銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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明けましておめでとうございます
ハッピーバレンタイン


アリシゼーションリコリスがps+のフリープレイに入ったので投稿します
お待たせいたしました


第六十五話:カラミティ・ヴァベル

 

 「知られたくなかった…!こんな醜い姿になった私を…」

 

 「パパとママに…」

 

 「知られたくなかった!!!」

 

 絶叫と共に振り下ろされた大剣を寸でのところで回避したキリトは、ヴァベルの悲痛な叫びに顔を歪ませながらも自身の武器を叩きつける。

 

 《カラミティ・ヴァベル》と表記された名前の横には、今までのボスエネミーと同じようにHPゲージが陳列していた。

 MHCPとして攻撃が通じなかったヴァベルに攻撃が通じるようになったのはなんの因果だろうか。

 かつてアインクラッド100層にて戦った《ホロウ・ストレア》と同じようにシステム敵にはボスモンスターに該当することとなったのだろう。

 

 「とりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 両手剣をソードスキルのエフェクトで輝かせながら雄叫びと共にそれを振り下ろしたストレアの表情は先ほどと違って困惑でいっぱいであった。

 

 「キリト達と次のエリアについたと思ったら、いきなりこんな戦いになってるなんて聞いてないよ!!もう!未来の私に文句言いたい!」

 

 どうやらヴァベルとの戦いが始まった瞬間に未来とのリンクが切れてしまったようで、いまここにいるのはキリト達と同じ時間を過ごすストレアである。

 大体のあらましはデータの統合というのがされたようで理解できているようだが、それはそれで説明はしてほしい!とのこと。

 

 「《光線投槍(レーザージャベリン)》!!」

 

 背中の翼を展開させながら、シルバー・クロウは遠距離から心意の攻撃を放つ。

 デュエルアバターとの戦いでは命中精度にやや難有りな攻撃ではあるが、今回の相手には有効でもある。

 もともとクロム・ディザスターが負の心意から生まれた存在でもあるため、最初から心意の攻撃を選んでいたようだ。

 

 しかし各々の攻撃を受けても、そのHPゲージは微々たる量しか減りを見せることはない。

 

 かつて浮遊城にてクリスマスボスをソロで屠ったキリトであっても三人で階層ボスを倒したことは無い。

 74層のボスであっても先に突入していたアインクラッド解放軍がある程度削っていたからであって、しかも今回は規模が違いすぎる。

 

 体感で言えば外でも戦った《An Incarnate of the Radius》ーーつまりは《オーディナル・スケール事件》にて戦ったSAOの100層ボスに匹敵する強さだ。

 

 「邪魔をーーーするなぁ!!!」

 

 つき出された大剣にギリギリで二刀を滑り込ませるも、その余波でHPゲージがみるみると減っていくのが見える。

 激しい衝撃と共にその手に持つ剣ごと吹き飛ばされたキリトは呻き声をあげながら地面に転がった。

 

 「キリトくん!!」

 

 それを後方から武器を杖に持ちかえたアスナが回復魔法を唱えることでどうにか持ちこたえているが、彼女一人でユイを守りながら三人の回復は現実的ではない。

 

 実体化させたポーションを口に含み、HoTーーHPの継続回復を行いながら立ち上がる。

 それでも期待できる効果はこの状況からすれば雀の涙だ。

 

 つまりは詰んでいた。

 

 いや無理だろうと心のどこかで叫んでいる自分に思わず笑みがこぼれる。

 

 「諦めてください…四人で私を止められると本当に思っているんですか?」

 

 「…俺も諦めたいと思うよ、流石に無理ゲーがすぎる」

 

 だけど、と言葉を続ける。

 

 「どんなゲームだって最後まで諦めるわけにはいかないし、娘が泣いているのに諦めるなんて理由にはならないよ」

 

 「何をーーー」

 

 「それに四人で止められなければーー」

 

 一度言葉を切ったキリトは背後から聞こえる足音を耳にしながら、愛剣達を拾い上げる。

 

 「ここにいる全員で止めるさ」

 

 ヴァベルの前に現れたのは目の前の少年と同じ顔を持つ男。

 そしてこの世界を共に戦った仲間達。

 

 「状況はユイからのメッセージで聞いたよ。クロム・ディザスター達はさっき倒してきた」

 

 アスナの後ろにいるユイを見つめた『キリト』は、ヴァベルに視線を向けるとユイ、と小さく呟く。

 

 「君の孤独は気軽にわかる…とは言えない」

 

 気がつけば知らない世界、しかも人の体を乗っ取っているような状態の自分ですらどうにかなりそうだったのに、それとは比べようにならない孤独を味わっただろう少女に共感できる存在はそもそもいるのだろうか。

 

 「だけど…それでも、過去の自分を否定しちゃダメだ」

 

 あの時ああすれば良かったと考えることはいくらでもある。

 自分が遠ざけた家族をこの身体の持ち主は遠ざけること無く、共に過ごそうとしたのを知った時、あんな生活ができるだなんて思っていなかった。

 『キリト』が直葉や父、母と向き合うことができたのはSAO事件を終えてからだ。それもどことなくギクシャクしながら、少しずつ改善していったのだ。

 

 あの時SAOに囚われていなければきっと家族の絆を取り戻すことはできなかっただろう。

 逆にSAOに囚われなければ、桐ヶ谷和人は周囲に壁を作り続け一人ゲームの世界で生きていたのかもしれない。

 

 「…積み重ねが人を作るんだ」

 

 同じ顔、同じ人間でも経験したことが違えば多少は変わってくる。

 スプリガンのキリトからすれば少し未来、星王なんて呼ばれた自分が同一人物なんてどうも考えられなかった。

 このキリトがアンダーワールドにいくかもわからないし、こうしてユージオやアリスと顔を付き合わせている以上自分の記憶通りに話が進むかもわからないのだ。

 

 

 「………なら…!」

 

 『キリト』の言葉に押し黙ったヴァベルはしかし、大剣を地面に叩きつけて声をあらげる。

 

 「どうして叱ってくれなかったんですか!!私が側にいてほしいときに居なかったのに!パパもママも、もう会えないのに!」

 

 「過去の改編なんてやめよう、一緒にいようって、なんで!!いない人の言葉なんて…聞けないのに!!」

 

 「一人はもう嫌だ…嫌だよパパ…ママ…」

 

 そう呟いたヴァベルは母と呼ばれていた存在ではなく、ただの一人の少女のようであった。

 

 「きっと、ヴァベル…ユイちゃんは叱って欲しかったんだ。キリトさんとアスナさんに」

 

 その姿をみたハルユキはポツリとそう口にした。

 

 「だって自分が消えるだけならユイちゃんの前に現れただけで目的は完遂できる。勿論、ユイちゃん自身のコアデータが残っていれば復活できるだろうけど、僕らの前に現れたヴァベルはもう消えているんだ。わざわざ歴史の上書きを待つだなんて、工程に無駄が多すぎる」

 

 「ユイちゃん…」

 

 ALOプレイヤーならともかく、バーストリンカー達も相手に回せば勝利は難しいと考えたのであろう。

 いや、そもそもこの戦いに彼女は勝とうとしていたのだろうか。

 

 鎧から剥がれるように地面に崩れ落ちたヴァベルは、涙を流しながらアスナの腕の中のユイを見つめる。

 懐かしむような、羨むようにユイを見つめた後、ヴァベルは口を開いた。

 

 「…時間のようですね。そろそろカーディナルが動き出す」

 

 「待ってくれ…!何か方法はある筈だ…!」

 

 声を上げるキリトにヴァベルは首を横に振ると諦めたように笑みを浮かべる。

 

 「もういいんです。これは罰ですから…」

 

 時間を操ろうだなんて、そんなことに手を出そうとした私のーー

 

 「ユイ、いつかの私。きっとあなたは私に辿り着くでしょう。ですがその時どんな選択をするかはあなた次第です」

 

 ヴァベルの言葉を受けたユイは何かを答えようとするが言葉が見つからないようだ。

 満たされている自分が何か声をかけてもそれは慰めにもならないだろう。

 それでも、これだけはーー

 

 「きっと、あなたのパパとママも、あなたのことを誇りに思っている筈です!!」

 

 「そ、れは」

 

 そうだと、いいですね

 

 ヴァベルはそう呟くと体に走ったノイズに気づく。

 もう時間のようだ。

 結局、目的は果たすことは出来なかったけれど、ここで消える自分にも何か意味があるといいな。

 

 「私が消えれば、いずれ世界は元の形に戻ります。バーストリンカーの皆さん、そして別の時間軸、平行世界から来た方々もそれぞれの時間に戻るでしょう」

 

 こうしてペルソナ・ヴァベルが引き起こした事件は解決を迎える。

 黒幕が消えて元通り、何もない生活に戻るのだ。

 

 

 

 

 

 「おいおいおい、そりゃあないだろう」

 

 

 

 

 

 瞬間、背後から聞こえる男の声

 

 その声に聞き覚えがあるような、ヴァベルが思考を割いた瞬間。

 

 ズッ、と胸を鈍い輝きが貫いているのに気づいた。

 

 

 

 

 「ーーーーー、あ」

 

 

 

 「人をあんなところに閉じ込めておいて自分は気が済んだからおさらばってのは都合が良すぎるぜ。なぁ、ブラッキー先生。お前さん達からも言ってやれよ」

 

 それは剣と言うよりは包丁であった。

 それもただの包丁ではない。

 その武器は周囲の人物の血を吸うことで力を高める武器でもあった。

 

 

 

 

 

 

 「イッツ・ショウ・タァーイム」

 

 

 

 《友切包丁(メイトチョッパー)》を持ったその男はそのトレードマークでもある黒ポンチョから笑みを浮かべると、自身の存在を示すかのように高らかに声を上げた。

 

 

 





たまたま黒い渦に巻き込まれてしまった哀れな黒ポンチョの男はその先でヴァベルと遭遇し、朦朧とした意識のなか無限変遷の迷宮区に閉じ込められ、敵と戦うなか自分が誰なのか思い出し、こうして現れました

やっぱりラスボスは相応しいやつがつとめねえとなぁ!!

エネミー:カラミティ・ヴァベルには破壊不可能物体ではないので倒せます
強敵を倒したPoHは皆から称えられるはずですが…そうはいかないようです

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