銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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気がつけば4月ですね
ラストリコレクションも楽しみですね
リコリスがフリープレイだったのでやってみましたが、ユージオが生きてて良かった…
原作やアニメと違うところを見てここがターニングポイントなのかなと見るのは面白かったです


第六十七話:棺桶は笑う

 

 

 「師匠…皆!!」

 

 ヴァベルと戦闘していたことにより離れた場所にいたシルバー・クロウは巻き込まれることがなかったため攻撃を免れていた。

 視線の先では『キリト』が謎の敵と対峙しているのが見えた。

 

 加勢しにいかないとと焦るハルユキの頭のなかでメタトロンの声が響く。

 

 『しもべ、抑えるのです。レイカーの心意で全滅は免れています。今は奴を倒す準備を』

 

 「倒すったって…あんなやつにどうやって…」

 

 『しもべの体を貸し出すのは大変…ええ、大変癪ですがそんな状況でもありません。呼ぶのです。奴の名前を』

 

 「よ、呼ぶ…?しかも僕の体を貸し出すって…」

 

 『目には目を…よもや好きにさせられっぱなしという訳にもいかないでしょう』

 

 

 訳のわからない言葉にハルユキは聞き返すが、メタトロンは苦虫を噛み潰したような表情をしながら戦況を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 「クハハハハ!楽しいなキリト!!」

 

 「ぐっ…!!」

 

 笑い声を上げながら振り回される友切包丁を回避した俺は、その勢いのままエクスキャリバーで反撃を仕掛ける。

 しかしその攻撃は見切られていたように回避され、返すように飛び蹴りが放たれた。

 

 それを頭を下げることで回避し、左腰だめで構えた夜空の剣からソードスキルを発動させる。

 片手用直剣スキル《スラント》。

 この技は基本的には右上段から左下段への斜め斬り下ろしのモーションを取るのだが、この技は左腰だめで構えることでも発動することができるのだ。

 かつてユージオはそれを使うことでウンベールの不意をつくことに成功したらしい。

 

 「うおっ」

 

 そして同じく不意をつくように放たれた夜空の剣は鎧の間接部分を捉え、PoHの左腕を斬り飛ばした。

 

 「やった…!!」

 

 後方で戦況を見ていたアスナの声が聞こえるが、PoHは腕が斬り飛ばされたのを気にすることもなく、こちらに掴みかかってくる。

 友切包丁の攻撃を防ぐために咄嗟に剣を振り上げようとするが、突然顔面に衝撃が走ったことで俺の思考は一瞬真っ白になる。

 

 「なに驚いてんだ。お前もやっただろうがよ」

 

 左手(・・)で俺を殴ったPoHはよろめく俺にソードスキルを纏わせた友切包丁を突き出す。

 

 心意の力で肥大化したその刃は俺の胸に深々と突き刺さると、突進の衝撃と共に俺を吹き飛ばした。

 

 「がっ…!!」

 

 強烈な痛みが胸に走った。

 文字通り胸に穴が空いたような痛みであるが、まだ戦える。

 

 俺が斬り飛ばしたPoHの左腕は地面に落ちている。

 恐らく彼が吸収した強力な心意を持って左腕を再生させたのだろう。

 まさしくアドミニストレータに斬られた腕を俺が再生させたように。

 

 チャンスとばかりにPoHが更にソードスキルを発動させる。

 走り出したPoHを粘膜のようなものが包み込むと、あっという間に三人に分身。各方向から襲い掛かってきた。

 かつてアンダーワールドで俺に使ってきたソードスキルと同じ八連撃技だ。

 

 「キリト!!」

 

 ユージオの心配する声が聞こえる。

 その声に問題ないと夜空の剣を掲げることで返事をした俺は、そのままソードスキルを発動させる。

 片手剣最上位スキル《ノヴァ・アセンション》。

 

 上段から振り下ろされる攻撃は片手剣スキルの中では最速だ。

 かつて七連撃技《デッドリー・シンズ》で捌ききったように分身達を倒した俺は、残る二連撃でPoHを仕留めるために一歩踏み出す。

 

 「わかってるんだよ…!」

 

 ノヴァ・アセンションは十連撃。俺自身、奴の前では使ったことはない技だ。

 例え見たことがあったとしても今の奴にこれを防ぐ手段はない。

 

 しかし、視界の端から差し込まれる鈍い銀色の輝きに俺は目を見張ることになる。

 

 驚きもつかの間、放たれた二連撃は振りかぶられた爪と尻尾から放たれた攻撃に受け止められる。

 

 「ちっ…やっぱり同じ技は使ってこねぇか」

 

 俺がPoHの裏をかくようにノヴァ・アセンションを発動させたように、奴も敢えて同じ技を発動させることで、本命の攻撃を当てようとしてきたのだ。

 

 激しいノックバックと共にお互いに距離を取った形になるが、戦況はこちらが不利である。

 最悪な敵に災禍の鎧が渡ってしまっているこの状況。

 

 PoH自身の戦い方を知っていること。そして鎧とは加速世界で何度か刃を交えたお陰で食らいついているが、対応しきれなくなるのは時間の問題だろう。

 

 

 「小細工じゃお前は倒せねえよな」

 

 そう言いながらPoHは友切包丁を振りかぶった。

 その刀身に込められた膨大な負の心意を感じ取り、俺はエクスキャリバーを地面に突き刺すと夜空の剣を両手で構える。

 

 恐らく、先程ロータス達を打ち倒した衝撃波が放たれるのだろう。しかも俺を確実に葬る為に更に強力なものが。

 リィン…リィン…と鈴の音のような音が剣から響き渡るのを感じながら地面を踏みしめる。

 

 両手剣ほどの大きさになった夜空の剣を右後方に構えると、システムがそのモーションを読み取って剣をライトエフェクトで包み込んだ。

 PoHは俺がソードスキルを発動させようとしているのに気づいたのだろう。ニヤリと笑みを浮かべているのが見える。

 

 「…ぜぁっ!!」

 

 息を吐きながら地面を蹴った俺は、その勢いのまま旋回し、剣を振り上げる。

 

 両手剣ソードスキル《サイクロン》。

 またの名をセルルト流《輪渦》。

 

 アンダーワールドで学んだ一撃は迎え撃つように振り下ろされた友切包丁と衝突すると、激しい衝撃を周囲に撒き散らした。

 

 「ぐっ…!!」

 

 「そんな攻撃で俺を倒せるかよ!」

 

 衝撃に呻き声をあげる俺にそう叫んだPoHは、刃を押し込んでくる。

 確かに《サイクロン》は両手剣を扱ったことがない俺も知っているソードスキルだ。しかしこの技はただの《サイクロン》ではない。

 ソルティリーナ先輩が俺に手解きをしてくれたセルルト流としての秘奥義でもあるのだ。

 

 「うおおおおおっ!!!」

 

 「うおっ…!?」

 

 ギィィィン!!と激しい音と共に奴の友切包丁を吹き飛ばした俺の体は、通常であればソードスキル発動後の硬直によって隙を晒してしまうだろう。

 そこを理解しているPoHも反撃の為に爪を振り上げている。

 

 しかし俺の攻撃はまだ終わっていない。

 

 俺の剣から消える筈のライトエフェクトが消えていないことに気づいた時にはもう遅い。

 振り切った剣を引き戻しながら逆方向に旋回した俺の体は剣を再度振り切り、奴の体を大きく吹き飛ばしていた。

 

 「ぐ…おおっ…!?」

 

 かつてリーナ先輩がウォロ上級修練士を破った《輪渦》の二連撃。スキルコネクトを使うことで実現する、アインクラッドでは見たことがない攻撃だ。

 まさか一撃で終わる筈の攻撃が連撃になるとは思っていなかったのだろう。

 PoHからは驚きの声が漏れ、後方に着地はするものの、膝をつくことになった。

 

 「やるじゃねぇか…」

 

 「終わりだ、PoH」

 

 エクスキャリバーを左手に握った俺は奴との距離を詰めながらそう言い放つ。

 出刃包丁は先程俺が吹き飛ばしたことで、やつの手には何も無い。

 

 この距離なら奴が武器を拾う前に攻撃を当てることができるだろう。

 

 「…それを決めるのはお前じゃねぇ、よ!!」

 

 そう返したPoHは俺に向かって手を突き出す。

 何か攻撃が来るのかと身構えるが、一向に奴の手からは攻撃が来ない。

 ブラフか何かかと考えた瞬間、背中に走る悪寒に身を任せて剣を振り抜いた。

 

 「ーーーっ!!」

 

 ギィン、と武器同士がぶつかる音と共に激しい衝撃が俺を襲う。

 目の前には奴の手から離れていた出刃包丁。

 

 「《心意の腕》ーーですって!?」

 

 「この土壇場でーーー!!」

 

 アリスの驚愕する声を聞きながら、俺はどうにか出刃包丁をいなすことで弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた武器はくるくると空中で回ったあと、奴の手に真っ直ぐに収まった。

 

 「そら、続きといこうぜ」

 

 手に収まった出刃包丁から心意を吸い上げることで自身の体を修復させたPoHはニヤニヤと笑いながら俺に話しかける。

 いくら攻撃をしてもあれではキリが無い。

 

 元の大きさに戻った夜空の剣とエクスキャリバーを構えた俺は、どうにか奴から心意の供給を妨げる方法を探る。

 奴は災禍の鎧から漏れでる負の心意を出刃包丁を通すことで自身に還元している。

 

 状況はアンダーワールドにて空間リソースに漂っていた心意や神聖力を取り込んでいたのと同じだ。

 だとすれば俺の夜空の剣を使えばそれを阻害することができるかもしれない。

 

 しかしそれをする隙を奴が与えてくれるかが問題だ。

 

 ユージオの青薔薇の剣の力があれば奴の動きを止めつつ、力を削ぐことが可能だろう。

 しかしそれを奴と一対一の状況で伝達ができるかわからない。

 今の彼はカセドラルにいたユージオではない。あの戦いを経験していない彼が俺の意図を組んでくれるか…

 

ーーキリト!!

 

 そんな俺の不安を描き消すように、ユージオの声が横から響く。

 …ああ、これは背後のユージオではない。

 俺と共に戦ったユージオだ。

 今も彼は俺の中で生きているのだ。

 

 「アイツの心意を剥がすには君の黒い奴の力が必要だ。僕がフォローするから任せたよ」

 

 だからそんな言葉が横から聞こえてきたので、俺は思わずえっ、と言葉をこぼした。

 横を向いて一度背後を振り返る。そしてもう一度横を見る。

 

 後方にいたはずのユージオはいつの間にか俺の隣にいた。

 

 上級修練士であったその服はいつの間にかカセドラルで最期に着ていた服装に変わっている。

 俺の手は以前青薔薇の剣が吊り下げられていた腰に伸び、そして彼の手元にソレが握られているのを思い出す。

 

 あの雪山で再会した時、俺が持っていた青薔薇の剣は光の粒子となって再会したユージオの剣に吸い込まれていった。

 災禍の鎧のように、心意が影響を与えていたのだとしたらーー

 

 「ユージオ…?」

 

 「なんだいそのお化けでも見たような顔は…。まあ、そうだろうけどさ」

 

 俺の言葉に目を細めたユージオは一度頬をかくとニヤリと笑いながら剣を持っていない腕を突き出す。

 

 「さあいくよキリト、僕の親友、僕のーー英雄!!」

 

 「ーーーー、ああ!!」

 

 その言葉に俺は込み上げる何かを感じながら腕を打ち付ける。

 負けるわけにはいかない、負けるはずがない。

 

 だって、最高の相棒が隣にいるのだから

 

 

 




何とは言いませんがシャイニングウルティメイトゼロっていうウルトラマンの全部のせが好きです

ユージオはついに記憶が紐付きました
自我を乗っ取ったよりは未来の記憶なんだと受け止めつつ、あくまでも彼は修剣学院生としてのユージオとなっております

また次回もよろしくお願いいたします

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