少年提督と野獣提督   作:ココアライオン

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修正版 短編3 中

 とりあえず最後までタイムラインを追いかけてみる。ビスマルクは、リットリオやローマと行動しているプリンツに救出されたようだ。

ゴミ置き場のポリバケツに身を隠したままで、さっきのボスケテメッセージを送って居たのだと書き込んでいる。

どうやら、ビスマルクが必要以上にビビって無我夢中で逃げた結果、プリンツ達と逸れてしまったという事だった。可愛いというか、らしいと言うか。

錬度も高く、戦闘においては非常に頼りになるのに、こういう時にポンコツになるのは何時ものことだ。取りあえず、無事で良かった。

あとは、身を隠している艦娘達で、≪何か面白い事をして、ゲームオーナー側を笑わせろ≫、≪格好良い口説き文句で、ゲームオーナー側をときめかせろ≫についての書き込みが暫く続いた。

その内に、ただセリフを言うだけでなく、状況まで説明する書き込みが増えて、タイムラインの流れが加速していく。

 

 

 

≪妙高@myoukou1.●●●●●≫

愛しい人を後ろから抱きしめながら

“分かりますか? 貴方を抱きしめているのは私ですよ?”

 

 

≪那智@myoukou2.●●●●●≫

照明を落とした暗い部屋で、愛らしい彼をベッドへと押し倒しながら

“今夜ばかりは、……呑ませて貰おう”

 

 

≪足柄@myoukou3.●●●●●≫

朝、隣で眼を覚ました恋人の顔を見詰めながら

“夢でも会えたのに、眼が覚めても貴方に会えるなんて……、素敵……”

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

うわキツーー!!

 

 

≪羽黒@myoukou4.●●●●●≫

す、すみません!! 上の3つの姉さん達の書き込みのタグは、

“ ♯ 面白いセリフ ”でお願いします!

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

末妹の迫真フォローが光る!

MYOUKU型怖いなー、戸締りすとこ……。

 

 

≪那智@myoukou2.●●●●●≫

酷い言われ様だな。私の渾身の作だぞ。何処が悪いんだ?

 

 

≪足柄@myoukou3.●●●●●≫

私だってそうですよ!

今、真っ赤になって蹲ってる妙高姉さんだって、考え抜いた台詞なんですよ!?

酷い言い草じゃないですか!?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

もっと上の方書き込みも見て。ホラホラ?“口説け”って言ってんの? 

分かる? お前らの書き込みだと、口説く段階がすっ飛んでるだよね?

MYOKUはギリギリというか、きわどい感じだけどさぁ、

NCは男の方に襲い掛かってるし、ASGRは一線越えてるしで、もうどういうこったよ?

 

 

≪金剛@kongou1. ●●●●●≫

おっと、此処はどうやら私の出番のようネー!

 

 

≪金剛@kongou1. ●●●●●≫

夜が更けた、テイトクと二人っきりの執務室。

ゆっくりと服を脱ぎながら、“shall we dance ……?”

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

下ネタばっかじゃねぇかこの鎮守府ィ!!

 

 

≪レ@bikibikibikini123≫

ケッコン指輪を渡しながら、“Fuc● you”(レ)

 

 

≪叢雲@fubuki5. ●●●●●≫

えぇ……、プロポーズのタイミングで喧嘩を売るの……。

 

 

≪電@akatuki4. ●●●●●≫

あーもう、無茶苦茶なのです。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

タブレットで見た感じ、SGRとYMTが俯いて肩を震わせてるから、

もう何て言うかこれはこれで、ミッションクリアでも良いかもしれねぇけどなー。

ただ、あんまりにもアレだからね? もうちょいガンバろっか?

じゃあ今から、YMTとSGRが手本見せてくれるから、よーく見とけよ?

豚カツと酒樽と紅茶とレは、ちょっと参考して、どうぞ。

 

 

≪豚カツ@myoukou3.●●●●●≫

豚カツって私の事ですか!?

 

 

≪豚カツ@myoukou3.●●●●●≫

あれっ!? 何か私のID表示変わってる!!?

 

 

≪酒樽@myoukou2.●●●●●≫

誰が酒樽だ!?

 

 

≪紅茶@kongou1. ●●●●●≫

えーー……。

 

≪レ@bikibikibikini123≫

Yes, sir!

 

 

≪大和@yamato1. ●●●●●≫

あの、本当にやるんですか?

 

 

≪時雨@siratuyu2. ●●●●●≫

此処だけ参加するのも、何だか変な感じだね……。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

この掲示板にライヴ感も出るから、大丈夫大丈夫!

おし、じゃあSGRにから行ってくれやオラァン!

 

 

≪時雨@siratuyu2. ●●●●●≫

うん

 

 

≪時雨@siratuyu2. ●●●●●≫

一緒に、澄んだ夜空を見上げながら。“月が綺麗だね”。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

こういうので良いんだよ、こういうので

 

 

≪大和@yamato1. ●●●●●≫

“私の居住性は、如何ですか?”

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

おいYMTァ!! 人のこと笑えねぇぞお前!

せっかくSGRがさぁ、マトモな台詞で流れを戻そうとしてんのに、

其処に下ネタを思いっきり被せに行くんじゃねぇYO!!

 

 

 

 

「コレ、かなり混乱してるみたいですけど、大丈夫なんですかね……?」

 

 弓道場の庭に身を隠している吹雪は、携帯端末から顔を上げて、大淀の方を見た。今の艦娘囀線のタイムラインの無軌道振りには、大淀も苦笑を浮かべている。

その大淀の手には、何時の間にか携帯端末では無く、事務処理を行う為に使うタブレットが在った。吹雪は、興味を惹かれてそのディスプレイを見詰める。

何らかの作業を行っているのだろう。艦娘囀線のウィンドウの他に、複雑な文字列で構成されたページが表示されている。吹雪の視線に気付いた大淀が、一つ頷く。

 

「有用な情報も確かに在りますので、この辺りを整理すれば問題無いでしょう。

逃げながらの片手間ではありますが、私と初雪さんで“まとめページ”の作成に取り掛かっています」

 

 もう少し時間が必要ですが……。吹雪へと答えながらも、大淀は軽く笑みを浮かべて作業を続けている。

ディスプレイを操作する大淀の指裁きは見事なもので、まるで楽器でも奏でているみたいだ。あそこまで行くと、もう職人技だ。真似できない。

初雪と吹雪は仲も良いし、ネット関係に詳しい事は知っている。しかし、初雪が持つコンピュータースキルについての実力は、吹雪も良くは知らない。

だが、この大淀と共同で作業をしている時点で、相当なものなんだろう。心の内で、友人である初雪の事を軽く尊敬してしまう。

 

「他の面子の動きが把握できるってのは、結構有難ぇよなぁ」

地べたに座り込み、背中を植え込みの木に預けた朝霜は、言いながら端末を取り出して、片手で操作している。

 

「うん。……でも、野獣提督の動向が気になるっぽい」

姿勢を低く落とした夕立が、思案顔で顎に手を触れて、地面に視線を落としていた。

 

 野獣がスレッドに張り付いているのは間違いない。

同時に、野獣はスレッドを監視していても、此方に直接手を出せない。

その分、蟲の増減に関わったりする間接的な干渉は可能であるというのが現状だ。

吹雪は一度携帯端末を仕舞い、頭の中で情報を整理する。

野獣側は、蟲の数の増減に関わる操作は可能であり、蟲達の強制停止も可能。

反面。蟲を統率出来ない。行動範囲の指定も不可能。野獣の指示で、蟲達は動かない。

だからこそ陽炎は、艦娘囀線の使用を提案出来たのだし、他の艦娘も参加した。

こちらの情報を曝すことになっても、野獣がそれを悪用出来ないからだ。

此処までは良い。だが、あの野獣の事だ。恐らくまだ明かされていない要素が在る。

そういえば……と、睦月が言葉を零した。

 

「野獣提督は、蟲達の数を弄れるんだよね? 

その延長でさ、蟲達に何か変化を齎すことって出来るのかな? 

例えば、サイズが巨大化したりとかは……流石に、無いよね?(希望的観測)」

 

 不安げに言う睦月に、全員の視線が集まった。緊張と、少しの沈黙の間があった。

蟲達への命令・操作は不可能であるという事。これは明確な仕様だ。

艦娘側が突ける弱点でも在る。しかし、これが何か引っ掛かる。

野獣が干渉出来る領域は、未だ不明なままだ。怪しい。

野獣は、まだ何かカードを伏せている気がしたのだ。

「そ、其処までは流石に、大丈夫じゃないかなぁ」と。吹雪はぎこちなく笑う。

しかし、その吹雪の傍で作業の手を止めている大淀の表情は、えらく深刻そうだった。

朝霜と睦月、それから夕立も、割と真顔だ。嫌な空気になった。途轍もない不安を感じた。

「ちょっと……、き、聞いてみましょうか?」 吹雪は、再び端末に眼を落とす。

そして端末を操作し、艦娘囀線に書き込む。

 

 

 

 

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

あの、すみません! 野獣司令官! 

ご質問させて頂いても宜しいでしょうか?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

おっ、どうしました?

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

有り難うございます! 質問させて頂きます!

あの、蟲達への命令が不可能である事は、先程伺ったのですが、その……。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

歯切れが悪いなぁ、おい。

もっとズバッと聞いてくれても良いゾ

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

@Beast of Heartbeat  わ、分かりました!

野獣司令官が、間接的にゲームに干渉する領域についての質問なんです。

例えばですよ? 例えばなんですけど、蟲達が更に巨大化とかは、出来たりしませんよね?

蟲達への命令・指示は出来無いから、安心しろとはお聞きしましたが

こういう蟲達への変容とか形態変化については、何も仰っておられなかったので……。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

 

 

 

 

 

≪長門@nagato1. ●●●●●≫

おい! 其処で黙るな!! 

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

やろうと思えば

 

 

≪長門@nagato1. ●●●●●≫

 

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

 

 

 

≪摩耶@takao3.●●●●●≫

@Beast of Heartbeat  ざけんな!

今でさえ身の毛のよだつサイズだろうが!!

 

 

≪瑞鶴@syoukaku 2.●●●●●≫

冗談じゃないわ!!

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

ゲームのフィナーレに差し掛かったら、全部の蟲を巨大化させてビックリさせたる!

と思ってたのに、FBKにネタバレまで誘導されちまったなぁ……。

あーつまんね

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

あ、あの、何かすみません。どうしても気になったので……

 

 

≪天龍@tenryu1. ●●●●●≫

謝る必要は無ぇぞ、吹雪。むしろGJだ。

此処で気付けてなかったら、最後の最後に大どんでん返しを喰らうところだったぜ。

 

 

≪陸奥@nagato2.●●●●●≫

@Beast of Heartbeat ねぇ、もうハッキリさせておきましょう?

あの蟲達に対して、そっちは遠隔で何処まで干渉出来るの?

数の増減。サイズの変更。あとは?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

しょうがねぇなぁ。教えてやるよ。

あの蟲達は金属細工だけど、其々に特殊な術紋を刻んであるから。

お前ら艦娘を顕現させる事に比べりゃ、外見や質感の変容なんざ朝飯前だし、多少はね?

表面積の増加! 姿形の切り替え! 外骨格の色調変化! って感じでぇ……。

 

 

≪深雪@fubuki4. ●●●●●≫

つまり……、どういう事だってばよ……?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

まぁ簡単に言うと、サイズの他にも、姿そのものを変えられるゾ。

妖精達の協力のもと、特殊な液体金属を加工・調律しまくってFOOO気持ちィ!

体色も変えられて良いゾ~、これ! その気になれば、ステルス迷彩も可能ですね……。

見えねぇってのは怖ぇなぁ?

 

 

≪初雪@fubuki3. ●●●●●≫

まるでプ●デターみたいだぁ。

誰もクリアできなくっちゃう、ヤバイヤバイ……。

 

 

≪霞@asasio10. ●●●●●≫

何でそんなゲームバランスがぶっ壊れる要素をわざわざ入れてくんのよ!?

馬鹿なんじゃないの!? 

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

ゲームバランスは尖ってるくらいの方が面白いって、それ一番言われてるから。

KSMだって毎回、お漏らしするくらい喜んでくれてるダルルォ!?

 

 

≪霞@asasio10. ●●●●●≫

ころすぞ

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

じゃあ蟲達を何体か人型にしといてやるから、それで許してくれよなー。

ゾンビとかジェイソンとかぁ、ホラー系の着ぐるみモンスターとかも、如何っすか?

まずは、お試しで5体くらいに変質命令出しといてやるよ。お前らの為に。

 

 

≪陽炎@kagerou1.●●●●●≫

ある意味、蟲よりおぞましいんですがそれは……。

脱落者になる判定もガバガバだし、どう対処して良いかもう分からない感じですけど。

 

 

≪羽黒@myoukou4.●●●●●≫

@kagerou1 それ、私も気になっていたんです。

捕まったら即失格という認識で良いんでしょうか……?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

@kagerou1.●●●●●、@myoukou4.●●●●● 

その辺も説明不足だったなぁ……。

お前らが首に着けてるチョーカーを奪われたら失格だゾ。

ちょっと凶器っぽいものを持たせてあるけど、お前らを攻撃するプログラムは無いから。

締め切った扉をぶっ壊したり、鍵を抉じ開けたりする為のものだから、安心!

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

ビジュアル的にかなりサイコホラーだと思うんですが、それは大丈夫なんですかね……。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

テーマパークの大規模パレードイベントみたいなモンだし、へーきへーき!

季節外れのハロウィンパーティだと思って楽しんくれよな! ンハッ☆

 

 

 

 

 

 

 其処までの書き込みを眼で追ってから、携帯端末から視線を上げた。

伊58は、軽く息をつく。58は立ち止まっていない。移動している。

そろりそろりと庁舎外壁に沿うように、物陰から物陰へと、音も無く移動していく。

舗装道には出ずに、植え込みや庁舎と庁舎の間を縫うようにして進む。

体勢を低くして、周りの状況を注意深く窺いながら進んでいく。汗が、頬を伝う。

一応、スニーカーを履いているが、服装はいつもの艦娘装束である水着とセーラーである。

今日は風がぬるい。体温が上がっている所為で余計にそう感じるのかもしれない。

視線だけで空を見上げる。青くて、高い。それなのに息が詰まる。海の中に居るみたいだ。

遠くで、蟲の這う音がしている。金属音だ。ガチガチガチ……。キチキチキチ……。

不気味な音だ。この音から距離を取る。遠ざかるように移動する。無理はしない。

少しずつ前進する。その伊58の背後には、伊19、伊8、呂500が続いている。

伊19と伊8は、いつもの艦娘装束である水着の上に、白いパーカーを羽織っている。

呂500は、伊58と同じく、水着の上にセーラー服を着込んでいた。

 

4人は機能性の高いスニーカーを履いている。足音をほとんど立てない。

忍び足で、天龍達と合流すべく資材置き場を目指している。

伊401、伊168、まるゆとは逸れた。今は連絡がつかない。

ただ、捕まったという連絡が無いから、まだ無事の筈だ。何れ合流できれば良いが。

 

「ね、ねぇ、でっち……。まるゆー達、大丈夫かなぁ……?」

不安そうな声が背後から掛けられた。呂500だ。伊58は肩越しに振り返る。

 

「だから、“でっち”じゃないでち。

……きっと大丈夫だから、今は自分の事に集中するでち」

 

 声は潜めつつ、落ち着いた口調で伊58は言う。呂500は、「うん……」と頷いた。

伊58も頷きを返して、前を向く。庁舎の影から出て、舗装道路を横切る。

また別の庁舎の影に身を潜めて、外壁に沿うようにして隠れて進む。

呼吸を整える。海で居る時と同じ様に、気配を殺す。そして、足音も鳴らさない。

草の上でも、コンクリの上でも、姿勢を落とし、滑るようにして素早く歩を進める。

蟲達が鳴らす、不気味な金属音を避けつつ、とある庁舎の裏へと回りこむ。

裏手の舗装道に出る。其処には、庭手入れの道具を入れておく小振りな物置が在った。

その倉庫の隣には、あのATMに似た端末が鎮座していた。伊58は周りを見回す。

蟲の姿、気配は無い。それを確認したのは、携帯端末を取り出した伊8も同じだった。

 

「今なら、問題を解くタイプのミッションにチャレンジ出来るね。

でも、……どうしよう? 先に、天龍さん達のところへ向おうか?」

 

「今のタイミングなら、触るだけ触ってみても良いかもしれないね……。

問題の中身がどんな感じなのか、また皆に知らせることも出来るでち」

 

「取り合えずイクは艦娘囀線で、此処の場所を皆に知らせとくのね!」

 

「うん、お願いするでち」 

 

 伊58は伊8と伊19に言いながら、端末の隣の物置に歩み寄る。

その伊58の後に続いて、呂500も倉庫に近付いた。伊58が物置の戸を開ける。

少しの黴臭さと、緑の臭いがした。暗がりに差し込む光に、薄く土埃が舞っている。

中は狭いものの、庭手入れの為の用具が整頓されて置かれていた。

伊58は物置の中に入って、草刈用の鎌を2本、手に取ってみる。軽く、取り回し易い。

刃も錆びたり毀れたりしていない。白く、鋭い。切れ味は良さそうだ。

 

「それ、ど、どうするの?」と、背後から伊58の手元を覗きこむ様に、呂500が聞いてくる。

「武器に出来るかもしれないでち」 伊58は軽く笑いつつ、次は傍の棚から剪定鋏を手に取った。

枝を切る為のものだろうが、分厚い鋏部分と鋭い先端部分は頑丈そうだ。これも使える。

 

「ちょっとゴメンでち! 端末の場所を伝えるついでに、

あの蟲達って攻撃しても良いのかどうか、野獣提督に聞いて欲しいでち!」

 

伊58は物置の中から外に居る伊19に声を掛ける。「わかったのね~~!」という返事が聞こえた。

呂500は物置の外と、物置の中で庭手入れの用具を漁る伊58を、不安そうに見比べる。

 

「でっち、あの蟲さん達と戦う気で居るの?」

 

“でっち”じゃないでち。と、呂500の方へと視線だけ向けたが、すぐに物色に戻る。

ガサゴソと音と埃を立てながらしゃがみ込んで、伊58は有用そうなものを探していく。

 

「戦うと言うよりも、出来れば追い払えないかなぁと思って。

いざという時、丸腰じゃ困るでち? ろーも何か持っておくでち」

 

「う、うん……」 掠れた小さい声だった。

 

 大人しかったU-511から改装を受けた呂500は、非常に明るい性格になった。

快活で前向きになった。それでいて、U-511の時の鋭い判断力や思考速度を持っている。

良い変化だと思う。ただ今はどうも、異常にオドオドとしている様に見える。

「ろーは、蟲が駄目なんでち?」 伊58は振り返らずに聞くと、重たい無言が帰って来た。

これは肯定だろう。鼻から息を吐き出して、立ち上がった伊58は振り返る。

それから手に持っていた鎌を2本と、剪定鋏を呂500に持たせた。

 

「そんなオドオドビクビク怖がってたら、野獣提督の思うツボでち」

 

呂500は、いきなり両手に鎌と剪定鋏を持たされて、「えっ、えっ」と少し焦った貌になっている。そんな呂500へと、伊58は笑って見せた。

 

「こういう時こそ、いつもみたいに“ろーちゃんですっ!”って感じで、強気に行くんでち!」

 

「む、無理だよぉ……(震え声)」

 

「まぁ、苦手なものは仕方ないから、ガシガシ戦えって言ってる訳じゃないよ。

まずは生き残ることだけ全力で考えるでち!」

 

若干の涙目になって震え声になる呂500の肩を軽く叩き、伊58はまた笑って一つ頷く。

 

「今はゴーヤもイクもはっちゃんも居るんだから、そんなにビビる事はないでち。

ゴーヤだって怖いけど、ろーや皆居るから平気だよ。怖いけど、へーきへーき!」

 

 実際のところ、伊58だって平常心じゃない。落ち着いてるかと言われれば、絶対に違う。

今だって鼓動は速いし、じんわりと変な汗が額から頬へと伝っている。怖い。恐ろしい。

それでも、何とか思考が働くのは仲間が居る御蔭である。それは心の底から思う。

一人だったら、今のように動くのは絶対に無理だ。立ち竦んで動けないだろう。

伊58の笑顔と激励が伝わったのか、呂500も少しだけ笑って頷いた。

 

「さぁて気合も入ったところで、そろそろ行くでち」

 

 伊58は言いながら、物置の隅へと歩み寄り、大振りな機材を二つ手に持った。

芝刈り機とチェーンソーだ。どちらも埃こそ被っているものの、使われた形跡が無い。

鎮守府の備品として、新品のままで置いてあったものだろう。

さすがに、呂500もぎょっとしていた。伊58はちょっと凶暴な笑みを浮かべる。

「使っちゃ駄目だってルールは無かった筈でち」 しれっと言いながら物置の外へ出た。

埃の臭いに変わって、涼しい潮風の匂いがした。伊58は大きく息を吸い込んだ。

深呼吸をしてすぐに、携帯端末から顔を上げると、にひひっと笑う伊19と眼が合った。

 

「蟲達への攻撃はOKだって許可が出たのね! 

ゴーヤも、中々……アグレッシヴなの~♪」

 

伊19は、伊58と呂500が持つ鎌やらチェーンソーを見て、楽しげに笑っている。こういう時の伊19の笑顔は、いつも通りで凄く安心する。

その隣で、ATMに似た端末を操作する伊8の方も、伊58と呂500が持つ物騒な装備品を見比べて、苦笑を漏らしていた。

 

「此処の端末から問題に挑戦するように伝えたら、みんな賛成してくれたよ。

 安全なうちにチャレンジしてみてだって。正解すれば蟲の数は20%減るみたい」

 

「まぁ、はっちゃんだからこそ“チャレンジしてみて”って流れになったんだろうけど。

 これがイクだったら多分、“絶対やるな”って言われてたのね~」

 

「それは、どうかちょっと分からないけど……。結構な賭けだと思う。

答えを間違うと、蟲の数が10%増加するのが、今回のルールだって。

制限時間は5分。端末に答えを入力出来なければ、その時点で不正解扱いになるって」

 

 

 つまり、問題を解いている最中に蟲に襲われても、タイムカウントは止まらない。

リターンもソコソコだが、それなりに隙を曝すことになる訳か。じっとしている5分は長い。

それでいて、知能系の問題を解く為の5分ならば短く感じるだろう。

伊58は周りの様子を窺う。蟲達の気配は無い。金属音は聞こえるものの、かなり遠い。

今の状況なら、伊8にお願いしても行けるか。いや、確かにこれは賭けだ。

勝負に行かないと勝てない。「皆からもGOサイン出てるし、はっちゃんにお願いするでち」

伊58は言いながら、伊8に頷く。伊8は、うん……! と、しっかりと頷いてくれた。

ATMに似た端末に向き直った伊8が、その手元のディスプレイに触れる。

 

 伊8が選択したのは、判断推理の5択問題。公務員試験レベルの問題だ。

見た感じでは、内容も其処まで捻ったものでは無い。スタンダードな内容だった。

我等がはっちゃんなら、これくらい楽勝だろうと、伊58と伊19は顔を見合わせる。

少し早いが、ハイタッチでもしようとした時だった。伊58達に影が落ちた。斜め上から。

物置の屋根だ。えっ、と顔を上げる。眼が合う。分かり難いが、それは複眼だった。

蟲。しかもとんでも無く大きい。カマキリだ。何時の間にこんな距離まで。近過ぎる。

此方を覗き込むようにして、物置の上から身を乗り出しつつ、首を傾けていた。

人間サイズよりもっとある。車くらいだろうか。体型の所為もあって、かなり背が在る。

 

 

「ひっ!!?」 伊8が尻餅を付いた。伊19と伊58が後ずさる。

反応が遅れたのは、二人の傍に居た呂500だった。

 

 悲鳴も上げずに身体を硬直させた呂500は、手に持っていた鎌や剪定鋏を取り落とす。

カマキリがそっちを見た。其処からの動きは疾かった。初動が見えなかった。

音も無く鎌状の前脚を伸ばしながら、呂500を攫うようにして伊58達の前を横切った。

身構えてすらいない、隙だらけの呂500がまず狙われたのは、道理だ。

今はカマキリに抱え上げられるような体勢の呂500だって、見えていなかった筈だ。

気付いたらカマキリの腕の中に居た、という感じだろう。

ただ、カマキリの鎌状の前脚には刃が無い。ツルツルだ。おかげで、呂500は無傷だ。

しかし、無事かと言われれば微妙だ。絶体絶命に近い。

自分の状況を把握した様で、呂500の目が見開かれて、恐怖で貌が引き攣っている。

伊58達を見詰めて揺れる瞳は潤んでいるし、カチカチと歯が鳴っていた。

伊58も伊19も同じだ。カマキリの巨体に呑まれている。彼我の距離は、5m程度。

カマキリも、58達を見詰めたままだ。如何動く。襲ってくるか。向って来るか。

それとも、呂500をだけを連れて行く気か。カマキリも伊58達も動かない。

睨み合うままで数秒が過ぎる。『残り時間、あと3分』という、電子アナウンスが聞こえた。

ATMに似た、あの端末からだ。こんな状況で、問題なんて解けるか。

 

伊58は激しく後悔する。せっかく此処まで気を張っていたのに。

問題を伊8が解けそうな感じだったので、油断した。大失敗だ。すぐに此処から離れるべきだった。

カマキリに捕まったままの呂500と目が合う。呂500は、貌を引き攣らせながらも笑って、小さく唇を動かした。

に。げ。て。で。っ。ち。呂500の震えた声が、小さく小さく聞こえた。

か細く震えた蚊の鳴く様なその声に、伊58は唇を強く噛んだ。

 

 まだだ。まだ失敗じゃない。ミスじゃない。此処からだ。

出来る事は? 何が出来る? 全員で逃げるには? 今、この瞬間だけは、戦うしかない。

「はっちゃんは、問題を頼むでち……」カマキリを刺激しないように、伊58は伊8の方を見ずに、カマキリを見据えたままで小声で言う。

えぇっ!?、と。伊8が声を漏らすのを聞きながら、唾を飲み込む。カマキリはまだ動かない。じっと此方を見ている。距離は近い。

伊58は、手に持っていた芝刈り機とチェーンソーを、ゆっくりと屈みつつ地面に置いた。そして体勢を戻しつつ、横目で伊19を見る。

ついでに、呂500が落とした鎌を一瞥して見せた。鎌は、伊58達とカマキリの、丁度中間辺りに落ちている。伊19に、伊58の思惑が伝わったか。

伊19は伊58にウィンクして見せて、ペロっと唇を舐めながら、姿勢をすっ……と落とした。伊58も、ゆっくりと、しかしグッと低く重心を落とす。

 

 

 空が青い。風が吹いている。伊58は、上着のセーラーをゆっくりと脱ぎ、手に持つ。

髪が揺れるのを感じる。遠くで鳴る、金属音。コンクリートの感触が脚の裏にある。

泣きそうな貌の呂500が、伊58と伊19を見ている。伊8が端末を操作する気配。

神経を研ぎ澄ます。集中する。呼吸を合わせる。先手を取る。或いは、後の先を打つ。

カマキリが後ろに下がろうとした。そのタイミングを潰す。伊58と伊19は飛び出した。

 

 伊19が前、伊58が後ろだった。一気に距離を詰める。

低姿勢で駆ける伊19が、地面の鎌を拾い上げつつ、身体を捻りながらカマキリに迫る。

それを追いかけて、伊58も鎌を拾って手に持ち、ついでに傍に落ちていた剪定鋏も拾う。

鋏は横向きに口に咥えて、伊19と交差するようにジグザグにカマキリへと肉薄する。

カマキリの方は、どちらに狙いを定めるか一瞬だけ迷った。そこを衝く。

サイドステップで惑乱しつつ、伊19が鎌を振り被る。カマキリが前脚を出してくる。

カマキリは片方の前脚で呂500を抱えている。だから、片腕だった。だが、流石に疾い。

伊19が鎌を振るよりも遅かった癖に、カマキリの前脚は伊19の持つ鎌を弾いた。

身体の軸がぶれて体勢を崩された伊19は、そのまま倒れるが受身を取ってすぐに立ち上がる。

離脱すべく、鋭くバックステップを踏んだ。その伊19を追おうとしたカマキリに、今度は伊58が迫る。カマキリも気付く。

だが、伊58はかなり冷静だった。右手に鎌。左手に、脱いだセーラーを持っている。

万全の体勢だ。一方で、カマキリの方は、伊19を追おうとして体が泳いでいた。勝機。

伊58は迫りながら、鎌で斬りかかるのでは無く、カマキリにパスした。鎌を、ふわっと放ったのだ。

勿論、呂500には当たらない角度だ。放物線を描いている。カマキリの目が、鎌を見上げた。飛んでくる鎌を、カマキリは弾こうとする。

そのカマキリの動作へのレスポンスとして、伊58は身体を倒して一気に加速する。自分が投げた鎌の下を潜って、追い越す。上を向くカマキリの懐へ飛び込んだ。

ついでに、その巨体をタタタンッ! と駆け上がる。カマキリが鎌を弾いたのと同時だ。

カマキリに肩車されるみたいな位置まで上った伊58は、口に咥えていた鋏を右手で持ち直す。

そして左手に持っていたセーラー服を、カマキリの顔にズボーーッと着せてやった。

カマキリの動きが強張る。その刹那の間に。58は剪定鋏を両手で持って振り上げていた。

 

「ろーを放せでち!!」

 

 伊58は言いながら、肩車状態になっているカマキリの脳天に剪定鋏をぶち込んだ。

それも一発とか二発じゃない。全部で五発。ガッツンガッツンと思うさま叩きこんだ。

GITITITITITIiiiiiiiiiiiZitititiititititititititititititittititititititit……!!!! 

カマキリは悲鳴にも似た金切り声を上げて、身体を痙攣させた。

「ひゃあああああ……!!」そのカマキリの前腕から、呂500がずり落ちる。

 

 だが、呂500が地面に落ちる事は無かった。

問題を解き終えた伊8が滑り込んで来て、呂500をガッチリとキャッチしたからだ。

伊8は呂500を抱えたまま、すぐさまカマキリから離れる。

それを確認した伊58も、カマキリの肩から飛び降りて距離を取った。

セーラー服を被せられたままのカマキリが、前腕を伸ばしてきたからだ。

視界を塞がれたカマキリの前腕は、もう誰も居ない己の肩辺りを彷徨っている。

其処へ、トドメとばかりに走り込んで行ったのが、伊19だ。

手にはドゥルルルルルンッ!!っと、低い呻りを上げるチェーンソー。

バックステップでカマキリから離れてすぐ。

追撃の機会を伺っていた伊19は、地面に置いたチェーンソーを装備していたのだ。

 

「イックのォーーーー!!」

 

 伊19はいつもの悪戯っぽい笑顔をちょっと凶暴に歪めながら、走り込んで、大きく踏み込む。

カマキリの横合いを走り抜けて抜けていく要領で、その胴体へと、思い切りチェーンソーを叩き込んだ。

フルスィングだった。金属が切断される甲高い音と火花が盛大に散る。ズバァァアアアアアっと行った。カマキリの胴体が、綺麗に両断された。

ズシィィ……ン!! と、金属カマキリの上半身が地面に落ちる。身体ごとチェーンソーを振り抜いた伊19はつんのめったが、何とか耐える。

カマキリの上半身と下半身は、少しの間ジタバタしていたが、すぐにピクリとも動かなくなった。

 

 静寂が訪れた。伊58もその場に座り込んで、大きく息を吐き出す。

思い出した様に、身体に震えが来た。鼓動が暴れている。それは皆、同じ様子だ。

見れば、伊19はチェーンソーのエンジンを切って、ぺちゃっと地面に座って放心状態になっていた。

伊8は空を見上げて何だかボーっとしているし、降ろして貰った呂500の方も、両腕を胸の前にぎゅっと置いて、カマキリの残骸をじっと見詰めている。

呼吸を整えて、伊58は立ち上がる。傍に居た伊19に歩み寄って、手を引いて立ち上がらせた。ついでに、チェーンソーを持ってやる。

伊58と伊19は、伊8と呂500の前まで移動して、二人でニッと笑った。「やったでち!」 「成し遂げたのね!」 伊8も、二人に釣られて笑った。

そんな3人を順番に見た呂500は、助けてくれた皆に礼を言おうとしたようだ。だがその途中で、その可憐な貌がくしゃくしゃになった。

 

「み、みんな、ろーの為に、あ、あり、……ぅ、ありが……、ふぇ……っ」

 

「潜水艦は、皆仲間だからね! 気にすんなでち!」

 

 笑顔で言いながら、伊58は右手でチェーンソーを担ぎ、左手の人差し指で鼻の下をこすった。

伊58の言葉に、「うぇぇぇぇ……、でっちぃ~……!」と、呂500が大泣きして抱き付いた。伊58は、呂500の頭をよしよしと左手で撫でてやる。

改装を受けて明るくなった振る舞いも、“郷に入っては郷に従え”の部分もある。本来の呂500の本質には、U‐511であった時の、少しの臆病さや大人しさも混在している。

今では潜水艦のメンバーにしか見せない、呂500の素顔のようなものを強く感じて、伊58は軽く、しかし優しい溜息を吐きだした。

 

「……もう今日は“でっち”で良いから。だから、そろそろ資材置き場の方へ行くでち。

ぐずぐずしてると、またカマキリに襲われるでち」

 

 伊58が呂500を宥めている間に、伊8が端末を操作し、パスワードを入力してくれていた。伊19は、置いてあった芝刈り機を担いで持ってくれている。

そうこうしている内に、遠くに在った筈の音が、少しずつ近づいて来る。蟲の群れだ。多い。離脱すべきだ。物置に隠れようと思ったが、この人数では厳しい。

カマキリが一体だったから対峙したものの、あれが二体だったら全滅していただろう。幸運は二度も続かない。伊58は呂500の手を引いて、駆け出す。

洟を啜り、涙を拭った半泣きの呂500が、全幅の信頼を込めてぎゅっと手を握り返してくるのが分かった。その小さな手に込められた気持ちが、何だか気恥ずかしかった。

伊19と伊8が此方を見て、何やら楽しげにヒソヒソと言い合う声が聞こえてくる。伊58は呂500の方を振り返らず、資材置き場を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪赤城@akagi1. ●●●●●≫

アナウンスです。

只今、伊8さんが判断推理の五択問題をクリアしました。

ミッションクリアです。パスワードの入力も終えられました。

よって、鬼である蟲の数を20%回収します。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

潜水艦もやりますねぇ! 

しかも、蟲も一匹倒してんじゃーん!

これって、勲章ですよぉ?

 

 

≪摩耶@takao3.●●●●●≫

マジかよ! やるなぁ!

 

 

≪足柄@myoukou3.●●●●●≫

これで一歩前進ね! 

 

 

≪長門@nagato1.●●●●●≫

胸が熱いな!

 

 

≪赤城@akagi1.●●●●●≫

アナウンスです。

只今、ビスマルクさんが、人文科学分野の五問全てを間違いました。

ミッション失敗です。よって、鬼である蟲の数が10%増加します。

 

 

≪赤城@akagi1.●●●●●≫

続けて、アナウンスです。

只今、金剛さんが、人文科学分野の五問全てを間違いました。

ミッション失敗です。よって、鬼である蟲の数が、更に10%増加します。

増加量は、小数点繰上げです。

 

 

≪長門@nagato1.●●●●●≫

 

 

≪天龍@tenryu1.●●●●●≫

無情過ぎんだろ! ほぼ振り出しじゃねーか!! 

 

 

≪ビスマルク@bismarck1.●●●●●≫

いや、あの、ホント……

 

 

≪金剛@kongou1.●●●●●≫

Sorry…….

 

 

≪吹雪@fubuki1.●●●●●≫

数的処理とか知能系ならともかく、

お二人は何で知識系の問題にチャレンジしようと思ったんですかね……

 

 

≪金剛@kongou1.●●●●●≫

何と言うか、イケると思ったんデース……

 

 

≪ビスマルク@bismarck1.●●●●●≫

同上

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

仲間達の出した良い結果に、悠々とカウンターぶち込むのは気持ち良いかァお前らぁ!

……まぁ、実際のところは脱落者がまだ出てないから、状況自体は五分なんだよなぁ。

とは言え、蟲の数も時間経過で増えるし、そろそろお前らもキツくなってくるゾ。

 

 

≪赤城@akagi1.●●●●●≫

アナウンスです。 

加賀さんが、埠頭での『加賀岬』の独唱を終えました。

ミッションクリアです。パスワードを添付したメールを送りました。

 

 

≪赤城@akagi1.●●●●●≫

続けて、アナウンスです。

正しいパスワードが入力されました。蟲達の20%を回収します。

 

 

≪加賀@kaga1.●●●●●≫

鎧袖一触よ。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

こんな状況でもしっかり『デデン岬』歌いに行くとか、こいつ相当変態だぜ?

なんとか言えよ。

 

 

≪加賀@kaga1.●●●●●≫

『デデン岬』ではありません。『加賀岬』です。

 

 

≪葛城@.unryuu3. ●●●●●≫

埠頭倉庫の傍に端末がありましたので、パスワードの入力も終えました!

私も、皆と一緒にズイズイ出来て楽しかったです!

 

 

≪天龍@tenryu1.●●●●●≫

何処でテンション上げてんだよ……。

加賀達も無事そうで何よりだけど、どんだけ楽しんでんだ。

空母組やべぇな、強過ぎるぞ。

 

 

≪摩耶@takao3. ●●●●●≫

でも、頼りになるのは流石だよな!

周りに蟲も居ないから、アタシ達も動くぜ! 

妙高さん達とも合流したし、地下の動力室フロアに向う。

失敗ペンギン見つけて、蟲の数を減らしてやるよ!

 

 

≪深雪@fubuki4. ●●●●●≫

こっちは吹雪型、綾波型で集まってんだ。今は、皆で提督の執務室に向ってる。

蟲なんか深雪スペシャルでイチコロ、って言いたいところだけど、

危なくなったら全員で逃げるから安心してくれ。ちょっと様子を見てくる。

あわよくばワンチャン、失敗ペンギン見つけてくるぜぇ!

 

 

≪暁@akatuki1. ●●●●●≫

間宮さんから、オヤツ用に羊羹も持たせて貰ったわよ。

響、雷、電、それから鈴谷さん、熊野さんと一緒に、今から野獣司令官の執務室に向うわ。 

あと、今から資材置き場に向う人が居たら気を付けて、何か蟲が一杯そっちに向ってる。

 

 

≪赤城@akagi1.●●●●●≫

間宮さんの羊羹ですか。オヤツの時間が楽しみですね。アナウンスです。

満潮さん、扶桑さん、山城さん、霞さん、朝潮さんが脱落しました。

資材置き場に向う途中だった様です。

 

 

≪天龍@tenryu1.●●●●●≫

ゲッ!? マジかよ!? 

 

 

 

 

 

 

 これを皮切りに、他にも脱落者が続出した。事態が大きく動く。展開が早い。

時間経過での、鬼である蟲の増加に加えて、蟲達の動きが一層機敏になった気がする。

艦娘達は油断している訳じゃない。気を張っている。それでも、限界が在った。

走ればバテるし、緊張が続けば気力だって消耗していく。解消しなければ、疲労は溜まる。

艦娘としての力を顕現する艤装召還を封じられている所為で、余計だ。

だが、文句を言っていても始まらない。出来る事、打てる手を探し、実践するしかない。

陽炎は手に持った携帯端末に電子マップを表示しつつ、大講堂の裏口に滑り込んだ。

その後に、皐月、長月、曙、霰が続く。

 

土足は駄目である為、靴を脱いでから広々とした大講堂の中へと入ってすぐ、陽炎達は全員で一息つく。

蟲達が少ない方、少ない方へと陽炎達は移動しつつ逃げ延び、攻勢の機会を伺っている。この講堂を目指したのも、蟲達の気配が無かった為だ。

 

 

 

「長門さん達も、こっちに向って来てるみたいだね」

息を弾ませながら言い、皐月は端末を操作する。

 

「提督達も一緒だって……」

端末を見詰める霰が、深呼吸をしてから陽炎に向き直った。

 

「蟲の数は増えるのに此方の数が減るというのは、一気に形勢が変わるな」

窮屈そうに言った長月は、ふぅー……、と長く息を吐き出して、呼吸を整えている。

 

「こっちが一人減って蟲が一匹増えたら、単純に差は倍だからね。

 仮に3対3が2対4になったら、全然意味が変わって来るもの……。

っていうかさぁ、……私達、何でこんなの真面目にゲームしてるんだろ……」

曙が溜息交じりに言いながら、額の汗を腕で拭った。

 

「まぁ、クリア報酬は魅力的だけどさ……、単純に捕まりたくないもんね」 

おまけに罰ゲームまであるみたいだしさ、と。緩い声で付け足し、陽炎も苦笑を浮かべて言う。

 

そんな風に軽口を叩きながら、取りあえずと言った感じで、全員が呼吸を整えた時だった。陽炎達が出て来た裏口からの反対方向。講堂の表入り口の方から、誰か来た。講堂への扉が開いたのだ。

タイミング的に長門達だと思った陽炎達がそちらへと向き直り、全員で身体を硬直させる。

「えっ……」と、誰かが声を漏らした。静かな講堂の広い空間に、その声はやけに響いた。

 

 表玄関からの大扉を開けて入って来たのは、男だ。

身長がかなり高い。幅も厚みも在る。巨漢だ。無骨で、巨大な何かを被っていた。

兜にしては大き過ぎる四角錘だ。正面から見ると、見事に三角形だ。▲頭である。異形だ。

身に付けているベージュ色の貫頭衣は、処刑装束か何かなのだろう。

黒いブーツを履いている。服装の上も下も、どす黒い血に塗れ、酷く汚れていた。

更にその右手には、人間の大人くらいの大きさの在る、大振りの鉈。

それを引き摺るように持つ、筋骨隆々で太い腕も血塗れだ。

ただ、明らかに自分の血じゃない。返り血だ。なんて凄惨な出で立ちだろうか。

纏っている雰囲気が尋常じゃない。呑まれてる。動けない。蟲の方がまだマシだ。

間違い無い。明らかにヤバイものと遭遇してしまった。陽炎を含む、全員がそう思った筈だ。

 

▲頭も、陽炎達に気付いた。こっちを見た。次の瞬間だった。

いきなりだった。▲頭が、ダッシュした。ロケットスタート。走り出したのだ。

此方に向って。陽炎達は一斉に回れ右をして、駆け出す。

 

「だぁぁぁああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 全員が叫んで逃げる。講堂を駆け抜けて、来た道を帰る。

というか、こっちしか逃げ道が無い。

フロアから通路へ駆け込む。通路は広く無い。

先頭に皐月、長月、霰、潮、曙、陽炎の順で走る。

通路入り口の近くに、パイプ椅子が幾つか置かれていた。

陽炎は咄嗟にそれを二つ、走りながら両手に引っ掴んでから、肩越しに振り返った。

見るんじゃ無かった。▲頭さん……、疾っ……!! 脚、疾ッ……!!!

あんな重そうな大鉈持って、何でそんな疾く走れんの!? 追いつかれるって……!!

そんな風に、陽炎達が必死に暗がりの通路を掛けていると、裏口が見えて来た。

 

しかし、▲頭もすぐ背後だ。

扉を開けて、外に出るまで僅かな時間。そのタイムラグの間に追いつかれてしまう。

一秒で良い。刹那の隙を作る。その為に、殿である陽炎は急ブレーキを掛ける。

手にしたパイプ椅子を握り込む。振り向きざまに、右手に持ったパイプ椅子をぶん投げる。

続いて、左手に持っていたパイプ椅子も放り投げた。

▲頭は、最初に投げつけられたパイプ椅子を、大鉈を振り抜いて叩き落とす。

二つ目のパイプ椅子は左手でぶん殴って弾かれた。だが、それで良かった。

本当に一瞬だったが、▲頭のスピードが落ちた。その隙に、皐月達が外へ。

 

「陽炎!!」 曙の声が聞こえた。「分かってる!!」 陽炎はこたえて、コイツが本命とばかりに、足元に備え付けられていた消火器を持ち上げて、ぶん投げた。

思いっきり投げつけた消火器を、▲頭は大鉈でばっさり行った。おかげで、消火器が爆発したみたいに白い粉を撒き散らす。

煙幕にでもなればと思いつつ、陽炎も曙達に続いて外に駆け出し、逃げる。また肩越しに背後を見遣る。▲頭は、全然怯んだ様子も無く追っかけてくる。勘弁してよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

≪赤城@akagi1. ●●●●●≫

アナウンスです。

暁さん達が、オヤツとビールを無事、執務室まで届けてくれました。

ミッションクリア×2です。両方のパスワードの入力も済んでいます。

蟲達を20%回収し、その後、更に20%を回収します。

 

 

≪熊野@mogami4. ●●●●●≫

やりましたわ! これで、大きく有利な状況が造れたのでは無いかしら?

 

 

≪鈴谷@mogami3. ●●●●●≫

暁ちゃん達、凄く頑張ってくれたよー! 

良い流れ掴んだねー、コレは!

 

 

≪赤城@akagi1. ●●●●●≫

続けて、アナウンスです。

地下フロアの動力室区画に向った摩耶さん達が、全滅しました。

提督の執務室に向った深雪さん達も、同じく全滅です。

正確な人数の把握と確認が出来次第、またお知らせさせて頂きます。

 

 

≪球磨@kuma1. ●●●●●≫

クママッ!?

 

 

≪多摩@kuma2. ●●●●●≫

やばいニャ……、やばいニャ……

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

蟲の数も減ったけど、艦娘達の数も大きく減ったなぁ……。

 

 

≪提督@Admiral.female. ●●●●●≫

いや、全滅って……。何が起きたのよ……。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

まぁ、人型の追跡者も頑張ってくれてるから、多少はね?

どう? このままだと、蟲達の自然増加数にも圧倒されちゃうよ?

大丈夫そう?

 

 

≪提督@Admiral.female. ●●●●●≫

今のままで状況が推移すれば、そっちがほぼ勝ち確でしょ

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

おっ、そうだな。其処で提案あんだけどさぁ……。ちょっとハンデ上げるよ?

 

 

≪提督@Admiral.female. ●●●●●≫

ハンデですって?

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

そうだよ。ちょっとずつ状況も煮詰まって来つつあるし、丁度良いでしょ?

このまま一方的に全滅させるのも面白く無いし、多少はね?

 

 

≪長門@nagato1. ●●●●●≫

御託は要らん。先を話せ。

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

今のルールは“時間内での逃げ切り”だけど、

“条件を満たしての勝ち切り”のルールを加えてやっても良いゾ。

ついでに脱落者の全員を含めて、合同勝利にしてあげるよ?

 

 

≪吹雪@fubuki1. ●●●●●≫

私達にとって都合が良すぎませんか。凄く怪しいんですが……。

 

 

≪瑞鶴@syoukaku2. ●●●●●≫

何を企んでるんですか? 

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

別に何にも企んで無いゾ。ただ、単純に盛り上がりに欠けるんだよなぁ……。

このまま蟲だけ増やして行って、お前らの行動を締め上げるだけってのもさぁ。

レクリエーション的に考えて、何か足んねーよな? 

 

 

≪陽炎@kagerou1. ●●●●●≫

もう既にレクリエーションの体裁を成してないと思うんですけど。

私達に何をさせようって言うんです? 

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

だからそんな身構えんなっつってんじゃねーかよ? 

やる事なんてそんな変わらないから、安心して、どうぞ。簡単だから! 

取りあえず蟲共の半分は、追跡者として人型にしといてやるからさ。

 

 

≪長門@nagato1. ●●●●●≫

さっき言っていたジェイソンやら着ぐるみやらの事か?

やめてくださいおねがいします

 

 

≪野獣@Beast of Heartbeat≫

おっ、そうだな。まぁ、クソデカ蟲共を相手にするよりはマシだルルォ? 

“勝ち切り”のルールは、『時間内に、全ての端末へのアクセス』でOK? OK牧場?

簡単だから、へーきへーき! パパパッとやって終わりッ!

その分、隠れっぱなしとかのネガティブプレイはNGだから。

頑張ってフィールドを駆け回ってくれよな~

 

 

 


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