ようやくここまで来たと考えると感慨深いようなまだ終わってないぞというか
ゆっくりと進めていきますんでこれからもよろしくお願いします
それでは、どうぞ
技名の音声を聞き入れたシステムが必殺技ゲージを全て消費し、俺の体を突き動かす。
SAOで俺が幾度もなく使った必殺技は俺が脳裏に描いたイメージと寸分の違いもなく、目の前の相手に放たれた。
「ぐあぁああああああああ!!!!!」
相手も必死に防御しようとするが、元々二刀流は圧倒的な手数で相手を倒すスタイルだ。
その程度の防御が抜けなければ、俺がこのスキルの使い手に選ばれるわけがない。
「ちくしょう!!なんだよ!!なんなんだよお前はぁぁぁぁ!!!やめろよ!!僕の、僕の力がーー」
「ぜやぁぁぁぁぁっ!!!!」
まるで星屑のように煌き飛び散る16連撃最後の一撃は命乞いをするダスク・テイカーの胸の中心部を貫く。
本来ならここまでやる必要は無いのかもしれない。
だが俺にも譲れないものはある。
俺の事を信じて受け入れてくれた直葉、そしてネガ・ネビュラスの仲間達はかけがえのない存在だ。
俺はもう二度と、仲間を失うわけにはいかないのだ。
「あっあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!!!」
HPがゼロになると同時に、ダスク・テイカーの体は絶叫と共にデータの螺旋を描くように消滅していく。
ブレイン・バーストにおけるアバター消滅現象は、どこか幻想的のようで、アンダー・ワールドのソレを思い出す。
やがてダスク・テイカーがいた場所には一枚のカード型のアイテムが残った。
恐らくダスク・テイカーがシルバー・クロウ達との戦いで使用した、お互いのバーストポイントを保持するためのアイテムだろう。
勝者に設定されていない俺が彼を倒してしまったため、莫大なバーストポイントが詰まったカードとして出現したようだ。
本来なら俺ではなくクロウ達が手にするはずだったソレを、俺はリーファに支えられながら歩いてくるシルバー・クロウに渡した。
「……すまない、本当なら俺が倒すべきではなかった」
「い、いえ!そんな…僕のほうこそ、キリトさんに任せてしまって……」
お互い何とも言い難い雰囲気を破ったのは、未だ続いていたブラック・ロータスとブラック・バイスの戦闘音であった。
高速で振り下ろされる漆黒の剣を、これまた高速で動く漆黒の板が阻む。
「あちらの勝負はついたようだし、そろそろお開きにさせていただきたいのですが」
「馬鹿を言え、貴様らの目的をここで洗いざらい吐いてもらうぞ!!!」
ガンッと一際大きな音を立ててブラック・バイスを弾き飛ばしたブラック・ロータスは、トドメをさすためにその剣を振り下ろす。
しかしそれより早くブラック・バイスの体に変化が起きた。
板でできている自身の体を集合させ、一枚の板に変化させると足元に広がる校舎の影に溶け込ませるように沈み込んだのだ。
「ご安心を黒の王。確かに依頼を受けてここには来たけれど、諸君のリアル情報は受け取っていないんだ。出きれば今後永久に関わりたくないね」
最後にそう言い残した彼は凄まじい速さでこの場から離脱していったのだった。
「斬り合いの中で逃げるのは得意だと言っていたが……言葉通りだったな」
忌々しげにブラック・バイスが逃げていった方角を眺めたブラック・ロータスであったが、くるりとその体を振り向かせると。
「ーー兎も角、危機は去ったということだ。四人ともよく頑張ったな、詳しい話は私達が東京に戻ったらということにしよう。今はゆっくり休むんだ」
「先輩………」
後ろのシルバー・クロウが様々な感情を乗せた声を上げる。
とはいえ、後から来た俺達と違って戦っていた者は皆ボロボロだ。
黒雪姫の言う通り、話は俺達が戻ってからで良いだろう。一先ずの危機は去ったのだから。
「スグも、よく頑張ったな」
「わぷ、お兄ちゃんくすぐったいよ」
シルバー・クロウ達に負けず劣らずボロボロな妹の頭に手を乗せてねぎらいの言葉をかける。
最初は照れくさそうにしていたリーファであったが、安心したのかポロポロと涙をこぼしはじめた。
「私頑張ったよ…とっても痛かった……怖かったよぉ……」
「な、泣くなよ…ほ、ほら!帰ったらスグの作った食べ物が食べたいな!!前に作ってくれた…ハンバーガー!!」
「あれサンドイッチだよぅ……」
結局、ライム・ベルがリーファを慰めてくれたおかげで一息ついた俺達は、黒雪姫が言ったように東京に戻り次第今回の詳細を聞くこと、残りの領土戦も頼んだということを伝え、沖縄へと帰還したのであった。
◆
「さて、ハルユキ君達の話はまた後でということにするが…桐ヶ谷君、君には少し聞きたいことがあるのだが」
「な、なんでしょうか…?」
現実に戻ってきた途端、我がレギオンマスターである黒雪姫様は腰をトントン、と叩きながら俺にそう言いはなった。
何がなんだかわからず言葉に詰まっていると、黒雪姫は一瞬辺りを見渡し、再び口を開く。
「君がテイカーの心意を止めた際に放った心意技のことだ。あれほど薄く洗練された一撃を放ったということは、心意の心得があると見て間違いないのか?」
十中八九俺が放った《心意の刃》についてであろう。
アンダーワールド内で絶技とまで言われたその攻撃はこの世界でも扱うことができる。
それはニューロリンカー、そしてブレイン・バーストが何らかの形でSTLやアンダーワールドと関係があると俺は考えていた。
「正確に訓練した訳じゃないから完璧に扱える…とまではいかないけど、多少なら」
嘘は言ってないぞ嘘は。
関係があるとはいえ、ブレイン・バーストとアンダーワールドの心意には何処となく違和感を感じるし、勿論あの場所のように自由に心意を使えるかと言われれば否、と答えるだろう。
今の俺ができるのは精々剣を振れる範囲を心意の刃で一閃するくらいだ。
……未だに解放されていない俺の四つ目の姿はもしかすると心意技に特化した姿なのかもしれない。
しかしあの姿を思い浮かべるとどうしても心が重くなってしまう。
あの世界では楽しいことがあった反面、その分悲しいこと、辛いことが沢山あった。
心意を扱うなら、それこそあの世界での出来事を思い起こさなければならなくなる。
ーーーーーそれが怖い。
表面上は乗り越えているけれど、ユージオの死は俺の心に深い傷を刻みつけている。
過去を変えることはできないことはわかっているし、ここでそんなことを願ってしまえば、あの時彼に言い放った言葉を俺自身が否定することになる。
『辛いことがあったからって、過去の自分を否定するような奴に負けるわけにはいかない!!』
そうだ、彼ーーエイジに言った言葉を、俺自身が否定することはしたくない。
「……とはいえ少し使えるだけだ。シルバー・クロウとかと変わらないよ」
「……そうか」
俺の言葉を聞いた黒雪姫はふむ、と顎に手をあて考えた後に、真剣な表情で
「だが一応言っておこう。心意技を使って良いのは相手が使ってきてからだ。心意と言うものは強力な反面、使用した人物に多大な影響を与えるんだ」
それの最たる例が君も戦った《クロム・ディザスター》だな。と言われると確かに、と納得する。
思い返してみれば奴からは圧倒的な負の感情を感じ取れた。
「ようは心意の悪い部分に呑み込まれることがあるから、使用には注意しなければならないってことか」
「そう言うことになる。良いか桐ヶ谷君、我々はバーストリンカー……そのアバターを身に纏い、各々の能力を最大限に発揮して戦う存在なんだ。それを忘れないでくれ」
「……そうだな、気をつけるよ」
俺の言葉に満足したのか黒雪姫はよし、と頷き、お土産を買うと言い残してその場から立ち去った。
「そう言えば俺もお土産買わないとな」
直葉は何でも良いって言ってたし…沖縄っぼいお土産で良いだろうか。
サーターアンダギーとか、シーサーの置物とか。
……余談であるがお土産屋に置かれていた木刀に強く惹かれたのだが、我が家には道場も竹刀もあるんだし買うのはやめておこうと泣く泣く断念したのであった。
◆
そして四月二十二日、放課後。
修学旅行から帰ってきた俺達を含めたネガ・ネビュラスの会議と言う名の事後処理が始まった。
ハルユキはあれからダスク・テイカーのリアルである能美に接触したようだが、案の定ポイントを全損した彼はブレイン・バーストの記憶を持っていなかったことを顔を蒼白にさせながら発言した。
「リー…桐ヶ谷さんのお兄さんのこともあったからわかっていたことだけど、やっぱりこうして目にすると何て言うか…怖くなっちゃって……」
「有田君……」
「加速世界がこの七年半ものあいだ秘匿され続けてきた理由、か。私もこの目で確認するまで信じようとしていなかった。……いや、そうすることで罪から逃げようとしていたのかもな」
ハルユキの言葉を聞いた黒雪姫は自嘲の笑みを浮かべながら自分の手を見つめる。
彼女自身がその手で斬った元赤の王のことを思い返しているのだろう。
人の記憶に干渉し、それを消去するゲーム。
それは否応なしにニューロリンカーとSTLの関係性を俺に思い起こさせる。
「……これは、ゲームであっても遊びではない」
思わず口をついだ俺に、全員の視線が集まる。
「……ある男がそう言ったんだ。もしかしたらこのブレイン・バーストもそうなのかもしれない。黒雪姫やタクムなら分かるかもしれないけれど、君達は長い時間加速世界で戦っている。つまり現実世界だけじゃなく、加速世界でも生きていたとも捉えられるんじゃないかな」
「……だから遊びではない、と言う訳ですね。製作者の意図は分かりませんが現に僕達は加速世界で生きて、悩んで、こうして現実でも生きている。まるでーー」
「まるで仮想と現実が一体になったような、ということだな。……確かに、今となっては現実も仮想も、私にとってどちらが本当の《現実》なのかわからないときがあるよ」
まあ、今はここが現実だと、胸を張って言えるがねと、ハルユキに視線を向ける黒雪姫。
とここで当のハルユキと目があったのだが、何やら困惑した表情を見せている。
「あの……キリト…さん、で宜しいんですよね?」
「そうだぞシルバー・クロウ、どうしたんだ急に」
こちらを確認するように言葉を選ぶハルユキに思わず首を傾げてしまうが、ハルユキは直葉と俺を交互に視線を移してますます困惑した表情を見せた。
「キリトさんは桐ヶ谷さんのお兄さんで…でも、桐ヶ谷さんのお兄さんは前に全損したミッドナイト・フェンサーで……い、一体どういうことなんですか?」
「うっ」
「「はぁ……」」
「………」
「…確かに!!え!?どう言うことですかお兄さん!!」
上から俺、溜め息をつく黒雪姫と直葉、無言で眼鏡をクイッとするタクム、ハルユキの言葉を聞いてガタッと立ち上がるチユリの順で声が上がる。
隠していても埒があかないため、俺が平行世界の住人であることなど、他者から聞いたら俺でもそいつの正気を疑う程の説明を始めた。
現にライム・ベルことチユリは変な人を見る目で俺を見ているし、直葉にあなたのお兄さん大丈夫?と問いかけている。
とはいえ本当のことなため、直葉も曖昧な表情でしか返せないのだが。
「平行世界とか、そんなこと言われても実感ないですよぉ…SF映画じゃないんですから…」
「い、一部の科学者の間では平行世界は信じられてるらしいぞ」
机に突っ伏してしまったハルユキに、比嘉や茅場の顔を思い浮かべながらあまり根拠にならない言葉をかける。
俺個人としてはシルバー・クロウが目の前にいる時点で平行世界説は信じられるのだが……
「とにかく、色々突っ込みたいことはあるだろうが、キリトは我々の仲間であると言うことだけでも理解しておいてくれないか?」
「確かに……いやでも…」
一先ず黒雪姫がその場を纏めようと声をかける。
ハルユキは何かが引っ掛かると言うような表情で首を傾げ続けていたが、一旦考えるのは止めたのか、わかりました、と頷いた。
普通に考えて怪しさしかないもんな…
しかも見方によってはブレイン・バーストから退場した筈の人間が蘇ったようなものだ。
と、ここで部活動をしているタクムと直葉、チユリは部活に向かうためにこの場を離れた。
ハルユキはこれから黒雪姫と共に何処かへでかける用事があるらしく、俺は一人で帰ることになった。
放課後の学校は部活動に勤しむ生徒達の声が響いている。
中学時代は丸々あの城の中で過ごしていたため、この空気は中々新鮮である。
この世界にきてまだ一年も経っていないが、中々に濃い日々を過ごしている気がするのは気のせいではないだろう。
オーグマーに苦手意識を持っていた俺が今やその上位互換であるニューロリンカーを扱うようになるなんてな。
「……ん?」
校門を眺めると、小学生くらいの女の子がうちの担任と向かい合っていた。
なにやら話をしているらしく、先生の話を聞いた少女は頭を下げるのを繰り返している。
一体何なんだろうか。
「桐ヶ谷、今帰りか?」
「ええまあ…ええと、先生この子は?」
流石担任、クラス替えから2ヶ月程しか経っていないが自分のクラスの生徒は覚えているようだ。
話しかけられてしまった手前無視して帰ることはできないので、疑問に思っていたことを聞く。
「この子か?この子はな…」
軽く話を聞くと、彼女は松ノ木学園初等部の子らしい。
松ノ木学園は今年の夏に校舎を新築するようで、その際に学園で飼育していた動物が処分されることから、彼女は動物の引き取り手を探しにあちこちの施設や学校に声をかけているとか。
「それでまあ、うちの学校にもあるだろう?使われてない飼育小屋。あれを使わせてもらう許可とその話し合いも兼ねて今回学校に来てもらっていたと言うわけなんだ。それでまあ、俺は恐れ多くもこの子の見送りに抜擢されたというワケ」
茶化すように胸をはる先生になるほど、と頷いていると視界の中央に【AD HOC CONNECTION REQUEST】と、ニューロリンカーによる無線相互接続の要求の表示が出てきた。
この場にいるのは俺、先生、女の子の三人なため、キョロキョロと辺りを見渡したあと、女の子の方に目を向ける。
小学校の中学年くらいだろうか、佇まいや背丈から何処となくユイを思い出してしまう。
少女は俺と目が合うと、無線接続許可を求める動作をしてくる。
やはり彼女からの申請のようなので、断る理由もなく許可を出すと、ニューロリンカーによって映し出されている景色にチャット画面が広がった。
【Ul>初めまして、先程紹介されました。松ノ木学園初等部4年生の四埜宮謡と申します】
それと同時にパパッと現れる文字列に一瞬目をパチクリとさせるが、これでもネットサーフィンを趣味としている身である。
返事をしようとキーボードに手をかけるが、それより早くウィンドウに文字列が流れた。
【UI>あ、そちらからは肉声で話していただいて大丈夫なのです】
「は、はや……」
「凄いだろう、先生も最初は驚いた」
俺から見ても凄まじく速いキーボード操作に思わず呟くと、先生が何故か自慢気に笑った後、真剣な表情になった。
「実は、彼女は運動性の失語症でな。肉声での会話ができない。だから《BIC》を利用して今俺達とチャットをしているんだ」
わかるか桐ヶ谷?と問いかける先生。
この問いは言葉以外にも、目の前の少女にとってデリケートな問題であり、決して面白半分で扱ってはいけないと言う教育者としての言葉も含まれている。
俺は先生の言葉に頷き、目の前の少女に視線を向けた。
ここで同情の視線を向けるのは間違いだ。
チャットというメッセージのやりとりをここまで速くできるようになった背景には、血の滲む努力があった筈だ。
だから彼女に言われた通り、自己紹介をするために俺は口を開いた。
「じゃあ改めて…俺は桐ヶ谷和人、三年生だ。よろしくな、謡ちゃん」
この日俺はーーーそう、かつて明日奈とした会話の中で、次世代フルダイブ技術の正常進化系だと俺が話した《ブレイン・インプラント・チップ》の利用者と出会ったのだった。
もはや勢いとそんな感じでとあっさり終わるキリトの身の上話
いいのかそれで
いくらサッちゃんが飼育小屋を工面したからといって、普通に学校の先生方に挨拶はしにいくのではと考えたことによる最後の方です
ホウの引っ越しとか諸々の準備とか合わせたらこれくらいの時期からやりとり始めてても良いんじゃないかなって
修学旅行もしたり飼育小屋の工面したり大変ですねサッちん副会長
それではまた次回