もんすたーな世界にもんすたーで転生?   作:ひなあられ

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黒曜石は赤を写す【改】

寝て起きたら人間がどっか行ってた。やったぜ。遂にのんびりライフをゲットだ。久しぶりの快適空間、しかも餌は豊富にあるし、何処で寝ようと関係ない。偶にウロコトルがぶつかって来るが、此方を見た瞬間に逃げ去って行く。

 

感慨深いものがあるなぁ…。昔は此奴に半死半生だったのに、今や気配だけで逃げられるレベルだよ。

 

そんな訳で俺は怠惰な生活を送って居る。…と言うか普通はこうだ。そう何度も命の危機にあってたまるか。

 

この前、チラッとアグナコトルを見かけたけど、此方を気にする事なく火口に潜り込んで行ってしまった。どうやら卵を産む事が目的だったらしい。活火山の猛り狂った溶岩へ、涼しい顔して入って行ってしまったという衝撃映像付きだったが。

 

改めてここの生物っておかしいと思う。あの…あれ?名前なんだっけ…まぁいいや、突進生肉でさえも溶岩程度ならば耐えれるのだ。流石に浸かりっ放しとは行かない様だが、明らかにタンパク質と言う存在を冒涜している。日本の生物学者が見たら発狂するんじゃ無いのかこれ。

 

そんな訳で、まぁなんだ。暇だ。

 

せっかく苦労して順応したのに、使ってやらねば損だと思い、生肉以外にも鉱石を食べているが、これも段々と苦労しなくなってきた。骨とか甲殻とか砕けてたのが何だったんだってくらい岩が普通に壊れる。

 

本気出せば一発だ。……結果は火薬岩の様になるからやらんけど。

 

漠然とした危機感はある。確かに強くなったのだろうけど、俺はまだ強者と戦った事がない。……不安だ。

 

これで一発目からイビルだったりしたらどうするんだよ。まぁせいぜいドスジャギィとかドスフロギィとかだと思うんだけどさぁ……。さっきアグナコトル見かけたばかりだから不安というか何というか……。

 

……まぁいいや寝よ。

 

ーーーーーーーーー

 

 

なんか、臭ぇ。……臭っ!

 

……んん…何だよ…人が気持ちよく寝てる時に…。どっかでガスでも吹き出したのか…?後で殴って潰さないとな…。

 

…。

 

ガリガリガリガリガリリリリ!!!

 

「グルァァア!!(うるせぇ!)」

 

飛び起きた。臭い上に煩い。何なんだよ、嫌がらせ?それともまた禿げ猿共か?クソが、また来やがったのか彼奴ら。今度と言う今度はブチのめしてやる。何ヶ月もこんな辺鄙な場所に居座りやがって猿のなり損ない共め……って、ヤバイヤバイ。ちょっと思考がドラゴン化してたわ。

 

寝起きで身体が上手く動かない。なんかちょっとフラフラしつつ起き上がると、目の前に岩の塊が転がって来た。

 

……は?ちょっと待って意味わかんな。

 

ガゴンッ!

 

「…ル…ァアア!?」

 

なんかもう、めちゃくそ痛かった。幸いにも角に当たったおかげで顔面は守られたが、途轍もなく痛い。まるで研磨機で削られているかの様な凄まじい痛み……。

 

と言うか、削られてた。

 

「ルルォ!」

 

回転する巨岩を横殴りでズラし、角を振って強引に離脱する。それでも尚回転を止めないその巨岩…いや、ウラガンキンは、すぐ様急カーブを描いて接近して来た。

 

フラグか?フラグなのか?ちくしょうこちとら準備も覚悟も何も出来てない上に寝起きだっつーの。ちったぁ手加減しろやクソ顎野郎!

 

あぁくそうじうじ悩むな考えるな!取り敢えず今は奴をぶちのめせ。ぶちのめせ無くても殴り殺せ。殴り殺せなかったら顎をしこたま殴ってボコボコにしろ!

 

さぁどうする俺。避けるのは簡単だ。しかし避けた所で追撃されるのは目に見えている。と言うか避けるとか無理。小さい人間なら可能かもしれないが、今の巨体だと避けきれずに接触する。

 

ならば、正面から殴る!てかそれしか出来ん!

 

「…ォォオァッ!」

 

今まで何千回と繰り返したあの動作。振りかぶって殴る。唯それだけの動作。甲殻が砕けても骨が折れても筋肉が裂けても辞めなかったその一撃は、確実に岩石を叩き割る。

 

確固たる自信があった。と言うか今までコレで死ななかった奴が居なかった。今回も確実に粉砕出来ると、確信していた。

 

 

衝突。銃でもぶっ放したんじゃ無いかってくらいの圧倒的音量。波のような衝撃が全身を打ち、砂塵が捲き上る。

 

 

「…ルォ…!」

「ガ…!?」

 

しかし殺すどころか砕ける事すらなく、ウラガンキンはその一撃を耐えきる。…耐え切った。

 

おいマジかよ巫山戯んなコラ。別に俺が弱かったとかそんな事無い。事実、衝突した付近の地面は衝撃波でわちゃめちゃになっている。

 

おかしいのは向こうの防御力だ。んん?アレでも生身で衝撃波ブッパ出来る俺の方がおかしいのか?…まぁいいやメンドくさい。考えるとか俺に一番向いてない事だろうが。

 

…よっしゃ殴るつーか殴るそして殴る死んでも殴るぶっ殺しても殴る死んだ後で殴り起こしてもう一度殴る。もういいや、取り敢えず殴れ!そうすりゃ死ぬ!多分!

 

「ォォォォオァァァァア!!」

 

先程の一発で跳ね上がった右腕は使えない。ならば左。間合いを詰めて振り下ろす。

 

…なんか普通に避けられた。俺よりも遥かに巨体のくせに、俺の一撃をまるで知っていたかのように避けた。まぁいいや。ここで右腕を振り返してやればいい。それで当たる

 

しかし右拳が振り下ろされる事はなく、俺は猛烈な衝撃と共に吹っ飛ばされた。景色が一瞬で流れて行き、気付いた時には地面を転がっていた。

 

やがて染み渡るように痛みが左頬を撫でる。その時になって漸く、俺はウラガンキンの尻尾によって吹き飛ばされた事に気付いた。

 

……だめだ。純粋に力負けしてる。いや、それだけじゃ無いか。あっちの損傷は無いに等しい。

 

今まで何千回と繰り返してきた動作?岩石が木っ端微塵になる程の力?……馬鹿か。なんでそれっぽちの力で自信を持てたんだ俺は。

 

見ろよ彼奴の身体。全身に擦り傷一つねぇよ。ピッカピカでツルツルでカチンコチンだ。

 

彼奴は、俺よりも遥かに修羅場をくぐって来たに違いない。だってそうだろう?骨折ですら数日で治るこの世界の生物にとって、傷があると言う事は即ち、縄張りを定められずに放浪する負け犬という事だ。

 

体調が良ければ力が増し、傷があれば衰退する。傷だらけの生物なんてものは、余程の事が無い限り欠陥品だ。傷の分だけ弱点となり、相手に付け込まれる隙を与えるのだから。

 

此奴は、その力で全てを勝ち取って来たに違いない。傷がないという事は、縄張り争いを勝ち抜き、相手の住処を奪い取って休息していたのに他ならないからだ。

 

今までどれだけの戦いを勝ち抜いたかはわからない。だが、少なくとも、暴力を振るった後に拳が震えるなんて事は無いに違いない。初めての格上との戦いに、ヤケクソになって殴る事しか考えられなくなるなんて馬鹿な事は絶対に無いのだろう。

 

よく見ろ。彼奴の目を。獣だから知性が無いなんてのは、人間の妄言だ。今ならよくわかる。アレは獣の目じゃ無い。気高く誇り高い竜の眼だ。己の積み重ねた経験に自信を持ち、遥かな高みから見下ろす鋭い力だ。

 

甲殻は鉱石と混ざり合い、分厚く堅牢に身体を守っている。腕は短く戦いに使用する事は無いだろう。尻尾は脅威だ。身体の後ろに隠れる分、間合いが全く掴めない。少なくとも俺の拳よりは長いだろう。

 

 

一発貰って頭が冷えた。

 

 

我武者羅に拳を振るったって当たらない。だが無駄な知恵はいらない。あっちがああすればこうするだとか、そんな無駄な事は考えないようにする。

 

体格が違えば攻撃の仕方も違う相手に合わせる必要なんて無い。自分は自分の思う通り戦えばいいのだ。

 

「………ルル」

 

ゲームで見たモーションも真似する必要は皆無。足の一踏みが次の動作に繋がり、頭の一振りが攻撃になるというのに、わざわざ形式ばった戦い方をする必要なんて何処にもない。

 

だから俺は、拳を高く掲げて引き絞った。

 

「ギャァアア!!」

 

業を煮やしたウラガンキンが頭を大きく振り上げ、身体を丸めて転がって来る。

 

画面越しにはジョークとも取れたその行動は、こうして真正面に立つととても怖い。鋼鉄よりも更に硬く重い物体が、砂塵を巻き上げて突っ込んで来るのだから当然といえば当然だ。

 

引くつもりは毛頭無い。パワーで劣っているのならば工夫しろ。人間様に近い思考を持っているんだ。工夫なんて簡単だろう。

 

ブラキディオスにとって、拳は振り下ろす物。しかしそれは、ちっこい人間を殴り潰す為のものであって、そればかりが能という訳でもない。

 

だからこんな芸当も出来る。引き絞った拳に半歩前に出した左脚。左拳は顔面に引きつけて顔を守り、尻尾を曲げてバランスを取る。

 

「ルォァッ!!」

 

先ほどの衝突、全く無意味という訳でも無かった。僅かだがよろめいていたのだ。あれほどの回転に質量とスピード。圧倒的に体格で劣るはずの此方が、逆に相手をよろめかせた。

 

ならばさっきよりもっと力強く。振り下ろすように拳を振るうのではなく、真っ直ぐ突き出すように。足を踏み込んで全身の筋力を使って拳を加速させればどうなるか。

 

ギュアッ!と拳が空気を圧搾した。振り始めにも関わらず、拳は周囲の空気を拡散させ、舞い上がる砂塵を吹き飛ばした。

 

猛然と転がる鋼鉄の塊と、大気を吹き散らす黒い拳がぶつかる。

 

ぶつかった瞬間、ウラガンキンの甲殻が拳状にめり込んだ。回転が強引に止められ、ウラガンキンの背中のラインが弓なりにひっくり返る。

 

甲殻が擦れて砕け散る、メギャ!と言う音が周囲に響き、ウラガンキンは放物線を描いて地面を転がっていった。

 

……来た、これが勝機だ。これを生かせ。絶対に逃すな!

 

「ルォォォアッッ!!」

 

地面を蹴って加速。二歩や三歩では届かない距離だが、ここでビビって後ろには下がるのは下策だ。彼奴は尻尾による攻撃を持っている。腰の引けた距離から拳を打っても、さっきの二の舞になってしまう。

 

自分の持てる全力で間合いを詰める。

 

拳の当たる距離まで約三歩。ウラガンキンが完全に起き上がった。ゲームのダウンなんてあってないような物。こけてもがくモーションなど現実には無い。転んでもたちどころに起き上がる。俺だってそうする。だから彼奴も、すぐ様起き上がった。

 

接近する俺を見ても、ウラガンキンは一切怯まなかった。それどころか大きく顎を振り上げている。

 

その込められた力が、圧力となって襲い掛かって来るかのような錯覚。いや、実際にウラガンキンの足が地面に埋まっている。どういった理屈で埋まったのか見当も付かないが、おそらくバンカーの様な役割を持つのだろう。

 

残り二歩。先程の様なストレートパンチは使えない。既に限界まで振り上げられた槌は、恐ろしい程の力を溜め込んでいた。

 

……このままでは絶対に打ち負ける。どうする。避けるのは無理だ。振り下ろされる方が早いし、追撃で尻尾が来る。しかし正面から打ち合っても勝てる見込みは低い。彼方は重力すら味方につけた一撃だ。とても敵うはずが無い……。

 

いや、だからこそ、打ち合う。

 

真正面から、堂々と、前時代的に、騎士のように、侍のように……竜の様に。ここまで来て引くなんて、何より男の誇りが許さない。

 

眼を限界まで開く。彼奴の身体が見えた。もう既に振り下ろされ始めている。全身を冷たい冷気が走り抜けた。ここに来て恐怖が勝ろうとしているのだろうか。

 

いや、今こそこの冷めた思考を振り払う。ここまで来たんだ。後は成るように成るさ。

 

さぁ、無茶をぶちかまして道理を粉砕しようか。

 

 

 

……覚悟しろや顎野郎。人様に奇襲かけて勝つのがそんなに嬉しいのか?ぁ?

 

何勝った気でいやがんだよ。その眼が気に食わねぇんだよ。その負けるなんて微塵も考えちゃいねぇって顔が、思考が、眼が、態度が、全部気に食わねぇんだよ!

 

どうせ今迄の戦いもそうだったんだろ?その巨体を生かして寝込みを襲って、初撃を入れて来たんだろうが。俺はな、そういうしみったれた根性が一番嫌いなんだ。

 

……確かに、人間の時はそういう事もあったさ。だけど、人が嬲られるのを見るのは嫌いだったし、嘘とか死んでも付かなかった。人から笑われて虐められて、それでも曲げなかったせいで、他人を殴って不登校になった。

 

だから!こうやって人の社会から解き放たれたこの環境で!そういう糞みてぇな事してんのがこの上なく気に食わねぇ!

 

心臓が加速する。全身の血液が沸騰した。視界が白黒に変わってゆっくりになった。口の端から白い蒸気が漏れる。

 

「ルァァッッ!!!」

 

ぶっ壊してやる。その巫山戯た顎とチンケな脳みそも纏めてな!

 

右脚が地面を叩き割った。その衝撃を余す事なく左腕に通す。そして地面ギリッギリを左拳がすっ飛んでいく。

 

これが切り札。鉱石のエネルギーを用いた限界突破。使った後は1分程度行動不能に陥る諸刃の剣。ただし鉱石を食ってる時か、相当怒っている時にしか使えない。理由は謎。

 

顎に拳が接触。そして一切の拮抗すら許さずに、拳が顎をえぐり抜く。アッパー。相手のガードを潜り抜け、下側から猛烈な奇襲をお見舞いする一撃。

 

俺が拳を振り抜き切った時、ウラガンキンは半回転して地面にめりこんだ。

 

「ルル…」

 

あぁ…ダメだ、全く動けん。本当に辛いなこれ。でも勝ったぞ、確実に。

 

こうして俺は左拳を掲げたままと言う、格好の付かない姿でウラガンキンに勝利したのだった。……この姿勢ちょっと辛い。次これやる時は注意しよう…。


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