機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~ 作:caribou
十三話になります。
この場を借りて新キャラと組織の紹介をさせていただきます。
組織紹介
●国防連合企業体『Defense Union Dusiness Entity』
通称《DUDE》
大西洋連邦の軍需産業を受け持つ、アズラエル財団麾下の共同企業体。
●AHI社
正式名称はアーダム・ヘビー・インダストリーズ。《DUDE》に加盟する企業。本社はデトロイトにあり、重工業、軍需産業などで主要な企業の一つ。主な開発兵器には後期GATシリーズなどがある。
ブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルがCEOを務めており、大西洋連邦軍部と深いつながりがある。
人物紹介
●オーガスト・ノーラン
アーダム・ヘビー・インダストリーズの技術責任者。
技術者という立場上、能力至上主義者のためコーディネイターに対する疑念を抱いていない。
ダレルの計画に秘密裏に技術協力をしており、自社製の試作機や実験機を提供している。
南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地
「あんたが104号機のパイロット?」
隣の席からの呼びかけにウォルトはまたか、と思いつつ振り返った。そこには切れ長の目が特徴的な、ショートカットのアジア系の女が座っていた。フライトジャケットの胸には、少尉の階級章とパイロット徽章。二の腕のワッペンには606の数字と共にザフトの《ジン》を踏みつける風神が象られている。
ウォルトには、その風神がなんなのか分からなかったが、部隊番号とパイロット徽章から彼女がモビルスーツパイロットであることは読み取ることができた。
「そうだが、君は?」
ウォルトが聞き返すと、ショートカットの女はこちらをちらりと流し見た。その目線には微かな好機の感情が宿っている。
「見ての通り。第606モビルスーツ隊の三隈玲央奈少尉よ」
それだけ言うと、彼女は手元のグラスに注がれた透明な液体をぐいと呷る。
「オレは大西洋連邦・特別評価試験部隊のウォルト・マクミラン少尉だ」
ウォルトも名乗るが、玲央奈は目線を虚空に戻し「ふぅん」とだけ言った。玲央奈の方から声をかけてきた割に態度が素っ気ない。
「特別評価試験部隊ってユーラシアと東アジアからの出向も多いらしいけど、あんたもそれ?」
「いや、俺の所属は元々大西洋連邦だ」
「結構いい動きしてたけど、実戦経験あるの?」
態度の割に玲央奈は饒舌だ。やはり、興味があるらしい。
「残念ながら実戦経験はゼロだ。訓練校を卒業して、そのまま
ウォルトは大人しく質問に答えることにした。事実のみを淡々と述べる。
「そう…、じゃあおあいこね」
「え…?」
ウォルトは玲央奈の言う意味が分からず反射的に聞き返す。しかし、その答えは返ってこなかった。突然の乱入者が現れたのだ。
「この野郎、ウォルト!またお前は抜け駆けしやがって!」
玲央奈とウォルトの間にケイが割り込んでくる。顔はすでに耳まで赤く染まり、強烈なアルコール臭が漂ってくる。
「あ、マスター、俺にも彼女と同じのを!」
玲央奈のグラスを示してケイが注文する。ケイの反対側にはボブが陣取る。ケイと同じく、ひどいアルコール臭だ。またも、二人に挟まれることになったウォルトは、玲央奈との会話を完全に諦めていた。
「君、東アジアのパイロットだろ?俺も東アジアなんだけどさぁ……」
ショートカットの女パイロットにケイが話しかけるが、その顔を見ると弱々しく「あ…」と声を漏らした。
「おまえ…、なんでここに…」
ケイの表情が凍り付く。
「久しぶりね。速水慧」
玲央奈はケイの方を見もしないでそれだけ呟いた。ケイの凍り付いた表情が徐々にほぐれていき、戸惑いの表情へとかわっていく。
「おまえ、沖縄に配属されていたのか…」
「知り合いなのか?」
ウォルトはケイの表情が戸惑いと、なにか別の感情に支配されていく様が気になった。
「同じ訓練校の同期よ」
言葉に詰まるケイに代わって、玲央奈がウォルトの問いに答えた。
「訓練校時代は私の隊の二番機だったわ」
ウォルトはケイが訓練小隊において二番機という事実を意外に思った。これまでケイとは幾度となく演習を繰り返してきたが、彼の腕も“ラプターファングス”の例外に漏れず、相当なものだった。そのケイが訓練校では二番機。つまり、次席だったのだ。
「悪かったな、万年二番機で」
ケイがやっといつもの調子を取り戻し玲央奈に言い返すが、どこか頼りない。
「別に万年とは言ってないけど…」
玲央奈はすぐに視線をウォルトに移す。ケイにはもはや興味が無いようだ。
「実戦経験無しで、あの部隊であれだけやれるなんてあんた中々やるわね」
どうやらウォルトの操縦技術に興味があるようだった。ケイはばつが悪そうにその場を退散していった。そのままミーリャと談笑している女性に話しかける辺り色々と諦めてはいないようだ。ボブは二人の会話を黙って聞いている。
「教導任務をやれって言われたら、中途半端な技量じゃマズいだろ?それは演習相手の死にも直結しかねない」
「まあエリートを選んだんだから当然よね」
ウォルトは先ほどのケイと玲央奈の話を思い出し一つの疑問が浮かんだ。
「アイツが二番機ってことは一番機は…」
「私ね」
玲央奈が当然のように答える。
「選考理由は詳しくは知らないが、操縦技術で選んだのだとしたらどうして君じゃなくケイだったんだ?ケイが弱いというわけじゃないが…」
“ラプターファングス”のパイロットには、それぞれ各国トップクラスのパイロットが集められている。エースと言っても差支えない者ばかりだ。その部隊でやっていくためには、訓練校首席であるウォルトですら苦労したほどである。だとしたら、ウォルトと同じく訓練校首席卒業の玲央奈を指名してもおかしくないのではないか、と思ったのだった。
「一応言っておくと私にも転属要請が来ていたわ。でもあくまでも『要請』だったからね。断った」
「理由を聞いてもいいか?」
「訓練校を卒業して、すぐに試験部隊に配属されたあんたならわかるでしょ?共に訓練していた仲間たちが戦場に送られるなかで、後方に配属される者の気持ちが…」
玲央奈の声のトーンが少し低くなった。
「私の同期たちは皆、大陸の前線に配属されたわ。もちろん、慧もね。そのなかで私だけは、この沖縄に配属された」
ウォルトは同期が前線の部隊に配属されるなかで、ひとり、基地に残されたときの苛立ちを思い出した。
玲央奈は続ける。
「今にして思えば、ここに《ストライクダガー》が先行配備されるから優秀なパイロットを置いておきたかったんでしょうね」
沖縄は極東の最前線ではあるが、アジア全体でみれば後方と言えた。しかし、東アジアの工業インフラを支える日本列島は、軍事的に見ても重要な拠点である。そのため、台湾から海路で北上してくるザフトに対しての、最後の砦として機能しているのが沖縄基地なのであった。
「でも、そのときは納得できなかったわ。『命令』だったから従っただけ…」
そこまで聞いてウォルトは先ほどの『おあいこ』の意味が理解できた。彼女もまた、同期からつまはじきにされ、前線から遠ざけられたのだ。
「これ以上実戦から離れて、北米なんかに行きたくなかったのよ」
相変わらず素っ気ない表情。だがその声には微かな嫌悪感が感じられた。だがそれが、前線を離れ、“ラプターファングス”に所属することを選んだケイに対してなのか、それともいまだに戦場に立てていない玲央奈自信によるものなのか、ウォルトには判別できなかった。
「つまんないこと愚痴ったわね。少し酔ったかも」
見ると彼女のグラスは空だ。少し日に焼けていて分かりづらいが、顔色は会った瞬間と変わっていない。
おもむろに玲央奈は席を立つ。
「もう行くのか?」
交歓会はまだ続いている。周りの兵士たちもそれぞれ酒を片手に盛り上がっている。
「ホントは来る気無かったんだけどね。強制参加だったから…」
玲央奈はぼそりと呟く。
「奇遇だな。俺もこういう雰囲気はあまり得意じゃない」
「気が合うわね。次は演習で会いましょ」
「ああ、俺も全力でいかせてもらうよ」
「言っとくけど負けないよ?」
それだけ言うとショートカットの女パイロットは、しっかりとした足取りでバーの出口へと歩いていった。
ウォルトはその背中を黙って見送った。
「ひとそれぞれ、色んな悩みがあるよなあ」
黙って隣に座っていたボブがしみじみと呟く。
「お前もなんか悩んでるのか?なんかあるなら聞くぜ?」
「そうだな…。強いて言うなら親友の凄腕パイロットばかりが女にモテることかな…」
「結局それかよ!!」
ウォルトは反射的に親友の凄腕整備兵に突っ込んだ。
北米カリフォルニア州 地球連合軍・大西洋連邦北方軍エドワーズ基地 中央作戦群占有エリア
ギリアン・ダレル大佐の執務室のソファには、仕立ての良いスーツに身を包んだ初老の男が座っていた。そのスーツと恰幅のいい体型から、軍人でないことは明らかだ。
執務机の革張りチェアに座るダレルと、ソファに座る男の前には、こうばしい香り共に湯気をたてるコーヒーが置かれている。軍の支給品ではなく、ダレルが個人的に購入した高級品だ。
「宇宙では第八艦隊が壊滅し、アフリカではビクトリアが陥落。連合も随分と追い詰められましたな」
ダレルの執務机の差し向かいのソファに腰かける男――――オーガスト・ノーランが口を開いた。
「追い詰められたという割に、君はあまり危機感を感じていないようだな?」
ダレルの言葉通り、ノーランの表情に、焦りを感じさせるものは無い。
「たしかに第八艦隊を失ったのは痛手でしたが、彼らはその代償として例の新型艦を無事、地上に送り届けてくれた。あの艦が蓄積しているデータは第八艦隊の犠牲に十分見合うものだと思いますよ」
ノーランは細い目をさらに細める。
「おまけに、あの艦が『砂漠の虎』を叩いてくれたおかげで、ビクトリア奪還もそう難しくはないでしょう。無論、《ストライクダガー》の配備が予定通り進めばですが」
「《アークエンジェル》…。デュエイン・ハルバートンの切り札か」
大西洋連邦宇宙軍・第八艦隊司令、デュエイン・ハルバートン少将。この男こそ、地球連合軍における兵器体系のあり方を最初に憂慮し、モビルスーツの開発を推し進めた人物である。その結果、開発されたのが、大西洋連邦製モビルスーツの原点であるGATシリーズと、その母艦として設計された強襲機動特装艦《アークエンジェル》だった。
「彼が第八艦隊と運命を共にしたのが、我々にとっては最大の痛手でしたな…」
ここにきて、ノーランの表情が初めて曇った。
「彼が戦死したことにより、大西洋連邦議会はブルーコスモスへと傾いていくでしょう」
大西洋連邦におけるモビルスーツの父たるハルバートンは『G兵器開発計画』を推し進めた張本人ではあるが、ブルーコスモスではなかった。その彼が戦死したことにより、大西洋連邦軍部と、その背後にある連邦議会では、ブルーコスモス派の発言権が急速に増大しているのだった。
「うむ。ところでノーラン君。今回の我が隊の演習への参加は君の案だと聞いたが、その真意を問いたい」
ダレルはノーランを呼びつけた本題へと話を戻した。ノーランの表情が再び和らぐ。
「はい。他国のモビルスーツ部隊との演習など、滅多に無い機会ですからね。データ収集にはもってこいかと。それと、ユーラシアでも連合内部での発言権の獲得を狙って、モビルスーツの開発に着手する動きがみられます。アクタイオン製の機体がユーラシアに配備されるのは、コチラとしても面白くありませんからね。それに対する牽制と思ってもらえれば」
連合が主力機として採用した《ダガー》シリーズは、国防連合企業体に属する重工業企業、AHI社が開発したものだ。しかし、そのライバル企業たるアクタイオン・インダストリーズは《ダガー》を採用した大西洋連邦に見切りをつけ、ユーラシアを新たな顧客に選んだのだった。《ダガー》シリーズをユーラシアへ売り込んでいる最中のAHIとしても、それは阻止せねばならない事態だ。
自国のモビルスーツを輸出することで連合内での発言権を確たるものにしたい大西洋連邦と、自社の《商品》を売り込むことで利益を得たいAHIの利害は一致していると言えた。そこで、東アジアとの合同演習を通じて、その性能を他国に示そうというのだ。
「しかし、ハルバートン少将の戦死を受けて、おそらくブルーコスモスは大佐の計画に対する圧力を強めてくるでしょう。だからこそ、P計画には『今』目に見える結果が必要なのです。たとえそれがユーラシアに対してだとしても…」
ノーランはコーヒーを口に運び口内を湿らせた。ダレルが無言のまま続きを促す。
「今回の演習は、開戦以前から、大西洋連邦の潜在的な仮想敵であったユーラシアに大西洋連邦製の兵器の有用性と、その武力を見せつけるチャンスです。大佐のP計画の結実たる“ラーミナ”には造作もないことでありましょう?そして、それは彼の部隊と参加することで更なる意味を持つ」
「“ラプターファングス”か…」
ダレルはオレンジ色の《ダガー》を有し、自分たちと同じくエドワーズを拠点とする精鋭部隊の名を口にした。
「はい、彼らと同じ戦場で戦うことで“ラーミナ”の戦闘力は確たるものとなるはず。所詮政治家は戦争を数字の上でしか知らない。我々の計画が“ラプターファングス”を超える力を持っていると知れば、議会はいずれそれを無視できなくなるはずです」
ノーランの表情に余裕が浮かぶ。
「演習の結果を見れば、今は日和見の派閥も我々につくでしょう」
「そう上手くいけばいいのだがな…」
ダレルはコーヒーを口に含んだ。
「そのためのXナンバーです。既に最終調整に取りかかっております。オキナワでの演習が終了する頃には、エドワーズに搬入できるかと…」
ノーランはおもむろに立ち上がると、ダレルにタブレット端末を手渡す。
「ふん…」
ダレルが受け取ったタブレット端末。そこにはモビルスーツのものらしき略図と、数字の羅列が並ぶ。どうやら、モビルスーツのスペック表のようだ。機体型式番号の項目にはGAT-X132とある。その数値は、いずれも“ラーミナ”が運用してきた機体のスペックを大きく凌駕していた。
お楽しみいただけましたでしょうか?
ノーランは沖縄に入る前にちょこっと出ていましたが少しだったので紹介は見送らせてもらいました。
今回は少しだけ本編にも触れましたが相変わらず直接本編には関係ありません。
明確には決めてませんが時系列的にはアークエンジェルがオーブに入ったあたりですかね。
感想やアドバイスなどありましたらお気軽にどうぞ。