機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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 caribouです。
 
 最後の書き溜めです。

 次の話から不定期連載になると思います。


第五話

 北米カリフォルニア州 地球連合軍・大西洋連邦北方軍エドワーズ基地

 

 特別評価試験部隊”ラプターファングス”は演習前のブリーフィングの最中だった。

 ブリーフィングルームのいつもの席でレオンスは、隊長であるハンフリー・ルース大尉の説明を黙って聞いていた。もちろんレオンスの隣にはリー、後ろには新任が陣取って同じくルースの説明する演習内容を聞いている。

 今回の演習は実機を使っての模擬戦ということだった。前回の模擬戦以来実機での演習は二週間以上行われていない。それを考えると教導部隊としての本格的な任務開始が近いことは容易に想像できた。

 「模擬戦でのチーム分けだが、今回は変則的なものになる」

 ルースの意外な言葉にレオンスは少し驚いた。今までは先任と新任に分かれての演習ばかりだったためここにきてチームを変えてくるとは思わなかったのだ。

 「今回の模擬戦に俺は参加しない。よってチーム構成はニ対三となる」

 ルースの言葉を受けてブリーフィングルームに、一同の動揺が広がるのをレオンスは感じた。レオンスもその編成に疑問を覚えたが同時に高揚も感じていた。

 多少腕を上げてきたとはいえまだまだ自分たちとは錬度に差がある新任を、一方的に撃墜するのにもうんざりしてきていたのだ。それに比べれば今回の編成はレオンスにとって少しは楽しめるモノと言えた。恐らくルースは自分が抜けることで新任たちにハンデを与えるつもりなのだろうとレオンスは考えた。

 「今回の編成を発表する。A分隊、リー中尉、ハヤミ少尉、シャロノワ少尉」

 A分隊の編成にレオンスは目を見開いた。リーが新任二人と組む。そしてルースは模擬戦に参加しない。そうするとレオンスのチーム編成は自ずと知れた。

 「B分隊、ヴィアン中尉、マクミラン少尉」

 先ほど以上の動揺がブリーフィングルームに波及した。

 

 “ラプターファングス”のモビルスーツ格納庫にはガントリーに収まった六機の《ダガー》が、三機ずつ向かい合うように立っている。レオンスがパイロットスーツに着替えて格納庫へ向かうと、そこにはすでにウォルト・マクミランの姿があった。

 機体の整備状況の確認でもしているのか黒人の丸い整備兵となにやら話している。レオンスはそれを素通りして格納庫の奥にある自分の《ダガー》へ向かって歩いた。

 自機のタラップを上がろうとすると背後から「中尉」と声をかけられた。

 レオンスが振り向くとウォルトが敬礼してきていた。

 「なんだ?」

 レオンスは短く答える。

 「自分ではまだ中尉についていけるかわかりませんがよろしくお願いします」

 そう言うとウォルトはレオンスに頭を下げてきた。

 「くだらないことを気にするな。足手まといにならなければいい」

 ウォルトを見下ろしつつそれだけ言うと、レオンスは再びタラップに足をかけ《ダガー》のコクピットに身体を滑り込ませた。

 

 

 レオンスの姿がコクピットの中に消えると、ウォルトは頭を上げつつ軽く溜息をついた。正直に言うとウォルトは今回の編成には大きな不安を抱えていた。

 (なんでわざわざ隊長はこんな編成を…)

 レオンスがウォルトを目の敵にしているのはウォルト自身にも明らかだ。それをルースが分かっていないとは考えにくかった。にもかかわらずウォルトとレオンスを組ませ、さらには数的不利まで課してくるということはなんらかの考えがあってそうしたのだろう。しかしルースの思惑はウォルトにはさっぱり分からなかった。

 チームを組む相手としてレオンスには礼を尽くしたつもりだが、それを相手がどう思ったのかも分からない。

 ウォルトも自分の機体へと体を向けると自分に歩み寄ってくる二人のパイロットスーツに気づいた。ケイとミーリャだ。

 「いやあ、面白い編成になったな!」

 ケイが楽しげに語りかけてきた。

 「なんだかんだ言って俺たちが敵同士になるってのは初めてだからなあ。改めてお手並み拝見と行かせてもらうぜ」

 「たくっ…簡単に言うよな…。こちとらチームワークの上に数の不利まで抱えてるんだぜ?これでやれって言う方が馬鹿げてるよ」

 うんざりしつつケイに返す。

 「まあ不利なときほどその人の真価が試されるって言うし良いんじゃない?」

 ミーリャは相変わらずニコニコとして二人の間に入る。

 「大西洋連邦のエリートを相手にできるなんて滅多に無いチャンスだから楽しみだわ」

 ミーリャの言葉に本来この二人は大西洋連邦の軍人ではないことをウォルトは思い出さされた。

 「なら俺もユーラシアと東アジアのエースの実力を楽しみにしておくよ…」

 溜息とともにウォルトは二人に告げる。

 「それといつものことだが負ける気は無いぜ?」

 その言葉にケイとミーリャは満足な笑みを浮かべながらそれぞれの機体へと向かっていった。

 

 メインコンソール、各種計器モニターに明かりがともり、続いて外部モニターが格納庫内の風景を映し出す。

 モニターの数値が正常であることを確認すると、ウォルトはメインジェネレーターに火を入れた。

 モビルスーツのエネルギーは主に電気を使っているため、スラスターなどの推進器を使わなければその巨体の割にはエンジンの回転音は静かだ。その微かな振動をシートを通して確認するとウォルトはスピーカーに機動完了を告げた。

 その報告に呼応してウォルトの《ダガー》がガントリーから解放され、格納庫のハッチがゆっくりと開く。ハッチの隙間から強烈な陽の光が入り込みウォルトは目を細める。その一瞬後にはセンサーが自動的に光源を調節し、白一色だった光の中にエドワーズ基地の誘導路が現れた。

 『”ラプターファングス”、A分隊、出るぞ』

 リー率いるA分隊の《ダガー》三機がハッチをくぐり誘導路へと出てゆく。

 『同じくB分隊、出る。マクミラン、遅れるなよ』

 「ラプター04了解!」

 先にハッチをくぐったレオンスに続き、ウォルトの機体も格納庫からカリフォルニアの大地へと踏み出した。

 ルースを除いた五機の《ダガー》が誘導路に揃うと、データリンクが更新され演習区域の座標が外部モニターのウィンドウに表示される。その座標は奇しくもウォルトがエドワーズに着任して初の実機演習を経験したエリアだった。

 『久しぶりの実機演習(ホンモノ)だ。各機気合い入れてかかれよ!続け!』

 リーの機体がスラスターの轟音とともに高く飛び上がる。それに続いてケイとミーリャのダガーもスラスターの力を借りて勢いよく離陸していく。

 A分隊が全機離陸するとレオンスも無言で機体を離陸させた。A分隊の三人よりも滑らかな機動だ。

 それに遅れまいとウォルトもスロットルをアイドル位置から跳躍位置へと移動させフットペダルを踏み込む。同時に《ダガー》のメインスラスターが唸りをあげ、その巨体をロングジャンプの機動へと乗せた。

 

 

 エドワーズ基地・第6モニタールーム

 

「フィーリア・ブラウン少尉、出頭いたしました」

 フィーリアは薄暗いモニタールームへと足を踏み入れた。

 モニタールームには管制卓につく数人の中央作戦群所属のオペレーターと、長身の男が一人立っていた。

 直立不動の姿勢にも関わらず隙が感じられない長身の男はちらりとフィーリアの方を振り返った。

 薄暗いなかでモニターの明かりを受けた男の顔は、特徴的な高く尖った鼻と肉の削げ落ちた頬が強調され、その隙の無い出で立ちに不気味な雰囲気を付与していた。

 「待っていたぞ少尉。まずは見たまえ」

 リーヴスはモニターを顎で示した。

 「リーヴス大尉、これは…」

 促されるままフィーリアもモニターの映像に目を移した。

 「これが今の連合のモビルスーツ部隊の実力だ」

 モニターに映されているのは演習区域へと移動するため、ロングジャンプ中の五機の《ダガー》だった。複数のカメラで撮影しているため数種類のアングルから捉えられている。

おそらく演習の記録を撮るための無人機からリアルタイムで送られてくる映像だろう。この《ダガー》の所属である”ラプターファングス”の指揮所にも同じ映像が送信されているはずだった。

 演習のログを閲覧するには本来それなりのレベルの、セキュリティクリアランスが必要となる。リアルタイムともなれば当の部隊の関係者でもなければ見るのは不可能だ。

 しかしフィーリアが所属する中央作戦群・第305特殊実験開発部隊”ラーミナ”は、その埒外にいた。統合参謀本部のお墨付きを得ているこの部隊には、本来閲覧を許されない機密情報も閲覧可能な権限が与えられている。

 この映像もその権限(・・)の枠内でしかないのだ。

 モニターに映し出される五機の《ダガー》のうちの最後尾に位置する機体に、自分でも知らぬ間にフィーリアの注意は向けられていた。機体の左肩部装甲には104の機体番号が強烈な日差しを受けながらも、その存在を主張していた。

 事前に“ラーミナ”に降りてきていた情報によれば、104号機のパイロットはウォルト・マクミランだった。

 昨日、ウォルトがフィーリアにみせた屈託のない笑顔が脳裏を過る。

 フィーリアはモニターの中の104の数字を注視し続けた。しかし自分の隣でモニターを眺めているリーヴスも同じ機体に視線を向けていることに彼女は気づかなかった。

 




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