機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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 お久しぶりです。caribouです。


 遅くなりましたが十一話です。


第十一話

 南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地

 

 小高い丘と小規模な林が織りなす、半径数キロに及ぶ空間。それは、どこか箱庭めいた印象をもってそこにあった。

 本島から海に突き出すように形成されているため、三面をコバルトブルーの海に囲まれている。しかし、その境界線は自然の海岸とは明らかに異なる様相を呈していた。

砂浜や磯といった本来海岸線に存在するはずの風景がなく、海から唐突に陸の斜面へと移行しているのだ。

 その違和感が指し示す通り、この半島は人工的に海に浮かべられた陸地だった。

 この地域は四方を海に囲まれ、陸地の面積が大きく限られている。しかし、軍事拠点として発展を遂げるうち、その陸地の狭さが一つの問題となっていった。

 空軍に加え、陸軍、海軍の基地をも統合していくうちに、敷地が狭いことに加え、それによる周辺住民への負担が深刻な問題となって浮上してきたのだ。

 そこで、埋め立て地による基地面積の拡大が計画されたが、それは周辺の自然環境の破壊に直結する危険を孕んでいた。

 自然環境の保護と基地の拡大。この二つを両立する仲裁策として挙げられたのが人工浮島(メガフロート)による、敷地の確保であった。

 基地の重要区画である、司令部や格納庫、滑走路などは本来の陸地に設置し、訓練区域などの比較的融通のきく施設をメガフロート上に建設したのだ。

 この半島もその一つで、主に機甲部隊やモビルスーツ部隊の訓練に使われるエリアだった。

 その人口の島には、遺伝子操作により成長を促進させた樹木により、いくつかの林が存在している。その一つに、ライトグレーとオリーブドラブのツートンの装甲を纏った《ストライクダガー》がしゃがみ込むようにして潜んでいた。

 「ライトニング01より各機、敵は少数だ。数を活かして一気に包囲殲滅するぞ。連邦のエリート共に吠え面をかかせてやれ!」

 沖縄基地に所属する第607モビルスーツ部隊指揮官である倉田中佐は部下を叱咤するように指示を出した。

 “パシフィックシールド”の開催に伴い、大西洋連邦は二つの空母打撃群に加え、モビルスーツ部隊を派遣してきた。今回の演習相手はそのモビルスーツ部隊だった。

聞けばその部隊は元々、試験部隊だったという。それが急遽、足りなくなったモビルスーツパイロットの教育を担当する教導部隊として再編成されたのだ。

 元々試験部隊だったという点はいい。テストパイロットとは、操縦技術、機体の知識、共に最高レベルの能力を持った者たちだ。その意味で教導部隊との実力の差は大きくないともいえる。

 だが、今回の演習においての編成、それはあまりにあからさまな挑発の意思を含んでいるように倉田は感じた。

 倉田率いる第607モビルスーツ部隊が《ストライクダガー》十二機に対して相手は六機の《ダガー》のみだという。

 《ダガー》の性能が《ストライクダガー》よりも優れていることは理解している。しかし、二倍という戦力差を埋める程の差とは到底言えなかった。だとすると、この差は第607モビルスーツ部隊に対するハンデに他ならないのだ。

 『センサーに感あり。九時方向、距離四千』

 三番機が、いち早く捉えた敵の位置を知らせる。光点は六つ。セオリー通り戦力を固めてきている。

 「よし、A小隊は左、B小隊は右だ。C小隊は敵の頭を押さえろ。三方から攻めて一気に押しつぶすぞ」

 『了解!』

 部下の返事と同時に倉田は《ストライクダガー》を立ち上がらせ、スラスターを点火した。

 十一機の《ストライクダガー》がそれに続く。

 「砲撃開始!」

 彼我距離が二千を割ると同時に倉田は砲撃開始を支持した。

 全十二門の52mm機関砲が一斉に火を噴く。

 それを皮切りに敵も密集隊形を解き散開した。その中の一機、肩部に104の数字をペイントしたライトグレーとオレンジの《ダガー》がこちらに接近してきた。

 「いい度胸だ!」

 倉田もその機体に照準を合わせるがキレのあるジグザグ機動により狙いが定まらない。

 「相手をしてやろう!」

 倉田は兵装をサーベルに切り替え、104号機に斬りかかる。

 しかし、104号機はそれをシールドでいなす。

 「ぐッ…」

 倉田が体勢を崩した隙に104はその背後に回る。なんとか体勢を整え背後にライフルを向けたとき、倉田は104のライフルのマズルフラッシュを見た。

 

 

 沖縄基地・第二モニタールーム

 

 正面に据えられた大型モニターには訓練エリアの俯瞰図と無人機からの映像、そして各機体のガンカメラの映像が分けて表示されていた。

 青の光点が607隊、赤が”ラプターファングスだ。”俯瞰図だけをみるなら607隊が”ラプターファングス”を包囲する形をとっているが、無人機から送信されてくる映像とガンカメラの映像は607隊の不利を表していた。

 607隊が放つ砲弾の全てを”ラプターファングス”は巧みに回避し、反撃の砲弾を見舞っているのだ。

 やがて俯瞰図から青の光点がポツリ、ポツリと消えていく。

「おい…あの四番機いきなり隊長機を墜としたぞ…」

 「ああ。奴らの戦闘、相当速いな。607のカバーが追い付いて無い」

 「あの数の差を手数でひっくり返しやがった…」

 演習のリアルタイム映像を眺めながら606隊のパイロットが口々に驚嘆の声をあげる。最初十二機あった青の光点は瞬く間に八機まで減らされてしまった。対する赤はいまだ一機も損耗していない。部隊錬度の差はもはや歴然だった。

 そんな隊員とは対照的に玲央奈は黙して、その映像を見ていた。

 (一人辺りの錬度がまったく違う…)

 戦闘開始から数分しか経っていないが、勝敗はほとんど決していた。

 「面白いな…」

 玲央奈は104号機の《ダガー》のガンカメラを眺めてぽつりと呟いた。

 

 

 沖縄基地・大西洋連邦エリア・格納庫

 

 「あぢい~~~」

 格納庫の日陰でケイが呻いていた。その首筋を汗の粒が伝っていく。上着はすてに脱ぎ捨て、Tシャツ一枚だ。

 演習終了後ウォルトたちはパイロットスーツから着替え、待機所に向かった。しかし、待機所はサウナ状態だった。どうやら空調の調子が悪いらしい。

そうして、なし崩し的にこの日陰でたむろしているのだった。

 「東アジアはお前の地元じゃないのかよ?」

 地面にへたり込むケイを見下ろしながらウォルトが問う。

 「俺は北の方の生まれなんだよ…、今の時期にこんな気温ありえねえよ!」

 「カリフォルニアも暖かかったけどこっちは湿気が強い分辛いわね」

 流石のミーリャも苦笑いを浮かべている。

 「待機所の空調についてはさっき担当官に報告しておいたけど修理には二、三日かかるそうよ」

 「三日もコレが続くのか…」

 ケイがガックリと項垂れる。

 「まあ、たしかにこれなら機体のコクピットのがマシかもな」

 ウォルトは《ダガー》のコクピットを思い浮かべた。

 モビルスーツのコクピットは与圧されているため最低限の空調も整っているのだ。

 「お前頭いいな!仕方ないからコクピットで一眠りしてくるか…」

 「いいやダメだ…」

 ケイが新たな可能性に気づき、立ち上がりかけたとき格納庫からボブが出てきた。

 「ファングスの機体は今、点検作業中だ。コクピットで熟睡してるバカなんかがいたら邪魔でしょうがない。第一空調を使うにはジェネレーターを起動しないとだろ?そんな無駄な電力使えるか」

 「あ…そうか…」

 ケイが再び項垂れる。

 「休憩か?」

 ウォルトはボブの方を振り返った。

 「ああ…。しかし、こう暑いと作業効率も上がらんなぁ…」

 ボブは油と汗でベタベタになった丸顔をタオルで拭った。ボブもどうやら相当参っているらしい。

 「そういえばお前も今夜の交歓会に行くか?」

 ウォルトはなんとか明るい話題に路線を変更した。

 「行くに決まってるだろう!このクソ暑いなか働いたんだ!酒ぐらい飲まないとやってらんねえ!」

 誰が企画したのか知らないが、いつの間にか大西洋連邦と東アジアの交歓会―――要は宴会―――がセッティングされていた。両軍のパイロットのみならず、整備班まで呼ばれるという大規模なものだ。

 「この機会にアジアンビューティな女の子を手に入れるぜ!」

 ボブのテンションが急に高まった。

 「さすがボブさん!分かってらっしゃる!俺も付き合うぜ!!」

 ケイのテンションもマックスだ。さっきまでの疲れ切った態度はどこへやら、この暑いなかボブと肩を組みだした。

 その光景を見てミーリャはわざとらしく肩をすくめた。

 いつもならウォルトも呆れているところだが、二人が少しでも未来に希望を持てたことを喜ぶことにした。

 




 お楽しみいただけましたでしょうか?

 毎度のことながらダガー系のみの戦闘は書いてて辛いですね。
 早くザフトとの戦闘も書きたいです。

 感想やアドバイスなどありましたらお気軽にどうぞ。

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