以前の投稿から結構経ってて驚いてます
お待たせしました
※2020年3月8日
描写少し追加しました
ユナの助けを得られることになった俺たちは、一先ずこれからの方針を決めることにした。
彼女が言うには、《ペルソナ・ヴァベル》は《バベルの塔》に居る可能性が高いらしく、とにもかくにも一度そこに行ってみようということになったことから、俺たちはラインの転移門の前にいた。
「本当は転移門はシステムロック…結構厳重にされてるみたいなんだけど、少し前から綻びが出てるんだ」
「綻び…?」
「多分私達みたいな本来関係ない存在が沢山来てるからだと思う…ログデータを参照する限り何か大きなデータの揺らぎがあったみたいだし」
MHCPとしての権限でログを参照できるらしいユナは転移門を触りながらそう言うと、ここをこうして…と何やら操作を行い、転移門を起動させた。
「うん、これでバベルの塔のある《岩塊原野ニーベルハイム》にいけるよ」
「ニーベル…何だって?」
「いいから早く!システムを誤魔化せる時間は限られてるんだから!」
ユナに押されるようにして転移門に入った俺たちを待っていたのは、正に岩の塊が乱立している荒野であった。
明らかに嫌な雰囲気を感じるフィールドに俺もユージオも警戒心を強める。
「…!キリト!」
「モンスターか!」
プレイヤーに反応したのか現れたモンスターが視界に入る。
ユージオの声を受け、《夜空の剣》を構えた俺はふと気になりユナに声をかける。
「…そういえばユナは戦えるのか?」
「私?」
SAOのユナならまだしも、今の彼女は戦いとは無縁の歌姫だ。とても戦えそうには見えない。
ユージオも武器を持っていないユナが気になるようで、視線を向けているのがわかる。
「戦うのは無理だけど…こういうことならできるよ」
俺の言葉にそう答えたユナは、突然歌を歌い始める。
すると俺とユージオのステータスにバフのアイコンが現れた。
「…!力が湧いてくる…!」
「なるほど、歌バフは健在ってわけだな」
オーディナル・スケールでもユナの歌はプレイヤーに特殊バフ効果をもたらしていたことを思い出した俺は、ふむふむと頷く。
ユージオもバフを受けるのは初めての経験ということで、驚いているようだ。
「よしユージオ、今のうちにフィールドの敵を倒すぞ」
「わかった!」
寸分違わない動きで剣を構えた俺たちは、現れた人龍型のモンスターに向かって駆け出す。
剣を肩に構えた俺は片手剣単発突進技《レイジスパイク》を発動し、通り抜けるようにモンスターを一閃する。
「い……やぁぁぁーっ!!」
続いてユージオが雄叫びと共にソードスキル…《アインクラッド流秘奥義》の二連撃技《バーチカル・アーク》を発動。上段斬りを命中させる。
その間にスキルの硬直が解けた俺は振り返るとソードスキル《ホリゾンタル》を発動。
それと同時にユージオの二撃目がエネミーの体を切り裂き、そのHPゲージを吹き飛ばした。
ユナのバフは思った以上の効果があったようだ。
剣を納め、ユージオと拳をぶつけ合った俺は中々バランスの良いパーティだなと自己分析をする。
欲を言えば防御も攻撃もできる重戦士的な立ち位置のプレイヤーが欲しいところではあるが、無い物ねだりをしても仕方がない。
ここは俺が臨機応変に動きつつ、二人のカバーをしていくしかないだろう。
「ねえキリト、アレじゃないかな?バベルの塔って」
と、ここでユージオが前方を指差す。
その先には明らかに怪しさ満点の塔がそびえ立っており、ユナに視線を向けると頷いたことからやはりあれがバベルの塔なのだろう。
「…あれは」
その前に佇んでいるのは明らかに塔を守護しているであろう巨大モンスターである。
まだ認識範囲外であるからだろうか、こちらに攻撃してくる気配はなさそうである。
「…あんな怪物…見たことない…《整合騎士の飛竜》なんかよりもずっと大きい…」
「…どちらにしろ、アイツを倒さなきゃ塔に入れるかすら確かめることもできないのか…」
「妾の領域に何の用だ」
「っ!誰だ!!」
突然聞こえた声に、俺たちは戦闘体勢を取る。
すると俺たちの目の前の空間が歪み、中から目元を仮面で隠した一人の少女が現れた。
「女…の子?」
ユージオの固い声を聞きながら、俺は目の前の少女を観察する。バベルの塔に近づいたこと、先ほどの言葉から推測するに彼女が……。
「《ペルソナ・ヴァベル》か…?」
俺の確認の言葉に少女は眉をつり上げながらやや不愉快そうに言葉を返す。
「…妖精は物覚えが悪いようだな」
「……なんのことだ?」
「知れたこと…貴様の大切な娘を奪った敵が目の前にいるのだぞ?」
「娘…?……ユイのことか?どうしてユイを知っているんだ」
いまいち話が噛み合わない。
それを相手も感じたのか困惑の気配を見せながら此方に視線を向けている。
「…そもそもこのエリアのアドレスは厳重に封印したハズだ。まだ王の虚像を全て倒していない貴様が何故ここにいる?」
「
「貴様は…」
ユナの言葉に漸く俺以外いることに気づいたのか、ユージオ、ユナに目線を動かし、再び俺に視線を向けた少女は「…そういうことか」と吐き捨てるように言葉を溢した。
「…《異物》が紛れ込んだ影響か……先程の心意攻撃の干渉がここまで響くとは…」
「…おい、こっちの質問に答えろ」
「…答える必要などない。お前達は何も知らなくていいのだから…!」
怒気を含んだ声でそう言った彼女が腕をつき出すと、突如俺たちの足元に黒いノイズがかった影が現れ、俺たちの体を飲み込み始めた。
「うわっ…!?き、キリト!!」
「くそっ…なんだこれ…!」
沈み込む体を必死に動かすが、抵抗むなしく俺たちは影に飲み込まれていく。
「………大人しく眠りについていろ。次に目が覚めれば全てが終わっているのだから」
「終わっているって…なんだよそれ…っ!!」
何もわからないままやられるわけにはいかないと、少女を睨み付けるが、仮面の中の目と視線が合った瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。
いや、仮面に隠されていてその表情は見えないのだが、明らかに少女はーーーーー。
「…だからどうか私の決意を邪魔しないで……■■」
最後の言葉は俺の体が完全に飲み込まれたことによって聞き取ることはできなかった。
続いて視界が真っ暗になり、俺の意識も途切れたのだった。
◆
《無限変遷の迷宮区》
ペルソナ・ヴァベルが現れた影響で出現したその場所は、所謂ランダムマップで構成されたダンジョンのようなものである。
出口はあるが、変わり続ける景色と襲いかかるエネミーにはどんな戦士もいずれ力尽きるだろう。
それに目をつけたヴァベルはここを一種の監獄として扱っていた。
「う…………っ」
若草色の髪の少年、ユージオは呻き声をあげながら体を起こした。
ボーっとする頭を徐々に覚醒させた彼は周囲を見渡し目を見開く。
「なんだ…ここ……」
今まで見たこともない景色にユージオは戸惑いを隠せない。
キリトと修剣学院に向かう途中の旅路はおろか、ルーリッドの洞窟、
「……え?」
と、ここでユージオは自身の頭に浮かんだ思考に首を傾げる。何故なら彼はセントラル・カセドラルの中に入った覚えはないからだ。
どこか自分の中に違和感を感じながら、ここでようやくユージオは周囲に誰もいないことを確認した。
「キリト…!どこだいキリト!!」
辺りを見渡しながら声をあげるユージオの声に反応してくれる相棒の姿は見当たらない。
「折角会えたのに…っ」
また離ればなれになってしまったのかと、ユージオは拳を握りしめる。
しかし一度会えたのだ。キリトも自分と同じようにこの場所に来ているのかもしれない。
そう考えたユージオの耳に、金属がぶつかり合う音と共に誰かが走る音が届く。
改めて見渡すとこの場所は小部屋のような場所であった。
通路の先は闇に包まれており、どうやら音はその先から聞こえるようだ。
音はどんどん近くなり、やがてその音の正体がユージオの目にも入る。
「あれは…っ!」
全身を金色の鎧で包んだ騎士と、その身の丈以上の大きさの鎧を纏い、刀を振るう骸骨の侍が激しい攻防を繰り広げていたのだ。
疲れているのだろうか、黄金の騎士は肩で息をしながらも骸骨の攻撃を捌いている。
「………っ人…!?下がりなさい!!」
ユージオに気づいた騎士は彼に逃げるように声をかけた。
しかしその行為が隙を生み、騎士の防御を掻い潜って刀が薙ぎ払われる。
「しまっ……あっ!!」
咄嗟に剣を滑り込ませることに成功したが衝撃までは吸収できず、騎士はユージオの近くまで吹き飛ばされた。
「だ、大丈夫ーーーー」
声をかけるユージオだが、その騎士のあまりにも見覚えがある鎧の紋様に、思わず息を呑む。
細部こそ違うが間違いない。この騎士の鎧は自分が幼い頃にルーリッドの村に現れ、大切な幼馴染みである《アリス・ツーベルク》を連れ去ったあの騎士ーーー整合騎士の鎧とそっくりなのだ。
「ぐっ……」
戸惑いを隠せないユージオを他所に騎士は起き上がろうとするが、限界が近いのか膝をついてしまう。
「そ、そんな体で無茶だ!逃げましょう!」
「逃げても追ってきます…。それに…」
戸惑いから復帰したユージオの言葉に騎士は首を横に振りながら、兜の中から視線をユージオに向ける。
「あなたがいる以上、騎士である私が逃げる訳にはいきません…!」
「ーーーっ」
兜の下の吸い込まれるような青い瞳と視線を交わしたユージオはその言葉に息を呑む。
幼馴染みを目の前で拐われた彼にとって、整合騎士という存在はどこか懐疑的なモノになっていた。
確かに目指してはいるがそれはあくまでも連れ去られたアリスを救う為の手段でしかない。
今でもあの時のことを考えると深い悲しみと後悔、心の奥底で嫌な感情が渦巻く。
整合騎士を疑い、怒りの矛先を向けるなんて公理協会に定められた《禁忌目録》に触れる考えだとはわかっているから、普段はユージオも考えないようにしている。
しかし、だからといってここで目の前の騎士を見捨てるのか?
「さあ、行きなさい……。ここは私が」
剣を支えに立ち上がった騎士はユージオの前に立つと、こちらに歩を進める骸骨を睨み付ける。
例え《命令権》を公使されていなくても、整合騎士であろう目の前の人物の言葉にはどこか応じなければならないであろうという力がある。
「僕は………」
例え整合騎士であってもーーーーーー
多くの葛藤がユージオの頭をよぎる。
自然と動き出しそうになる足。
後ろに下がり始めればあとはそのまま逃げるだけになるだろう。
「僕は……何回…っ」
アリスが連れ去られた時は自身の心が弱かったから動けなかった。
ルーリッドの洞窟でキリトがやられた時は力が足りなかったからゴブリンに敗北した。
ーー僕が整合騎士を目指すのはアリスを助ける為だ。
ーーでも、でもそれもあるけれど。
ゴブリンとの戦いを終えたあと、キリトに剣術を習うために紡いだ言葉を思い出す。
そしてーーーーー
「あ………」
目の前に立つ騎士と、記憶のアリスの姿が重なったように見えた。
下がりそうになる足は既に前の地面を強く踏みしめている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
止まりそうになる体を大声で鼓舞しながらユージオは駆け出した。
青薔薇の剣を上段に構えた彼の体は、見えない何かに叩かれたように更に加速する。
その体は騎士と骸骨の間に入り込み、高速の一撃を持って振り下ろされる。
ライトグリーンのエフェクトに包まれた青薔薇の剣は、今まさに騎士に振り下ろされるであろう、赤い光に包まれた刀とぶつかり合い、大きな衝撃を引き起こした。
「なっ……!?」
「う…おおおおおおっ!!!!!」
騎士の驚きの声を背後に、ユージオは剣を振り下ろす。
青薔薇の剣は相手の刀を叩き折りながら、その刀身で体を切り裂いた。
同時に激しいノックバックを相手に与え、骸骨侍はまるで距離をとるかのように二人から離れると、新しくユージオにも狙いを定めるように腰からもう一振りの刀を抜き放った。
「な、何をーー」
「自分は…!!!」
整合騎士の言葉に被せるように声をあげたユージオは、自分の中の迷いを払うように一度深呼吸をした後、再び声を張り上げる。
「自分はノーランガルス修剣学院の上級修錬士、ユージオ!!!僭越ながら、整合騎士殿の戦いの手助けをさせていただきたく、進言を!!!」
「な、なりません…!!まだ剣を学んでいる身である貴方を、人界の守護者である私が危険な目に遭わせる訳にはいかない!!」
騎士はユージオの言葉に驚きの声をあげながらもその申し出を切り捨てる。
多少剣の心得があったとしても彼は一般人に近い…騎士にとっては守るべき存在なのだ。
整合騎士として末端に近い自分がその役目を守れなくてどうするのか。
「自分が剣を学ぶのはーーー!!!!」
「もう…二度と自分の大切なものを無くさないためです…!!」
「!!」
「嫌なんだ…、何もせずに震えるだけなのは…!」
震えるように紡がれたユージオの言葉を受けた騎士は一度言葉を探すように口を開きーーしかし頭を振るとその手に持つ剣を握りしめる。
「…わかりました」
短いようで長いような沈黙のあと、騎士はそう答えるとユージオの隣に並んだ。
「私が合わせます。ユージオ、貴方は貴方の思うように動いてください」
「…!ありがとうございます…!!騎士…ええと」
そう言えば目の前の整合騎士の名前を聞くのを忘れていたと今更ながら気づくユージオ。
なんと呼べば良いのだろうか、無難に騎士様で良いのだろうかと彼が悩んでいると、その理由に気づいた騎士はああ、と声をあげる。
「名乗っていませんでしたね。私は整合騎士《アリス・シンセシス・サーティ》…そうですね、アリスと呼んでください」
「アリス……」
その名前は彼にとって特別な名である。
もしかして自分が探している少女と関係があるのだろうか?
しかも整合騎士である。自分が知りたいことを知っている可能性が高い存在に問いただしたいことは沢山ある。
ーーだけど今は…
「…わかりました、騎士アリス」
今は目の前のモンスターを倒さなければならない。
ユージオは強い意思で自身の思いを押さえつけると、整合騎士アリスと共にモンスターに立ち向かうのだった。
アリスはずっと兜を被ってます
敵モンスターはカガチ・ザ・サムライロードみたいな感じです
また少しずつ進めていきますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします