゾンビっぽくはないからなんとも言えん。

共食いとかはしてないし、目立った外傷もない。

なのにこの有様…。

うん、訳がわからないよ。

 

あ、追いかけてきやがった。

 

「にゃぁあ!!追いかけてきたにゃぁ!」

 

「そう慌てることもなかろう。見た所、奴らの速力は相当に遅いようじゃぞ。」

 

「…王女、それフラグだ。」

 

「なんじゃそれは?どの道この龍車に乗っておれば安全じゃろう。」

 

俺の嫌な予感は的中。

規則正しい足音が聞こえたので後ろを見てみると、紅い目をしたカーグァが龍車を引っ張っていた。

龍車には勿論紅い目をした住人たちが…。

 

「やっぱフラグだったじゃん。どーすんだよアレ。」

 

「むぅ…お主、そのぎたーとやらでなんとかできぬか?

先程樹木を生やしておったじゃろう。」

 

「えー…。これ?

ギターでゾンビ退治とか斬新すぎるでしょ。

まだ殴った方がなんとかなりそうなんだけど。」

 

「ものは試しじゃ。」

 

「へいへい。」

 

ゾンビ退治の曲とかあんの?

癒し効果の高い曲とかか?

 

…よし、エレキギターモード。

弾く曲は…敢えての『閃烈なる蒼光』で。

理由?…いや、雷に打たれてしまえ的な感じかな。

多分死ぬことはないだろ。あんだけ濃密な龍脈エネルギー纏ってたらさ。

てか、雷レベルじゃないと効かなそうなんだよ。

 

音量MAX。龍脈エネルギーを空に。

ジンオウガさん…あんたの力、借りるぜ。

 

「耳塞いでろ!鼓膜が破けるぞ!」

 

「何をする気じゃ!?

猫!カーグァに耳栓をつけるのじゃ!」

 

「了解にゃ!相棒!」

 

「出来たにゃ!」

 

スピーカーを追っ手に向け、足で踏みつける。

こうしないと振動で落ちそうだからだ。

ついでにギターの弦に雷撃粘菌を仕込む。

こうした方が威力上がりそうだしね。

 

流石にギター一本であの曲は弾ける気がしない。

尺八の独特な音色は出すのが難しいし、そもそもパーカッションが居ない。

リズムは自分で取るしかないのだ。

 

ギター一本でどれだけの音が出せるか。

ある意味挑戦だな。

 

ギュゥゥゥンンンン♪

 

響く爆音。それに合わせて空の星が少なくなってきた。

不穏な空気を漂わせ、前奏と共に蒼い閃光が空を走る。

 

…やっといてなんだけど、本当に出来たよ。

龍脈エネルギーすげぇよ。体力回復、体の欠損部分の復活、天候操作まで可能なんだな。

…あ、でも、古龍にとってはなんでもないことだったわ。

アマツさんのアレはトラウマだよ…。

当時はまだ弱かったとはいえ、俺を軽く吹き飛ばすレベルの風だったからなぁ…。

 

サビに入る。

その途端、降りしきる落雷の雨。

住人や動物は当たっても効いてないみたいだが、乗り物は別だ。

あっという間に龍車は全滅し、追っ手は一人もいなくなった。

…こんなもんでいいかな。

 

「フィニッシュ!」

 

ギャギャッギャン♪

 

サビの途中で演奏を止める。

勿論、締め括りのフレーズを忘れずに。

んー!やり切った!色々言いたいことはあるけどやり切ったよ!

 

「…終わったかの?」

 

「ん?あぁ、終わったよ。もう耳を塞がなくてもいいぞ。」

 

「ふぅ…。やれやれ、本当にやるとはの。

お主、何故旅人をしておるのじゃ?ハンターにでもなれば、十分生きていけるじゃろうに。」

 

「…俺が…ハンター?

アッハハハハハ!無理無理!なれる訳ないじゃん!

つーかなる気もないわ。」

 

「むぅ…笑わんでもよかろうに…。」

 

「悪いね。自分に嘘つけないもんだからさ。」

 

「…反省する気皆無じゃの…。まぁよいわ。

それより、やることができたからの。

おーい猫!進路を元に戻すのじゃ!

国を半周するように回ってくれ!」

 

「了解にゃ!」

 

「…え?あのバイオ○ザードに戻るの?

流石にそれは勘弁なんだけど…。」

 

「…む?そんな訳なかろう。

妾は騎士団の後を追いかけるつもりじゃ。

あの国に入ろうとは考えておらんよ。」

 

「騎士団?」

 

「なんじゃお主。気付いておらんのか?

先ほどの集団は住人しかおらんかったのでな。

甲冑や防具をつけた者は一人もおらんかった。

つまりその者らはこの原因を解明すべく、調査に向かったと考えたのじゃ。」

 

「あぁ、成る程。

そいつらに会って事情を聞きたいってことか。」

 

「その通りじゃ。妾のことを知る者に会えるやもしれんからの。」

 

流石王女。

考えることがいつでも一歩先を行くな。

しばらくはこのまま身をまかせるか…。

それに…。

 

ゴキブリ野郎の仕業なんだろ?これ。

 

ーーーーーーーー

 

「…まずいな。」

 

「レイスターさん!何か見つけましたか!?」

 

「あぁ。かなりまずい物をな。」

 

…さて、どうしたものか。

あの千剣山全てを黒く覆うドーム。

その中に入ることは未だ成功せず、更に周りにも被害が及んでいる。

このままでは…生き物全てが病に侵されてしまうぞ…。

 

久しぶり…とでも言おうか。

誰に言っているかはわからんがな。

『古龍喰らい』という小っ恥ずかしい二つ名を持つレイスターだ。

二つ名は自分で決めることができないからな。

決して俺の趣味じゃないことだけは言っておく。

 

今俺は未知の樹海に来ている。

最近現れたティガレックスの親子の調査だ。

黒闘竜も現れたという噂もあり、誰も近寄らない。

更には白い燐光が昼間の間だけ飛び回るらしい。

今回はそれの調査に来ている。

 

そんな未知の樹海に、黒い残滓を発見したのだ。

黒い残滓とは黒蝕竜ゴア・マガラによってばら撒かれたウイルスのことである。

この残滓が実体化する程の密度がある地域では、例外なくモンスターが狂竜化することがわかっている。

この地域もその兆候が見られており、本来なら立ち入り禁止区域にされてしまう筈なのだが…。

 

「…なんなんだ?この異常に平和な空気は…。」

 

そうなのだ。

この地域に住むモンスターは狂竜病を発病しない。

それどころか減っているのではないかとさえ思う。

黒い残滓が実体化しているのに、何故なのだろうか…。

 

「…レイスターさん?これが…黒い残滓なんですか?」

 

「どうした?確かにビンに詰めたぞ?」

 

「いえ…その…これを見てください。」

 

同行したギルド員が持っていたのは確かに俺のビンだった。

だが、その中に入っていたものは…。

 

「白い…結晶?」

 

「は、はい。レイスターさんに渡された時には既にこのようになっておりまして…。」

 

「…まさか…この飛び回る白い燐光の正体は…。」

 

「…ウイルスが浄化された物…ですか?」

 

「その可能性が高い。

それを研究室に回せ!全力をもって解析するように伝えろ!

もしかすると、それがウイルスの抗体かもしれない!」

 

「は、はい!わかりました!

レイスターさんはどうしますか?」

 

「俺はしばらくここを調べる。

先に行っててくれ。」

 

「了解です!」

 

…やはり自然は凄いな。

人間が立ち向かうこともできなかったウイルスを浄化してしまうとは…。

 

ん…?

この白い結晶…僅かだが龍脈の気配がある…。

…ダメだ。周りの龍脈エネルギーが強過ぎて、この龍脈エネルギーの持ち主が特定できない。

これは持って帰って調べるしかなさそうだな…。


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