少年提督と野獣提督   作:ココアライオン

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短編 番外編2

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

ぬわぁぁぁん!!

やっとプレゼント配り終わったもぉぉぉぉん!!

 

 

≪曙@ayanami8.●●●●●≫

ちょっとぉ!! 

何か部屋に小便小僧が一杯居るんだけど!! 

コレあんたの仕業なワケ!!?

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

ハッピー☆クリスなす!! ぼのたん♪

 

 

≪ぼのたん@ayanami8.●●●●●≫

だから、ぼのたんって言うなっつってんでしょ!!?

 

 

≪ぼの☆たん@ayanami8.●●●●●≫

ちょっとォ!! 管理者権限で私のID弄るの止めて!! 

 

 

≪♪ぼの☆たん♪@ayanami8.●●●●●≫

おいやめろ

 

 

≪Lovely☆Engel@ayanami8.●●●●●≫

ごめんなさいゆるして

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

プレゼント、気に入って貰えたみたいで嬉しいなぁ

 

 

≪曙@ayanami8.●●●●●≫

気に入ってない。っていうかクソ邪魔なんだけど

あとで工廠に返しにいくから。どうせこれも鉄鋼細工なんでしょ?

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

悲しい哉……

 

 

≪長門@nagato1.●●●●●≫

この巨大ゴリラの人形を私の部屋に設置したのは、やはり貴様か

(写真アドレス.xxxxxxxxxxxxx.xxxxxxx)

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

えっ、俺が置いたのは1/1のNGTの人形だけど?

サンタコスで可愛いだろ? 

 

 

≪長門@nagato1.●●●●●≫

あとで覚えておけよ

 

 

≪球磨@kuma1.●●●●●≫

球磨の部屋には、サンタコスの熊のヌイグルミがあったクマ!

もこもこで大きくて、これは可愛いクマ! 野獣提督、ありがとうクマ!

 

 

≪夕立@siratuyu4. ●●●●●≫

夕立の部屋には、ジェイソンさんが一杯居たっぽい!(*・ω・*)

これ、訓練用って言うか、ぶら下げてサンドバックに使って良いっぽい? 

 

 

≪龍驤@ryuuzyou1. ●●●●●≫

うちの部屋にも何か在るんやけど……。

何やねんコレ → (写真アドレス.xxxxxxxxxxxxx.xxxxxxx) 

箱? 靴下に入ってるみたいやけど、爆弾ちゃうやろな

 

 

≪大鳳@taihou1. ●●●●●≫

私の自室にも同じような箱があるんですけど

これなんですが……→ (写真アドレス.xxxxxxxxxxxxx.xxxxxxx)

怖くて近づけません(;;) 見た感じ、和菓子の包装箱みたいにも見えるんですけど

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

あぁ、RJとTIHUの部屋のそれな! 普通にお菓子だから。俺の試作品。

“鎮守府銘菓”『龍驤パイ』と『大鳳パイ』だから、食べてみて、どうぞ

通販も予定してるから、あとで感想くれよなー頼むよー

 

 

≪龍驤@ryuuzyou1. ●●●●●≫

ちょっと待って

開けてみたけど、パイじゃないやん

薄焼き煎餅なんやけど、不具合やないのコレ

 

 

≪大鳳@taihou1. ●●●●●≫

私のは、薄焼きのクッキーですね……

いや、凄く美味しいんですけど、その何て言いますか

ネーミングに悪意が感じられるんですがそれは

 

 

≪高雄@takao1. ●●●●●≫

横からすみません

私の部屋に置かれていたインスタント麺は、これも通販するんですか

パッケージに水着の私が印刷されてるんですが

『大盛り(意味深)ムチムチ高雄ラーメン』とかいう糞ネームですけど

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

おっ、そうだな

 

 

≪高雄@takao1. ●●●●●≫

馬鹿めと言って差し上げますわ!

前も言いましたが、そもそも私は太ってなどいません!

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

なぁTKOァ? 夜中、腹減らないブー?(´・(00)・`)

あの時間は、無性にラーメンが食べたくなるデブねー?

 

 

≪高雄@takao1. ●●●●●≫

ぶっころs…

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

そんな途中送信しちゃうくらい怒ることじゃないんだよなぁ。

血気が盛んなお前の妹のなんて大人しいモンじゃん?

なぁ、MYァ? 俺がプレゼントした“世界の子猫図鑑”に夢中だよなぁ?

 

 

≪摩耶@takao3. ●●●●●≫

うっせぇなぁ! 絡んで来んな!!

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

何だ、やっぱり嬉しそうじゃねぇかよ

 

 

≪長門@nagato1.●●●●●≫

おい野獣!! ゴリラの人形が歌って踊って暴れ出したぞ!!

何とかしろ!!

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

おっ、やべぇ! OOYDに電話させて貰うね!

 

 

≪球磨@kuma1.●●●●●≫

ヴォォオオーー!!

熊のヌイグルミがいきなり走りだして、何処かに行っちゃったクマ!

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

おっ、やべぇ! OOYDに電話させて貰うね!

 

 

≪夕立@siratuyu4. ●●●●●≫

こっちのジェイソンさん達も、いきなり動きだしたーー!

皆揃って、どっかへ行っちゃったっぽいーー!

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

おっ、やべぇ! OOYDに電話させて貰うね!

 

 

≪大淀@ooyodo1. ●●●●●≫

いや、本当にコールしてこなくて良いですから!

止めて下さい! さっきからもうっ!!

私はこの鎮守府のコールセンターじゃありません! 今日は私も非番なんですよ! 

 

 

≪大淀@ooyodo1. ●●●●●≫

ちょっと待って下さい

あの 今ですね 部屋の扉が凄い勢いでガチャガチャドンドンされてるんですけお

これってアレですか もしかして ジェイソンさん達が来てる感じですかね

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

覗き窓から見てみろよホラホラ

 

 

≪大淀@ooyodo1. ●●●●●≫

怖くて近寄れません

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

しょうがねぇなぁ。じゃあこっちで部屋のロックだけ遠隔で外してあげるよ?

 

 

≪大淀@ooyodo1. ●●●●●≫

やめてやめてーー!!

 

 

≪少年提督@Butcher of Evermind≫

ジェイソン達の行動パターンが暴走しているんですかね?

大丈夫ですよ、大淀さん。今から修理に向いますので、待っていて下さい

 

 

≪大淀@ooyodo1. ●●●●●≫

@Butcher of Evermind ケッコンしてくれませんか

 

 

≪一般通過サンタ@Beast of Heartbeat≫

申し訳無いが、どさくさに紛れた大胆な告白はNG

とか言いつつ、馬鹿なこと遣ってる間に準備も終わったゾ

規模の大きい作戦も無事終わった事だし、今年のクリスマスは皆で盛り上がらねぇか?

 

 

 

 

 

 

 相変わらず、思い立ったが吉日みたいなノリの、唐突な野獣の呼びかけだった。

この後も、タイムラインは他の艦娘達の書き込みが続いたものの、「あぁ、良いですねぇ」と少年提督がすぐさまコレに賛同したことによって、この鎮守府ではクリスマスパーティーが開かれる事になった。野獣と彼の行動力には、舌を巻く。

会場には食堂が選ばれ、大量の料理の準備は野獣が行い、クリスマスツリーの用意や飾りつけに関しては、少年提督と少女提督が行っていたのは知っている。

まぁ、あの三人なら割と何でもこなしてしまえそうでもあるし、実際そうだった。会場となっている食堂に足を運んだ鈴谷は、「はぇ^~~……(驚嘆)」と零してしまったものだ。

 

 もともと広い空間である食堂は、現在、バイキングというかビュッフェスタイルというか、そんな感じのお洒落なレストランみたいな具合に模様が変わっていた。

ズラッと並べられた大テーブルの上には、彩りも鮮やかな美しい料理が大皿で幾つも並んでいる。どの種類の料理もかなりの量が在って山盛りだ。

フライドチキン、ローストビーフなどのオードブル各種に、ポテトやブロッコリーなどのサラダ、クリームシチュー、後はケーキなどのお菓子が用意されている。

野獣に話を聞いたところ「出来合いのものを取り寄せて並べた奴も結構あるし、まぁ多少はね?(時間節約)」と、軽く笑って居た。つまり、それ以外は野獣が作ったという事か。

少なくとも、此処で色々と食べている料理は全部美味しいし、その中の幾つかが野獣が作ったものであったとしても、売り物と遜色無い味である。分からない。

う~ん……。今度、料理教えて貰おうかな……。用意されたテーブルに腰かけた鈴谷は、赤ワインソースのローストビーフに舌鼓を打ちながら、食堂を見回してみる。

 

 雪を表している白いモコモコの綿飾り。花や枝葉で編まれたお洒落なリース。食堂の白壁に張られた、サンタやトナカイ、靴下や星、ベル、雪の結晶模様などの切り絵。

この場の雰囲気を演出する飾りつけは、到ってシンプルではあるが故に、無駄なものが無い。赤、白、緑色が鮮やかな装飾が眼を引くものの、雑多な印象は受けない。

精緻な飾り自体を製作したのは少年提督かもしれないが、この部屋を飾って演出したセンスは多分、今も自身の配下の艦娘達と談笑している少女提督のものだろう。

二人の協力が在ってこそ。少年提督の感性は何と言うか、結構ぶっ飛んでいる。悪い意味で斜め上を向いているので、こういう繊細な空間を作るのに向いていないように思える。

鈴谷はそんなちょっと失礼な事を考えつつ、自分の正面に座っている熊野をチラリと見遣った。上品に腰掛けている癖に、割とワイルドにローストチキンに齧り付いていた。

表情をキラキラさせながら幸せそうに頬張っている。かわいい。鈴谷も小さく笑って、周りの席にも視線を向けてみる。集まった艦娘達が、楽しげに談笑を弾けさせている。

サンタ服に似た、赤地に白が眼を引く衣装を纏った艦娘達が、このパーティーの主役だ。規模の大きい作戦も無事終えて、各々で奮戦、活躍した艦娘達を労う為なのであろう。

此処には居ない野獣達に感謝しつつ、鈴谷もローストビーフを口に運ぼうとした時だ。「Fooooo↑!! 風が冷たくてサムゥイ!!」 食堂に誰かが勢い良く入って来た。

 

 野獣だった。豊かな白髭を蓄えた、サンタの格好をしている。赤いサンタの上着を着込み、ゴツい長靴みたいなブーツを履いている。赤い帽子も被って、白い大袋を担いでいた。

本格的なサンタの格好なのだが、下履きを履いていなかった。黒いブーメラン海パンだけしか履いていない。強烈な出で立ちだった。艦娘が数人、飲んでいたものを噴き出す。

鈴谷も、危うく噎せ返るところだったが、何とか堪える。そんな野獣の後に食堂に入って来たのは、トナカイを模したモコモコの着ぐるみを来た少年提督だった。

照れ笑う彼の愛らしさを更に昇華させており、鈴谷も思わず眼を奪われる。前に座っていた熊野が「あぁ^~……、たまりませんわぁ^~……」と表情を蕩けさせていた。

一部の艦娘達も似た様な様子で、彼の姿をねっとりした視線で追っている。ちょっと怖い。ただ、彼自身はそんな視線には気付いていない。或いは、全く意識していないのか。

こうしたクリスマスの集まりの中で、艦娘達が其々に楽しい時間を過ごしている事を喜んでくれている様だ。それは、満足そうに周りを見渡している野獣も同じだろう。

 

「お前らも結構、楽しんでんじゃん?

 よぉし! じゃあ俺が更に盛り上げてやるか。しょうがねぇなぁ~(余計な真似)」

 

 野獣は言いながら、鈴谷と熊野の隣席へと歩み寄り、椅子を引いてドカッと腰を下ろした。

そして、テーブルの上に大袋を置いてから、その大袋から何かを取り出した。

あれは、何だろう。端末だ。テレビのリモコンみたいに見える。野獣は食堂の壁際へと視線を上げて、そのリモコンを食堂の天井辺りに向けた。野獣の視線を追いかけて、気付く。

天井にはスリットが入っていて、其処からスクリーンが降りて来た。ウィィィィーンという駆動音がしている。映画館みたいな立派な奴だった。

というか、食堂にこんなの在ったんだ。まぁ広さから考えれば、レクリエーション会場にも使えなくも無い場所だ。そういう設備があっても不自然では無い。

そんな風にも思うが、多分野獣が勝手に備え付けただけのような気もする。今から何か、余興でも始めるのだろうか。場の空気が変な感じになり始める。

気付けば食堂の真ん中あたりに青葉が居り、めちゃんこ高価そうなプロジェクターのセットも始めていた。そして、食堂の照明が少し落とされて、薄暗くなる。相変わらず問答無用だ。

食事をする程度なら出来るくらいの暗がりとなり、回りがザワザワし始める。熊野と顔を見合わせた鈴谷だって、不安になってきた。何が始まんのコレ……。

 

 胸中で呟いたと同時だったろうか。パッとスクリーンに映像が映し出された。其処にはデカデカと“プレゼント争奪☆平常心ゲーム”という文字が並んでいた。

暗がりの中で、ほぼ全員の艦娘達が「……は?」みたいな貌になっていた。鈴谷だってそうだ。「時間もそんな取らせないし、ルールも簡単だから! ヘーキヘーキ!!」

何時の間にかマイクを持っていた野獣が、スクリーンの前でルールの説明を始めた。マイペース過ぎるが、いつもの事だ。辟易するというより、もう慣れてしまって文句を言い出す艦娘も居ない。

毒されているというか、調教されているというか……。まぁ、プレゼントも用意してくれているみたいだし、説明くらいは真面目に聞いても良いだろう。

気分次第で、適当に流せそうでもあるし……。そんな風に考えながらルールを聞いて、鈴谷はグラスを傾けてシャンパンで喉を潤した。ルールは、本当に簡単だった。

平常心ゲームの名の通り、映像が流れている間は、“平常心”を保つことがルールだ。心を乱した回数が、もっとも少ない者が優勝である。逆にいえば、ミスの数回は許されている。

 

 心を落ち着かせ、冷静さと沈着を保ち続ける。いわば、忍耐力を競うゲームの様だった。

軍属の艦娘としては、確かにこうした精神的な強さは必要なものではある。

どんな状況でも落ち着いて、状況を確認し、最善を尽くさねばならない。

平常心とは、その軸である。それを、このゲームで試そうと言うのか。

ふーん……。別にハードって訳でも無さそうだし、楽なゲームじゃん。鈴谷はそう思った。

大間違いだった。完全に不意打ちだった

ウォーミングアップとして、“真顔でパラパラを踊り出す加賀”の映像が流れた。

どうやって撮ったのか。一体、どんな状況だったのか。色々と疑問は尽きない。

見た感じ鳳翔の店の様だし、多分、酔っ払っているんだろう。

キレッキレの動きで踊る加賀の姿は、何と言うか卑怯だ。

問答無用の勢いとシュールさが在った。

 

食堂に集まった艦娘達の多くが噴き出していた。肩を震わせている者も居る。

さっきまで座っていた筈の加賀が、隣に居た瑞鶴の胸倉を引っ掴んで立ち上がっていた。

 

「頭に来ました……(激昂)」

 

「ぅえぇっ!? あのっ、いやっ! わ、笑ってませんから!!

 加賀さんって歌も上手いし、踊りも上手だなぁっと思っただけで……!!(必死の抵抗)」

 

 胸倉を掴まれた瑞鶴が、眉間に皺を寄せまくっている加賀を宥めるように言う。

空母組は集まってテーブル席に座っていたのだろう。災難としか言いようが無い。

見れば、飛龍と蒼龍は唇をむにむにと動かして俯き、必死に笑いを堪えている。

翔鶴は口許を手で押さえて震えているし、葛城は舌を噛んで笑うのを我慢していた。

「KGは酔っ払うと面白いからね、しょうがないね(半笑い)」

野獣がリモコンを操作しつつ言う。

 

「とりあえずこんな感じで、

 青葉と俺が今年撮った映像とか写真をピックアップして順番に流していくからさ。

 お前らは平常心を保ちつつ、黙々と映像を見据えてくれてれば良いだけだから、安心!

 ただ反応が大きかったり、画面から眼を逸らしたりした奴には、罰を与えっからな(棒)」

 

 艦娘達のほぼ全員が、「えぇっ!!!?」と声を上げる。その後に続く艦娘達の反抗の声は、すぐに尻すぼみになった。スクリーンの映像が切り替わったのだ。

次に映し出されたのはプレゼント、つまりこの平常心ゲームの賞品である。最後まで残れば、少年提督との添い寝券だと言う。艦娘達は背筋を伸ばし、神妙な貌で居住まいを正す。

今もにこやかな少年提督は、誰に添い寝されようと微塵も動揺しないだろうし、その行為に特別な意味を見出そうとしない。添い寝は、それ以上でもそれ以下でも無い。

一方で、それなりにアルコールも入っている艦娘達も居る所為か。思ったより遥かにガチな空気になってしまった。悪ノリに近いのだが、皆が本気なのでタチが悪い。

ただ、途中で平常心を無くした艦娘には、罰として“「チャネル☆イキスギ」の刑”だという説明が続いた。えっ、何それは……?(恐怖) みたいな、どよめきが起きた。

名前だけでかなり恐ろしい刑名である。那智が震え上がっているし、足柄が深刻な貌をしていた。鈴谷だって、それが何か知っているから自然と表情が険しくなる。

以前。鳳翔の店で行われた合コンに参加した長門や大和達、それから、第二次合コンに参加していた陸奥や鹿島、それから金剛達も息を呑んでいる。

「単純なくすぐり攻撃のようなものなのですよ」と、艦娘達が不安そうにざわめく中、トナカイの着ぐるみを来た彼が説明してくれた。野獣も軽く笑った。

 

「実際にお前らに触ってセクハラする訳じゃないし、安心して、どうぞ。

まぁ、身体の感覚を114514倍に鋭敏化させてぇ、霊触的な感じで擽るみたいなー……(フェードアウト)

とりあえず、参加する奴はトイレには行っといた方が良いと思うんですけど……(優しい名推理)」

 

 野獣の説明で、集まった艦娘達もだいだい理解出来た様だ。難しい貌になった後に頷き合って、ぞろぞろと挙って食堂を後にし始めた。トイレに向ったのだろう。

その間に、鈴谷と時雨、それから赤城は、このゲームから辞退を申し出る。そして、空いた皿やらグラスやらの片付けに回った。テキパキと動いて、それらを片していく。

どうせ宴会が終われば、艦娘達を帰らせた後で野獣が片付けをするのだ。ならば、今のうちに出来る範囲だけでも片しておけば、野獣も多少は楽になる。

そうすれば宴会が終わったあとで、野獣との時間も作れるだろうという打算が在ったのは、鈴谷だけでなく、時雨や赤城も同じだったと思う。野獣が苦笑を浮かべていた。

この余興が終われば間違いなく食べつくされる量だったが、どれだけ盛り上がるか予想出来ない為、現在残っている料理も一旦、厨房の中へ引こうという流れになった。

場のセッティングはスムーズに進んでいく。艦娘達が戦士の貌でトイレから戻ってくる。片付けに回ってくれている鈴谷や時雨、赤城に礼を述べつつ、皆は席についていく。

取りあえず、チャレンジを辞退した鈴谷と、参加する熊野は席を違えることになる。熊野は同じく重巡である、足柄や那智達と同じテーブルに着き、お互いの健闘を祈るべく、ぐっと握手していた。凄い気合いの入りようだ。

 

 

 

 さぁ、準備が整った。過酷な余興になるだろう。スクリーンを睨みつける艦娘達の纏う雰囲気は、大規模作戦前のブリーフィングにも勝るとも劣らない緊迫感だ。

鈴谷と時雨、それから赤城は、互いに苦笑を漏らしつつも、食堂の隅の方にテーブルに移動して、皆を見守ることにした。少しだけ、食堂の暗がりが強まった。

青葉がプロジェクターを起動させて、スクリーンに映像が映し出される。デカデカと『NOW LODING』の文字が緩く点滅し、その隣で、真顔の加賀がパラパラを再び踊っていた。

手の込んだ編集だ。なんて攻撃的なロード画面だろう。もう既に数人が肩を震わせているのが分かった。そう。此処からは、大きな反応をしてはならない。

平常心だ。冷静さを保たねばならない。驚いてはいけない。笑ってはいけない。怖がってはならない。昂ぶってはならない。過酷な余興が始まろうとしていた。

 

 

 画面が切り替わる。スクリーンは撮影者の視点だ。野獣の視点だろうか。映し出されたのは、鎮守府の中庭だった。植え込みの緑が風に靡き、木々の枝葉が揺れていた。

青空の下。澄んだ葉擦れの音が響いている。その中に、可愛らしい鼻歌のような声が混じっている。いや。何か小さいものをあやすような、機嫌の良さそうな声だった。

撮影者は移動している。しかし、全く音を立てない。気配を消して、その声の方に近付いていく。なんて趣味の悪い。席に座る艦娘達も、何だか不味そうな貌だ。

そして、撮影者は声の主を見つけた。声の主は暖かな日溜り中、芝生にうつ伏せに寝転がっていた。上半身を起こして、足をパタパタと動かしている。パンツが見えた。

声の主は、『にゃー♪ にゃーん♪』と、機嫌の良さそうな声で、自作であろう棒状のオモチャを振っている。そのオモチャにじゃれついているのは、一匹の猫だった。

『にゃーん♪ にゃー♪ にゃにゃーん♪』ゴキゲンな様子の彼女は、非番であった曙だ。集まった艦娘達が、肩を震わせ唇を噛み、激しく貧乏揺すりをしながら笑いを堪えている。映像の中とは打って変わり、完全な無表情になった曙が野獣を睨んでいた。怒りを通り越したような表情だった。映像はまだ続く。また別の人物が現れた。少年提督だ。

猫と遊びながら声真似をしていた曙は、そちらに夢中ですぐには気付かなかった。彼が傍まで近付いて、「おはようございます。曙さん」と声を掛けられてようやく気付いた。

曙は『にゃほぁぉぉうっ!!?』と、素っ頓狂な声を上げて飛び上がって立ち上がった。スクリーンの中のその様子を見ていた潮と朧、それから漣が吹き出す。

デデドン!!という音が響いてすぐに、野獣が手にしたマイクでアナウンスする。「OBR、SZNM、USO、ついでにAKBN、アウトー!」

 

 

 テーブル席に座りリモコンを操作していた野獣が宣言する。それに応えて、今度はトナカイ姿の彼が何かを唱えた。すると、食堂の床に術陣が浮かび上がった。

流石に、これには他の艦娘達もどよめく。そんな中、朧と漣、潮と曙を囲うように、術紋の帯が形成された。蒼い微光によって編まれたそれは、艦娘達の肉体に干渉する。

感覚鋭敏化と、術陣からの霊触による軽い刺激だ。害は無い。それでも、効果は十分過ぎる程に強力だ。朧達は甘い悲鳴を甲高く上げて、椅子の上に崩れ落ちた。

苦しげに赤い顔を伏せて涙を堪え、ビクンビクンと身体を波打たせている。はぁはぁと息も荒い。カクカクと脚が震えている。多分、その様子を見た艦娘達も察した筈だ。

……これ、アカン奴や。だが、もう遅い。「次からは無意味に騒いだりするとアウトだゾ。 気をつけてくれよなー(念押し)」ざわめきかけた艦娘達に、野獣が軽く笑って言う。

やばい。コレ、とんでもなく過酷なゲームだ。辞退して正解だった。鈴谷はチラリと熊野の方を見遣る。

 

 神妙な貌の熊野は鈴谷の視線に気付いて、穏やかな表情で頷いて見せた。

強い意志の篭った、澄み渡った眼差しだった。そんなに彼と添い寝したいのかなぁ……。

たまに熊野が遠くに感じる時がある。とりあえず今は、引き攣った微笑みを返しておいた。

そうこうしているうちに、映像が再び流れ始める。また同じ場所だ。鎮守府の中庭。

芝生と植え込みの緑が、日溜りの中に映えている。隠し撮りみたいなアングルだった。

無音というか、風の音だけが聞こえる映像が数秒続く。すぐに誰かが現れた。

鼻歌を歌って、芝生の上を歩いて来る。摩耶だった。スキップしている。可愛い。

普段のキツイ言動からはちょっと想像出来ないような凄い笑顔だった。可愛い。

スクリーンを見ている摩耶の方は、唇をキツく噛んで俯いていた。可愛い。

いや、そうじゃない。今重要なのは、可愛いとかじゃない。

すでに少なくない数の艦娘が我慢できずに吹き出し、その声が悲鳴に変わる。

 

 

 撮影者は何も言わず、斜め後ろの方からカメラを回しているだけだ。

摩耶が中庭に登場すると、植え込みの中から小柄な白猫がひょっこり顔を覗かせる。

にゃー。小さく鳴いて、猫は摩耶の足元に擦り寄って、ゴロゴロと首を鳴らした。

曙と一緒に遊んでいた猫と同じ猫だった。人懐っこい感じが愛らしい。

映像の中の摩耶も、かなりテンションをあげている。さっきの曙に負けていない。

摩耶は芝生の上に胡坐を組んで、その脚の上に猫を乗っける形で抱き上げた。

にゃーん♪ にゃにゃにゃにゃ~~ん♪ にゃーーにゃーーーーぁあああん♪

凄いノリノリで猫の声真似を始めた摩耶は、猫を撫でくり撫でくり、ニコニコしている。

その姿には、普段のキツくて乱暴っぽい雰囲気は全然無い。優しい表情をしていた。

三分ほど、摩耶と猫の『にゃん♪ にゃん♪ にゃーん♪』という合唱が続く。

長い。長すぎる三分だった。集まった艦娘達も苦しそうだ。笑いを堪えている。

 

 

 その時だ。スクリーンの中で動きがあった。映像の中の摩耶が、カメラ目線になったのだ。

『こ、コラァァ!! おい、おまっ……!! せっ……、こ、コラァァァァアアッ!!』

摩耶は、撮られている事に気付いた。摩耶は猫を追い払うようにして脚から降ろす。

そして、猛然と撮影者に襲い掛かろうとした。しかし、撮影者は身軽だった。

ひょいっと摩耶の追撃をかわしつつも、ぐんぐん距離をとり、摩耶を撮影している。

真っ赤な顔になった摩耶が、半泣きで追いかけてくる。その途中で、摩耶が盛大にこけた。

すごい勢いで植え込みの茂みの中に突っ込んだ。

映像だけ見ていると、摩耶が突然消えたみたいなこけ方だった。

誰かが吹き出した。声からして多分、天龍と叢雲だ。

それに釣られて、周りにいた艦娘達も小さく吹き出す。

映像は続く。摩耶の姿が消えた後も、撮影者は容赦無くカメラを回している。

すると茂みの中から、「痛ってぇ~……(泣)」という、震え声だけが聞こえてきた。

それに応える様に、さっきまで居た白猫が戻って来て、「にゃー(=^・ω・^)」と鳴いた。

 

 また何人かが吹き出した。野獣は、それら全員を把握していた。

デデドン! 「TNRYU、MRKM、TKO、KRSM、MY、アウトー!」

野獣が宣言する。天龍、叢雲、高雄、霧島、摩耶の五人は抗議の声を上げる間も無かった。

すぐに少年提督が文言を唱えて術陣を編んで、五人の肉体に干渉する。

感覚の鋭敏化と、霊触的な擽り攻撃が執行される。五人分の甘い悲鳴が響いた。

 

 

 それでも、まだゲームは続く。映像が切り替わる。

再び表示される『NOW LODING』画面。そして、真顔で踊りまくる加賀。

今度は長い。明らかに長い。一分くらい経った。それでも、まだ画面が変わらない。

スクリーンの中では、真顔で加賀が踊っている。座っている加賀が、攻撃的な溜息を漏らす。

瑞鶴は歯を食い縛り、頻りに瞬きをして耐えている。翔鶴の体がぶるぶると震えている。

「ふすぅ……」と息を漏らす飛龍。「んふぅ……!」と吹き出した蒼龍。

デデドン!!「HRYU、SOURYU、アウトー!」野獣が宣言する。

少年提督が詠唱する寸前、二人が抗議の声を上げた。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい! このロード画面止めましょうよ!」真剣な貌で飛龍が挙手する。

「そうですよ!!(便乗) これは卑怯ですよ!」蒼龍も椅子から立ち上がった。同時に、彼の詠唱が完成した。

二人は悲鳴を上げつつ身体を波打たせて、椅子の上に崩れ落ちる。息を乱れさせる彼女達には構わず、映像が暗転。

 

 

 次に映し出されたのは、建物の内部。廊下だった。監視カメラの様に、上から見下ろすアングルだった。画面右下には『01:27』と、時間が表示されている。

どうやら、画面内の時間は深夜1時半頃らしい。画面も、暗視ゴーグルを除いたように蛍光っぽい緑色で表示されている。でも、あの場所は何処だろう。鎮守府の庁舎内では無い。

この内装からすると、多分寮だ。しばらく、映像内に動きは無かった。少ししてから、誰かが歩いて来る。寝惚け眼の彼女は、パジャマ姿の比叡だ。あぁ、なる程。

トイレに起きて来たのか。比叡は眼を擦り、欠伸をしながら画面の手前側へと消えていく。また少しして、水が流れる音が聞こえた。比叡が自室へと戻っていく。また少しの沈黙。

次にトイレを目指して現れたのは、長門だった。艦娘装束を纏い、艤装を召還している。しかも全然寝惚けてない。出撃するときと同じ貌をしていた。

そんな怖がって、フル装備でトイレに行かなくても……。だが、今度は笑いが起きる前に、悲鳴が聞こえた。クッソ気合を入れてトイレに向う長門の背後だ。何か居る。

黒い人影だ。長い髪が見える。女か。顔は見えない。長門にぴったりと寄り添っている。トイレへと向う長門について行く。水が流れる音が聞こえる。

長門が廊下を歩き、自室へと帰っていく。その背後には、もう黒い人影は居なかった。そう思った。油断した。次の瞬間、カメラに何かがへばり付いた。クッソ怖かった。

その何かは、この世の物とは思えない絶叫を上げる。スクリーンを見ていた艦娘達も、一斉に悲鳴を上げた。時雨がさっと手で顔を隠した。鈴谷だって。悲鳴と共に眼を覆う。赤城も、顔を引き攣らせている。

黒い靄が、歪んだ顔らしきものをスクリーン一杯に象った。そこで映像が再び暗転し、砂嵐画面に切り替わった。恐ろしいものを見せられて、全員が放心状態になった。

 

 

 デデドン!!「全員、アウトー(棒)」野獣が面白くなさそうに言う。

「当たり前だろうがっ!! こんなもの無反応で見れるか!!」

半泣きの長門が椅子を倒しながら、猛然と立ち上がった。相当怖かったようだ。

隣で野獣を睨む陸奥も、ちょっと涙目で青い顔をしている。

大和は白眼を剥いて、半分気絶していた。武蔵の方は割りと楽しんでいるようだ。

皆の反応を訝しげに眺めている。凄い肝っ玉の据わりっぷりだ。

無論。他の艦娘達は長門達と同じ様な反応であり、抗議の声が次々に上がる。

もう夜中にぉトイレ行けない……。あれって戦艦と空母の寮だよね……? 

うちらの寮もヤバくない? 怖いよぉ~……(´;ω;`)もうやだぁ……。アー漏レソ……。

泣きが入りかけた艦娘達を見た野獣は、やれやれ……と肩を竦めて見せた。

 

「しょうがねぇなぁ~……(悟空)

 じゃあ今回はノーカンって事にして、ホラ次いくど~!」

 

 テーブル席で足を組みかえ、缶ビールを傾ける野獣が、軽い調子で言いながらリモコンを操作する。スクリーンの映像が切り替わる。再び映し出される、『NOW LODING』の画面。

そして、真顔で踊りまくる加賀。格好がさっきと変わっていた。島風コスだ。また飛龍と蒼龍が吹き出した。

「もぉぉぉ~~……! もぉぉぉぉお~~~……!!」

『勘弁して下さい』みたいな感じで頭を抱えて、叫ぶ。

 

 二人は遣る瀬無いと言った風に大声で言ってあと、すぐに甘い悲鳴を上げてから、ガクガクと身体を震わせて椅子に崩れ落ちる。ただ、今度は鳳翔も笑いを堪え切れなかった。

鳳翔も術式対象となり、「ぅ、んぁッ……!!」切なげな艶声を上げた。頬を染めて身体を波打たせながら、とろんとした眼差しになって呼吸を乱している。

鈴谷も軽く吹き出したのだが、辞退しているのでセーフだった。隣に居る時雨も、震えたままで俯いている、前髪で表情は見えないものの顔を上げようとしない。

多分笑っているんだろう。此処から更に続いて、他の艦娘達がたて続けにアウトになる。上擦って蕩けた悲鳴が重なって響いてから、スクリーンの映像がまた切り替わった。

 

 

 

 次に映し出されたのは、少年提督の執務室だった。ただ、少年提督の姿は見えない。

カメラが移す画面が動く。次に映し出されたのは、ビスマルクの寝顔のどアップだった。

ソファに深く凭れて身を預け、すやすやと穏やかな寝息を立てている。

黙っていれば、ビスマルクは冷たい美貌を讃えた鉄血の麗人だ。

その寝顔もまた、美しく愛らしい。普通ならその筈だが、今は違う。

ビスマルクの顔には既に落書きがされてあった。色々と台無しである。

“ビス子”。“れでぃ”。“正”の字。“かわいい”。“やったぜ”。などの文字が書かれている。

この時点でグラーフとプリンツが吹き出して、施術効果が解決。二人が悲鳴を上げた。

リットリオやローマ、それから今度は加賀もアウトだった。悲鳴が続く。

レーベとマックス、呂500は辛うじて耐えている。ビスマルクは真顔である。

時間差で更に数人がアウトとなるが、映像はまだ続く。

 

 

 スクリーンの中のビスマルクが眼を覚まし、眠そうな眼を瞬かせた。此方を見ている。

ハッとした貌になって飛び上がり、涎が出ていないかを確認するみたいに口元を拭った。

そして、睨みつけるように此方を見据える。腕まで組んで、明らかに不機嫌そうな貌だ。

『人の寝顔を黙って撮るなんて、貴方も悪趣味ね』 険のある声でビスマルクが言う。

彼女の様な美人が怒ると怖いものだが、顔中に緊張感の無い落書きをされていては微妙だ。

 

『と言うか、どうして此処に居るの?』 ビスマルクが眼を細めて言う。

 

『鎮守府祭のパンフとCM用に色々と撮って回ってるんだよね。

 アイツに話が在って来たんだけど、居ないんだよなぁ……(現状確認)。

 と言うか、お前は何で此処で寝てるのか、説明してくれないかしら?』

 

『単純に仮眠を取らせて貰ってただけよ。

昨日も殆ど徹夜で衣装づくりだったから、彼が休ませてくれたの』

 

『あっ、そっかぁ(納得)。

 まぁ大会(祭)近いからね。しょうがないね』

 

『ふん……。疲れを取るタイミングで貴方に会うなんて、私もツイて無いわね。

 寝顔まで撮られるんて、不覚だわ』

 

『いやぁ、BSMRKは美人だからさぁ。凛々しい所だけじゃなくて、

こういう素顔が垣間見える瞬間って、何か素敵……、素敵じゃない?(適当)』

 

『ん……、ま、まぁ……。そう、かしらね……?』

 

ぷりぷり怒ってた癖に、ビスマルクはもう満更でも無い様子だ。

ふふんっ♪と口許に笑みを浮かべて見せている。チョロイなぁ……。

まぁ、其処が可愛いんだろうけどさぁ……。鈴谷も笑いを堪えつつ、唇を噛む。

 

『あっ、そうだ!(白々しい話題振り)

 せっかくだから、何かこう、決め台詞みたいなのお願いできる?

やっぱり、カッコいいBSMRKの画が欲しいのは、当たり前だよなぁ?(煽て)』

 

『まぁ、それくらいなら……別にいいわよ?(良い気分)』

 

『おっすお願いしまーす(笑)』

 

『じゃあ、いくわよ?(もうノリノリ)』

 

 チョロ過ぎるビスマルクは、野獣が撮影するカメラの前で、すっと背筋を伸ばした。

高身長でスタイルも良く、本職のモデルも裸足で逃げ出すレベルの美しい立ち姿である。

片手を腰にあて、もう片手でビシィッと此方に指を指すポーズを取って、ビスマルクは不敵に笑う。

 

 

『貴方の艦隊は少し規律が緩んでいるようね? 私が一から教えてあげるわ』

 

もう何と言うか、規律の緩みが文字通り顔に出てる状態で、ビスマルクは選りによってそんな台詞をチョイスして見せた。

顔に落書きされたままでのキメ顔とキメポーズ、そしてキメ台詞をキメたスクリーンの中のビスマルクは、たいそう御満悦な様子だった。

『おっ、そうだな!(全面同意)』と、画面の中の野獣も、笑いを堪えたような声でビスマルクに応えた。

 

 

 

 

 これに、食堂に居た艦娘達も釣られた。せっかく我慢していたレーベとマックスが堪えきれなくなった様に笑みを零れさせ、プリンツと呂500も駄目だった。同じ様に笑みを零す。

グラーフは素で笑い出して、それに周りの艦娘が更に釣られた。「ちょっと!! 貴女も笑い過ぎよ!!」隣に座っていたビスマルクが、グラーフに抗議した。

その時だ。「おい、BSMRK!」テーブル席に腰掛けていた野獣が、突然ビスマルクを呼んだ。「ぁあっ!? 何よぉっ!?(半泣き激怒)」ビスマルクが野獣に向き直る。

すると野獣は良い感じに微笑を浮かべてから、怒れるビスマルクに、すっとサムズアップして見せた。それを見たビスマルクも、軽く吹き出した。デデドン!!

ドイツ艦が全員と、その他も多数の艦娘が施術対象となった。蕩けた悲鳴が折り重なるその後も、映像は容赦無く続く。ただ、何と言うか内容は割とまともだった。

 

 

 今まで、鎮守府祭を始め、艦娘達が参加したイベントなどの映像が流れる。

“地域への貢献”という建前で銘打った、夏祭りへの奉仕活動の時の映像も流れた。

そういえばあの時も、ビスマルクや加賀が踊っていただろうか。金剛達も一緒だった筈だ。

彼女達の艶姿に、会場となった神社はおおいに沸いた。老若男女を問わず、受け入れた。

自分達のために、海で戦ってくれる艦娘達の姿を、薄々と知っているからだ。

深海棲艦という脅威にさらされた人類の為に、過酷な激戦期を戦い抜いてくれた。

そんな艦娘達の力を恐れている者も居る。しかし、深い感謝を向けてくれる人々も多い。

 

 それは、スクリーンに今映し出された鎮守府祭が、大盛況だった事でも窺える。

着ぐるみを来た大和や長門達が、着ぐるみを来て子供達と触れ合っている。

ディアンドル姿のビスマルク達が、客達にビールを振舞っている。

戦史や艦娘達の艤装展示のコーナーでは、陽炎が訪れた人々を丁寧に案内している。

大淀の『よどりん☆ジャンケン』で、会場が大いに盛り上がっている。

他の艦娘達も其々に仕事をこなし、この空間の提供に貢献し、支えて、盛り上げている。

一般の人々と艦娘達が、楽しげに笑顔を交し合う姿が在った。

 

 

 不意に。また画面が切り替わった。祭りの喧騒から、少しだけ離れた位置だ。

客として訪れていた人々が、カメラの前で並んで立っている。彼らの手には、紙とペン。

スケッチブックだ。参加客達が、何かを考えるように其々に視線を落としている。

『さぁさぁ! 鎮守府祭の記念に、艦娘達へのメッセージを発信してみませんかー!?』

カメラを構えている撮影者は、どうやら青葉の様だ。行き交う観客達に、手を振るのが分かった。

そういえば鎮守府祭の時、野獣は来賓の相手をしていた筈だ。

普段はカメラを持ちたがる野獣の代わりに、青葉が撮影班としても動いていたという事か。

何とも働き者な重巡だ。その明るく朗らかな青葉の声に、他の客達も笑顔で答える。

並んでいた人々だけで無く、それを遠巻きに見ていた他の客達も参加したいと言い出した。

『あっ、是非是非! お願いします!』明るい声で答えたのは、青葉の声だ。

青葉はカメラを傍にあった机か何かに置いたのだろう。スクリーンの画面が固定された。

その画面の向こうで、青葉がスケッチブックから紙を外して、更に配る。

青葉は大きめの鞄を肩から掛けており、その中から色マジックを何本か取り出した。

それも集まった客達配って、メッセージを作ってもらう。

青葉が振り撒く楽しそうな雰囲気に、他の客達も興味を持って集まってくる。

和気藹々として空気の中で、参加客達は其々にスケッチブックに文字を書き終えていく。

 

『ではでは皆さん! 順番に行きましょう! メッセージをどうぞーー!!』

青葉が再びカメラを構えて、客達に向けた。画面が、ゆっくりと横にスクロールしていく。

参加客達も、少々気恥ずかしそうではあったものの、皆一様に優しく微笑んでくれていた。

その手にあるスケッチブックには、色取り取りのメッセージが、大きく大きく、暖かな文字で書かれている。

 

“いつも有り難う”。“私達のために戦ってくれて、有り難う”。“感謝しています”。

“助けてくれて有り難う”。“私達の暮らしを守ってくれて有り難う”。

“甚謝の念に堪えません”。“ありがとうございます”。“お体に気を付けて”。

 

並んだ参加客達が、順番に青葉が構えるカメラに手を振ってくれている。

肉声でもメッセージを送ってくれている。

どれもこれも、飾り気の無い、自然なままの言葉だった。

スケッチブックを持つ人々の笑顔も、やはり温もりに満ちていた。

だから、こうして映像越しでも、真っ直ぐ届く。

言葉に込められた感謝の気持ちを感じる。食堂に居た艦娘達が全員、押し黙った。

 

 

 椅子に座ってスクリーンを見ていた鈴谷も、胸が締め付けられるような気分だった。それでいて、少しくすぐったい。喜びや嬉しさである事は知っている。

本当に自然に、笑みが零れた。可笑しくて笑ったのでは無い。こうして向けられた笑顔や感謝の念に、艦娘としての誇りを改めて強く感じた。嬉しかったのだ。思わず、身体にも力と熱が篭る。

食堂に集まった艦娘達も、そんな鈴谷と同じ様子だったようだ。デデドン!! という効果音が響いて、「全員、アウトーー!(誇らしげな声音)」野獣がマイクで言う。

今度は、少年提督も詠唱を紡がなかった。やはり優しげに微笑んで、食堂に集まった艦娘達を眺めている。スクリーン映像も消えた。誰かが立ち上がって拍手を始める。

嵐だ。「此処の鎮守府は凄ぇな……!」と。心から尊敬するように、野獣や少年、少女提督を熱い眼差しで見てから、今度は回りに居る艦娘達を見回した。

それに続いて立ち上がり拍手をしたのは、上品に微笑んでいる鹿島だ。さらに、萩風とグラーフが続く。4人は、鎮守祭のときには、まだ此処の鎮守府に配属されていなかった。

自分達が来る前の、同僚艦娘達の戦場以外での活躍を知り、それを心から讃えているのだ。この拍手は伝播する。周り者から周りの者へ。皆が其々に、戦友を讃える拍手だった。

ちょっと真面目な空気になりつつあったが、「おーし! はぃ注目ぅ!!(先制)」テーブル席から立ち上がった野獣が、マイクを構えて声を上げて、その雰囲気をぶち壊していく。

 

「取りあえず、お前らの平常心がガバガバって事はよく分かったから。

 このゲームも一旦終わり! 閉廷!! 賞品も無効だなぁ、こりゃあ……(分析)」

 

野獣がそこまで言うと、ニッと笑って見せた。

 

「じゃけん。代りに、みんなでケーキでも食いませんか? 食いましょうよ?

 AOBァ! プレゼントも用意してあるから、はいヨロシクゥ!!(合図)」

 

 野獣が言うと、食堂の照明が明るく戻る。同時に、「はいはーい!」と青葉が返事をする声が聞こえた。皆がスクリーンの映像を見ている間に用意していたのだろう。

集まった艦娘達が声のした方へと振り返ると、テーブルを寄せて連ねた上に、各種ケーキがバイキングの様に並べられており、他にも、プレゼント箱が無数に積まれていた。

プレゼントの箱は小振りなものの、高級感のある包装で綺麗にラッピングされている。そして、一つ一つに名札のようなものが付いていた。

 

 まずは、青葉がその名前を順に呼んで、プレゼント箱を配っていく。鈴谷も呼ばれ、プレゼント箱を受け取ってからケーキを選んで、自分の席に戻った。何だか不思議な感じだ。

野獣が場を引っ掻き回して、もっと無茶苦茶になるかと思っていた。だが、割と普通にクリスマスパーティーの体を為しているのが、何だか変な感じだ。ムズムズする。

取りあえず、全員の手にプレゼント箱が行き渡ったところで、「しれぇ! プレゼント、開けても良いですか!?」と、雪風が元気良く挙手した。

雪風に言われ、少女提督は野獣の方を一瞥した。野獣が頷いて見せる。少女提督も軽く笑ってから「ええ、良いわよ」と、雪風に向き直り、頷いた。

雪風がプレゼントの包装を剥がしに掛かったのを見て、他の艦娘達も包装を剥がし始める。鈴谷も、丁寧に包装を外していく。箱の中身を見て、思わず声を漏らした。

そっと手にとって目の前に持ち上げてみる。それはケースに収められた、物凄く精緻で精巧な、艦船である『鈴谷』の模型だった。ちょっと感動してしまった。

他の艦娘達からも歓声が上がっていた。涙ぐんでいる者も居る。それくらい素晴らしい出来だった。己の前身である艦船の姿を送られると、やはり感情が揺れてしまう。

「こ、コレ……、しれぇが造ってくれたんですか!?」 雪風が少女提督に聞いた。「取りあえず、皆の分はね」少女提督はまた軽く笑った。

 

 なる程。この艦船模型は、其々の提督が、自身が運用する艦娘達の分を造って用意してくれたという事か。しかし、隣に座っていた時雨は、プレゼントを貰っていない。

鈴谷の視線に気付いた時雨が、柔らかい笑みを浮かべた。「僕の模型は、もう前に造って貰った事があるから。今回は、僕達は野獣の手伝いに回ったんだ」

見れば、長門や陸奥もそうだ。あぁ、そう言えばと、思い出す。確か、長門や陸奥も、以前にも模型を用意されていた過去がある。あの二人も、模型製作の手伝いに回ってくれたということか。

 

「ありがとう、時雨……」鈴谷は、素直に時雨に礼を述べた。

 

「ううん。……僕じゃなくて、野獣に言ってあげて欲しいな」

 

 時雨もくすぐったそうに照れて、微笑んだ。可愛い。その笑顔にドキッとしてしまう。

ちょっと時雨の事が好きになってしまうそうになった。ヤバイヤバイ……。

軽く息を吐き出した鈴谷は、そっと視線を外し、反対となり座っている赤城を見遣った。

赤城は、自身の模型を見詰めて、微笑むような、泣き出す寸前の様な表情を浮かべている。

やっぱり、赤城も嬉しいんだろう。無論、鈴谷だって嬉しい。手元の模型を見詰める。

生命鍛冶、金属儀礼を駆使した金属細工であるこの模型には、間違いなく、魂が込められている。

いわば、野獣の気持ちが詰まっている。

そんな風に思ったのは、鈴谷だけでは無かった。少女提督の麾下にある艦娘達も、喜んでいる様子だ。

少年提督の麾下にある艦娘達は、狂喜乱舞している。

 

 

 その後。皆でケーキを食べるときになって、少年提督が席を立った。何でも、深海棲艦達の研究施設に用があるらしい。恐らくだが、深海棲艦達に会いに行くのだろう。

これも、深海棲艦達を手元に保持している彼の仕事だ。秘書艦として、愛宕と龍田が彼の傍に控え、共に食堂を後にした。

それを見送り、野獣が鈴谷達のテーブルへと腰掛けに来る。海パンに赤いサンタ外套を纏ったままだ。「ケーキは美味いかぁ、お前らぁ!?」白い髭を揺らして笑っている。

 

「うん……。美味しいよ。そういえばこのケーキも、野獣が作ってくれたんだよね?」

 

時雨は、上品な仕種でショートケーキを切りつつフォークに刺して、野獣の方へと視線を向けた。

 

「えっ、それマジ?」 

 

鈴谷も野獣の方を見る。野獣は肩を竦めて見せた。

 

「そうだよ(肯定)。って言いたいところだけど、

MMYとかIRKとかHUSYOUの手伝いみたいなモンだから!

流石の俺も、菓子作りのレパートリーは無ぇなぁ(ドチンピラ)」

 

喉を低く鳴らすみたいにして、野獣は笑う。

同じテーブル席に居も赤城が静かに微笑んで、すっと頭を下げた。

 

「お料理を用意して頂いた上に、

 素敵なプレゼントまで下さって、本当に有り難う御座います……」

 

「……ありがと。大事にするよ」

 

 凛とした声で言う赤城に、鈴谷も続いて礼を述べる。野獣はヒラヒラと手を振るだけだ。

何も言わず、また缶ビールを呷る。野獣は椅子に凭れながら、食堂を見回した。

見守るような、それでいて、賑やかな艦娘達の様子を見て、眩しそうに眼を細めている。

サンタ外套に海パンという戯けた格好が、何処か憂いを帯びたその眼差しとミスマッチだった。

こういう時、本心を表に出さない野獣は、何を考えているんだろう。鈴谷には分からない。

無言だった野獣は、気持ちを切り替えるように小さく溜息を吐き出した。

そして時雨達の方へと向き直ってから、やれやれ……みたいに笑った。

 

「好き放題盛り上がってくれちゃってさぁ。

 誰が片付けすると思ってるんだか……。たまらねぇぜ(父性の喜び)」

 

そうは言うものの、野獣は全然迷惑そうじゃない。むしろ嬉しそうだった。

 

「片付けなら、私達がさせて貰います」 赤城も、微笑んで言う。「僕も手伝うよ」 時雨も頷いた。

「鈴谷も~~」と。鈴谷は手を挙げてから、コホンと咳払いをして視線を彷徨わせた。

 

「そのー、それでさ……、片付けとか終わった後さ、野獣、時間空いてるかな……?

 鈴谷もさ、プレゼントって言うか、その……、渡したいものあるんだけど……」

 

「片付けの後? そうですねぇ……(申し訳無さそうな貌)

 今日の夜は、頼んでたスケベDVDが届くから、ゆっくり見る予定が在るんだよね?」

 

「えぇっ!!? いやっ、そんなのまた別の日に見れば良いじゃん!!

 せっかくのクリスマスなんだしさぁ!! もっと、その……思い出って言うのかなぁ?

 そういうのをさぁ、もっとさぁ……、こう、共有しようってならない!?」

 

「いや、今日はスケベDVDを見る予定だから……(頑な)」

 

「うわぁ……(´;д; ) あの、何かごめん……。

 あまりにも予想外な断られ方で、ちょっと上手くレスポンス出来ないんだけど……」

 

 そりゃあさぁ……。ケッコンカッコカリは、カッコカリなんだろうけどさぁ……。

自意識過剰って言われたらそれまでだけどさぁ……。何か堂々と浮気されてるみたいじゃん……。

一緒に過ごそうという誘いが、スケベDVDの名の下に一蹴されるとは思わなかった。

鈴谷は本気で落ち込みそうになった。アー泣キソ……。鈴谷がしょんぼりした時だった。

「うそだよ(いつもの)」 野獣が笑った。時雨と赤城も、可笑しそうに小さく笑っている。

多分、二人は、野獣がいつもの様に適当な事を言っていることを見抜いていたのだろう。

何だか、野獣の言葉を素直に信じてしまう自分が、ちょっとだけ恨めしかった。

 

 

 














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