銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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SAO10周年らしいですね
今さらなんですけどラストリコレクションの主題歌のVITAいいですよね
後半にScar/letの音楽が入るのが好き
リコリスはユージオが生きるところまでやりました
ユージオ生存RTAはアリスと共に戦って、木剣のくだりをさきに進ませる必要があったんですね




第七十話:繋がる心を

 「ぐーーーーおーーーっ」

 

 PoHの動きが止まったのを視界に捉えた俺は、右手に握っていた夜空の剣に意識を向ける。

 《スターバースト・ストリーム》は16連撃の攻撃を放つソードスキルだ。そしてその最後の攻撃はPoHに弾かれたことで終了している。

 

 だがこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 ユージオが、シルバー・クロウが、そしてもう一人の俺が作ってくれたこの瞬間を、失うわけにはいかないんだ。

 

 「キリトーー!!」

 

 「キリトくん!!」

 

 ユージオとアスナの声が聞こえる。

 いや、二人だけじゃない。

 この戦いを見守っているみんなの声がーーー

 

 夜空の剣が輝きを放つ。

 鎧から離れ、剣に宿った沢山の意志が俺に力を貸してくれる。

 

 『ーーーパパ!!』

 

 最後に鈴のような声が聞こえ、夜空の剣にライトエフェクトが再び灯る。

 俺の身体は硬直で固まることがなく、導かれるように動きだした。

 

 「受け取れーー!!PoH!!!」

 

 まるであの時のーーガブリエルに最後の攻撃を放った時のように叫んだ俺は17連撃目の剣を奴の身体に叩き込んだ。

 

 

 「な…にぃ…!!」

 

 《スターバースト・ストリーム》の一撃を受けたPoHは呻き声を上げながら崩れ落ちる。

 シルバー・クロウの攻撃によって破壊された鎧は既にその機能を有しておらず、やつの身体は再生する気配を見せなかった。

 

 「…飛び込んできてくれて助かったよ」

 

 「誰かに背を押された気がしたんだ…」

 

 俺の言葉にそう答えたスプリガンの少年は後方でアスナに抱き抱えられているヴァベルを見やる。

 エクスキャリバーが吹き飛ばされた時、俺は背後から彼の走る音が聞こえていた。

 《黒の剣士キリト》があの状況で放つ攻撃は《ヴォーパル・ストライク》だろうと半ば確信していた俺は、17撃目を発動するために意識を割くことができたのだ。

 

 ALOのシステムで発動するソードスキルには魔法属性が付与されていることもあり、災禍の鎧には一定の効果があったらしい。

 

 

 それにしてもシルバー・クロウが鎧を纏うのには驚いた。

 ヘルメス・コードで激闘を繰り広げた手前、あの姿には思わず構えてしまうが落ち着いているのを見るに暴走などはしなさそうである。

 

 …そう言えば俺の世界のクロウ達はどうしているだろうか。

 確か最後に別れたときはメイデン…謡のアバターを救出するために《無制限中立フィールド》に入っている筈である。

 

 ここでの戦いを考えるとかなりの時間のダイブをしていることになるわけだが、現実世界での時間は数秒しか過ぎないというのだから恐ろしい。

 

 「なんだよ…、16連撃じゃなかったか…?」

 

 聞いてないぜと乾いた笑いをあげるPoHに、俺は視線を向ける。

 

 「結局てめぇはそうだ。俺がどんなにお膳立てしてもそれを越えていきやがる」

 

 「…お前の思い通りに動いてたまるか」

 

 俺の言葉にそうかよ、と返したPoHの身体は徐々にデータの粒子となって消え始める。

 ここで倒されたPoHは一体どうなるのだろうか。

 

 アンダーワールドのそびえ立つ木にまた戻るのか、それとも彼はただのサイバーゴーストとしてこのまま消えるのかは今の俺にはわからない。

 ただわかるのは、彼が倒されたということだ。

 

 こちらの肩に手をおくユージオに頷きを返した俺の姿は《夜空の剣士》としての服装ーーつまりはカセドラルで着用していた服装に戻っていた。

 ユージオともつもる話はあるが、まだやることが残っている。

 

 「キリトくん…」

 

 アスナの腕の中のヴァベルはいまだに目を覚ます気配を見せない。

 PoHからのダメージもあるだろうが、彼女自身が起きるのを拒んでいるのだろう。

 この状態をわかりやすく表現するならそう、アンダーワールドでフラクトライトを傷つけてしまった俺が 目覚めなかったように。

 

 「ユイーーヴァベルは自分が消えるべきだと思っているんだ。だから傷を治しても起きないんだと思う」

 

 「どうすればいい?」

 

 俺の言葉に解決法があると践んだのだろう。

 スプリガンの少年の言葉に俺は手元の夜空の剣を見据える。

 俺が帰ってこれた時はそうーー。

 

 「…声を。声を届けるんだ。彼女が戻ってこれるように」

 

 それも沢山の声が必要だと続けると、彼は思案するように仲間達の顔を眺める。

 

 彼女を目覚めさせるには想いの力が必要だ。

 俺や彼。アスナだけの力ではきっと足りないだろう。

 彼女の1000年間の孤独はそれ程のものなのだから。

 

 

 「セブン」

 

 キリトの言葉を受けたプーカの少女はこくりと頷くと懐から羽飾りを取り出した。

 取り出した羽飾りは自分の罪。しかしこの力は彼女を救う力になる筈だとセブンーー七色・アルシャービンの頭は一つの解を弾き出していた。

 後悔を飲み込むように一度瞳を閉じた彼女はその羽飾りをヴァベルの手に握らせる。

 

 「こっちのユイちゃん…便宜上ヴァベルちゃんって呼ぶけど、簡単に話せばプログラム自体が停止しているスリープ状態なんだと思う。だから外部から刺激を与える必要があるんだ。それが声を届けるってこと」

 

 『キリト』の言葉は抽象的ではあるがそう言うことだろう。

 エラーを起こして止まってしまったプログラムに追加のコードを入力し、再び動かすようにする。

 しかし想いーー感情と来た。

 遥か未来で感情を持ったAIを治療する。しかも猶予はない。

 通常であれば諦めるところであるが、手段は既に存在していた。

 

 「《クラウド・ブレイン》の応用を使えばヴァベルちゃんに皆の感情を届けることができると思う」

 

 プレイヤーとしてVR世界を渡り歩く傍ら、VR技術の研究者を務める天才少女でもある彼女が研究していたもの。

 

 《クラウド・ブレイン》と名付けられたそれは、人の脳の演算能力をネットワーク上で一つにまとめ上げ、クラウド化・共有することでコンピュータのCPUには作り出せないハイスペックかつ情緒的な演算処理システムを構築するという研究だ。

 

 この羽飾りは彼女がALOの中でアミュスフィアの感情スキャン機能を用いて、人の心のリンク状況の統計を測ろうとしていた時に使用していたアイテム。

 

 実験自体は滞りなく進んでいたが、集約された膨大なデータに自分が耐えきれなくなり暴走してしまったところを当時実験への解疑心から敵対していたキリト達に助けられたのだ。

 

 「…やろう、皆。ヴァベルのーーユイの未来を悲しい物語で終わらせるわけにはいかない」

 

 「お願い、力を貸してください」

 

 「お願いなんていらねぇよ!仲間だろ!」

 

 「こいつの言う通り、頼まれなくてもやってたさ」

 

 キリトとアスナの言葉にいち早く頷いたのはSAOから古い付き合いのあるクラインとエギルだ。

 シリカやリズベット達も二人の言葉に同意するように笑みを浮かべる。

 

 「その話、私達にも協力させてくれ」

 

 「先輩!!」

 

 シルバー・クロウに声をかけられたブラック・ロータスは彼の装甲を覆う災禍の鎧に一度動きを止めるが、また君は無茶をして…と苦笑する。

 

 「ペルソナ・ヴァベル…彼女はシステムを超越する力。心意を駆使してこの世界に干渉してきた」

 

 「そして心意は強い意思の力で事象を引き起こす…私達はそうして心意の技を発動しているの」

 

 「皆さんのヴァベルさんを助けたいという想い、それを束ねる手伝いをさせてほしいのです」

 

 上からアクア・カレント、スカイ・レイカー、アーダー・メイデンが続く。

 

 こうして異なる仮想世界を生きる者達は一人の少女を救うため、再び力を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 「それじゃあいくよ!」

 

 ユナの言葉を筆頭に、アインからメロディーが流れる。

 

 気持ちを合わせると言われれば簡単だが、この人数の感情を一つに纏めるのは中々困難であることが予想された。

 その為に用いたのは『歌』という単純で、かつ分かりやすいものであった。

 

 自分の憧れでもある存在の歌に感情が高まるセブンであるが、やることはしっかりこなさなければならない。

 ユナの歌を起点にプログラムを発動させると、各自に持たせた羽飾りが光を放ち、ヴァベルの手にある羽飾りに注がれる。

 

 「ユイ、皆君を待ってる」

 

 「ユイちゃん…」

 

 「ファルコン、ブロッサム…あの子を助けるために力を貸してくれ…!」

 

 「ユイ…!…、お姉ちゃん…!!」

 

 ヴァベルを助けたい、その想いはその場にいる彼らを包み込み、大きな光となってやがて一つになった。

 

 

 

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 「ーーーーん」

 

 チュンチュン、と小鳥の鳴く声で目を開ける。

 

 アインクラッド22層は自然が豊かなエリアであり、自分が暮らしている家は木々が生い茂る場所にある。

 なのでこういった朝はよくあることだ。

 

 台所からは規則的な音と共に何かを切る音、そして鼻をくすぐるスープの香り。

 目を擦りながらあくびを一つ。

 昨日はそう、湖のヌシを釣り上げたとかで宴会を開いていたのだ。

 

 流石に子供は早く寝なさいと言われ、宴会は途中で切り上げることになったが、ニシダさんが上機嫌に歌っていたのが印象に残っている。

 

 朝ごはんはそんなヌシを使ったものだろう。

 料理上手な母がどんなものを作っているのか楽しみである。

 

 「ただいま」

 

 「おかえりなさい、そろそろできるよ」

 

 「そりゃ良いことだ。お腹ぺこぺこだよ」

 

 そうこうしているうちにドアを開ける音と一緒に父の声が聞こえる。

 きっと朝の鍛練を終えたのだろう。75層の敵を倒したとはいえアインクラッドはまだ25層も残っている。

 踏破するための自己研鑽は必要である。

 

 「あの子、呼んできてくれる?」

 

 「夜は騒がしくしちゃったからな…わかった」

 

 階段を登る音が聞こえた為、慌てて準備を整える。

 お気に入りのワンピースに着替え、寝癖が無いかも確認。うん、今日もバッチリ。

 トントンとノック、そのあとゆっくりとドアが開かれる。

 入ってきた父に飛び込むと、若干バランスを崩しながらも抱き止めてくれた。

 

 

 「おはようございます、パパ」

 

 「おはよう、ユイ」

 

 笑顔で挨拶をすれば頭を撫でながらそう返してくれる父。

 このログハウスで過ごす日々が、少女にとっては願っていた日々であり、幸せの象徴でもあった。

 

 

 だからこれで良い。

 

 もうこれ以上なにも必要ない。

 

 自分の居場所はここなのだから。

 

 

 

 

 

 

 




未来に乗り込んだ原作と違うところは皆で気持ちを届けようとなったところです



感情のデータを未来に送ってヴァベルを助けようという感じですね
一人一人の想いを纏めてクラウドブレインを使った演算処理を行いながら未来に送るので1000年なんてあっという間です
なんか強そうなボスを倒さなかったりバベルの塔を閉めなくても良いです

自分で解釈した設定に頭を悩ましていますが、ヴァベルは未来からアバターだけを飛ばしていて、過去で消えても本体に影響がないから歴史の上書きに踏み切ってると解釈してます
自己破壊は禁止、仮想世界の母ならそこら辺のカーディナルよりも強い権限があるから消えようにも消えられない

だから過去でユイを消して自分は未来に戻り、上書きを待つことにしたのかなと
時間のことって難しい

思ったよりやりたいことが増えたので話が多くなりそうですが頑張ります



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