機動戦士ガンダムSEED~Forgotten War ~   作:caribou

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 お久しぶりです。caribouです。
 
 七話です。


第七話

 大西洋連邦北方軍・エドワーズ基地 “ラプターファングス”占有指揮所

 

 「リー中尉相手に互角とは…マクミラン少尉、やはり、かなりの腕ですね」

 B分隊担当のオペレーターがメインモニターから目を離さずに呟いた。

 「ああ。レオンスを相手にしてもアイツの機動はそれに見劣りしなかったからな…。パイロットとしての技量は俺以上かもしれんな」

 ルースは模擬戦を見ての正直な感想を漏らした。

 メインモニターでは四つの画面に分割された映像が、模擬戦の様子をリアルタイムで映し出している。そのなかでもウォルトとレオンスの《ダガー》は脅威的な粘りを見せていた。

 「あ…いえ、そういう意味では…」

 ルースの台詞にオペレーターが焦りだす。

 「構わんさ。全て俺の実力不足だ」

「しかし、それにしてもマクミラン少尉の技量とその成長には目を見張るものがあります」

互いに接敵してから五分が経過しようとしているが、三対二の数的不利な状況にも関わらずB分隊は決定的な一撃を受けてはいない。ニ対一の状況で善戦しているレオンスはもちろんだが、《ダガー》の搭乗時間が圧倒的に少ないウォルトがリーと互角というのはある種、異常なパイロットセンスと言えた。

 「もはや天賦の才というやつですね」

 「人並み外れた才能か…それとも努力か。いずれにせよアイツ等がこの演習をどう乗り切るのか見物だな」

 メインモニターではウォルトの104号機がリーの機体目掛けて突進。リーの102号機もそれを迎え撃つべく身構えた。

 

 

 エドワーズ基地 第8演習区域

 

 ウォルトの《ダガー》はスラスター全開でリーの機体目掛けて突っ込みサーベルを袈裟懸けに振り下ろした。

 リーは機体を巧みに操りその斬撃から逃れる。しかしウォルトは反撃の手を緩めず、返す刀でサーベルを薙ぎ払う。二の太刀を回避することができずリーの《ダガー》もサーベルでそれを受け止めた。

 (くそッ!隙がない…!)

 ウォルトは舌打ちを堪えつつサーベルを振り払う。

 『どうした?エリートさんよ。そんなんじゃレオンスの援護には回れないぞ』

 嘲笑するような響きを含んだ台詞がヘルメットイヤフォンに流れる。リーの声とともに反撃のサーベルがウォルトを襲う。ウォルトはその斬撃をショートバックブーストで回避するがリーもすぐさま距離を詰め続けざまに斬撃を見舞う。

 『大方俺を出し抜いてレオンスの援護に回る腹積もりだったんだろうがそう簡単には行かせないぜ?』

(こっちの作戦はお見通しかよッ…!)

 なんとかサーベルで斬撃を弾くがレオンスの援護に回るのは困難な状況だ。

(ヴィアン中尉の援護に気を取られたりしたらこっちがやられる…。やはり、リー中尉を撃墜するしかないか…)

 ウォルトはシールドをリーの102号機に叩きつける。スラスターの勢いを乗せたシールドが《ダガー》に直撃し大きく体勢を崩した。

ウォルトは胴体目掛けてサーベルを一閃。しかし、その一撃すらもギリギリのところで繰り出されたサーベルに阻まれてしまう。

 (しぶといッ!さっさとコイツを撃破しないとヴィアン中尉が…)

 ニ対一の状況のレオンスが撃墜されてしまってはいよいよB分隊に打つ手はなくなる。

 「くそ…!」

 ウォルトはバックブーストで距離を取りつつライフルで弾幕を張る。

 102号機は弾幕をスラスターで大きく躱すと岩山に身を隠した。

 ウォルトは機体にブーストジャンプを促し岩山を超えにかかる。頂上を超えると同時にライフルを岩山の根本に向けた。その瞬間コクピットに衝撃が走った。

 ウォルトが岩山を超えるのを見計らったように102号機が突っ込んできたのだ。咄嗟にライフルの引き金を引くが、それより早く振るわれたサーベルで銃身が溶断されてしまう。同時に繰り出されたシールドがウォルトの《ダガー》の胸部を直撃。体勢を崩した《ダガー》は地面に叩きつけられた。

 頭蓋を揺さぶるような衝撃にウォルトは呻き声を上げる。外部モニターには機体の損傷を告げる真っ赤なウィンドウが閃いた。幸い致命的な損傷はないがセンサーの一部と機体のフレームに過負荷がかかったことで機動に制限がかけられてしまう。

 フットペダルを踏み込み機体を立ち上げるが反応が鈍い。

 『レオンスの方に行かせるわけにはいかないんでな』

 さながら獲物を追い詰めた猛獣のごとく、リーの《ダガー》が外部モニターの画面いっぱいに迫ってきた。

 

 

 レオンスの103号機は106号機との格闘戦を繰り広げていた。

 二機の《ダガー》がその立ち位置をもつれ合うように入れ替えながらサーベルを振るう。103号機が常に優勢を保ってはいるが、とどめを刺せるチャンスを105号機の狙撃が適格にカバーしてしまうため決着がつけられずにいるのだ。

 「5号機…ハヤミか…クソッ!」

 当初105号機に格闘戦を仕掛けたレオンスだが二機の予想以上の連携に追い詰められつつあった。そこで、二機の連携を崩すべく106号機に切り込んだのだがそう上手くはいかなかった。これまでの演習で常に後衛に回っていたミーリャなら格闘戦で撃墜できるとレオンスは踏んだのだが、彼女の格闘戦技術は決して低くなかった。レオンスに勝るほどではないが、その機動はケイ以上に鋭いものだったのである。さらにそこにケイの適格な狙撃がくるのだ。

 「罠に嵌ったのはこっちだったか…」

 このままでは自分が撃墜されるのも時間の問題だとレオンスは悟った。リーの相手をしているウォルトの方も動きは見受けられない。

 打開策の思案にレオンスの頭が切り替わりかけたとき、外部モニターにウィンドウが開いた。

 ―――――104号機、各部センサー及び脚部フレームに軽度の損傷、機体出力20%低下―――――

 真っ赤なウィンドウはウォルト機の損傷をデータリンクを介して、レオンスに知らせていた。

 それを読み取った瞬間レオンスは作戦の変更を決断した。

 「悪いな、リー中尉!」

 レオンスはコントロールスティックの中指と薬指の位置に配されているスイッチを同時に押し込んだ。

 

 

 「もらった!」

 103号機の一瞬の硬直をケイは見逃さなかった。すかさずライフルの引き金を引く。しかし、撃ち出された砲弾は103号機の腕部をわずかに掠め、後方に逸れた。

 ケイが続けてライフルを放つ直前、103号機のシールド裏から数発の弾体が射出され、空中で炸裂した。その瞬間外部モニターを真っ白な煙が猛烈な勢いで染め上げてしまう。

 「スモーク!?」

 103号機はシールドに装備されたマルチディスペンサーから煙幕弾を射出したのだった。

 「光学がだめなら、―――!?」

 ケイはセンサーで敵の位置を割り出そうと試みたがモニターには無数の光点が浮かび上がっている。これではどれが103号機なのか区別がつかない。

 「やられた、目視もセンサーも役にたたねえ…!」

 スモークと同時に散布されたチャフはレオンスの姿を完全に包み隠していた。

 

 

 ビーム同士がぶつかり合う凄まじい干渉光がコクピットを照らし出す。リーのサーベルの一閃をウォルトはなんとか受け止めた。

 『甘いな、マクミラン!』

 リーの102号機はそのままサーベルを振り切った。機体出力が制限されているためウォルトの《ダガー》はサーベルに押し負けてしまう。

 「しっかりしろよ!!」

 無意識のうちにウォルトは自分の機体を叱咤するが、《ダガー》はそれに応えてはくれない。体勢を立て直そうと試みるが反応が鈍い。外部モニターにはリーの102号機が迫る。

 (間に合わねぇ…!)

 振り下ろされたサーベルがウォルトに届こうという刹那。その斬撃を一発の砲弾が遮った。

 『なんだと!?』

 リーは動揺の声とともにウォルトから距離をとる。

 センサーには急速に接近する僚機の反応があった。

 「ヴィアン中尉!?」

 レオンスの《ダガー》がサーベルを引き抜きリーに襲い掛かる。

 サーベルの一撃を何とか回避したリーだがレオンスの機動に、反応が追い付かない。レオンスは間髪いれず102号機の胴体を機体の膝で蹴り上げた。102号機は大きく体勢を崩し後ずさる。スラスターを点火しつつレオンスは追撃のサーベルを一閃。サーベルを握る102号機の右腕部が溶断され岩山に叩きつけられた。

 しかしリーはなおも機体を立て直し、シールドを投棄。残された左腕にライフルを構える。咄嗟にシールドを構えたレオンスの103号機に52mm砲弾が霰のごとくばら撒かれる。

 『マクミラン!!』

 レオンスの叫びがウォルトのヘルメットイヤフォンに響いた。

 なんとか体勢を整えたウォルトはスロットルを解放。フットペダルを蹴りつけるように一気に踏み込む。

 満身創痍の《ダガー》は最後の力を振り絞るように突撃を敢行した。

 

                    ※

 

 エドワーズ基地・第6モニタールーム

 

 モニターには演習を終え、演習開始地点まで後退する”ラプターファングス”所属の五機の《ダガー》が映し出されている。

 模擬戦はB分隊のウォルト・マクミランがA分隊のイェンスン・リーを撃墜、二対二の状況まで持ち込むも時間一杯でドローという結果だった。しかし、ニ対三という不利な条件を覆した時点で、B分隊の勝利に限りなく近い結果だといえた。

 「レオンス・ヴィアン中尉、それにウォルト・マクミラン少尉ですか。二人とも中々良い腕をお持ちですね」

 ゆったりとした口調がリーヴスに語りかけた。

 リーヴスが振り返ると、紺のスーツに身を包んだ恰幅の良い初老の男が歩み寄ってきた。にこにこと愛想は良いが目は笑っていない。

 「是非とも彼らには大佐の計画に協力してほしいものですね」

 モニターを眺めるスーツの男は楽しげだ。

 「彼らをどのように利用すると?」

 リーヴスはスーツの男に問う。

 「そうですねえ。色々と試してはみたいですが競合相手は手強いにこしたことはないと思いますね」

 スーツの男――――オーガスト・ノーランは、リーヴスの横に並んでモニターを注視している銀髪の少女をちらりと流し見た。

 




 お楽しみいただけましたでしょうか?

 流石に105ダガーのみの演習ばかりやっていると書くことが無くなっていきます…。ザフトの機体なども早く出したいですね。

 感想やアドバイスなどありましたらお気軽にどうぞ。

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