機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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 お久しぶりです。caribou。


 十話になります。
 
 この場をかりて新キャラの紹介をさせていただきます。
 
 ●三隈玲央奈(ミクマ・レオナ)
 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地所属の第606モビルスーツ大隊の女性パイロット。コールサインはストーム08。
 高いパイロットセンスを備えるが跳ねっ返り。

 ●黒田崇継(クロダ・タカツグ)
 第606モビルスーツ大隊の隊長。コールサインはストーム01。
 《スピアヘッド》でのモビルスーツとの交戦経験がある。
 玲央奈の扱いに苦慮している。


第十話

 南西諸島・沖縄本島 東アジア共和国・太平洋方面軍・沖縄基地

 

 机とベッドしか置いていない薄暗い殺風景な部屋が、目に飛び込んでくる。

 時刻は四時五十九分。アラームをセットした丁度一分前に三隈玲央奈は目を覚ました。

 身体を起こすとシーツが剥がれ落ち、適度に丸みを帯びつつも細くしなやかな裸体が露わになる。玲央奈は、手早く下着を身に着けると洗面所に向かった。

短く切りそろえられた黒髪と、切れ長の目、そしてスレンダーな身体が洗面所の鏡に映し出される。ブラの膨らみに関しては、もの悲しさすら覚える程乏しいが、玲央奈はまったく気にしていない…つもりだ。軍人としては邪魔以外の何物でもないと自分を納得させている。

冷水で顔を洗い寝癖を手櫛で整えると、玲央奈はタンクトップとスウェットを着て自室を出た。

 

 

 宿舎を出ると外はまだ夜明け前だった。多くの湿気を含んだ空気が肌に纏わりつく。

 それを振り払うように玲央奈は走りだした。

 スニーカーが奏でる足音と、乱れの無い呼吸音がリズムよくユニゾンする。

 男性と女性ではどうしても基礎体力に差が出てしまう。そして、その差が戦場では生死を分ける決定的な分かれ道となるのだ。

その差を少しでも埋めるべく、玲央奈は毎朝一時間のジョギングを初めとしたトレーニングを欠かしたことは無かった。

(そういえば大西洋連邦の部隊が到着するのは今日の午後だったな…)

 極東の最前線たる沖縄基地に配属されるパイロット達は、いずれも叩き上げの精鋭揃いだ。玲央奈が所属する第606モビルスーツ大隊も例外ではない。しかし、玲央奈にとっては歯ごたえに欠ける相手ばかりなのだ。

 叩き上げといっても実戦を経験したパイロットはごくわずかだし、その実戦経験者もモビルスーツでの戦闘は経験が無い。

 訓練兵時代からパイロットとしての優れた才能を開花させ、天才とまで呼ばれた玲央奈と互角に戦えるパイロットはここにはいなかった。

 大西洋連邦との演習を楽しみにしている自分に気づき、玲央奈は軽く口元を歪め、朝日に照らされつつある滑走路を走った。

 

 

 市街地を再現したダミービルの間をライトグレーとオリーブドラブのツートンに塗られた《ストライクダガー》が疾駆する。その胸部にはザフトの《ジン》を踏みつける風神をかたどった部隊章がペイントされていた。

 センサーが距離1200の地点に敵機の反応を捉える。正面のビルの陰だ。

 「全部ミエミエよ…」

 呟きつつ玲央奈はスラスターを点火し機体を加速させた。

 彼我距離、200。

 正面のビルが目前に迫り、あと一瞬機動が遅れれば激突という瞬間。白翠の《ストライクダガー》がアスファルトを蹴って飛び上がる。

 ビルの屋上を飛び越え敵機の《ストライクダガー》が外部カメラの端に写り込み、バンデット02としてマークされる。

 同時にライフルを発射。砲弾が直撃したライフルが弾け飛び、バンデット02は初めてコチラの存在に気づいたようだ。上からの攻撃を予測していなかったバンデット02の動揺が手に取るようにわかる。

 「外したか…」

 一撃で仕留めるつもりが砲弾は相手のライフルを破壊するのに留まった。

 バンデット02はすかさず背部のビームサーベルに手を伸ばす。

 「遅いッ!!」

 叫びつつ玲央奈は背部と脚部のスラスターを可動させ、機体を地面に叩きつけるかのように急降下させた。

 ライフルを投棄しサーベルを抜く。その勢いのまま玲央奈のサーベルはバンデット02を正中から真っ二つに溶断した。

 軽く息を吐き玲央奈は投棄したライフルを左腕で拾い上げた。

 『ストーム08、突出しすぎだ!』

 ストーム01――――――――部隊長である、黒田崇継中佐から通信が入る。

 『そんな位置にいたらカバーができん!後退しろ!』

 怒りよりも焦りを含んだ声音だ。

 「付いてこられないなら無理にカバーしなくても大丈夫です。残りは私が片付けます」

 黒田は部隊のなかでも唯一ザフトとの実戦を経験したパイロットだ。それなりに信頼もしている。しかし、パイロットとしての腕は玲央奈には及ばなかった。無理に付いてこられても玲央奈にとっては足手まといなのだ。

 「中佐はそこで見ていてもらえれば大丈夫です」

 『見ていればって…』

 黒田が言い終わる前に玲央奈は通信を切った。

 「さて…」

 残敵は二機。センサーによれば二機とも十時の方向、距離約2000の地点に固まっている。だが、バンデット02と接敵したためコチラの位置もデータリンクで相手に伝わっているはずだ。

 「正面からか…。まあ、嫌いじゃないよ」

 ひとりごちると玲央奈はコンピューターに侵攻ルートを割り出させる。コンマ数秒の後、外部モニターに最適と思われる侵攻ルートが示される。それを確認すると、玲央奈はスラスターを吹かしウィンドウのルートをなぞった。

 彼我距離600。正面のT字路の左側に敵機はいる。センサーを確認すると玲央奈はスロットルを全開に叩き込み、最大出力で機体を加速させた。この速度ではダミービルで形成されたT字路を曲がりきることはできない。

 交差点に突っ込む直前、玲央奈は機体を水平軸90度回転させ右のダミービルを蹴りつけた。その反動で18メートルの巨人が、鮮やかにT字路を曲がりきる。襲い掛かるGを、玲央奈は歯を食いしばって耐えた。

 正面に二機の《ストライクダガー》を確認。バンデット03、04だ。

 推力全開のまま二機の《ストライクダガー》に吶喊する。相手もライフルの引き金を引く。玲央奈は機体の姿勢を低くすることでそれを受け流す。52mmの徹甲弾が機体の装甲を擦過するのを肌で感じるが構わない。

 「当たるかぁーッ!!」

 そのままバンデット04の格闘戦領域に侵入しライフルごと右腕を溶断。同時に頭部の《イーゲルシュテルン》を斉射しバンデット04のメインカメラを潰す。兵装とメインカメラを失ったバンデット04が後ずさる。玲央奈は瞬時に機体を反転させバンデット03と正対する。すかさずバンデット03がサーベルを振るい反撃に転じる。

 「甘いね」

 玲央奈は機体を一歩下がらせるとバンデット03のサーベルは、無情にも空を斬った。その隙を見逃さず、玲央奈はサーベルをバンデット03のコクピットに突きたてた。さらに、背後のバンデット04に左腕のライフルを発射。体勢を整える前に胸部に被弾したバンデット04は推進剤が誘爆し、その場で爆散した。

 『コマンドポストよりストーム各機。演習終了。演習開始ポイントへ後退せよ』

 第2中隊の全滅を確認したコマンドポストから通信が入る。

 「了解」

 それだけ応えると玲央奈は指示通り演習開始ポイントへと後退を始めた。

 

 

 ハッチが開くと玲央奈は《ストライクダガー》のコクピットから格納庫へ出た。全部で六機のモビルスーツを収容できる格納庫だ。左右には玲央奈の機体と同じくライトグレーとオリーブドラブのツートンで塗られた《ストライクダガー》が格納されている。

 「三隈!!」

 整備用のタラップを降りるといきなり怒号を浴びせられた。声の方を向くと想像通り、黒田だった。日に焼けた顔に怒りを滲ませながらツカツカと歩み寄ってくる。

 身長158センチの玲央奈が175センチ以上ある黒田を見上げるかたちだが、玲央奈に気圧されている様子はない。

 「なにか?」

 「とぼけるな。三隈、何故後退しろという命令を無視した?」

 玲央奈の反応に眉をぴくぴくと動かしながら黒田が質問する。

 「私一人でも対処できる状況だと判断したため吶喊しました」

 「状況を判断するのはお前じゃない。俺だ。お前は俺の指示に従っていればいいと何度言えばわかるんだ。」

 怒りを抑え、諭すような口調で黒田が言う。

 「お前の独断先行で味方が危険に晒されるような状況になったらお前は責任を取れるのか?」

 「味方には危険が無いと判断した上での行動です。実際味方に損害は出ていません」

 「だから、判断は俺がすると…」

 「それ以外にないなら失礼します」

 玲央奈は黒田の言葉を遮り敬礼すると、さっさと背を向けその場を後にした。背後から黒田の溜息が聞こえたが玲央奈はドレッシングルームへの歩みを止めようとはしなかった。

 

 

 南西諸島近海 アイゼンハワー級航空母艦《アイゼンハワー》CDC

 

 アイクのCDCは一般的な戦闘艦のCICと大きな差はない構成だった。

 正面と左右の壁には大型のモニターが据えられ、海域情報や気象情報、レーダーなどの艦にとって重要な情報が映し出されている。

 管制卓には数人のオペレーターが座り、二十四時間体勢でモニターを監視している。その中の通信担当が口を開いた。

 「司令、東アジア共和国海軍・第二艦隊旗艦《ナガト》より入電」

 「読め」

 レストンはオペレーターに続きを促した。

 「”パシフィックシールド”への参加のため、遠路はるばるの航海に敬意を表する。我これより貴艦隊をオキナワまで護衛させていただく。以上です」

 「貴艦の心遣いに感謝する、と応えてやれ」

 「了解」

 水上レーダーには、二時の方角から《アイゼンハワー》空母打撃群に合流するべく接近する数隻の艦隊の姿があった。

 

 

 アイクの甲板は徐々に人で賑わいつつあった。

 ボブに連れられてウォルトも甲板に上がってきていた。

 《アイゼンハワー》空母打撃群の周囲には東アジア共和国の艦隊が輪形陣で展開しつつある。

 これを見たいがために、”ラプターファングス”の整備兵たちが甲板に集まっているのだった。

 「あれは第二艦隊旗艦の《長門》だな」

 ケイがアイクのすぐ隣を航行する艦を示して言う。

 ステルス性を考慮しての設計であろうタンブルホーム船型の船体は非常にシンプルな構成で、全長は200メートルはあるだろう。駆逐艦としてはかなり大型の部類に入るサイズだ。

「ナガト?」

 ボブがケイに聞き返す。整備兵であるボブは他国の艦を目にするのは初めてだった。そのため、興味津々といった様子である。

 「東アジア共和国海軍が建造した新型のミサイル駆逐艦だ。新世代のイージスシステムを搭載していて、大西洋連邦のデモイン級よりも優れた対空戦闘能力を備えてるって言われてる」

 ケイは得意げに解説を披露する。

 「へえ、すげえなあ」

 ボブは少しでも近くでも見ようと、手すりから身を乗り出すような体勢になっている。

 「ちなみにこの《長門》は四代目で、二代目の《長門》も旧世紀に艦隊旗艦を務めてるんだぜ」

 ステルス性と機能性を両立したデザインは、工業製品としては一種の芸術の域にあり、美しいとすら言えた。

ケイの解説を聞きつつ、ウォルトは緩やかな曲線と、力強い直線で構成されたライトグレーの船体を眺めた。

 




 お楽しみいただけましたでしょうか?
 やっと本格的に沖縄編に入ることができました。

 メインのキャラはあまり出ていませんが…。

 感想やアドバイスなどありましたらお気軽にどうぞ。

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