もんすたーな世界にもんすたーで転生?   作:ひなあられ

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本部より会話【改】

「…それは本当か?」

 

「は、間違いありません」

 

「そうか…起きて、しまったのか…」

 

薄暗い竜車の中。アプノトスに引かれる一台の車の中で、壮年の男と若い男が会話をしている。

 

服装は鉄を含まない布製であり、カラーリングは赤。両者共に変わらないその服装から、その服装が一種の制服である事を匂わせる。

 

重々しい溜息と共に壮年の男が口を開く。

 

「何処のギルドが最も近い?周囲を探るだけでも構わんのだが」

 

「…いえ、それは難しいかと」

 

「何?」

 

「今回は…その、普段ではあり得ない程規模が大きいのです」

 

「な、何だと!」

 

驚愕に眼を見開き、思わずといったように声を張り上げる。若い男は懐を探り、四枚の紙を取り出した。

 

そこに書かれている物は何だったのか。しかし、壮年の男を激昂させるには十分だったらしい。拳を机に叩きつけ、怒りの冷めやらぬ表情のまま指示を出した。

 

「忌々しい問題児どもめ…まさか『黒』を狩ろうなどと思い上がるとはな…。……各員に通達。旧シュレイド城跡を封鎖しろ。文字通りランゴスタの一匹も通すな」

 

「了解!」

 

若い男は車内を飛び出すと、風のように走り抜けていった。とても人間とは思えない速度で走り抜けていった彼は、幾ばくかも経たぬうちに地平線の彼方に消える。

 

ーーーーーーーーー

 

所変わってユクモ村。此処にも悩ましげにため息をつく竜人族の女性がいた。手元にはあるモンスターの討伐依頼。その内容はこうだ。

 

『渓流より経過報告

渓流にて特殊なジンオウガを観測。体色は紺碧であるものの、局所的な部位が黄金色に変色している模様。その特性は電気よりも雷気に近く、その脅威は日に日に増している。至急討伐を依頼されたし。』

 

「…困りましたわ…」

 

物憂げに溜息を吐き、彼女はチラリと横に眼をやる。其処にはおおよそハンターとは思えない、小柄な黒髪の男が居た。

 

装備は無く、何処にでもあるような普段着。一見何処ぞの村人と言われても納得出来そうな見た目ではあるものの、今迄数多のモンスターを駆逐した凄腕のハンターである。

 

しかし竜人族の女性は伝統的な民族衣装を揺らして溜息を吐くばかり。このユクモ村の村長である彼女は、この依頼を彼に受けさせるべきで無いと考えていた。

 

原因は半年程前にハンターが起こしたある騒動。彼は面白半分に大型モンスターを狩り続け、遂には依頼に無いモンスターでさえ狩ってしまったのである。

 

結果は草食獣の大繁殖。渓流はその間、約半年もの間立ち入り禁止になってしまった。

 

故に彼女は悩む。本当に彼に行かせてもいいものかと。また余計なモンスターに手を出し、生態系を破壊してしまわないのかと。

 

「…取り敢えず、保留に致しましょう」

 

彼女が出した結論は、保留。それは決して良案とは言えなかったが、この状況では仕方ないとも言えた。

 

ーーーーーーーーー

 

タンジニアの港。海に囲まれたこの土地は、海路による行商の中心地であり、その交通の弁の良さにより凄腕のハンターが集う土地でもある。

 

とは言え、まだまだ駆け出しのハンターが出稼ぎに立ち寄る事も多い為、比率で言ってしまえば下位のハンターが圧倒的に多いのだが。

 

「あー…平和だなぁ…」

 

「世間的には全く平和じゃない件について」

 

「俺ら下っ端には関係ない件について」

 

「全く関係ないと言う訳でも無い件について」

 

「何この流れ…」

 

そんな駆け出しのハンター達が集う、タンジニア港裏の集会場。表の集会場には料理武器アイテムなんでも揃う素敵なエリアがあるのだが、当然下位のハンターにそんな場所は使えない。

 

上位のハンターに任せるには荷の軽すぎるクエストが回ってくるのを待っている、まさに駆け出しの所業。凄腕ハンターが巨大古龍に立ち向かう傍、ちっこい船に乗って戦ったり、せっせと砲弾を撃つこともある彼らは、朝昼夜関係無く存在する。貧乏に暇はないのだ。

 

しかしここ半年程、彼等は暇を持て余していた。各地で頻発する環境破壊、それに呼応するエリア封鎖……。低位のモンスターしか狩れない彼等にとって、エリア封鎖は仕事の枯渇を意味していた。

 

「あ、ラングロトラの依頼来てるよ」

 

「え、マジ?何処何処」

 

「火山」

 

「うっわ火山かよ。まぁラングロトラだしやりようはあるか?」

 

「私ハンマー強化したい…」

 

「あ、麻痺のアレ?ええよ。取れたら素材譲るわ」

 

「さんくす。ビール奢っちゃる」

 

「てか火山の封鎖解けたんだな」

 

「それな」

 

しかしその封鎖も解け、この港にも活気が舞い戻り始めた。この四人のハンター達は火山にラングロトラを狩りに行くようだ。当然下位のクエストであり、その危険度は極低い。……一つの点を除いて。

 

「……アレ、でもこれ不安定になってる」

 

「は?なして?」

 

「うーん?

『クエスト:火山の赤い弾丸

依頼主:炭鉱夫

内容:イビルジョーに荒らされてた火山の封鎖が解けたってんで、喜び勇んで火山に向かったんだが、あの赤くて丸い奴に先を越されたまった。腕っ節にゃ自信はあるが、流石にモンスターは専門外だ。ハンターさん、頼むぜ

P.S.

奇妙な話なんだが、火山の道中で真っ黒な大岩を見かけたんだ。あんなもん見た事無くてなぁ…。問題ねぇと思うが気を付けてくれよ。』

……だって」

 

「下位なのに不安定って…あり得るの?」

 

「んー…あ、思い出した。多分アレだわ」

 

「知っているのかサム!」

 

「サム誰だよ…。いやな、なんか火山の方で弱体化したブラキディオスが出たらしいんだよ。なんでも粘菌を持ってないとかで」

 

「ふーん」

 

「で、粘菌の無いブラキディオスなんて、ちょっとデカイドドブランゴみたいなもんだろって事で脅威とされてないって言う」

 

「ブラキカワイソス」

 

「でも実際、粘菌無いアイツとか雑魚っぽいんだけど」

 

「実際弱いらしーよ。人間見たら逃げてくらしいし、身体はちっこいし」

 

「うわ、何それ本当に大型モンスター?」

 

「ちょっと前まで先輩方が文字通り爆発四散してた『あの』ブラキも、環境の変化には耐えられないって事か」

 

「悲しいけど自然の摂理なのよね…」

 

「何目線それ」

 

「女神目線」

 

「上から目線を超えよったぞこのアマ」

 

和気藹々と進む会話。そのどれもが解禁された火山地帯の話題だ。しかしその中に最も注意すべきモンスターの情報は含まれていなかった。

 

ギルドとて、年中監視を続けられる訳では無い。どうしても穴がある。見逃したそれが、上位を超えた階位に差し迫るモンスターだったとしても、それは仕方の無い事であった。

 

そう、彼等は知らないのだ。ドドブランゴなどゴミ屑のように吹き飛ばす、恐ろしい程の腕力を。何もかもを蹂躙する圧倒的暴力を。鉱石よりも鋼鉄よりも金剛石よりも尚硬い顎を、一撃で粉砕する超硬の拳を。

 

彼等は、知らないのだ。黒く小さな超級の重戦車が、火山で待ち受けている事に。

 

「じゃ、これにしよーか。報酬も丁度いいんでない?」

 

「俺ピッケル持ってくー。ドラグライトなんであんなに必要なのか、鍛冶場の親父に問いただしたい…」

 

「大人の事情よ。諦めなさい」

 

「受けるぜー」

 

「よっしゃ、おっさーん、よろしくぅ!」

 

無愛想なスキンヘッドの強面の男が、大きな判子を紙に押した。クエストは受理され、彼等は火山に赴く事となる。

 

ぞろぞろと練り歩く一行を、受付の男の隣にすわるアイルーだけが、不安げに見送っていた。




汝、呪いなり
汝、嘆きなり
汝、悲哀なり
汝、絶望なり
汝、悪夢なり
汝、深淵なり
汝、蠢く異形の呻きなり

背に負うのは人の咎。身に纏うは人の罪。吐き出す靄は瘴気の淀み。四対の鉤爪は血肉を掻き伏し、零れ落ちる怨嗟が一切を沈め行く。

沈めよ沈め掻き伏して、贖う事なく潰される。
軋めよ軋め錆鉄よ、人の技が業になる。
呻けよ呻け畏怖の使徒、汝に叶う者は無し。


歪み軋んだ深淵の……咎


ー以下、解読不能ー


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