銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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皆様お久しぶりです

前回の投稿からこんなに時間が空いてしまって申し訳ありません!!

お待たせしました!!




第二十六話:沖縄のバーストリンカー

「…おい、ちゃんと説明してくれ…」

 

げんなりとした声で言った俺の言葉に黒雪姫はコクリと頷くと、ことのあらましを説明しだした。

 

まず、目の前にいる少女二人はバーストリンカーらしい。

東京から引っ越してきたバーストリンカーの≪師匠≫とやらにブレイン・バーストをインストールされた快活気味の少女、琉花と、その≪子≫になったおっとりした感じの少女、真魚。

彼女たちは三人で、無制限中立フィールドのエネミーを狩りながらポイントを溜めていた。

いつかは沖縄に≪東京以外の加速コミュ二ティ≫を作ることを目標にしていたのだが、数か月前からある問題が発生したのだとか。

 

「状況を詳しく知るためには、彼女たちの≪師匠≫とやらに話を聞く必要がある。本当なら私一人でも問題はないのだろうが…」

 

「念には念を…ってわけか。OK、そう言うことなら付き合うぜ」

 

黒雪姫の言葉に頷いた俺だが、先ほどからこちらを睨んでいる琉花と目が合う。

流石に何もしていないのに睨まれるのはこちらとしても居心地が悪いので。

 

「な、なにかな…?」

 

「お前、レベルは?」

 

「……4だけど…」

 

質問に質問で返され、困りながらも返答すると、琉花は椅子から立ち上がって。

 

「ネエネエ!助っ人なのに、ワンよりレベルが下ってどーいうことさー!?」

 

と、本人を目の前に抗議をしだした。

真魚の方はこちらにペコペコ申し訳なさそうに頭を下げているが、俺も苦笑いでしか返すことができないので、返事を返すであろう黒雪姫を見る。

黒雪姫は、店員に頼んでいたパインジュースを一口飲んだ後。

 

「まあまあ落ち着け、こいつはレベルは低いけどな、強いぞ?なんなら確かめてみれば良い」

 

「うぇっ!?」

 

「その手があった!流石ネエネエ!よし、ワンと勝負しろ!えっと…クロ!!」

 

驚く俺の前で琉花はパンと手を叩くと、俺に向けて指をビシッと向けてくる。

呼び方が思い浮かばなかったとはいえ、クロと言われたのは初めてだ。

いや、確かに黒い服を着てるけどさ…

 

「いくぞクロ!≪バースト・リンク≫!!」

 

「は……」

 

突然店の真ん中で加速コマンドを叫んだ琉花に思わず呆けた声を出した瞬間、加速音と共に、俺のアバターが構成されていく。

いや、いくらバーストリンカーがいないからって、店の真ん中で堂々と加速コマンドを叫ぶのはいかがなものなのか…

 

 

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】

 

炎文字が現れ、その後に【FIGHT!!】の文字が出ると、俺は相手の名前を確認する。

≪ラグーン・ドルフィン≫レベル5。

目の前に立っている海色のアバターがそれだろう。

…となると、その後ろの方にいるピンク色が真魚のアバターか。

 

「人間型のアバターなんて、初めてですぅ…」

 

「あれはレアな姿だからな。見れるのは珍しいんだぞ」

 

真魚が俺の姿を見て驚いた声を上げ、隣の黒雪姫が軽く説明する。

ちなみに現在は≪黒の妖精≫アバター。

前に黒雪姫と戦った時にシステムに愚痴を言ったからなのかは知らないが、今の俺の姿は髪を下ろした姿になっている。

恐らくあれだろう。前に彼女と戦闘した際の姿のままを保持したというか…そんな感じだ。

これであの黒いコートと大剣を装備して戦闘を終えれば、次の戦闘では俺の髪はツンツン逆立っているに違いない。

 

 

「そんなことどーでもいい!行くぞクロ!いざ、勝負!」

 

「いいぜ、勝負だ!!」

 

そう言いながら構えるドルフィンに、俺は薄青い片手剣を抜き放つと、いつもの構えを取る。

最初に仕掛けたのはラグーン・ドルフィンだ。

【古城】ステージ(彼女たちの言葉では【城趾】ステージらしい)特有の白い砂利を蹴りながら、俺との距離を一気に詰めてくる。

 

「ハアッ!!」

 

気合と共に突き出された左の正拳突きを剣の刀身で反らしながら、俺は一歩踏み出して肩でチャージをかます。こうも近づかれては剣は触れない。一度相手を突き飛ばして距離を作らなければ。

 

「せぁっ!!」

 

「痛ッ!!」

 

俺のタックルでバランスを崩したラグーン・ドルフィンの肩に、剣を振り下ろす。

ガッ、を装甲を斬り裂く音と共に、彼女のアバターが吹き飛ばされた。

俺の剣はブラック・ロータスのようなとんでもアビリティはついてないので、何でもかんでも斬ることはできない。

カゲミツのようなビームソードに関してはオブジェクト系なら何でも斬れるんじゃないかという切れ味だが、剣なので当然斬れる範囲は限られるし、ブラック・ロータスの剣などは斬れないのでハイレベル相手だと結構きついかもしれない。

 

それはともかく、俺の一撃はラグーン・ドルフィンのHPを二割がた削っていた。

クリティカルヒット、というやつだろう。

レベル4が5に与えるダメージとしては上出来だ。

 

「くぅ…!やるなクロ!!」

 

ガバッと起き上がったラグーン・ドルフィンは、俺の一撃を受けてもピンシャンしているようで、再びこちらに突っ込んできた。

俺の剣の範囲に入る前に踏み込んだ彼女は、その勢いのまま鋭い飛び蹴りを放つ。

こちらは拳が来ると構えていたので、意表をつく良い攻撃だ。

だが、対処できない速さではない。

俺は瞬時にステップを切ると、その攻撃を回避した。

 

「わっ!?」

 

相手がレベル的に下だからかはわからないが、琉花の方は今の攻撃を避けられると思っていなかったようだ。

バランスを崩した彼女の首筋へと剣の刃を突き付けると、それに気づいた琉花が息を呑む。

 

「…どうする?できれば降参してくれるとありがたいんだけど…女の子はあまり斬りたくないんだ」

 

「なっ…!?わ、ワンは、まだやれるさー!」

 

「る、ルカちゃーん!その状況じゃあもう負けだよぉー!!」

 

実力は見せたはずなので、ドロー申請を出しながら俺がかけた言葉に叫ぶ琉花だが、真魚の言葉を聞くと暫くあー、うー、と唸り。

 

「ま、参った…」

 

やがてYESのボタンを押したのだった。

 

 

 

 

対戦が終了し、椅子に座り込んだ琉花は再び俺のことを睨むが、ふいっと顔を背けると。

 

「さ、さっきは、お前の事弱いって言って…わ、悪かった…」

 

小さな声で謝罪してきた。

別に気にしていなかったので苦笑いしか返せないのだが、彼女の頬がやや赤いのは気のせいだろうか。

 

「それじゃー行く人も決まったことだし、≪上≫にいきますよぉ」

 

真魚がのんびりとそう言うと、琉花もそれに頷き、せーの、と一緒に唱えだした。

まさか…と思いながら黒雪姫を見ると、彼女もぎょっとした表情でこちらに視線を移し、頷いた。

 

「「アンリミデッド・バー………」」

 

「待て待て待て!!お前たちまさかここで無制限中立フィールドにダイブする気じゃないだろうな!?」

 

黒雪姫が珍しく慌てながら二人の口を塞いでいる。

どうやら間に合ったようだ…。

無制限中立フィールドは、ポータルからじゃなければ出ることができない。

もしポータルが見つからなかった時のために、ニューロリンカーの自動切断セーフティを付けるのが常識なのだ。

まあ、その常識は沖縄では通用しなかったみたいだが…

黒雪姫は二人の後ろにまわって、セーラー服の襟首をむんずと掴み。

 

「ダイブする場所は私が決める。いいな」

 

≪極冷気クロユキスマイル≫とハルユキが名付けていた微笑みと、低い声のセットで二人を連行したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女が決めたのは宿泊していたホテルのダイブスペースだった。

宿泊者は利用無料らしく、琉花と真魚の分を二人で払い、案内された部屋に入った。

部屋が空いていなかったとの理由で六人部屋に通されたが、狭いよりははるかに良いだろう。

優先接続用のルーターからケーブルを取り出し、それぞれのニューロリンカーのプラグに装着する。

途中で真魚がもう一本用意して欲しいと言ったので、黒雪姫が接続されていないプラグを一つ用意して、準備は完了した。

 

「よし、時間は五分に設定してある。内部時間では八十三時間だな。では、五、四、三、二、一…」

 

黒雪姫のカウントが開始され、俺たちは一斉に無制限中立フィールドへダイブした。

 

 

 

 

 

「こっちだよ!ネエネエ!クロ!!」

 

「ルカちゃんまってよぉー!」

 

【風化】ステージのフィールドに出た途端、真魚と琉花は走り出してしまった。

苦笑しながら二人で追いかけようとするが、俺の足は止まってしまった。

 

「…キリト?」

 

何か、音が聞こえた気がする。

風の流れに混じってかすかな爆音のような音。

 

今のは何の音だ?

黒雪姫達は間が悪かったのか聞こえなかったようだ。

俺の聞き間違いかもしれないが、確認する分には問題ないだろう。

 

「…先に行っていてくれ」

 

「…何かいたのか?なら私も…」

 

「確認にいくだけだ。すぐに追いつくよ」

 

一緒にいくと言おうとした黒雪姫を押しとどめ先にいくように促すと、彼女は「何もなかったら早く戻ってこい」と言って、二人の後を追いかけた。

 

彼女が去っていくのを見ながら、俺は先ほどの音が聞こえた方向に走る。

風化ステージといっても、そこらじゅうに瓦礫の山が存在しているので、それを飛び越えていかなくてはならない。

 

瓦礫を蹴るために足に力を入れようとした途端、視界の隅から黒色のビームが飛んできたのが見えた。

 

「く…ぉ…っ!!」

 

既に足は瓦礫を蹴っていて、俺の体は空中にある。

しかし、何とか体を反らして回避を試みる。

ビームは俺の体を掠めたが、直撃はしなかった。

しかし、空中で無理な態勢を取った俺は、そのまま地面へ転がるように着地。

更に追撃のように飛んできたビームはあちこちの瓦礫にぶつかり爆発を起こした。

 

 

剣を抜きながらビームが飛んできた方向を睨みつけ、これ以上追撃を受ける前に走り出す。

 

近距離型では遠距離型の相手には不利なのは事実。

GGOで経験したBoBでもその事が大きく現れただろう。

 

そもそもあそこは隠れながら銃で敵を倒すゲームであって俺のように剣を持って相手に突っ込んでいくこと自体が向こうからすればおかしいことなのだろうが…。

 

 

「…あそこかっ!」

 

瓦礫を飛び越えながらビームが飛んできた方向に進んでいると一人のデュエルアバターが見えた。

全身を薄い紫色の装甲で身を包み、一際目立つのはそのアバターが被っている大きな帽子だ。

顔の上半分を大型の丸レンズ付きのゴーグルで隠した相手は明らかに慌てた様子で俺を見ている。

 

そしてその帽子の前面にも付いているレンズがチカッと光輝く。

 

 

「っ!!」

 

 

反射的に回避運動を取った俺のすぐ横を紫色のビームが通り過ぎ、背後で爆発音が鳴り響く。

やはり先ほどの攻撃はあのアバターからのようだ。

 

ビームを避けるなんて芸当はGGOのショップでやった弾除けゲームを思い出すが、今回は予測線なんてものは存在しない。

続けて飛んできたビームを全神経を集中させながら回避し跳躍、相手の目の前まで着地する。

そのまま剣を振り下ろそうとした俺は。

 

 

「ちょ、ちょいまちい!!たんま!すとーっぷ!!」

 

 

目の前のアバターが必死に両手を体の前で振りながら上げた声に、思わず動きを止めていたのだった。

 

 




改訂前とちょっと変更しました

関西弁を喋るアバター…一体何者なんだ…

改訂するかどうしようかと考え気が付けばAW18巻発売
グラフさんの正体怖いとビクビクしながら読み進めながら、ない頭を捻ってこの小説の展開を考えていきたいと思います

それではまた次回!!

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