機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~ 作:caribou
十四話になります。
この場を借りて新キャラの紹介をさせていただきます。
●ダニエル・ラバッジ
ザフト・第3潜水艦隊・第11潜水隊群・第2潜水隊、通称ラバッジ隊の隊長。指揮官としても、パイロットとしても優れた能力を持つ。ザフト創設時から在籍している叩き上げ。ボズゴロフ級潜水艦ペテルソンを母艦とする。
連合初のモビルスーツ搭載型空母の性能を測るため、沖縄で演習中のアイクを狙う。
東シナ海某所 ザフト地上攻撃軍・第11潜水隊群・第2潜水隊 ボズゴロフ級潜水母艦《ペテルソン》
プラントが地球連合との開戦をするにあたって最大の問題となったのが、その戦力差だった。技術力と優秀な人員でその差を覆そうとしたものの、資源にはどうしても限りがある。そのため、ザフトは連合との無駄な戦闘を極力回避した。
この戦略は地球においても同じであり、要衝となるマスドライバー施設や資源採掘基地などを除いた無駄な領土拡大をしなかった。
これに基づき、ザフトが地球の海上戦力の主力としたのが、通常の艦艇に比して圧倒的な隠密性を誇る潜水艦であった。さらに潜水艦に水陸両用モビルスーツを配備することで、対モビルスーツ戦において大きく遅れをとっていた地球連合海軍を、ザフトは最低限の資源と人員で封じ込めることに成功した。その立役者となった艦が、このボズゴロフ級潜水母艦である。
宇宙艦における艦橋の内部スペースはその大きさに比例して広く設計されている。ザフト艦の多くは宇宙で建造されたため、その通例に則っている場合がほとんどだが、このボズゴロフ級潜水母艦は数少ない例外だった。
潜水艦という特殊な艦種においては、そのスペースを大きく制限されるため、発令所も最低限の広さしか確保されていない。そのため、宇宙艦から潜水艦に乗り込むクルーたちはまずその狭さに驚くのだという。
そんな省スペースの発令所に、ザフト地上攻撃軍の第一種軍装である半袖の緑服に身を包む長身の男が入ってきた。体つきもがっしりとしていて、半袖から除く腕の筋肉は逞しく隆起している。年齢は三十代後半の刈り上げた髪と無精髭が特徴的な目の鋭い男だ。
無精髭の男――――ダニエル・ラバッジに通信担当の女性オペレーターが一枚の紙片を手渡す。送られてきた暗号を解読したものだ。
「司令部から電文です」
ラバッジは紙片を受け取るとその内容に目を通す。
数瞬の後、ラバッジは紙片を艦長席に座る男に手渡した。
「隊長、これは…」
紙片の内容を理解した艦長がラバッジを振り返る。
「久々に面白いのが来たな」
ラバッジの口元が不敵に吊り上がる。一歩前に出ると声のトーンを一段階上げて命じた。
「全艦に達する。これより我が隊は、南西諸島方面へと出撃。オキナワで演習中の部隊に対して威力偵察を行う。ナチュラル共のモビルスーツとその母艦の性能を丸裸にしてやるんだ」
「了解」の唱和が《ペテルソン》の発令所に響き渡った。
南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地 大西洋連邦エリア・第5ブリーフィングルーム
「―――以上が次の対モビルスーツ戦演習の概要だ。質問のあるものはいるか?」
“ラプターファングス”に割り振られたブリーフィングルームの檀上でルースが隊員たちを見渡す。隊員たちは沈黙をもってそれに答えた。
「では次に作戦に参加する部隊についてだ」
ブリーフィングルーム正面のモニターが演習場のマップから部隊の羅列へと変更される。
「これについては予定にない変更点がある。当初は我々“ラプターファングス”と東アジア側の第606モビルスーツ大隊による計十八機による演習を予定していたが、前回の607隊との演習結果を鑑み、606隊側に607隊の《ストライクダガー》が六機加わることとなった」
607隊との演習は、その錬度不足から“ラプターファングス”の圧勝だった。しかし、あまりに一方的な展開だったため、パイロットの錬度向上に繋がったかどうかは疑問が残った。そのため、東アジア側は自軍の面子を潰してでもこの演習からパイロット教育の情報を得ようと必死なのだ。
「これにより、我々と相手との戦力比は一対三となる訳だが、これについて大西洋連邦側からも要請があった。東アジア側の戦力増強を条件に、こちら側にもモビルスーツを一機増やすというものだ」
ルースの説明にウォルトは疑問を持った。今の“ラプターファングス”にはモビルスーツ、パイロット共に余剰戦力は一切ない。にもかかわらず、もう一機増やすというのだ。
(隊長はどうするつもりなんだ…?)
隊員の疑問がブリーフィングルーム全体に伝播しかけたときルースの横から声がした。
「それについては私から説明しよう」
ルースに代わって檀上に上がってきたのは見慣れない大西洋連邦の士官だった。少なくとも隊内では見かけたことはない。肉の削げ落ちた頬と高い鼻が特徴的な男だ。
「“ラプターファングス”の諸君、私は中央作戦群・第305特務試験小隊のディック・リーヴス大尉だ」
(中央作戦群…?)
ウォルトは予想外の部隊の介入に、動揺を隠せなかった。脳裏にあの銀髪の少女が浮かぶ。
「“ラプターファングス”にこれ以上の余剰戦力はない。そこで我が隊のモビルスーツとパイロットを貸与しようと思う。入れ」
リーヴスはブリーフィングルームの入り口に声をかけた。
扉が開き一人の兵士が入室する。すらりとした、スタイルの良い身体と透き通るような銀髪。そして、感情を感じさせない表情は、まぎれもなくウォルトが脳裏に思い描いていたものだった。
「紹介しよう、第305特務試験小隊所属のテストパイロット。フィーリア・ブラウン少尉だ」
「フィーリア・ブラウン少尉だ。よろしく頼む」
薄緑の瞳が一瞬ウォルトを捉えるが、最初にあったときと同じ硬質な印象だ。
(マジかよ…)
ウォルトの動揺をよそにリーヴスは説明を続ける。
「しかし、演習までの短期間で彼女との連携を醸成するのは、いくら精鋭揃いの貴官等でも難しいと思う。そこで、彼女は、“ラプターファングス”の戦闘には積極的に関与しない。指揮権は基本的にルース大尉にあるが、ブラウン少尉は独自に判断して行動する。ルース大尉、構いませんな?」
「はっ」
ルースは当然のごとくリーヴスに答える。通常部隊と中央作戦群の縮図が、このブリーフィングルームの中で成立していた。
沖縄基地 “ラプターファングス”待機所
「まさかあの娘が中戦群のパイロットだったとはねえ…」
ミーリャとなにやら話しているフィーリアを眺めてケイが呟く。普段話さない人物であるためかフィーリアは戸惑っているように見える。
共に演習に参加する者として交流を深めておけと、フィーリアはリーヴスに命じられたらしい。
「お前知ってたのか?」
ケイがウォルトを振り返る。
「アイクに中戦群所属の《ロングダガー》が積んであったからもしかしてとは思ってたがな…」
「まあ、開発部隊っていうんだから実験機扱いなのかもしれないしな」
「機密に関わることを聞いちまうとアイツ露骨に嫌な顔するから、あんまり突っ込むなよ」
ウォルトはケイにくぎを刺す。
「あんな秘密主義の部隊にいるんだから、そうなるのも当然か」
そこで珍しく神妙な面もちだったケイの表情が崩れる。
「それより良かったじゃねえかウォルトくん。彼女と仲良くなる許可をもらえて」
ウォルトにはケイがこの手の話題を振ってくるタイミングが徐々に予測できるようになっていた。
「ああ、そうだな。交流を深めさせてもらうよ」
務めて冷静に返す。
「ボブがまたキレそうだな…」
ボブもフィーリアと話すのを楽しみにしていたが、演習に向けた機体のオーバーホールの予定が重なり、引っ張られるようにして整備班長に連れていかれてしまったのだった。
「そういや、フィーリアの機体は《ロングダガー》だったな。俺らの《ダガー》とはどう違うんだ?」
「俺も資料を読んだだけだから詳しくは知らんが、
ウォルトはエドワーズに来る前にランドルフで呼んだ資料の内容を頭に呼び起こした。
「運動性がいいのか?」
「ああ、データを見る限りじゃ運動性は《ダガー》より高いな。あ、それとこれはボブから聞いた話だが、OSは《ストライクダガー》より古い物を使ってるらしい。まあそこは操縦技術次第でなんとかなるらしいが」
ボブは整備兵であると同時に重度のモビルスーツオタクでもあった。本人が言うには、その異常な知識量のおかげで“ラプターファングス”の整備兵に引き抜かれたらしい。
「だとするとフィーリアはかなりの腕前なんじゃないか?」
「ああ、次の演習が楽しみだぜ」
「気合いを入れるのは構わんが玲央奈には気をつけろよ」
ケイの目線が隣接した格納庫を覗ける窓に向かう。窓の向こうでは装甲を外され、内部がむき出しになった《ダガー》が整備されている。
「交歓会であった女パイロットか?」
ウォルトはオリーブドラブに身を包んだショートカットの女パイロットを思い浮かべた。
「ああ、俺はアイツが空戦で負けるところを見たことが無い。他の東アジアのパイロットと同じに考えない方がいいぜ」
「強い相手なら大歓迎だ。だったら俺がお前に彼女が負けるところを見せてやるよ」
ウォルトは不敵に笑ってみせた。
「頼りにしてるぜえ、エースパイロット君!」
ケイはウォルトの背中を叩くと屈託のない笑みを浮かべた。
お楽しみいただけましたでしょうか?
ここにきてやっとザフト側のキャラクターが登場してまいりました。
ですが、実戦はもう少し後です…。
感想やアドバイスなどあればお気軽にどうぞ。