風情溢れる木々。たおやかに流れる小川。水気溢れる滝と、その下の洞窟。風に吹かれて緩やかにざわめくススキ。これなーんだ?
正解は渓流でございます。どこが水没林じゃこら。
「ギシャァア!」
「ルァアア!」
だが水没林じゃなくて良かった。属性不利なフィールドを甘く間過ぎていた。これが水没林だったなら、よりボコボコにされていたのは間違いない。
この目の前に立つ、ポンデ○イオン…ではなく、ロアルドロスに。
ロアルドロスの印象を聞いてみても良いだろうか?…いや、聞くまでも無いか。あらゆる人にとって、コイツの認識は雑魚である。下手すりゃドスジャギィに劣るレベルで雑魚だ。
クソ雑魚肉質に決まりきった攻撃パターン。食らってもさして痛くない水やられに、そこまで鬱陶しくない取り巻き。コイツに苦戦したのは、それこそ新米ハンターの頃だけだと思う。
だが今この状況で、この環境で、この身体でコイツと立ち向かうとなると、とにかく厄介で面倒だ。
「グルァッ!?」
まず足場。水が常に流れている以上、そこは丸い砂利で覆われている。これのせいで踏み込めないし、フットワークが効きづらい。動き出したら止まりづらく、動き出しが遅れがちだ。
ついでにパンチの威力も落ちている。思いっきり振ると、足元が衝撃に耐えきれずにズレるからだ。
その点向こうは四足歩行な上に水掻き付き。初動からして機動力の桁が違う。
「ラァっ!」
「ギシュゥ!」
次にこのポンデ○ング…ではなく黄色いたてがみ。水を含んだスポンジ状のこれは、打撃に対して非常に強い。衝撃の殆どが吸収される上に、こっちのパワーに応じて水の散弾がぶち撒けられる。
…多分、本当は当たってもこうはならないんだろう。初めてぶん殴った時、自分のたてがみを二度見してドン引きしてたし。
が、相手にとっても予想外の事態はこっちにとっても予想外だった。この水の散弾、疲労効果付きの体液が含まれているらしく、俺の弱点であるスタミナをゴリゴリ削ってきやがる。
更に一発二発なら当たっても問題ないと判断したのか、食らいながら水弾を吐いてくる。こっちは更に疲労を誘発するし、体温が下げられて行動にも支障が出る。
それに対して向こうは無尽蔵かと思うほどのスタミナがあった。これまで一切の手を休める事なく、疲労の激しい攻撃を連続して行なっている。
体当たりや突進は、腕を振り回すよりも体力を消耗する筈だ。全速力で走り回りながら、障害物を飛び続けるような物。それにも関わらず、その顔には疲労の翳りが見えない。
そして取り巻きも地味に厄介だ。攻撃自体は対して痛くないのだが、水弾による消耗がキツイ。身体を冷やされるたびに行動の幅が下がり、体当たりを食らいやすくなる。
かと言って水場から出ようとすると、集団で固まって退路を塞いでくる。まったく戦いづらい。そして何よりも強い。誰だコイツを雑魚って言ったの。
打開策は…。ぶっちゃけ、ゴリ押しでも行けそう、ではある。
確かに防御面ではそこそこ脅威だが、おそらく両腕で挟み込むように殴ればいけると思う。衝撃の流れが水を伝って反対側に流れているのが原因っぽいので、それを押さえ込めば殺れるだろう。
取り巻きの突破もそう難しい事じゃない。ロアルドロスの突進は重さこそあれど、さして勢いもないので食らってもあんまり痛くない。被弾覚悟で踏み潰せば普通に抜けられる。
唯一問題なのは水だ。水属性とか訳分からんと馬鹿にしてたが、予想以上に脅威な事が分かった。なるほど、火山に住むモンスターにとっては天敵のような属性だ。体温の低下と疲労というのが、これ程辛いとは思わなかった。
だけど致命的と言うほどでもない。ここから逃走するくらいは普通にできる。
…命のやり取りの最中ではあるが、戦いの中に余裕があるって言うのは初めての経験だ。ここで俺はコイツを殺しても良いし、見逃してもいい。喧嘩を売られた以上、決着は付けるが。
いや、俺は俺のやり方で始末を付ける。選ぶ選ばないとかじゃない。コレが戦いである以上、どう転ぶかなんて終わるまで分からない。今考える事じゃないな。
ふと思いつく。あの人間共…ハンターはコイツ相手にどう立ち回るんだろうか?例えば打撃武器であるハンマーなんかでコイツを倒せるのか?俺が殴って駄目なら、普通は無理だと思うんだが…。
俺が戦ってきたハンマー使いの中で、何か技のような物を使ってたヤツ……。いるな。うん、確か女ハンターだったと思う。
ヤツはハンマーの打撃を使い分けていた感じがする。芯まで届く打撃と衝撃が強い打撃。どちらもそこまで脅威には感じなかったが、もしかすると、それがロアルドロスの防御を破れるヒントなんじゃないか?
芯に届く打撃…ストレート打ちは難しい。この不安定な足場でやるとタメが長過ぎて警戒されるし、避けられると転がされてしまう。
なら最小限の動きで、より効率的に殴ったらどうだ?足を捻る程度に収め、尻尾の反動を使い、上半身をよりコンパクトに纏めて、力を捻出する感じ…。
こうか?
「ラァッ!!」
「ギャッ!?…ァア?」
…身体が固定されるせいで、ミドルレンジの撃ち合いに向かない、かな。インファイトに持ち込んでぶっ放せばかなりの威力が見込めそうだ。
見え見えだったので避けられはしたが、掠ったたてがみが綺麗に抉れている。ジリジリと後退していたロアルドロスが水面を二度見していた。その顔がヤベェと言いたげに引き攣っている。
よし次だ。
衝撃を伝播させるにはどうしたらいい?ただ殴るだけでは今と同じだ。あのハンターの動きはどうだった?殴り方の違い…握り方ぐらいしか思いつかないな……。あえて言うなら手元を細かく調整していたような…。
手元?そうか手元か。拳が相手にブチ当たる瞬間、振り抜けば芯に届くし、そこで止めれば衝撃になる…筈だ。
軽く間合いを詰める。警戒するようにローリングと水弾を織り交ぜて、インファイトに持ち込ませまいとするロアルドロス。
それは予想済みだ。だから避けられないように、間合いを詰めやすいようにする。
俺は右腕を大きく振りかぶり、力ではなく速さだけを意識して地面に振り下ろす。その拳が水をかき分け、下の砂利の柔らかい所を削り、やがて硬い引き締まった地面に当たったところで。
拳を全力で握り、腕を締め上げた。
ドパァンッッ!!
聞いた事のない破裂音が響き渡り、水面が拳を中心に波紋状に引いていく。かき分けられた水がミルククラウンのように外側へ弾けた。
水気の引いた砂利。多少踏み込みにくいが、さっきよりは全然マシだ。は?みたいな顔をしているロアルドロスの前へ、一歩で踏み込む。
グリップの効いた地面と助走がついた拳。顔と水平になるまで引き上げた左腕を、抉り込むようにたてがみへと炸裂させた。
スポンジと水で構成されたクッションを拳がブチ抜いていく。スローモーションになる視界の中で、ロアルドロスの目が白眼になるのを認識しながら、拳の先に神経を集中させ、その瞬間をはかる。
衝撃がたわみ、やがて凝縮された力が重力に逆らい始める。そこまで認識したところで、より前に、より奥に力を込めた。
減速した拳が再加速する。その頃にはもうロアルドロスの身体は重力を振り切っており、手と足が完全に浮いていた。
まるでスライムのような粘性のある液体をぶん殴った時のような音を響かせ、ロアルドロスが真横に吹っ飛んでいく。横っ面に見事な大穴を開け、流れ落ちる滝の中の洞窟へと消えていった。
「ルル…」
ギロリと周りを睨むと、さっきまで果敢に水弾を吐いていたルドロスの集団がそそくさと逃げていく。追いかけるとかはしないが、足元を逃げようとしたヤツを仕留めた。
まぁ、晩御飯である。スタミナ削られて普通に腹減ったし。
……そんなに美味しくない。身は少ないし肉もゴムみたいで噛み切りづらい。これはガーグァ一択だな…。
文字数に関してですが、短過ぎますかね?
意見があれば改善していきたいです。