ひと抱え程もある、現代では先ずお目にかかれない卵。その内の一つには天頂部分に穴が開いており、そこからひょこひょこと出入りする化け物が一匹…と言うか俺である。
殻の中の水分はとうに蒸発し、閉じ籠るにはぴったりの環境。現在の俺の大きさは、大人の膝下辺り…どうしようも無い程に非力な、か弱い子供だ。
よく考えなくとも、ここで不用意に動けば即死ルート確定。なんかもう、平和に過ごすと言う事が初っ端から絶たれた状況に絶望しまくって、逆に冷静になってきた。
その過程で分かった事が幾つかある。
俺、この景色みたことあるな。
いや、俺は普通の引きオタニートだったんだけれどね?それでもこの光景見たことあるんです。ハイ。この火山、モンハンのゲーム画面そのもの、というかリアル過ぎる。そもそも本物のせいで分かり難かったが、これは間違いなくモンハンのステージだ。
モンハン…。知っている人も多いだろう。ハンターと呼ばれるキャラクターを操作し、モンスターと呼ばれる強大な敵を狩る有名なゲームだ。
どうやら俺はそのモンハンの世界に居るらしい…。だけど、何故だ?確か俺は、昨日の晩モンハンをしながら寝落ちした記憶しか無いんだが…。
…モンハンしながら寝落ち?もしかしてそれが原因?イヤイヤイヤ、そんな訳無いか。モンハンしながら寝落ちしたらモンハンの世界に来るとか無いわー。
…でもそれ以外に接点無いんだが…。
しょうがない。未だに何がどうなっているのか分からないが、ここに居るのが得策で無いことは確かだ。考えるのなら後でも出来る。何故なら、俺の記憶が正しければここはアグナコトルの幼体の巣だった筈だ。そんな所にいれば、いずれ数で押されて食われてしまうのは必然だろう。
…うぅ…働きたく無いでゴザル…。
ー移動中ー
…え、えらい目にあった。
あの巣の中にウロコトル(アグナコトルの幼体)がいないと思ってたら全匹隣のフィールドに潜んでやがった。普通、あの場所はハンターしか通れないので小型モンスター何ていないと思ってたんだが、普通にたむろしてやがる。恐らく、何らかの鉱物資源でも食ってたんだろう。…ウロコトルって岩食うんだ…初めて知ったわ。んで俺が来た途端に地中からボコボコっと出てきた。
まあ全力で退避したけど。
ん?追っては無かったのかだって?
…普通に追っかけてきやがったよコンチクショウ。
巣に帰り着いてからは必死だった。ゲームで言うところの火薬岩が取れる場所から岩を掘り起こし、それをウロコトル目掛けて放り投げたのだ。予想通りその岩は爆発し、ウロコトル共を警戒させる事に成功。様子見はしているものの、一匹たりとして巣に入ってこない。
我ながら、こんな手(拳?)でよくそんな器用な事が出来たと思うわ。
ここは火山…そう、火山である。とてもでは無いが人の住める環境を超えた場所だ。こんな灼熱の地獄の中で動けるのは、モンスターかモンスター(人)くらいだ。つまり、俺は今モンスターである。そうでなければ即死しているに違い無い。
改めて俺の姿を確認してみよう。
先ず腕。完全に人の腕じゃなかった。ボクサーのグローブと言う表現が最も的確だろう。紺色で、僅かに鉱石のような煌めきがある。あの壁の中、と言うか卵の中では確かめることの出来なかった頭には、ツノらしき物もしっかりと存在していた。振り返ってみればゆらゆらと揺れる尻尾もみえる。
この時点で感づいた人も居るかも知れないが。
完全にブラキディオスでした。ハイ。
獣竜種 竜盤目 獣脚亜目 前脚拳竜上科 ブラキ科。イビルジョー、ウラガンキンと同類の種族であり、竜と獣を掛け合わせた見た目を持つ者が多い。要はティラノサウルスだ。ブラキディオスの特徴は、何といってもその腕にある。他の獣竜種とは比較にならない程発達した腕には、一切の爪が存在せず、グローブの様な甲殻に隠れる様にして僅かに残るのみ。斬り付ける、切り裂く等といった攻撃法を鼻で笑う、凶悪な打撃戦を得意とする。
早い話が強キャラ筆頭。公式がパッケージモンス最強と謳う程に強い。
…無理だろ。いや、無理だろ。確かにブラキは強いさ。初見三乙、その後も二死安定、やっと慣れてきたと思った時にはG級になり、また三乙安定と言う、散々なリザルトを残した相手だ。忘れる訳が無いし、その強さは良く知っている。
そう、良く知っている。知っているからこそ無理だと言ったのだ。…何故なら…ブラキの戦闘法は…近づいて物理で殴れだ。ブレスが無い、毒も麻痺も睡眠も使えない、移動阻害系の技も使えない、これでもかと言う程に特攻スタイルを貫くモンスターだ。…無理だろ。自慢だが、俺はチキンだ。ひたすらに臆病者だ。ヤンキーのカツアゲに対して、ヤンキーが引くほどの土下座をかました男だぞ俺は。
あぁ…どうせこうなるんならジャギィが良かった…。ジャギィはいいぞー。大抵のハンターは素通りするし、大型モンスターに至っては歯牙にもかけないからな。超お気楽ライフだ。群れだから死亡率も低いだろうし…。
もうやだ…叶う事なら、どうか、大型モンスターが来ませんよーに!
そう願ったのが悪かったのだろうか?それとも単に運が悪かったのだろうか?色々と投げやりになっていた俺は、決して建ててはいけない物を建ててしまったらしい。
「ゴァァォォォォアアア!!!」
地の底から這い上がってくるような、悍ましい叫び。重量のある音。心を捻り潰すような声。それはどう考えても大型モンスターの物で…。
「キュァ…」
…迅速かつ丁寧なフラグ回収、アリガトーゴザイマシス!巫山戯ろドチクショウ…。
フラグが立ちましたー
どうなる!?主人公(笑)