銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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気がつけばSAOも10周年ですね


第六十三話:明かされる正体

 時はシルバー・クロウがクロム・ファルコンと戦いはじめた時間まで戻る。

 

 激しいスパークと共にお互いの拳をぶつけ合った二人は、仕切り直すように距離を取った。

 

 メタルカラーのアバターとの戦いはウルフラム・サーベラス以来だろうか。

 改めてメタルカラーの特徴を頭に描きながらハルユキはクロム・ファルコンを睨み付ける。

 

 メタルカラーは切断・貫通・炎熱・毒攻撃に耐性を持ち、硬質の体を用いた近距離攻撃力が主な武器である。

 

 更にカラーチャートに当てはめるとシルバー・クロウは貴金属寄りの「シルバー」に当てはまり、熱・冷気・毒など多くの特殊攻撃に耐性を持つが、電撃・腐食・打撃に弱い。

 

 対するクロム・ファルコンはチャート内だと真ん中よりやや右寄りの「クロム」で、打撃にも特殊攻撃にも中途半端な耐性しか持たないが、唯一の特徴として腐食系攻撃に対しては完璧とも言える耐性を持っている。

 

 ウルフラムーータングステンの別名とも呼ばれる通り、強力装甲を持っていたサーベラスとの時のように一方的に攻撃できないことはないだろうが、それでも攻撃し続ければこちらのアバターが先に根を上げる。

 しかも今の彼は《ザ・ディザスター》を纏っている。

 防御力は《ザ・ディスティニー》よりは低いだろうが、これを突破するのは至難の技だろう。

 

 「…頼むメタトロン、力を貸してくれ!着装ーーーー」

 

 昔のハルユキであればより厳しい戦いになっただろうが、今は違う。

 共に戦う仲間に声をかけると、背中に一つの強化外装を展開させる。

 

 「《メタトロンウィング》!!」

 

 先程の戦いまで温存していた切り札をここで切ることに決めたハルユキは、背中の翼を展開させながら超高速でファルコンに突撃する。

 突き出されるように放たれた拳を培われた経験で見切りながらカウンターの足蹴りを叩き込み、そのまま拳を掴むと背負い投げの要領でファルコンを地面に叩きつけた。

 

 サーベラスとの戦いから編み出した投げ技はこの戦いでも有効であった。

 追撃するように拳を突きだすハルユキであるが、その攻撃を叩き込む前にファルコンの体が粒子になったことで空を切る。

 

 「《フラッシュ・ブリンク》か…!」

 

 クロム・ファルコンの必殺技を呟いたハルユキは跳ねるようにその場を移動。

 一直線の方向にしか進むことができないその技の特性を見切っているハルユキは、上空で姿を現したファルコンを視界に捉える。

 

 「逃がすもんか!!」

 

 背中の翼とメタトロンウィングを共に振動させ、かつてない速さでファルコンに肉薄し、無防備なその体に攻撃を叩き込もうとしたハルユキの体は、それと同じ速度で地面に叩きつけられていた。

 

 「ぐっーー!!」

 

 身体中に走る痛みに呻き声をあげながらも、ハルユキの目は先程までファルコンが持っていなかった武器を捉える。

 

 《スターキャスター》

 

 クロム・ディザスターが持っていた禍々しい剣はしかし、神々しく輝く騎士剣として彼の腕に装備されていたのだ。

 

 『手酷くやられましたね』

 

 「君が一瞬引っ張ってくれなかったらやられてたよ…」

 

 攻撃の瞬間、メタトロンウィングがシルバー・クロウの体に逆制動の挙動をかけていたことに気づいたハルユキは、その感覚に逆らうことなく後方に高速移動をしていたのだ。

 その結果相手の一撃はHPを大きく削ることは無く、致命傷を避けることができていた。

 

 シルバー・クロウは徒手空拳だ。

 武器は無いためリーチの差がファルコンとの間で現れてしまう。

 

 解決手段が無いわけではない。

 現在レベル5であるシルバー・クロウのレベル6ボーナスの中には強化外装を拾得できる項目があるのをハルユキは知っている。

 

 しかしここでその手段を使うのは違うとハルユキの直感が告げていた。

 

 「乗り越えるんだ…!」

 

 そう、ハルユキが足を踏みしめたのと同時に、ファルコンが大地を蹴りながら飛び込んでくる。

 

 そのまま振り下ろされるスターキャスターの剣先を捉えたハルユキの思考は超加速を引き起こす。

 スローモーションの世界の中、シルバー・クロウの体はゆっくりと動き始める。

 

 両手を剣に見立てるように揃え、振り下ろされる剣の上を滑らせるように合わせると、激しい火花を散らせながら装甲が削り取られながらHPが減っていく。

 剣の振られる勢いに逆らう事はなく、包み込むように衝撃を和らげる。大胆且つ繊細に、しかし一寸の狂いもなくハルユキは《柔法》を扱い、ファルコンの攻撃を凌いだ。

 

 ファルコンは大振りの攻撃をしたことで大きな隙ができている。

 

 「う…おおおおおおおっ!!!」

 

 一瞬の勝負で生まれた空白の時間を、ハルユキは雄叫びと共に押し進めた。

 

 メタトロン・ウィングによる加速で威力を底上げしたエアリアル・コンボはファルコンの体に命中し、その体を大きく仰け反らせる。

 すかさず両腕をクロスさせたシルバー・クロウの額に光のエネルギーが充填される。

 

 必殺技のモーションに入ったシルバー・クロウは隙だらけである。

 体勢を整えたクロム・ファルコンが攻撃を仕掛けようとスターキャスターを振り上げた瞬間、激しい衝撃と共にその武器は吹き飛ばされていた。

 

 必殺技に入ると同時に、メタトロンウィングの羽根部分が薄い刃のように変形し、相手を攻撃する《エクテニア》と呼ばれる攻撃を放っていたのだ。

 

 「《ヘッド・バット》!!!!!」

 

 技名の発声と共に解き放たれたエネルギーを額に込めた渾身の頭突きは、クロム・ファルコンの頭部にぶつかり、その勢いのまま地面に叩きつけた。

 

 

 

 そのままトドメのダイブキックを放とうとしたハルユキであったが、光の粒子を放ちながら徐々に消え始めているファルコンを見て動きを止める。

 

 「…ファルコン」

 

 「ーーー、ーー」

 

 クロム・ファルコンはよろよろと立ち上がると、その右腕をクロウに突き出す。

 一瞬身構えたハルユキであったが、その手が示す意味を理解すると、自然と口角を上げながら鏡合わせのように右腕を突きだした。

 

 「ありがとうクロム・ファルコン。キミと戦えたのは僕にとって素晴らしいことだった」

 

 突きだされた手は互いをがっしりと握りしめ合う。

 クロウもファルコンも、バーストリンカーとしてお互いの健闘を讃えあっていた。

 今お互いに立っている状況も、陣営も、何も関係ない。

 お互いの全力を出しあったデュエルに対して、二人は握手で応え合ったのだ。

 

 「ーーーシルバー・クロウ」

 

 そしてクロム・ファルコンの体が消えていく。

 彼が消える瞬間、突然握手をしていたハルユキの脳裏に奇妙な光景がフラッシュバックし始めた。

 

 「ーーこれは…!?」

 

 『しもべ…?』

 

 「そんな…そんなことって…!」

 

 ファルコンの想い、彼がクロム・ディザスターとしてペルソナ・ヴァベルと行動を共にしていた理由。

 それを知ったハルユキは戦闘後の体に鞭をうち、全速力でポータルを駆け抜けたのであった。

 

 「ルォォォォォオオオ!!」

 

 戻ってきたエリアでは分裂したディザスター達が暴れ続けているのが見えるが、それよりもキリトとアスナを探さなければならない。

 ハルユキが帰ってきたことに気づいたシアン・パイルは、直ぐ様駆け寄ると彼に声をかけた。

 

 「ハル!」

 

 「タク!キリトさんとアスナさんは!?」

 

 「ストレアさんと先に行ってる!」

 

 彼が焦っているのに気づいたのだろう。

 瞬時にそう判断したタクムは前方のポータルを示しながら自身の武装を構えた。

 

 「行くんだハル!フォローする!」

 

 親友に頷いたハルユキは全身を心意の光で包むようにイメージする。

 イメージするのは光、自分自身を光のようにーーー!!!

 

 「《光、速、翼(ライトスピード)》ーー!!」

 

 イメージするために技名を発生しながらも断続的に加速していくシルバー・クロウの体は、その翼と強化外装の速さも加えて音速を越えはじめた。

 次のポータルまでの距離をかけ抜けるにはあまりにも距離が短いが、今は一秒が惜しい。

 

 それと同時にシアン・パイルから放たれる援護攻撃(ライトニング・シアン・スパイク)がハルユキの動きに気づいたディザスター達を牽制する。

 

 ーー流石タクだ!!

 

 光速の世界でタクムの援護に感嘆としたハルユキは、視界の端でスカイ・レイカーに肩を貸されているブラック・ロータスを見つける。

 明らかに消耗している彼女に胸を締め付けられる感覚を覚えるハルユキだが、その彼女がハルユキに向けて深く頷いた。

 

 ーーいけ、ハルユキくん!

 

 ーー先輩!直ぐに戻ってきます!

 

 一筋の光となったハルユキはポータルを駆け上がり、次のエリアーー祭壇のような場所にキリト達がいるのを発見した。

 そしてヴァベルの細剣がキリトに向けて振るわれるのを見て両者の間に飛び込んだのであった。

 

 こんなことがあってはならない。

 ーー親と子(・・・)が傷つけあうなんてあっちゃいけないんだ!!

 

 「もうやめよう…こんな、悲しいこと…」

 

 静かに、だが訴えるようにハルユキは目の前の少女に語りかけたのであった。

 

 

 

 

 「…悲しいこと?」

 

 「クロウ、一体どういうことなんだ?」

 

 間にはいったシルバー・クロウに困惑の声をあげるアスナとキリト。

 対するペルソナ・ヴァベルからは同じように困惑、続いて怒りの気配が溢れだし始めた。

 

 「聞いた(・・・)のか…?シルバー・クロウ、貴様…」

 

 「悪いけど事情はファルコンから全部聞かせてもらったよ。ペルソナ・ヴァベル…いいや」

 

 ユイちゃん、とシルバー・クロウはヴァベルのことをそう呼んだ。

 

 シン、と空気が凍った。

 

 「ユイ…?クロウお前何を…いや……」

 

 「キリトくん…?」

 

 何を言っているんだ?とクロウに問いかけたキリトであるが、脳裏に引っ掛かる何かに思わず思考の渦に入り込む。

 

 「…ユイを消去しようとした時の…俺の行動を詠んでいたような動き…。あれはアインクラッドで俺がユイのバックアップを取っていたことを知っていたから…」

 

 「あの出来事を知っているのはキリトくんと私、あとは…シンカーさんにユリエールさん」

 

 そして…とアスナは腕の中の娘に視線を向ける。

 

 「でも、でもそんな…それならどうして…貴女がユイちゃんを消そうとするの?だってそれは…」

 

 「…自分を消し去ること…それが今の私の願いだからですよ。ママ」

 

 喘ぐように問いかけたアスナにたいして、諦めたように返答するヴァベル。

 顔を隠していた仮面をゆっくりと外した彼女の顔は、多少の違いはあれど自分の娘と瓜二つであった。

 絶句するキリトとアスナに乾いた笑みを浮かべたヴァベルはシルバー・クロウに視線を向ける。

 

 「まさか正体に辿り着いたのが貴方だったなんて思いませんでした」

 

 「…ファルコンが教えてくれただけだよ。…彼、いいや二人(・・)とも君が消えるのを望んでいない」

 

 「…優しいですからね。無理に付き合わせてしまったものですし」

 

 共に戦ってくれた加速世界最強の獣に想いを馳せながら、ヴァベルは天を仰ぐ。

 

 「話しましょう、どうして私がこのようなことをはじめたのか。神々の黄昏、何も知らない少女がどのようにして神になったのか。そして絶望したのか…」

 

 

 




バトルばかりな気がするので次回はヴァベルの説明フェーズに入ると思います

ゲームと違うところはユイがまだ消えていないこと
先にハルユキがヴァベルの正体を知ったこと

ストレアにネタバレされていた展開が変更、自分から話すことになりました

我らがキリトはユージオたちと共にいるためまだ追い付かず…

それではまた次回!
皆さんも暑さには気をつけてくださいませ

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