機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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 お久しぶりです。caribouです。

 十五話になります。


第十五話

 南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地 大西洋連邦エリア・格納庫

 

 第606モビルスーツ大隊との演習のため、ウォルトとケイはパイロットスーツを身に着けると、ドレッシングルームから格納庫への廊下を歩いた。ミーリャとフィーリアは女性用のドレッシングルームのため一緒ではない。

 ケイの後ろを歩いているとウォルトは大事なことを忘れていることに気づいた。

 「なあ、ケイ」

 ウォルトは歩く速度を少し早めケイの横に並んだ。

 「なんだ?」

 ケイがウォルトの呼びかけに反応する。いつも通りの砕けた雰囲気だ。だからこそ、ウォルトは大事な気掛かりを確認することを一瞬ためらった。

 「なんだよ、お前から話しかけてきたんだろ?」

言いよどむウォルトに気づいてケイが続きを促す。ウォルトは意を決した。

 「今更聞くのもどうかと思うが、今回の演習お前はどう思ってるんだ?演習とはいえ相手はお前が本来所属してるはずの軍だろ?おまけに今回は同期まで相手にしなきゃならない」

 おまけとは言ったがウォルトとしては三隈玲央奈の存在が一番気掛かりだった。負け続きだったとはいえ、訓練校で凌ぎを削った同期と、仮にも別な軍として戦うということがケイになにかしらの影響を及ぼすのではないかと思ったのだ。

 ウォルトの言わんとしていることを理解したのか、ケイは驚くように目を丸くした。続いて堪え切れないといった様子で吹き出す。

 「ウォルト、お前意外と繊細な奴だな!」

 ケイが必至に笑いをかみ殺して出た言葉がそれだった。

 「は…?」

 ケイの意外な反応に今度はウォルトが動揺する。

 「いや、わりい。お前がそんなこと考えてるなんて思わなかったから」

 ケイは尚も笑いをかみ殺すのに必死だ。

 「仲間と戦わなきゃいけないってなったら普通、動揺したりしないか?」

 「逆に聞くがウォルト。お前は訓練校で模擬空戦をするとき相手を意識したか?」

 ケイの質問を受けてウォルトは訓練兵時代を思い返す。いや、思い返す間もなく答えに辿り着いた。

 「訓練の一環だったから別に…」

 実機搭乗で行う模擬空戦は気を抜けば死ぬ可能性だってある。だから、集中力を欠くことは許されない。そして、その集中力自体も空戦の相手で揺らいだりはしなかった。つまり、相手が仲間であるということを理解した上で、ウォルトは模擬空戦に臨み、そして勝利してきたのだ。

 だからこそウォルトは今、此処(ラプターファングス)にいる。

 「それと一緒だよ。俺が今所属しているのが大西洋連邦だろうがなんだろうが、演習相手で動揺したりしない。それに俺だっていつまでも玲央奈の後塵を拝するのは嫌だ。だから今回の演習は願ったり叶ったりさ」

 軽い調子でそう語ったケイは先ほどと変わらずいつも通りだ。

 「まあ玲央奈は俺よりお前に興味があるらしいから、いざとなったらアイツの相手はお前に任せるけどな」

 そう言って笑うケイを見て、ウォルトは自分の心配が取り越し苦労だったことをやっと理解した。

 「俺にアイツが負けるところを見せてやるって言ったのはお前だからな。頼むぜウォルト」

 「ああ、そうだったな」

 ウォルトはケイに肩をすくめてみせた。

 

                   ※

 

 「フィーリアは今まで何に乗ってきたの?よかったら教えてくれないかしら」

 パイロットスーツへの換装を終え、格納庫に到着するとミーリャがフィーリアに問いかけた。三日前からフィーリアは“ラプターファングス”と行動を共にしているが、ミーリャは特にフィーリアを気にかけているようだった。少なくとも、他人の好意に疎いフィーリアでもそれを察することができるくらいには、だ。それが、どうしてなのかまではわからなかったが、“ラプターファングス”に彼女以外女性がいないのも関係しているのだろうか、とフィーリアは思った。

 「機密に触れるので詳しくは言えないがF-7に乗っていた時期もあった」

 フィーリアは部外者に言っても差支えない情報のみを選択して質問に答えた。正直なところ、隊外の者と話すときに一番気を使うのがこの作業だ。己の不注意で隊の機密情報を漏らしてしまったら、どんなことになるか分からない。フィーリア自身が罰せられるのは構わない。だが、その影響で“ラーミナ”や計画そのものに影響が出るのがフィーリアは許せなかった。

 「へえ、私もユーラシアにいたころは《スピアヘッド》だったわ。C型だけどね。大西洋連邦ならやっぱりE型が主流かしら?」

 ミーリャは自虐的に微笑んだ。

 今や地球の多くの国家が主力戦闘機として採用している《スピアヘッド》だが、元は大西洋連邦に属する企業であるP・M・P社が開発したものだ。そのため、一般的な近代化改修タイプであるC/D型を、より先進的な技術で改修したE/F型に大西洋連邦は更新をはじめていた。アビオニクスと火器管制レーダーの刷新に加え、AGM-124《ドラッヘ》、AIM-18《ヴェルガー》といった新型の対地、対空ミサイルの運用能力を付与することで元々高かったマルチロール性を、更に底上げしたE/F型を大西洋連邦軍部は高く評価。他国のC/D型に性能で差をつけるべく配備を急いだのだった。

 「F-7は扱いやすい機体だが、特にE型のアビオニクスは優秀だった」

 フィーリアは過去にE型で試験飛行に臨んだ時の記憶を呼び起こし、ミーリャに語って聞かせた。

 

                   ※

 

 ウォルトとケイが格納庫にたどり着くと、ミーリャとフィーリアはすでに機体の前で待機していた。ミーリャの優れたコミュニケーション能力のおかげか、フィーリアは随分彼女と親しくなったように見える。はたから見ると姉妹のようだ。

 「ミーリャは流石だな」

 その光景を見るとケイが呟いた。

 「俺なんか『お前と話す必要性を感じない』なんて言われたぜ…」

 「お前はどうせナンパでもするような言葉をかけたんだろ…?」

 ウォルトは呆れ気味にケイを流し見る。

 「ナンパではない!コミュニケーションの一環だ!」

 「はいはい…」

 そんなやりとりをしていると、機体の陰から整備用の繋ぎを着た丸いネグロイドの男が現れた。

 「お、やっと来たなお二人さん!」

 顔の汗をタオルで拭いながらボブが歩み寄ってくる。

 「よう、ボブ。機体の点検は万全か?」

 ケイは自分の《ダガー》を見上げながら言った。

 「もちろんだ。それよりお前らはあの娘と随分仲よくやってたみたいじゃねえか!」

 オーバーホールで機体に付きっきりだったボブは、フィーリアが気になってしょうがないらしい。

 「安心しろ、ボブ。ケイはフィーリアに嫌われた。ミーリャが彼女と仲良くしてるのを見たんだろうが、お前が思ってるほど彼女は俺たちを信用してないよ」

 「結局俺とケイは余りものか…」

 ウォルトの慰めもむなしく、ボブは肩を落とす。

 「俺を余りもの呼ばわりはやめろ!」

 ケイの突っ込みが格納庫に木霊した。

 

                   ※

 

 GAT-01D《ロングダガー》のコクピットに、フィーリアは滑り込むように着座した。実機への搭乗はこれが初めてだ。慣熟も終わっていない。しかし《ダガー》シリーズのコクピットは共通規格のため、操作に戸惑うということはなかった。エドワーズで乗っていた《ストライクダガー》に比べて機動特性に若干の差はあるが、すでにシュミレーターで確認済みだ。十分に戦える自信がフィーリアにはある。

 OSの立ち上げが終わると“ラーミナ”の管制室との秘匿通信が繋がった。通信用モニターにリーヴスが現れる。

 『いいか、ブラウン少尉。先日も通達したが、今回の演習に我々は積極的に関与しない。こちらの指示があるまでは相手から機体を隠して待機だ。まずは“ラプターファングス”に華を持たせろ』

 抑揚を感じさせない声でリーヴスはフィーリアに命じた。

 「了解」

 「これ以降は“ラプターファングス”の管制指示に従え。いいな」

 「はっ」

 フィーリアが短く答えると通信は切られた。代わりに“ラプターファングス”のオペレーターがモニターに現れる。

 『ラーミナ01、準備はいいか?』

 「問題ない」

 『では“ラプターファングス”に続いて演習区域へ移動せよ』

 「了解」

 オペレーターとの互いに無機質な会話を終えると、機体がガントリーから解放される。

 同時に格納庫のゲートが開き、沖縄の陽光が外部モニター越しにフィーリアのヘルメットを照らした。

 




 お楽しみいただけましたでしょうか?

 今回スピアヘッドの兵装として登場したヴェルガーですがシードデスティニーでウィンダムが装備していたものの原型というイメージです。これにマイナーチェンジを加えて三連装にしたのがウィンダムのヴェルガーという感じです。そのため型番も別になります。

 引き続き更新していくのでよろしくお願いします。

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