銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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気がついたらもう少しで年を越すみたいです

パチンコSAOをやってみました
主題歌だけでなくBGMも聴けるのはいいですね

結果?

…死んでも良いゲームなんてぬるすぎるぜ(目そらし)


第七十二話:記録の刺客

 

 「…正直、こうなるとは思ってました」

 

 ログハウスに入った俺達を待っていたのは、ヴァベルが心の中にしまっていたであろう映像と、彼女の独白であった。

 MHCPとして多くの感情を観測した彼女はバグを蓄積し、今の存在になった。

 そんな彼女にとって、22層での日々はとても幸せだったのだろう。

 俺にとっても、アスナにとっても、あの時過ごした時間は今も色褪せないで残っている。

 

 「ダンジョンの性質は恐らく私の記録、それにまつわる形で此方の行く手を阻む何かが出てくるはずです」

 

 

 ピシリ

 

 

 空間にヒビが入る。

 ヒビは大きな音を立てながら広がっていき、ログハウスの内装が音を立てながら崩れ去った。

 

 崩れた景色の先には見覚えのある地下迷宮。

 忘れることはない、アインクラッド第1層に突如として現れた地下迷宮だ。

 

 

 夜空の剣を抜いた横で、ヴァベルもレイピアを抜き放つ。

 

 「…やっぱりこいつか」

 

 剣を構えた俺達の先にゆらりと現れたのは死神のようなフードと、大きな鎌を携えたモンスター。

 

 《The Fatal Scythe(ザ・フェイタルサイズ)》の名前を持つボスモンスターは俺達を捉えると、鎌を構えて突進してきた。

 

 「来るぞーー!!」

 

 奴の攻撃は痛い程知っている。

 当時の俺はアスナと二人がかりで攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 一人で受けるのは自殺行為だろう。

 

 しかしあの時とは違う。

 

 多くの戦いを経て俺だって成長しているのだ。

 

 袈裟斬りに振り下ろされた刃を視界に捉えた俺は、迎撃の構えを取る。

 

 リィン…リィン…と音を響かせながら両手剣程の大きさになった夜空の剣を構えた俺は、ソードスキルを発動させた。

 

 「う…おおお!」

 

 セルルト流《輪渦》は水平斬りと斬り上げのどちらでも発動できる攻撃だ。

 《スラント》と同じように複数の構えから発動できるのは戦いにおいて大きなアドバンテージを持っている。

 迷うことなくソードスキルを発動した俺の剣は死神の鎌と衝突し、ギィィィィィン!!と大きな音を立てた。

 

 「やあぁぁっ!!」

 

 動きを止めた死神に飛びかかったヴァベルは、レイピアをライトエフェクトに光らせると閃光のようにその刃を閃かせる。

 

 細剣ソードスキル《クルーシフィクション》。

 縦と横に三連続で突くことで十字を描くように放つ六連撃技だ。

 ついでと言わんばかりに《水月》ーー体術スキル単発回し蹴りを発動させている。

 飛びながらソードスキルを放てばスキル発動による硬直で動きが止まるのは周知の事実であるが、地上で発動した時に比べて体勢と言うものはやや崩れてしまうものだ。

 

 そこから《剣技連携(スキルコネクト)》で繋げられる体術スキルを発動させたのだろう。

 俺達のようなプレイヤーではできないコンマ数秒を正確に認識してこの技を発動できるのは彼女がAIであるゆえだろう。

 

 水平蹴りを叩き込んだヴァベルは更にそのまま《弦月》によるサマーソルトキックを打ち付けた。

 そして空中で一回転することになった彼女の構える細剣は再度ライトエフェクトが輝いており、細剣スキル《リニアー》を発動させているのが見えた。

 

ーーーそこ繋がるのかよ!!

 

 思わぬスキルルートに驚きを隠せなかったが、流石にヴァベルもこれ以上攻撃は続けられないらしい。

 

 「パパ!!」

 

 攻撃を防がれ、体勢を崩したところに更に攻撃を受けた死神は大きく体を仰け反らせた。

 地面に着地し、チャンスとばかりに此方を呼ぶヴァベルに、スキル発動の硬直から回復した俺は頷きと共に夜空の剣を肩に担ぐ。

 

 別に剣技連携は俺の専売特許と言ったわけではないが、ああも綺麗に繋げられるとやや思うところもある。

 

 バック転を繰り返しながら距離を取ったヴァベルを視界に収めながら、俺は《ヴォーパル・ストライク》を死神に放つ。

 

 俺とヴァベルのコンビネーションで大きなダメージを受けた死神だが、ここで体勢を立て直して鎌を振り上げる。

 その攻撃に対して俺はソードスキルの硬直で動きを止めているため対処することができない。

 

 このままでは俺の体はその大きな鎌に切り裂かれてしまうだろう。

 

 通常なら(・・・・)

 

 

 「ここだろ…!!」

 

 左腕に意識を集中。

 攻撃の前に抜いていたもう一本の夜空の剣がライトエフェクトに包まれ、そのまま死神に向かって飛び出していく。

 

 水平に振られた剣の軌跡が正方形を描く。

 

 片手剣四連撃《ホリゾンタル・スクエア》

 

 そのまま先ほどの逆、右腕に意識を移行させる。

 自分の脳が左右別々の思考を行うことによる違和感が俺を襲うが、ここで意識を結合させてしまうと失敗してしまう。

 

 夜空の剣がライトエフェクトを迸らせ、先ほど描いた正方形を上書きするように軌跡を描く。

 

 左右での《ホリゾンタル・スクエア》を放った俺は、続いて《サベージ・フルクラム》を叩き込む。

 片手剣重三連撃を放ち、再度右腕の夜空の剣を担いだ俺は慣れ親しんだスキルモーションを脳裏に呼び起こした。

 

 剣技連携の成功率は4~5割程だと認識しているが、無事にライトエフェクトが夜空の剣を包んだのを感じとる。

 

 かつて《エクスキャリバー》を手に入れる為に挑んだクエストでは四回繋げることができた。

 そしてあのVR空間でのヒースクリフとの戦いで、そこからもう一撃を繋げ、五回。

 

 繋げたソードスキルは違うが、再び俺は五回の剣技連携を成功させることができたのだ。

 

 「うおおおおっ!!」

 

 再度放たれた《ヴォーパル・ストライク》はしかし、振るわれた鎌と衝突してその威力を飛散させた。

 

 

 ソードスキルによる攻撃を受けたモンスターは基本的に体を仰け反らせるなりの反応を見せる。

 だからこそスイッチを繰り返すことで相手の隙を作り、なるべくダメージを受けないように攻略していくのだ。

 

 俺とユイが行った剣技連携は所謂一人で連続攻撃を叩き込み、擬似的なスイッチをしていた状態だ。

 

 

 しかし相手はボスモンスター。

 やられっぱなしと言うわけでもなく、ある程度の攻撃を受ければ反撃をするようになっていたのかもしれない。

 

 「くそ…っーーーユイ!!」

 

 思わぬ反撃で攻撃を防がれた俺は悪態をつく。

 しかし十分時間は稼いだだろう。

 距離を取ったヴァベルに声をかけると、彼女は飛ぶように走り出していた。

 

 

 レイピアを構えながら加速を続けるヴァベルは大きく地面を蹴ると体を引き絞り、その細剣を勢いのまま突き出す。

 

 「やぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 ソニックブームを残しながら突き刺さったその攻撃は細剣ソードスキル《フラッシング・ペネトレイター》だ。

 発動に一定の助走が必要ではあるが最上位ソードスキルと言うこともありその威力は高く設定されている。

 

 攻撃を受けた死神はその体を硬直させると、青いライトエフェクトと共にその体を爆散させたのだった。

 

 

 

 

 終始圧倒できたように思えるこの戦いだが、剣技連携による連続攻撃が上手く嵌まっただけでもある。

 ヴァベルーーユイがここまで戦えるとは思っていなかった。

 

 かつてアリスに教えを受けていた頃から更に洗練された立ち回りと、どことなくアスナを思わせる細剣さばき。

 そして恐らく俺よりも精度の高い剣技連携。

 

 仮想世界を生きる中で一体どれ程修練したのだろうか。

 

 「…すごいな、まさかここまでとは思わなかったよ」

 

 「敵対勢力と戦うこともあったので…」

 

 やや照れくさそうにレイピアを鞘に納めた彼女はですが、と言葉を続ける。

 

 「私が戦うようになった頃にはパパ達は居ませんでしたし、こうして一緒に戦えるのは少し、嬉しいです」

 

 「ユイ…」

 

 「それにやはりパパの動きは凄いですね。二刀流による剣技連携は流石の精度です」

 

 「それはユイもしてたじゃないか。あそこから繋がるのは知らなかったぞ。小剣を使ってた時よりも様になってたし」

 

 戦いを終えて距離が近づいたのかなんとやら、思わぬ談義に話が弾んでいる。

 まさか娘とソードスキルについて話すときが来るとは思わなかった。

 

 そんななかふと、ヴァベルが疑問を投げ掛けてくる。

 

 「そういえばパパは別の時間軸から来たんですよね」

 

 「ん…ああ、あの時のユイは今思うと面白かったな。…『妖精は物覚えが悪いようだな』」

 

 「や、やめてください。他の二人居たことで違和感に気づけましたが、普通パパが二人いるなんてわかりませんよ」

 

 声を低くしながら初めて彼女にあった時の真似をすると、何とも言えない表情を浮かべながら返してくる。

 

 「あの時心意攻撃を受けてたって話してたけど…」

 

 「私が心意を扱って過去に干渉していた際に、何者かが心意技をぶつけてきたんです。恐らく《ブレイン・バースト》のシステムを扱っている者だと思うのですが…」

 

 間違いなく俺達が調査していた時に放たれたグラファイト・エッジの心意技だろう。

 後々聞いてみるとシルバー・クロウ達は吸い込まれたとは言え、自分から影に近づいて飛び込んだらしい。

 まさか迎撃しようと考えるやつがいるとは思わなかったのだろう。

 心意攻撃を受けているかもしれないと提言したのは俺ではあるが、あれがヴァベルに負担をかけたと考えると謝った方が良いのだろうかと考えてしまう。

 

 「それにアリスさんまで…あの余波なのかわかりませんが《アンダーワールド》の住人が来るなんて」

 

 「俺も驚いたよ。こんな事件に巻き込まれるなんて思わなかった」

 

 「そうするとパパは今アンダーワールドで過ごしている途中ーー」

 

 「ユイ?」

 

 話している時に何かに気づいたのだろうか。

 難しい顔をしたヴァベルに話しかけると、彼女はぶつぶつと何かを呟いている。

 先ほどの会話に何か違和感でもあったのだろうか。

 スプリガンの俺との違いは別の時間軸から来ていると言うことで説明した筈なのだが…。

 

 「ーーパパはどの時間軸から来ているんですか?」

 

 「え?」

 

 想定していなかった質問に思わず変な声を出してしまう。

 時間軸もなにも俺はーー

 

 

 「どうして私が剣を扱えたこと(・・・・・・・)を知っているんですか?」

 

 

 「それは…ユイが《ユナイタル・リング》でアリスから剣の手解きを受けたのを見たからで… !!」

 

 ここまで話してようやく気づいた。

 彼女が気づいた違和感はまさにこれである。

 

 彼女の視点で俺はアンダーワールドから来ていると思われているのだろう。

 違う時間軸で過ごしていた俺が巻き込まれ、ユージオと共に来た。仲間にもそう話しているし、その方が都合が良いからだ。

 

 しかしそれは表向きの話だ。

 

 元々俺と言う存在は、並行世界の桐ヶ谷和人のフラクトライトに書き込まれた存在だ。

 ブレイン・バーストをプレイし、そこでキリトとして活動している。

 

 俺がユージオとアンダーワールドにいる。

 それはヴァベルの視点からすると《死銃》によって倒れている俺が来ていることになるのだ。

 

 ユナイタル・リングの出来事は知らない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)俺が。

 

 「…ええと」

 

 ヴァベルが未来のユイなら気づくことでもある。

 俺が経験するであろうことを彼女なら知っているからだ。

 思わぬ事態に狼狽えながらも、俺は彼女にありのままを話すことに決めた。

 

 「…パパのあの時の言葉は」

 

 「まあ…現在進行形で体験しているというかなんというか…。それでもどうにか進んでるよ。過去に囚われたら進めないからさ」

 

 頬をかきながらそう返すが、ここに来て倒れていたり、以前のハルユキとの会話で感情が抑えられなかったりと思い返せば不甲斐ない部分もあるのもまた事実である。これは少しずつ乗り越えるしかないのかもしれない。

 

 「それでも、仲間はできたし大丈夫さ」

 

 そんなわけで早くこの事態を解決して元の世界に戻らなければならないのだ。

 依然として仲間達は大変な目にあっているのだから。

 …というか、あえて意識していなかったがここで出会ったハルユキ達は俺のいた世界からしたら未来の存在なのだろうか。

 

 しかも女性がまた多い。このままでは男子メンバーのヒエラルキーが再び地に落ちることに…。

 

 戦い続きとユージオ達と共に過ごしていたこともあってあまり話していないが、彼らから未来の情報を聞ければ戻ったあと役に立ちそうな気がする。

 

 「…それでもパパを真に知る者はそこにはいないんですね」

 

 「…そうだな。だからーー」

 

 続きを話そうとした瞬間、世界が歪む。

 迷宮区の中なのは変わらないが、気がつけば俺達は部屋の中に立っていた。

 

 警戒するように周囲を見渡して捉えたのは見覚えのあるコンソール。

 あの形はそう、俺が地下迷宮区で操作したGMコンソールだ。

 そしてその前に居たのは白いワンピースを着た黒髪の少女。

 

 「ユイ?」

 

 思わず隣のヴァベルに視線を向けるが、彼女の表情も固い。

 

 『私はパパやママに救われました』

 

 目の前のユイが喋り始める。

 その声はどこか無機質で、冷たい印象を俺に与える。

 

 『でも私は、他の妹達を置いて生き残ってしまった』

 

 その言葉と共にユイの回りに現れたのは7人の少女達。

 

 「…SAOに存在したMHCPは全部で9機。私とストレアはこうして未来まで生きていますが、それ以外の妹達はSAOで消滅してしまいました」

 

 ユイの言葉に補足するようにヴァベルがぽつりと呟く。

 気がつくと迷宮区だった周囲の景色は変化しており、大きな広場になっていた。

 

 ここは…紅玉宮の内部か?

 

 しかし《OSS事件》の時に訪れたそことはやや装飾が違う気もする。

 

 「先ほどのボスが私の理想…パパやママと共に過ごしたいという想いから現れたのだとしたらここは…」

 

 『ごめんなさい、皆…ごめんなさい』

 

 その言葉と共にユイと少女達は重なるように一つになる。

 そして地響きと共に巨大なナニカが現れる。

 

 人間大ほどもある紅玉から上半身が生えている異型のモンスターとも言えるそれは、どことなく女性のような印象を与える。

 

 「罪悪感…そう言うものから形作られたエリアになりますね」

 

 紫色を基調とした鎧を纒い、四本の腕を持つモンスターは此方を敵と認識したのだろう。泣き声のような雄叫びを上げながら敵意をぶつけてきた。

 

 「…パパ、行きましょう」

 

 「…わかった」

 

 ペルソナ・ヴァベルとして、ユイが抑えていた想いが彼女を目覚めさせるのを妨害しているのだ。

 ヴァベルの心を折り、目覚めさせないために。

 

 それでも戦うしかない。

 

 彼女を目覚めさせるために、俺がここを脱出するために。

 

 動き出したのは同時、攻撃を掻い潜った俺は挨拶代わりにソードスキルを叩き込んだのだった。

 

 

 

 




ヴァベルのスキルコネクトはキリトが推測した通り、コンマで繋がる技を選択してる感じです
回し蹴り、サマーソルト、一回転してからの突き技ですね

負けじとキリトが放ったスキルコネクトはロストソングでスメラギに放ったタイプのスキルコネクトになります
ホリゾンタル・スクエアの連続は格好いいですね

この小説を始めた当時の文庫ではアリシゼーション完結前でしたが、OSS、アリシゼーション完結、ユナイタルリングと続々と話が追加されてる状態なわけで、しれっと記憶のアップデートをしてきます
プロローグに乗せていた二〇二六年は矛盾が起きてしまうので削除しました。許して…

寒くなってきました、皆さんも体調にはお気をつけください



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