機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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お久しぶりです。carobouです。

十八話です。

沖縄編も一つの山場を超えました。


第十八話

 南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地 第三演習区域

 

 二十世紀後半、ミサイルの性能向上やデータリンクの登場により戦闘機同士による空対空戦闘は、機関砲による直接照準から火器管制レーダーによるロックオンへと移り変わっていった。

 これにより、近距離で敵機の後方位置を占位すべく行うドッグファイトは、次第に衰退していくこととなる。しかし、実戦でドッグファイトが発生しなくなった後も、予期せぬ遭遇戦などへの対応策として機関砲は装備され続け、その訓練は継続されていた。

 そして、C.E.70。ザフトにより地球に散布されたニュートロンジャマーは、原子炉の核分裂反応を阻害すると同時に、長距離レーダーや通信機器を初めとした電子機器をも機能不全に陥れる副次効果を発揮。

 これにより、地球圏における戦闘は、長距離ミサイルを初めとした電子戦から近距離における有視界戦闘の時代へと遡ることとなる。

 ドッグファイトが行われなくなって久しい今となっては、その訓練は半ば形骸化し、戦闘機パイロットの必修技能というよりは、クリアすべき科目の一つとなり下がっていた。

 こうした状況に対応すべく、訓練校の教育は大きく転換され、ドッグファイトでの勝率が良い者に高い評価を下すようになっていった。

 ウォルトもそんな者たちの一人であり、中でもリード射撃の命中率は教導官さえ驚愕させる数字を叩きだしていた。

 ウォルトの脳裏には、その当時の訓練でHUDの向こう側に捉えた、アグレッサー機のエンジンノズルが去来していた。

 外部モニターには鋭角の機動を取りつつ、こちらへ距離を詰めてくる《ストライクダガー》。それを確実に狙撃するのは、自動照準では不可能だ。ウォルトは操縦桿のスイッチで照準方法をオートからマニュアルへ切り替えると、ライフルのトリガーに意識を集中させた。この状態からでは咄嗟の回避機動は取れない。一か八かの賭けだ。

 これまでの玲央奈の機動から、次の予測を立てる。コンピューターの補正は一切ない。自分自身のトリガータイミングが全てを決める。

 (来たッ……)

 ピタリと狙い定めた照準用レティクル。そこに玲央奈機が滑り込むコンマ三秒前。ウォルトはGAU8M2のトリガーを引き絞った。

 ウォルトが握る操縦桿から、電子信号が機体を通じてライフルに伝わり、52mm徹甲弾が発射される。その一瞬のタイムラグも計算済み。弾道は狙った通り、玲央奈機へと真っ直ぐ伸びていく。間違いなく胸部への直撃コースだ。

 (今度こそ…!)

 直撃コースと悟ったのか、《ストライクダガー》の動揺をウォルトは外部モニターを越しに感じ取った。動揺が機動に現れたのではない。純粋にウォルトはそれを感じた(・・・)のだ。

 それと同時に《ストライクダガー》は左腕にライフルを構えると、こちらに指向し、砲弾をばら撒く。狙いを定める間は無かった。

 次の瞬間、《ストライクダガー》の胸部装甲を52mm徹甲弾が突き破る。しかし、その狙いは僅かに甘く、胸部左側に命中した砲弾は、左主腕の駆動系とスラスターエンジンを悉く破壊したが、それは致命的損傷には至らなかった

 だが、ウォルトにそれを確認する間は無かった。玲央奈が撃ち散らした砲弾の一発がウォルト機のコクピットに命中。外部モニターに撃墜判定のダイアログが閃いた。

 

                   ※

 

 「やってくれるわね…ッ!!」

 玲央奈は呻くように吐き捨てた。外部モニターに損傷箇所を知らせる機体ステータスが表示される。

 ――――左主腕駆動系及びスラスター制御系に重大な損傷――――。

 左腕とスラスターはもはや使用不能だった。

 咄嗟に撃ったライフルが、偶々104号機のコクピットを捉えたのが幸いだった。もしも次の一撃があったなら確実に撃墜判定を受けていただろう。もっとも、今の状態ですら満身創痍と言える酷い状態だ。

 「ウォルト・マクミラン…、やっぱり良い腕してるわね。さてと…、――!?」

 玲央奈の意識が分かれた本隊に傾きかけたとき、接近警報がコクピット内を支配した。センサーに目を向ける。

 「バンデット05…速水!」

 機体を振り向かせると右腕を失ったオレンジ色の《ダガー》が、スラスターを焚き外部モニター一杯に迫ってきていた。残された左腕にはサーベルが握られている。

 玲央奈はしまった、と思った。《ダガー》のサーベルは、《ストライクダガー》より一本多く装備されていることを失念していたのだ。ウォルトとの戦闘に気を取られすぎていた。せめてケイにとどめを刺しておけば、という後悔が押し寄せるがもう遅い。

 右腕に残されたサーベルで105号機の斬撃を受け止める。

 『迂闊だったな、玲央奈』

 余裕を感じさせるケイの声がヘルメットイヤフォンに流れた。

 「なんで…、身動き取れなかったんじゃ…?」

 『あの状況で食い下がっても、お前相手じゃ勝てそうになかったからな』

 「相変わらず汚い奴…!」

 『なんとでも言えよ』

 105号機は一旦距離を取ると、スラスターを使い玲央奈の背後に回り込んだ。スラスターが使えない今の状態では、その機動に追い付けない。

 振り向きざま、やけくそでサーベルを振るったが、それがケイを捉えることは無く虚しく空を斬るだけだった。代わりに、《ダガー》が横薙ぎに繰り出したサーベルが《ストライクダガー》のコクピットを捉え、外部モニターに撃墜判定のダイアログが表示される。

 「くそ…」

 そう小さく呟いた玲央奈の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。

 

                 ※

 

 外部モニターの明かりと、微かなハムノイズに支配された《ロングダガー》のコクピットで、フィーリアはセンサー画面に眼を向けていた。

 “ラプターファングス”からデータリンクを介して送られてくる情報で、演習の推移は詳細に知ることができている。しかし、だからこそフィーリアはもどかしさに身じろぎした。

 ウォルトの104号機は致命的損傷を受けて行動不能。撃墜のタイミングから察するに、恐らくは敵の8番機とほぼ相打ちの状況だったのだろう。105号機も右手腕を損失している。別行動の本隊は敵部隊と交戦中。しかし、四機では流石に分が悪いらしい。徐々に押し込まれつつあった。

 フィーリアが操縦桿を握りなおした瞬間。待ちわびた通信ウィンドウが開いた。

 『ラーミナ01、準備はいいか?』

 秘匿通信画面に現れたリーヴスが無感情に問いかける。

 「問題ありません。いつでもいけます」

 リーヴスは無言で頷きもせず命令を達した。

 『ラーミナ01はこれよりメインジェネレーターを起動。“ラプターファングス”の戦闘に介入、敵機を殲滅せよ』

 「了解。メインジェネレーターを起動します」

 フィーリアの復唱を確認すると秘匿通信は唐突に途切れる。同時に機体のメインジェネレーターに火を入れた。それに呼応し、起動したジェネレーターの微かな振動を、フィーリアはシート越しに感じ取る。ゆっくりと立ち上がる《ロングダガー》の頭部センサーシールドが怪しく閃いた。

 

                   ※

 

 「ラプター06よりラプター01。ラプター04のマーカーロスト、ラプター05、中程度の損傷あり」

 ラプター01の側面から接近を図る敵に牽制射撃を見舞いつつ、ミーリャは分かれたウォルトとケイの状況を報告した。

 『04がやられたか…、あの8番機、ただの跳ねっ返りかと思えばかなりの腕のようだな…。05の合流までどのくらいかかる?』

 ルースの《ダガー》はスラスターを巧みに使い、敵との距離を保ちつつ砲撃を続ける。

 「順調にいけば二百秒。ですが、その途中606隊の別動隊が待ち構えている可能性があります」

 ミーリャは左腕一本でコンソールを操作し、戦術マップとケイの現在地から合流までの時間を割り出した。しかし戦術マップ上では、ラプター05の頭を抑えるように606の別動隊を示すマーカーが、ケイの最短合流ルートに被さるように移動しつつある。

 「現在の損傷状態でこれを突破するのは難しいと思われます」

 ミーリャもケイの腕は認めている。しかし、片腕にサーベル一本の状態で三機を相手にするのはいくらなんでも無茶がすぎる。

 『合流は難しいか。かといってこちらから合流したとしても、敵の本隊に背を向けることになる…』

 「そうなった場合、挟撃の恐れもあります…」

 なにか思案するようにルースが黙り込んだ。その間も敵はこちらの戦線を崩そうと圧力を強めてくる。

 『03より06!作戦会議は結構だがコッチの支援も忘れないでくれよ!』

 リーが割り込むように通信ウィンドウに現れる。はっと我に返りミーリャの瞳は外部モニターの精査を再開した。

 リーの砲撃の間隙を縫って、レオンスに接近する敵機に狙いを定めトリガーを引き絞る。敵機は正確にコクピットを貫かれ、爆散すらせず地面に伏した。

それをミーリャが確認したのと、レオンスの声がイヤフォンに響いたのはほぼ同時だった。

 『06!後ろだッ!』

 パイロットスーツに覆われた肌がぞわりと粟立つ。一瞬の隙を突いて、一機の《ストライクダガー》がミーリャの背後に回り込んでいたのだ。同時に正面から別の《ストライクダガー》がサーベルを構えて距離を詰めてくる。

 (挟まれた…!?)

 背後からの砲撃を、反射的に機体を横滑りさせて回避するが、肩部装甲に浅い角度で直撃した砲弾がライトグレーの塗料を剥ぎ取った。致命的な一撃は避けたものの、無理な急回避を図ったせいで姿勢回復が間に合わない。機体の反応の遅さに歯噛みしつつ、ミーリャは外部モニターに迫る光刃を見据えることしかできなかった。

 その瞬間。ビームサーベルの光に染め上げられようとしていた外部モニターが、暗い影に覆われた。その影は、ミーリャと《ストライクダガー》の間に割り込むと、サーベルが振り下ろされるより数瞬早く、右腕に握ったサーベルを下からすくい上げる。運動エネルギーで勝るはずの、《ストライクダガー》を超える神速で繰り出された斬撃は、その胴体部を斜めに両断。胸部が生き別れた《ストライクダガー》はその場に崩れ落ちるように擱座し、一瞬後、推進剤の誘爆により爆散した。

 予想外の機体の乱入に“ラプターファングス”、606隊の動きが鈍る。

爆炎を背後に立つダークグレーの機体―――GAT-01D《ロングダガー》の姿をミーリャは見据える。運動性向上を図るため、装甲の簡略化を推し進めたそのボディは、一切の無駄を削ぎ落としてなお、剣のような鋭さを持った特殊部隊員の肉体のようだ。見る者に畏怖を与えるその立ち姿からは、それに乗っているはずの少女の印象は感じられなかった。

 次の瞬間、《ロングダガー》は恐るべき瞬発力でもって、ミーリャを背後から狙っていた《ストライクダガー》に肉薄。《ストライクダガー》はその機動に反応すらできずに立ち竦むばかりだ。コンマ数秒で《ストライクダガー》との彼我距離を無に帰した暗い影の如き機体は、その左腕に保持するGAU8M2を敵機のコクピットに押し付け接射。一瞬でコクピット部を蜂の巣にされた《ストライクダガー》のセンサーシールドからは、生気を失ったように光が消え失せる。それを確認する間もなく、《ロングダガー》はスラスターを点火。次の《ストライクダガー》の一群に急接近を図る。

 『バカな…!《ダガー》タイプであんな機動を!?』

 606隊のパイロットの悲鳴のような声がオープン回線で流れた。

 迫りくる未知の敵に《ストライクダガー》がライフルで応戦するが、その砲弾は《ロングダガー》に掠りもしない。《ロングダガー》は弾道が全て見えているかのように、メインスラスター、姿勢制御スラスターをそれぞれ小刻みに吹かすことでその全てを鮮やかに躱していく。無論、弾道を『見る』など常人には不可能な話だ。ミーリャには、彼女がどのようにして敵の砲撃を避けているのか見当もつかない。

 『ふざけやがってッ!!』

 業を煮やした別小隊が《ロングダガー》の側方に回り込み砲撃を浴びせる。《ロングダガー》は左腕のライフルのみをそちらに向けて、牽制射撃を開始。それでもなお速度は衰えていない。

 なんの抵抗もなかったかのように《ストライクダガー》の小隊と距離を詰めた《ロングダガー》は、慌てて兵装を切り替えようとする一機をサーベルの一閃で屠る。同時にもう一機の至近距離からの砲撃をシールドで弾き、そのままシールドを叩きつけた。その衝撃にバランスを崩した隙を狙い、胸部を横に薙ぎ払う。超高熱の刃が、コクピットブロックを正確に抉り取り敵機を動かぬ骸へと変えた。

 二機の僚機を一瞬で失った小隊最後の《ストライクダガー》は、自らの恐怖に支配された砲弾を《ロングダガー》へ浴びせる。

 しかし、《ロングダガー》は左腕のシールドとライフルを投棄すると、空いた左主腕で腰部アーマーに残されたもう一本のサーベルを引き抜く。重量を軽くすることで、先ほど以上に疾さを増した《ロングダガー》は、両主腕に光刃を携えスラスターを吹かした。

 瞬間的に全開で焚かれたスラスターの推進力により、《ロングダガー》の18メートルの巨体が、鮮やかな後方宙返りの軌道を描く。《ストライクダガー》の砲撃はそれを追い切れていない。

 宙返りで瞬時に背後に占位した《ロングダガー》を、《ストライクダガー》がやっとのことで火器管制レーダーに捉えたとき、その胸部は二本のビームサーベルにより、十文字に両断されていた。

 『ラプター01より各機、ラーミナ01を援護するぞ。このまま一気に押し切る!』

 《ロングダガー》の圧倒的な機動に気を取られていたミーリャの意識を、ルースの声が現実に引き戻す。だが、その声は動揺を隠しきれていない。

 《ダガー》にライフルを構えさせつつも、ミーリャは援護射撃の必要性を感じていなかった。《ロングダガー》の影のようなダークグレーの装甲には、未だ掠り傷一つない。

 「これが…あなたの力なの…?―――フィーリア…」

 ミーリャは我知らず、眼前で乱舞する《ロングダガー》を駆る少女の名を呟いた。

 

                  ※

 

 撃墜判定を受けてから、ウォルト機のコクピットの外部モニターは、自動的に観戦モードへと移行。演習のリアルタイム映像が流されていた。その映像の中ではダークグレーに塗り固められた《ロングダガー》が圧倒的な機動で606隊を翻弄していた。玲央奈の機動制御を目の当たりにしたウォルトからしても、その機動は玲央奈を超えていると確信できる。いや、恐らくはこの演習に参加している、全てのパイロットを凌駕しているだろう。

 「これが…中戦群の実力なのか…?」

 フィーリアが乗っているであろう《ロングダガー》はフレームや基本設計は《ストライクダガー》と共通のはずだ。対モビルスーツ戦能力の向上のため、装甲を一部簡略化しており、それにより運動性を初めとした総合性能は《ストライクダガー》より高いと聞いている。

しかし、今ウォルトの目の前で《ストライクダガー》を次々と屠っていくダークグレーの機体は、設計を流用した機体とは思えない瞬発力と運動性を発揮している。

 恐らくは各所に大幅なチューンが加えられていることは、誰の目にも明らかだ。だが、その機動は、恐らくは機体の性能に依るだけのものではないだろう。

 あれほどの反応速度を示す機体は並みのパイロットでは、まともに扱うことすら難しいはずだ。そんな危険なバランスで調整された機体で、あの超絶機動をやってのけるということが、パイロットの技術の高さを如実に物語っていた。

 ウォルトの口角が我知らず吊り上がる。

 ウォルトは玲央奈が自分に興味を持った意味を改めて理解した。

 

 

 演習終了後、簡易的な機体点検を行うため、各部隊は演習区域に併設された仮設ハンガーへ機体を収容した。

 ジェネレーターの火が落ちるのを確認するとウォルトはハッチを開放、コクピットから這い出るようにキャットウォークへ降りた。

 脳裏には、先ほどのフィーリアの戦闘機動がこびりつくように再生を繰り返していた。

 「まさかお前でも敵わないとはなあ」

 左からの声にウォルトはそちらを振り返る。隣のガントリーからキャットウォークを伝って歩み寄ってくるケイだった。その向こうにはミーリャの姿もある。

 「ああ、レオナ少尉の操縦技術には見習うべき点が多かったよ」

 「あれを見越し射撃で狙撃できるお前も相当ヤバいけどな」

 ケイの表情が引きつった笑いに変わった。

 「でもウォルトが撃墜されるのなんて、部隊内演習以外で初めてじゃない?」

 ミーリャも会話に加わる。

 「そもそもファングスは教導任務では被撃墜ゼロだったからな」

 ウォルトはこれまでの演習を脳内に思い浮かべた。他部隊との演習でも負け知らずだった“ラプターファングス”は、これまで一機も撃墜判定を受けたことはなかった。そのため、今回の演習が初めての被撃墜記録となる。

 「それどころか、フィーリアが動いてくれなかったら勝敗すら危うかったんじゃないか?」

 ケイもまさか、玲央奈一人にここまで目算を狂わされるとは思わなかったらしい。

 「三倍近い数が相手とはいえ、教導隊としての立場を考えると今回の演習は私たちの完敗ね」

 ミーリャの表情が少しだけ曇る。

 「どう見ても、あれだけの数で囲ってコテンパンにされた私たちの負けでしょ」

 不意に割り込んでくる女の声。三人が声の方向を振り向くと、スレンダーな身体をパイロットスーツで覆ったショートカットの女が歩み寄ってきていた。

 玲央奈はケイとミーリャをスルーすると、ウォルトの前で立ち止まった。

 「狙撃を当てられたのなんか今回が初めてよ。マクミラン少尉、やっぱりあなた良い腕してるわね」

 相変わらずぶっきらぼうな口調ではあるが、その声音からは素直な感心が感じられた。ウォルトは直接対決から逃げるような手段をとったはずなのに、それも一つの戦術として彼女は見ているのかもしれない。

 「ウォルトでいいよ、レオナ少尉。俺も君の機動制御からは多くを学ばせてもらった」

 「そう?じゃあウォルト、今度は共闘してみたいものね」

 そう言って玲央奈は右手をさしだしてきた。

 「ああ、そうだな」

 ウォルトも玲央奈の手を握り返す。

 「それじゃ、またね」

 それだけ言うと玲央奈は早々に踵を返し去っていく。

 「あ、そうだ。慧。」

 少し遠ざかったところで玲央奈は思い出したように立ち止まった。

 「―――その―――、次は負けないわよ」

 背中越しに玲央奈がケイを見据える。

 玲央奈とケイの視線が交錯したのは、一秒に満たない時間だったかもしれない。次の瞬間には玲央奈はスタスタとその場を去っていった。

 呆気にとられるケイの肩をウォルトは軽く叩いてやる。

 「次は『負けない』ってよ」

 ミーリャが玲央奈の言葉を繰り返す。その意味を理解したのか、ケイは小さく、ああ、と頷くだけだった。

 

 

 外部モニターを切っているため、コンソールの液晶ディスプレイにだけ照らされた暗いコクピット。フィーリアはまだそこに着座したままだった。

 機体ステータスを確認すると、各所に過負荷による不具合がみられる。

 「追従性は大分よくなった、でも…」

 フィーリアはディスプレイの表示を見据える。その表情には不満の色が大きく表れていた。

 




 お楽しみいただけましたでしょうか?

 今回でやっと演習は終了です。ダガーばかりの戦闘は書いててややこしかったです。恐らく読者の皆様はもっとややこしいと感じると思います…。

 次回からは実戦に向けて物語が動いていきますので、引き続きよろしくお願いします。

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