今回は三話更新してます
いつも通り1話ずつ更新も考えましたが、スピード感が大事だと思ったのでどうかお楽しみください。
それではどうぞ
「…っていうかお前さん、平行世界のゲームプレイヤーだった訳か。…そりゃレベルの割には青の王と善戦してたわけだぜ」
「ああいや、…ああ…そんなところだ……」
俺のいた世界から来ていた《グラファイト・エッジ》と合流した俺は、腕を組みながら納得の声を上げている彼にそう答える。
俺としては善戦した気は無いのだが、そもそものレベル差をプレイヤースキルで補っていたのだから善戦と言わずしてどうするんだと真顔で返されたので、言葉に詰まってしまう。
「…信じるのか?」
「信じるもなにも、ああしてお前さんが二人いるわけだし俺も今平行世界に来てるわけだし」
何を今さらと肩をすくめながら返されるが、確かに現状の証拠だけ積み重ねていけばそう考えるのも妥当だろう。
「…とはいえ合流したからといってやることは変わらないな。適度にあいつらと行動してたけど、さっきの会議の通り。ニーベルハイムにある《バベルの塔》を攻略して、ペルソナ・ヴァベルを止める。そうすれば晴れて世界が元通り!!……になったら助かるんだけどなぁ」
「最悪ログアウトすれば良いんじゃないか?」
肩を落とした彼にそう提案するが、返ってきたのはなんとも歯切れの悪い相槌であった。
「そもそも俺たちの意識が時間の流れに乗って過去に来てるんだ。ネガビュで乗り込んでるロッタ達ならまだしも、俺たちの世界の時間軸に戻れるかすら怪しいぞ…。最悪サイバーゴーストになって電子世界をさ迷うことになるかもな…」
流石に俺でも試すのは最後の手段にしたいと言われると、俺の背筋を冷たいモノが走る。
俺の存在ですら電子の情報が平行世界を渡り、別世界の俺に上書きされたモノだ。
都合良くまたそうなるのか、それとも自我が崩壊した状態で自分が何者なのかわからず電子世界を漂うことになるのか考えると、確かに試す気にはなれない。
「だからまあ、成り行きに任せるのが良いと思う。俺のBB人生で培った勘もそう言ってる」
うんうん、と頷きながらそう言ったグラファイトに、俺は思わず溜め息をついたのだった。
◆
「それじゃあ行くぞ!!」
号令に返ってくる返事を背に受けながら、キリトは転移ポータルを操作しはじめる。
行き先は《岩塊原野ニーベルハイム》。
この事件の始まりの場所であり、これから決戦が始まる場所である。
転移による光が収まった先に見えるのは異質な雰囲気のフィールドと、ここからでも見える《バベルの塔》。
そしてーーーー。
「ーーーーーー」
「…出たな、黒雪のゴースト」
そこに向かう道中を塞ぐように立っている《ブラック・ロータス》のゴースト。
大きな威圧感を発しながら、剣を突きつけるロータスのゴーストに、一瞬たじろぐキリト達であるが、ここでしり込みしていても仕方ないと声を張り上げる。
「作戦通りにいくぞ!!」
その言葉と共に集団の中から走り出す三つの漆黒の影。
その内の小柄な体格の影が、携えた片手剣にソードスキルの光を迸らせる。
「よぉーし!一番手は貰ったぁ!!」
ギュンッと背中を弾かれるように加速した影ーーユウキはその剣を《ソニック・リープ》によって増幅された勢いのままロータス・ゴーストに振り下ろす。
「ーーーーーー」
「えっ!?わぁっ!!」
しかしその攻撃は彼女に当たる直前に、まるで受け流されるようにして回避される。
その動きは黒の王が得意とする動きでもある《柔法》だ。
体勢を崩したユウキにホバー移動で近づくゴーストは、その右腕に紫色の心意光を纏わし、振り下ろしてくる。
「柔法だけでなく心意技まで使ってくるとは…」
「ユウキ!!」
「同じ顔だからって戸惑ってる暇はないぞこれーーーッ、《バーチカル・スクエア》!!!」
歯噛みする黒雪姫と思わず声をあげるアスナ。
走りながら飛び上がったグラファイト・エッジが剣を振るうと、四本の斬撃が生み出され、回転しながら一直線に飛んでいく。
ユウキに振り下ろされる筈だった剣は電光の如くグラファイトの必殺技に振り抜かれ、その攻撃を消し飛ばした。
「…マジかよ!!」
驚きの声を上げるグラファイトであるが、ジェスチャーでキリト達に早く行けと指示をだす。
「ーー任せたぞ!!」
それを汲み取りながらグラファイト達にそう叫んだキリト達は、バベルの塔に向かって走り始める。
それを見たゴーストは右腕の剣を引き絞るように構えると、ジェット噴射のような音と共に突き出した。
その動き、こちらに向かって放たれた攻撃を見た黒雪姫は驚きの声を上げる。
「《
「にゃろう!!」
ゴーストの腕から突きだされた心意による長距離攻撃は、グラファイトが同じように体を引き絞り腕を突き出すことで放たれた心意技によって弾かれた。
「っだぁー!師匠なめんな!ーーーキリトォ!」
「うおおおおお!!」
尻餅を突きながらゴーストの攻撃を弾いたグラファイトは、最後の黒い影に声をかける。
ここで飛び込んできたキリトは平行世界のキリトだ。
振るわれた《夜空の剣》はゴーストにダメージを与えることに成功し、その体を大きく後退させた。
ゴーストは体勢を立て直しながらも、バベルの塔に向かう者達を追いかけようとするが、その前に三人が立ちふさがる。
「…こりゃ手強いぞ。普段のロッタも厄介だが、心意技もあの出力でバンバン使われるとなると……」
出し惜しみしてる場合じゃないなと、背中の二刀目を抜き放ったグラファイトは、ゴーストを睨み付ける。
「それでも、やるしかない!だよね!」
言うが早いか再び突撃を始めるユウキ。
飛び上がり、踊るように回りながら振り下ろされる一撃は、遠心力も加わりかなりの威力があるだろう。
しかしゴーストはその攻撃ですら《柔法》を用いて受け流す。
再び体勢を崩すユウキ。
振り下ろされるゴーストの剣はしかし、激しい衝撃を腹部に受けることで動きを止めていた。
「僕だってやられっぱなしじゃないよ…!」
ニヤリと笑いながらゴーストに打ち込まれたユウキの左腕には、ソードスキル特有のライトエフェクト。《体術》スキルの攻撃、《閃打》である。
どうやら戦いに幅を持たせようと習得していたらしい。
「いいぞユウキ!!」
そう言ったキリトはかつての黒雪姫との戦いを思い返しながら、続くようにソードスキル《弦月》を発動させる。
ムーンサルトキックのように放たれた一撃は、ゴーストの顎部分に命中し、その体を大きく仰け反らせることになった。
「二人とも下がってな!!」
その二人の間を潜り込むようにくぐり抜けたグラファイトが、二本の剣を振り回すようにして追撃を始める。
続くコンボが相手のHPを削り、こちらの必殺技ゲージを溜め始める。
「うぉっ!?」
しかしコンボの途中、突如岩にでも剣を叩きつけたような衝撃を受けたグラファイトの体は、空中で動きを止めてしまう。
加速する時間の中で彼の目はゴーストの体が緑色の光に包まれていたことに気づく。
「《オーバードライブ》ッ!?」
ブラック・ロータスが扱う技で、自分に「プラスの自己暗示」を掛けることでアバターの性能を遠隔、近接、防御よりのどれかにする技だ。
今回は緑ーー防御よりのため、突如変わった手応えにグラファイトは動きを止めてしまったのである。
続いて青色ーー遠隔技よりの光に体を包んだゴーストの両腕に八つずつの光の輝きが生み出される。
「まずーー!!」
放たれるだろう攻撃に驚愕の声をあげたグラファイトは即座に迎撃の体勢に入るが、それより早くゴーストの技が発動する。
「ーーー《
戦いが始まって初めて発せられた黒雪姫であって彼女ではない声と共に剣が振るわれ、同時に放たれる光の光弾はグラファイト達を巻き込み、大きな爆発を起こしたのだった。
◆
「各自臨機応変に動きながら攻撃を仕掛けて!クロウとレイカーさんは私達と空中攻撃を!!」
「はい!」
「ええ!」
アスナの指示が飛ぶ中、先程まで自分がいた場所を敵エネミーの攻撃が通りすぎる。
ヒュッと息を飲みながらも十分に溜まった必殺技ゲージを確認したハルユキは、背中の翼を展開させて大空へ飛び上がった。
「おらぁぁぁぁぁ!!!」
赤の王の《強化外装》から放たれる無数のミサイルやレーザーによる爆発を抜け、空中で《スカイ・レイカー》と合流する。
「師匠!」
「鴉さん!」
お互いに頷いた後、ハルユキは彼女の手を取りながらグルンと回り、遠心力に任せて彼女をエネミーに投げ飛ばす。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
《ゲイルスラスター》による加速を得ながら急降下するレイカーの攻撃はエネミーに突き刺さり、HPを削ることに成功する。
続いて妖精族としての羽をはためかせながらリーファとクライン、キリトがそれぞれ攻撃を続けた。
「いけるよお兄ちゃん!」
「っしゃぁ!どんなもんだ!」
「俺たちはあの時とは違う…!お前を倒して、先に進ませてもらうぞ!!」
上空からそれを見ながら、ハルユキはこの状況に高揚している自分がいることに気づいていた。
《ネガ・ネビュラス》や《プロミネンス》のメンバーだけでなく、別世界のトッププレイヤー達と力を合わせて巨大なエネミーと戦いを繰り広げる状況は、現在自分達が元の世界で直面している問題からは考えられないことだ。
『何ニヤニヤしているのですか』
「し、仕方ないだろ!こんな大きなエネミーを全員で倒そうとするなんて、キミの第一形態を倒そうとした時くらいなんだから!」
『…あれは中々に度しがたいことでしたね…ほらしもべ、来ますよ』
「え…うわわっ」
頭の中の《メタトロン》と会話しながらハルユキはこちらに飛び交うビームやレーザーを回避する。
《
「そんな単調な攻撃じゃーーー当たらないぞ!!」
ハルユキは翼を動かしながら速度をつけると急降下、得意技の《ダイブキック》を叩き込む。
続けざまにユージオとアリスが秘奥義を放ち、黒雪姫が必殺技のエフェクトを纏わせた剣で躍りでる。
「くらえっ! 《デス・バイ・ピアーシング!》」
巨大エネミーが呻き声のような咆哮をあげているのをみると、かなり効いているようだ。
「一本目削り終わるよ!行動変化に注意!!」
アスナの声と共に集合したハルユキ達は、エネミーの動きを警戒しながらも体勢を整える。
必殺技ゲージはまだ余裕がある。
虎の子の《強化外装》もまだ展開していないため、ハルユキ個人としてはまだ余力は残っている。
「…! 動きが…」
「止まった…?」
しかしこのタイミングで不可解な現象が起きる。
今まで戦っていたエネミーの動きが止まったのだ。
困惑の声を隠せないハルユキ達であるが、背後から聞こえる何かの機関を動かす音に思わず視線を移してしまう。
「何だか知らねーが動きが止まってるならチャンスだぜ!!」
「確かにそうだ!俺も続くぜ!!」
自分のシンボルとも言えるバイクを噴かす《アッシュ・ローラー》とそのバイクの後ろに飛び乗ったクラインは、もうスピードでエネミーに突っ込んでいく。
「アッシュさん!? 危ないですよ!」
「いや! 止まっているなら今が攻める時だ! こうしている時間も惜しい!」
ハルユキの言葉に被せるように声を放つのはキリトだ。
しかし二人のあとに続こうと駆け出そうとした瞬間、そのアッシュ達がいた場所で大きな爆発が起きた。
「ア、アッシュさん!! クラインさん!」
「いちちち…な、なんだぁ?」
幸いHPはそこまで減らなかったようで、尻餅をついたクラインとアッシュは、爆発が起きた場所に視線を向ける。
その目に入ったのはメタルカラー。
全身を金属の装甲で包んだ戦士。
「ここで来るか…」
「ルオオオオオオオッッッ!」
「《クロム・ディザスター》…っ」
ペルソナ・ヴァベルが呼び寄せた最強の戦士、ハルユキ達が戦い、そして眠りにつかせた加速世界の獣が彼らの前に立ち塞がったのであった。