銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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今回は最近活躍してないキリト君回

うん、お遊び回ですわ
題名に見覚えがある?いや、気のせいですよ

巨神兵?知らない子ですね


第八話:黒の剣士、新宿に現る

「うわ…どこだここ……」

 

新宿区の街の中。

現在俺――桐ヶ谷和人は絶賛迷子中であった。

 

 

俺の置かれている状況を知ってから初めての休日。

家に塞ぎこもっているのもあれだし、折角だからこの世界を回ってみようと考えた俺は、こうして新宿まで出てきたのだ。

いくら未来の世界だとしても、俺の知っている景色と変わらないだろうと考えていたのだが、やはり新宿は科学の最先端を行っているのか…かなり変わっていた。

当てもなくフラフラ彷徨い続けてどれくらい時間がたっただろうか。

気まぐれで立ち寄ったゲーセンにあったアーケードゲーム(俺のいた時間では普通に存在していたが)で新記録を叩きだして周りから拍手喝采を浴びたり、電機屋でアミュスフィアが発売当初とはかけ離れた値段で売られていたのを見つけてしまい軽くショックを受けたり、昼食を某ファーストフード店で食べ、何年たってもこの味は変わらないし、続いていくんだなぁとしみじみしていたりと、案外有意義な時間を過ごすことができた。

 

そして十分散策したし帰ろうと思った時、ここを通れば近道できるんじゃないかと、ほんの子供心で路地裏に入ったのがまずかった。

思ってたより入り組んでいた道を抜けた先は、新宿駅を出た時に見た景色とかけ離れていたのだ。

戻ろうにも、あの道を戻るのは実際めんどくさい。意固地になった俺は、ここから駅に向かおうと歩き出したのだ。

 

――――そして今に至る。

かれこれ二時間くらい歩いただろうか。

こんなんならまっすぐ帰っておけばよかったと思いながらも、先ほどとは別のゲーセンで手に入れた景品を眺める。

 

「まさかこんなところで見つかるとはなぁ…」

 

右手に持っているのは宇宙の守護者などが持ってそうな光る剣…によく似たプラスチックの玩具である。

気分転換に入ったゲーセンのUFOキャッチャーに入っていたもので、いわゆる取りあえずこれにお金をつぎ込んでくれる人がいますようにというような、この時代じゃもう古いよというような景品がある場所にそれはあった。

 

光剣≪カゲミツ≫のレプリカの玩具

 

かつてGGOで共に駆け抜けたそのレプリカを見た俺は、数分間唸りながら、それを手に入れることに決めた。

何となく、というわけではないのだろう。きっと…自分がいた世界との繋がりのようなものが欲しかっただけだ。そしてこれを設置した店員の願いは叶ったのか叶わなかったのか。取りあえず入れた100円玉一枚でソレを手に入れた俺は、片手でその剣を持ち、軽く振ってみる。

プラスチックなだけあってその重さは軽い。ゲーム内までとはいかないが、ソードスキルの一つくらい再現できるんじゃないだろうか。

 

幸い店員がくれた袋は縦長で、担げるタイプだ。

そういえば昔に剣道をやっていた時はこんな感じで持ってたっけと思い出す。

 

 

 

「早く帰らないとスグにドヤされる…」

 

呟きながらその光景を想像し、身震い。

触らぬ神に祟りなし、ああおそろしやおそろしや

 

 

何てことを思いながら歩いていると、ついに見覚えのある景色が見えてきた。

ああ、懐かしき新宿駅の町並み…

感慨深げに頷いた後、真っ直ぐ歩き出す。

 

無事に帰れる…と思ったその時、近くの店から悲鳴と怒声、そして中から数人の人間が走り出してきた。

皆口々に「やべぇよ」とか「警察、警察に連絡しないと」と呟いている。

野次馬根性があるわけではないが、チラッと店の中を覗くと、如何にも強盗な格好をした男性が一人の人質を取って何やら喚いていた。

その手にはナイフ。錯乱しているようで目は血走っている。

 

 

「……やっぱり強盗っているもんなんだな…」

 

思わず呟きながらも、警察が来てくれるのなら大丈夫だろう。

…なのに、俺の体は一歩、また一歩と強盗の隙を窺いながら近づいている。

 

―――よせ

 

一歩

 

―――こんなことは警察に任せればいい

 

また一歩

 

―――お前は黒の剣士でもない、ただの人間だ

 

背中の≪剣≫を抜き放ち距離を測る

 

―――こんな玩具でナイフに敵うはずがない、正義感で命を落とす気か?

 

 

「お、おいあんた…」

 

周りの人が止める声が聞こえるが、それも耳に入らない。

睨むのはただ一点。ナイフを持った、強盗の手。

 

 

「ぐっ!て、てめぇ!!」

 

人質が暴れて強盗の腕から抜け出した。

しかし、恐怖で足が竦んでしまったのかバランスを崩して転んでしまう。

強盗がナイフを振り上げる。

「お前が暴れたからだ」と震える声で叫んだ強盗はそのまま腕を振り下ろした―――。

 

 

 

 

―――これはまずい

 

 

倉崎楓子は焦っていた。

ここは新宿のちょっとしたアクセサリー店。

彼女は学校の帰りにここに立ち寄っていた。

 

楓子は現在中学3年。受験勉強の息抜きにと、ほんの気まぐれで立ち寄っただけだったのだ。

 

きらびやかなアクセサリーの数々を見ていると、ふと、鮮やかな黒いペンダントを見つけた。

 

―――あの子は、今どうしているのでしょうか

 

思い出すのは三年前に別れた黒い少女。

≪あの世界≫の現状は≪子≫を通して知っている。

自分なんかとは違う、真の≪飛行型アバター≫が現れたことも、そして長い間活動を停止していた≪あのレギオン≫も再び活動を開始したことも。

 

かつてはあそこの≪四元素(エレメンツ)≫だなんて、大層な扱いを受けていたりしたけれど

忘れもしない、あの戦いによる敗北によって一度は壊滅したのがこうして活動を再開したということは素直に嬉しい。

 

―――でも、私に会う資格なんて、もうないですよね

 

あの黒い少女を裏切った楓子には、彼女たちに関わる資格なんて、ない。

≪あの場所≫で、彼女が全てを捨てた末にたどり着いた場所で、≪あの世界≫の行く末を眺めていよう。

 

自嘲気味に笑いながら、店を後にしようとしたその時、突然誰かに腕を掴まれた。

何が、と思う前に耳元で怯えたような響きの怒号が聞こえる。

そして理解した。

この人は強盗で、自分は人質にされてしまったのだと。

 

 

 

そして冒頭に戻る。

外に出ていった人たちが、時期に警察を呼ぶだろうとわかっていても、その時に楓子をどうするかはわからない。

せめて、自分の安全は確保しなければ。

 

危険な状況に晒されている筈なのに、こうも落ち着いていられるのは≪あの世界≫での暮らしが長かったからなのだろうか。

そのことに少し安堵しながらも、楓子はその瞬間を待つ。

強盗が気を抜いた瞬間―――今回は金目の物を手に入れた瞬間だ。

 

店員が焦りながら品物を袋に詰め、こちらを見ながらも強盗に袋を渡す。

その目は「すみません」と、悲愴に満ちていた。

強盗が袋を受け取った時、一瞬だがこちらを抑えていた力が弱まった。

 

―――今

 

「ぐっ!て、てめぇ!!」

 

緩んだ腕を渾身の力で振りほどくと、一歩、その場から離れる。

そのままこちらに手を伸ばしてくる強盗の手を見ながら―――

 

「≪フィジカル・バースト≫!」

 

≪あの世界≫―――≪ブレイン・バースト≫のレベル4バーストリンカーから使えるコマンドを唱える。

直後、強盗の動きがゆったりとした動きに変わる。

 

≪フィジカル・バースト≫は、意識を体に残したまま、思考だけ加速する力。

倍率は十倍、持続時間は三秒、消費ポイントは5。

肉体そのものは加速されないが、ゆっくりとした軌道を見極めてから最適な行動を―――

 

 

ういん、と、音が鳴った。

 

 

楓子は、生まれながら足が短い。そのため、彼女は義足を使っている。

ニューロリンカーを通して脳からの運動命令を受け取り、電子制御で義足を動かしているのだ。

日常生活には支障はないし、走ることだってできる。

恐らく、義足にとって無理な動きになってしまったのだろう。

一瞬、楓子の足が遅れた。

そしてその一瞬は、楓子の体をやや前のめりにさせる結果になり、バランスを崩しながら強盗の手を躱した楓子は、地面に尻餅をつく結果になってしまったのだ。

 

「お前が、暴れたからだ…」

 

強盗は血走った目をこちらに向けながらナイフを振り上げる。

絶体絶命に陥りながらも、楓子はぼうっとそのナイフを見ているだけだった。

 

これは、仲間を裏切った自分への罰なのかもしれない。

高い空だけを見つめ続け、自分のために尽くしてくれた仲間も裏切って、結局手に入れたのは孤独と自分の限界。

 

 

―――サッちゃん

 

もう一度、あの黒い少女に会いたかった。

会って、仲直りをしたかった。

 

今まさに、ナイフが振り下ろされそうになった瞬間―――

 

 

「……ぇ…」

 

 

黒い影が、見えた。

 

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!!!」

 

何をしているんだ俺は

強盗がナイフを振り上げた瞬間、俺の体は弾かれるように走り出していた。

 

それは、≪あの時≫の光景と被ったからなのかもしれない。

こことは全く別の世界、アインクラッドと呼ばれていたところで、俺は今の状況と似たような光景を見た。

 

目の前で、俺の手が届くはずだったところで、仲間が、大切な人が殺される光景。

 

二度と、あんなことは起こさせないと誓った。

だが、それもヒースクリフとの決戦で再び起きてしまった。

 

サチも―――黒猫団の皆も、アスナも、俺が間違えた判断をしなければあんなことにならなかった。

 

今度は、今度こそは―――!!

 

 

俺の雄叫びに驚きながらこちらを向く強盗に近づく。

俺の右手の≪剣≫はただの玩具だ。

 

だが、それでも、この手に剣がある限り、俺は≪キリト≫でなくてはならない。

 

走りながら右腕を、肩の高さまで上げて引き絞る。

左腕は前へ、相手に向けてかざす。

 

狙いはその腕、ナイフを持った、その右腕へ―――――――

 

 

両足で地面を蹴り、走ったことによる加速を回転力に変え、背中を経由させて右肩に伝える。

回転を再び直線運動に変えて、右腕と一体化した≪剣≫を、撃ち出した。

 

 

≪ヴォ―パル・ストライク≫

 

 

かの世界で、≪黒の剣士キリト≫が愛用したソードスキル

 

何千回と使われたその動きを、俺は当たり前のように模倣した。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

バキッという音と共に、強盗のナイフが弾かれる。

骨は折れていないだろうが、強盗は右手を抑えて呻く。

 

「早く彼女を!!」

 

近くにいた店員に告げると、店員は迅速な動きで人質にされていた女性を外に連れ出した。

 

「てめぇ…!なんだそれは…そんな玩具で…正義のヒーロー気取りかぁあ!!?」

 

今の一撃で強盗は完全に我を忘れたようだ。雄叫びを上げてこちらに走り寄ってくる。

強盗はそのまま俺の首を掴むと、地面に叩きつけた。

背中から叩きつけられた衝撃で目の前が霞むが、そうは言ってられない。

警察が来るまで、俺はこいつの足止めをしなければならない。

 

「ぐ……ぉ……っ」

 

両腕に必死に力を込めて相手の腕を掴み、首元から離そうと試みる。

しかし、相手は大人だ。中学生の体で敵うわけない。

暫く格闘するが、徐々に体に力が入らなくなったのがわかってきた。

 

「へへへ…終わりだぁ…こうなったらお前ぇを…」

 

強盗の手に力がこもる。

もう駄目か―――

 

「おらぁあああ!!」

 

その時、雄叫びと共に飛び込んできた大人のタックルによって強盗が吹き飛ばされた。

それに続くように外で成り行きを見ていた大人たちが一斉に強盗に飛びかかる。

多数に無勢、強盗はあっという間に取り押さえられ、後から来た警察に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな坊主、本当は俺らみたいな大人が先にいかなきゃなんねんだが、俺としたことが、ナイフにビビっちまった」

「ナイスファイト、恰好よかったぜ、兄ちゃん!」

 

大人たちに助けられた俺は、そのまま店の外で手洗い祝福を受けていた。

周りの人たちは拍手しているし、タックルをして助けてくれた人が笑いながら背中を叩いてきて痛かったが、不思議と悪い気はしなかった。

店の中から≪カゲミツ≫…のレプリカを持ってきてくれた人にお礼を言った後、左右に振りはらって背中に収める。

 

「………あ」

 

やってから気づいた。

ここ、群衆の真ん中やん。

 

大人たちは暫く目をパチクリさせていたが、なぜか広がるように歓声が広がった。

 

「うおおおおお!!様になってんじゃねぇか!!」

「服も黒いし、さしづめ≪黒の剣士≫って感じかぁあ!?」

「そんなんただのコスプレやない!もう剣士やないか!!」

「気持ち的に、ナイトやってました!!」

 

 

何やら歓声に紛れてよくわからない言葉が聞こえてきたが、愛想笑いを返しながら≪カゲミツ≫を袋の中に仕舞う。

なんだこれ…なんでこんなにノリが良いんだ………

 

困惑しながらどう帰ろうか…と考えていると、人ごみの中から、一人の女性が現れた。

先ほど人質にされていた人物だ。

無事で良かったと思っていると、女性はぺこりと頭を下げた。

 

「先ほどは、ありがとうございました」

 

「え、ああ…はい、俺も勝手に体が動いちゃったって感じだったから…その、無事で良かったです」

 

おっとりとした雰囲気、清楚なお嬢様といったような彼女に思わず敬語になってしまう。

周りの人達から生暖かい視線がとても気になる。なんだ、なんなんだこの状況…

 

「じゃ、じゃあ…俺、そろそろ…」

 

「………スト………リ…ク」

 

帰ります、と言おうとした時、何かの呟きが風に乗って聞こえた。

 

「……え?」

 

「……いえ、本当に、ありがとうございました」

 

 

聞き返すが、女性は何事もなかったように微笑んできた。

…気のせいなのだろうと自分を納得させると、俺は逃げるようにその場から離れた。

別にお礼を言われるのは構わなかったのだが、これ以上あの場にいると俺が持たない。

彼女には悪いが、ここで別れさせてもらおう。

 

……どうせ、もう会うこともないだろうし

 

 

そう考えながら、俺は帰路についたのだった

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ、俺はここで」

 

楓子を助けてくれた少年はそういうと、そそくさと離れてしまった。

あの動き―――自分を助けてくれた時に少年が使った動きには見覚えがある。

 

自分が所属していたレギオン≪ネガ・ネビュラス≫にいた≪ブラック・ロータス≫が使用していた≪奪命撃(ヴォ―パル・ストライク)≫の発動モーションに酷使していたのだ。

 

そのため、彼も≪バーストリンカー≫なのかと考えた楓子は一度≪加速≫し、マッチングリストを確認してみた。しかし、書いてあるのはどれも見たことはある名前ばかり。

なので、あの少年はバーストリンカーではないのであろう。

 

 

「………それにしても」

 

 

こっそりニューロリンカーによる視界スクリーンショットにて撮影した画像を眺める。

パッと見女の子にも見える線の細い顔。柔弱そうな両目。

先ほどの気迫に満ちた表情からは想像できない名もなき彼。

 

 

「………ピーンときましたよ、≪黒の剣士≫さん」

 

微笑みながらその横に15万の数字にハートマークでそれを囲む。

出会ったばかりの黒雪姫の5万上である。

ちなみにこれ、楓子が一目見て鍛えたい!と思ったポイントである。

自身の≪子≫は1000、同じ四元素のメンバーの一人は200ポイントだったりする。

 

 

しかし、彼女らの写真にもポイントと、その横に可愛らしく小さなハートマークがついているが、和人のように数字をハートマークで囲んでいるのは一枚もないというのには、楓子自身気づいていなかった。

 

 

この意味が後々大きくなるのは、まだ先の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レイカー姉さんとーじょーです

プラスチックソードカゲミツは…ほら、トイザらスとかに売ってたじゃない。スターウォーズのライトセーバーのプラスチックの奴。
あんな感じです

どっかの会社が売れるとでも思って商品開発したんでしょうね



では、また次回!

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