名探偵 毛利小五郎   作:和城山

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自分のミスにより、予約投稿日時がずれておりました。
先刻にアクセスしまして、ようやく気付きました次第でございます。
楽しみにしてくださっていた方々には、大変なご迷惑をおかけいたしました。本当に申し訳ございません。
とりいそぎ投稿とさせていただきます。


10.一歩

 

 

 

 

 土曜日の放課後に巻き込まれた事件。それから一日が過ぎて、月曜日。

 カーテンから漏れる朝日を浴びて、妃英理は静かな眠りから目を覚ました。

 

「……ん、ふぁ……」

 

 ゆるゆると起き上がり、小さく伸びをする。目じりに小さく涙が溜まった。

 そのまま、少しだけ布団の上でぼうっとする。

 15歳の彼女は、子供から大人への変遷、そのさなかにあって、少女のあどけなさを残しつつも鋭い美貌の前兆が少しずつ現れ出ている。当たりの強い性格もあって普段はそのうち後者の印象が前へと出ている彼女だが、若干に寝ぼけ眼の現在はそれが鳴りを潜め、代わりに年齢相応の幼さがあった。

 

「……うん」

 

 小さくうなずくと、英理は枕元から眼鏡をとってベッドを降り、自室から出て行った。

 洗面所にて顔を洗い、鏡を見る。

 先ほどまでと一転して、そこには普段の鋭そうな瞳があった。

 完全に目が覚めた彼女は、身だしなみを整えたのち一階へと降りてゆく。

 

「おはよう」

 

 朝食を用意していた母親へと声をかけ、食卓へとつく。壁の時計を仰げば、学校へ行くにしても少しと言わずに早い時間であるが、彼女にとってはこれが日常だった。登校する前に寄る場所があるからだ。

 

 ――そう。隣に住む幼馴染のところに。

 

 そこまで考えたところで、母親がハムエッグとトーストを持ってくる。と、そこで彼女の顔を見て、ふと尋ねた。

 

「あら、どうしたの英理。今日ってなにかあったっけ?」

 

 言われて、伸ばした腕が瞬間だけ固まるも、すぐに何でもないかのような顔をして英理はそのまま皿を受け取った。

 

「別になにもなかったと思うけど。どうして?」

 

 言う彼女に、母親は不思議そうに頬へ手を当てながら、つぶやく。

 

「なんだか、いつにもまして気合が入ってるように見えたから……」

 

 対して英理はトーストにマーガリンを塗りながら、

 

「ふうん。そう?」

 

 すげなく返した。それに母親も、「気のせいだったかな……」とこぼしながらキッチンへと戻っていった。

 そしてその背を横目に、英理は内心でさすがは親だと舌を巻く。

 というよりも自分は、そんなにわかりやすかっただろうか。

 マグカップの水面に映る自分を眺めるも、普段と変わらぬように見えるが。

 自身ではわからずとも、人から見ればわかるものなのかもしれない。

 とすれば、これから会う彼も……。

 

 そんなことをつらつらと考えながら、トーストへとかじりつく。常よりも1.5倍ほどに素早い動作で、若干に急いでいるのだろう様子がはた目にはわかる。

 そう。母親の言ったことは当たっていた。

 英理はこの日、普段よりも何割増しかで気を詰めていた。固めた決意が、彼女の雰囲気を更に鋭くさせている。

 

 事件に遭遇した土曜日から一日。昨日をすべて思考の時間へと割き、考えに考え悩んだ結果。

 彼女は、ある決意をしたのだ。

 

 それらの向かう矛先、否、目標は一人しかいない。

 

 隣に住む、近頃に様子のおかしい幼馴染である。

 

 

 

             ◆

 

 

 

「英理ちゃん来てるよ! さっさと起きな!」

 

 母親のそんな言葉により叩き起こされた小五郎は、用意されていた朝食をかきこむと、そのまませかされるようにして家を出た。

 そして道に出てしばらくしたところで、普段よりも時間が早いということに気が付いた。

 制服を着た者もたまに見かけるが、それらは部活動の朝練へと向かう様子であくせくと去ってゆく。小五郎たちのようにゆったりと歩く者は皆無だった。

 

 ふと、隣を歩く少女を横目に見る。

 黒地のセーラー服を纏い、編み込んだポニーテールをうしろへと流している。広い黒縁の眼鏡をかけた、利発そうな顔つきの少女。

 妃英理。

 隣の家に住む幼馴染で、そして小五郎の認識では未来の己の結婚相手であるが。

 

 そんな彼女は、この日、いつにもまして様子がおかしかった。

 

 今朝に邂逅してから極端に言葉数が少ない。というよりも無言である。

 過去の世界にやってきたという認識の小五郎のほうで対応に悩んだこともあり、彼女も小五郎の変化になにか不審を覚えたようで、ここしばらくはどこか気まずげな雰囲気になってしまっていたわけなのだが。

 それでも毎朝毎夕の登下校は一緒であったし、会話も探り探りではあったものの、普通に交わしていた。

 

 それが、しかし今朝はない。

 

 思えば、そもそも現在に彼らが常より早く出立している事態だって彼女の誘導に違いなかった。小五郎の準備を言葉少なくせかしたのは彼女であるし、逆算すれば彼の家にやってきた時間だって普段よりも早いはずだった。

 小五郎の母親は英理を全面的に信頼しているため、彼女が急ぐならばそれは時間が押しているのだろうと盲目的に疑問を持たなかったし、小五郎自身も外に出るまで気づかなかった。

 

(どうしたんだ、こいつ……)

 

 小五郎がそう疑問をもったところで、唐突に英理が立ち止まった。

 分かれ道である。

 つられて止まり、振り向くと、

 

「……ついてきて」

 

 そんな言葉を静かに残して、彼女は右の道へと進んでいった。

 

「え、あ、おいっ……」

 

 思わず手を伸ばすも空を切る。

 中学校へと続く道は左だった。右の道は、また別の方向である。

 

 数瞬だけ左右の道をきょろきょろとしたのち、小五郎もそのあとを追いかけた。

 幸いにして――というよりかは英理の故意なのだろうが、授業の開始まで時間はまだまだ余っていた。

 何を思っての行動かはわからなかったが、彼女と共に道草をする程度の時間は十分にあった。

 

 

 

 

 英理に連れられてきた場所は、河川敷だった。

 比較的に近所の、堤無津川支流の畔である。ここからならば学校までもそこまで遠いわけではなかった。

 まだ朝早いうえに、広いわけでもないそこには現在、全く人気がない。

 向こう岸の土手を、犬を散歩しながらジョギングしている人が一人過ぎてゆくが、それだけである。

 

 英理はあまり高くない土手を登りきると、その向こう側の斜面へと腰を下ろした。

 少し前の分かれ道においてついてこいと言ったあれきり、ずっと黙り込んだままである。

 

 小五郎も少しだけ逡巡したのち、同じようにしてその隣へと座り込む。

 とはいえ二人の間には、人ひとり分ほどの間があった。

 

 そのまましばらく、沈黙が続いた。

 道中と同じで英理に口を開く気配はない。

 その顔を横目で見ても、小五郎には彼女が何を考えているのかまったくわからなかった。

 

(なんだって、こんなところに……)

 

 困惑するばかりの小五郎がそんなことを思ったところで、ぽつり、とようやく英理が言葉をこぼした。

 

「……失敗したわ」

 

 彼がそちらを向けば、彼女はいたって真面目そうな顔で小さく続ける。

 

「朝露でスカートが濡れちゃった……」

 

 小五郎は反応に困った。

 そのまま黙っていると、英理は間をおいて今度こそ話を始めた。

 小五郎は彼女を横目で眺めていたが、彼女は終始してずっと川面かなにかを見つめたまま目をそらさなかった。

 

「……ねえ、覚えてる? 子供のころ、ここで遊んだこと」

 

 唐突な問いかけに、困惑しっぱなしの小五郎も小さくうなずく。

 

「あ、ああ……」

 

 彼の視線も、斜面の下の河川敷へと流れる。大人が一人寝そべることができる程度の幅のそこは、けして広い場所ではない。が、それでも体の小さな子供にとっては不自由なく遊べる程度には広かったことを覚えている。

 

「……落としたボールを追いかけて、あんたが川に落ちたこともあったわね……」

 

 そんなことも、あっただろうか。考えると同時にふと思い浮かび、ああ、あったな……と小五郎もうなずいた。

 その反応を待つかのように少しだけ間をおいてから、英理は、

 

「ねえ、……」

 

 静かに本題を切り込んだ。

 

 

「――あんた、最近変わったわよね」

 

 

 ……どきり、と小五郎の体が固まった。

 ここまで考えなかったわけではなかった。いや、考えないようにしていた。……やはり、今日のこれはそれについての話なのか――。

 知らず知らずに彼の息は止まっていた。思考がまとまらない。

 

「なにか、悩んでるでしょ。それで――」

 

 ふと視線を感じて思わず横を向けば、英理が彼の顔を凝視していた。

 二人の視線がかち合う。

 

「それで、なんでか私を避けてる」

 

 ざあ、と二人の間を微かな風が通り過ぎた。堤防の草がさあさあと揺れ、どこからか鳥の鳴き声が聞こえたが、しかし二人は固まったように微動だにしなかった。

 揺れる小五郎の瞳と、強い意志の籠った英理の瞳が、合わさったまま動かない。

 ……動かせなかった。

 

「そ、れは……」

 

 震えるようにして、小五郎の喉奥から声が漏れる。

 が、そこから先は続かない。

 つい先日に、同じような状況で友人(瑠璃)は言った。

 

 自分が自分であることに変わりはない。

 

 ……その言葉は、たしかに悩み続けていた小五郎の心を救った。

 しかし、当の本人に面と向かって詰め寄られてもなお、心を揺らさずにいられるかといえば、その限りではなかった。

 

 小五郎の脳裏に、すでに克服したと思っていた妄想染みた懸念が再び浮かび上がる。

 過去の、この時代の当時の己はどうなったのか。それをもしも彼女に知られた場合はどうなってしまうのか。

 

 ――やはり、すべてが過去のこの世界において、自分は異物でしかないのか。

 

 そんな様々な思いや考えが混沌となって頭の中を駆け巡る。

 あまりの動揺からか、いつの間にか息は浅く多く繰り返していて、視界は揺れ始めた。

 それでも外せない視線の向こう、確固とした意志で外さない少女の瞳が、まるで己を糾弾するものであるかのようにさえ思え始めてくる。

 

「……それ、は……」

 

 震える声。揺れる視界。乾いた喉。少女の瞳。

 吐き気さえ覚えて、視界が、思考のすべてが、黒く塗りつぶされようかというそのとき――

 

 

「――……てよ」

 

 

 少女が小さくつぶやいた。

 そしてその言葉が耳に入って、理解して、そして……小五郎もまた声を漏らす。

 

「……ぇ?」

 

 気づけば目の前の少女の目じりには小さな涙が溜まっていて。

 彼女は再び繰り返した。

 

 

「――相談してよっ!!」

 

 

 先ほどよりも大きな声だった。感情の発露された、そんな声。

 さっきまで抑圧した淡々とした静かな語りであったために、それだけその言葉に込められた思いがよく伝わった。

 

 心配。不安。寂寥。

 それらの思いが、耳を、目を、すべてを通して小五郎の心へとダイレクトに伝わった。

 

「幼馴染でしょ!? 相談しなさいよっ!! そんな、辛そうに、なんで溜め込むの!? なんで! なんで私を避けてるの……」

 

 そう言って、彼女は――少女は――英理は、強い瞳で小五郎をにらみつける。

 口を固く閉ざし、目元に溜まる涙は今にも決壊しそうで。

 

 そして。

 気づいたとき、小五郎の震えは止まっていた。薄暗いなにかで覆われそうになっていた視界が、思考が、綺麗にまっさらな状態へ回復していた。

 先ほどに彼女の呟きを聞いてからずっと、唖然としたような顔で固まっている。

 

 同時に。

 

(――……ああ、そうか)

 

 ようやく、理解した。

 なぜ、自分がこの少女にずっと居心地の悪さを覚えていたのか。

 なぜ、手探り染みた対応しかできていなかったのか。

 

 ――つまりは、己のほうだったのだ。

 

 この過去の世界に来て以降(まだ数日しか経っていないが、とりあえずのここしばらく)、状況を受容しようとしながらも己が感じていた違和、そのすべて。

 小五郎は、自身(の精神)以外のすべてが過去に囲まれたこの世界を前にして、自分が異物であると思われている……そのような感覚を覚えていた。

 

 しかし、逆だったのだ。

 

 異物だと思っていたのは自分のほうで、小五郎は、己を包むこの世界のほうをこそ異物を見る目だったのである。

 

 その最たる例が妃英理といってよかった。

 

 生前において最も彼の心の根幹に関わっていた女性。その、過去の姿。

 それを前にして、身近で重要な存在だったからこそ、彼は、小五郎は無意識に差別化して捉えてしまっていたのだ。

 自分にとっての英理、つまるところの「未来の英理」と、目の前にしている「少女時代の英理」とを。

 ……もちろん、思考する意識的な理性のうえでは両者を同一人物だと思っていたし、そう扱っていた。が、しかし、無意識的な深層の部分では、両者を別けて扱っていたのである。

 

 先ほどの、己の心中を吐露する英理。

 強い瞳でにらみつけながら涙をためる彼女のその姿に、目の前にする少女の姿と慣れ親しんだ大人の姿とが小五郎の中で()()重なり、そこで初めてこの事実に気が付いた。

 同時、ようやく彼のなかで両者が完全に同一存在の認識と化したことを自覚する。

 

 だから。

 

 

「……わりィ」

 

 

 目の前の少女の、愛する人の濡れた瞳を、今度こそ確りと定まった瞳で見つめて、そう謝った。

 

(――まったく。バカだな、俺……本当に……)

 

 胸の内で小さく自嘲する。

 思わず手を伸ばし、彼女の涙を拭おうと頬に触れるも、すぐ様に払いのけられた。

 

「な、なに、すんのよっ……」

 

 英理はそう言って、ようやく小五郎から目をそらした。そっぽを向き、顔を袖で拭う。

 

 その様子を見て、と、そこで唐突に目に入ったまぶしさに小五郎は瞳を細めた。

 見れば、陽光が川面に反射してチカチカと輝いている。――さあ、と吹き上がった風が、辺りから青草の香りを漂わせた。

 

 小五郎はふと思う。

 

(……ああ、()()()()

 

 もちろん、数日前に目覚めてからのこちら、なおも死んでいると思っていたわけではない。なぜか生き返っている、過去にいる、とそう思っていた。

 

 しかし、自分のほうこそが周囲を異物だと思っていた、ということに気づき。そして世界を真に受け入れた現在。

 

 これまで、どこか遠く()()()感じられていた世界のすべてが。急激に色づいて輝いて見えて。

 

 ()()()()

 己は今、()()()()()生きている。

 

 そんな実感が、ようやくにして湧き始めたのだった。

 

「――ねえ」

 

 不機嫌そうな声に振り向けば、ぶすっとした表情の英理がこちらをにらんでいた。目元の涙はきれいさっぱりと消えている。

 

「それで、相談はしてくれないの?」

 

 その瞳は、不機嫌そうながらも、どこかすっきりとした色を湛えていた。

 それは溜め込んでいた不安を吐き出すことが出来たからか、それとも小五郎の表情が何かを溜め込んでいる辛そうなものから、同じく荷を下ろしたかのようなすっきりとしたものへと変化していることに気づいたからか。

 

 どちらにしても。彼女はここ数日の不安ばかりの関係から、ようやく以前の関係に戻ることができると、そう直感しているようだった。

 

 そしてそれは小五郎も同じで。

 

「――ホントわりぃな。もう、解決した」

 

 そう言って笑った。

 

 

 

             ◆

 

 

 

 その後になんやかんやとぽつりぽつりと言い合ってから。

 普段よりも遅い時間に、二人は学校へとたどり着いた。

 遅い登校とはいえど、それは普段と比べて、という意味であって、べつに遅刻というわけではない。

 

 学校の廊下。隣を歩く英理をちらりと横目に見て、ふと、これから先に自分さえ気を付けていけば、生前のような喧嘩をこじらせ別居などという結末を避けられるのではないか、などと小五郎は思いつく。

 最近の英理との関係の気まずいあれそれの問題が、結局のところ自分の側にしか原因がなかったことがそのような思考をたたき出したのかもしれなかった。

 そして、それらがつい先ほどに解消されたという開放感からか、ならば折角であるし、できるだけ気を付けていこう……などとさえ素直に思うのだった。

 

 そんなこんなで自分たちの教室へとたどり着いたところで、小五郎はその中がいやに騒がしいことに気が付いた。

 英理と、互いに顔を見合わせる。

 

「なんだこれ」

「さあ?」

 

 すっかり元通りの――記憶の中の「このころの自分たち」の関係へと戻っていた二人は、そんなやり取りを短くした後、ガラガラと扉を開けた。

 

 そこで目に入ったものは、一人の女生徒に群がるクラスメイト達、という光景だった。

 男女関係なく、一人を囲んでぎゃあぎゃあ、わあわあ、と騒いでいる。

 いじめだとかそういう嫌な雰囲気、というわけではない。

 どちらかといえば、人気者を囲んでのお祭り騒ぎ――そんな系統のものだった。

 

 再び顔を合わせたのち、小五郎と英理は口々に挨拶しながら教室へと踏み入った。朝のHRまで時間もなかったし、入らないわけにはいかなかった。

 とりあえず自分の席へと荷物を置いた小五郎は、そこらのクラスメイトへと事情を尋ねようかと考える。

 

 と、そこで。

 

 

「――あ、小五郎ちゃんに英理ちゃん!」

 

 

 よく聞きなれた声が響いたかと思うと、教室に生まれていた人垣が割れた。

 

 そしてその中央から歩み寄ってくるのは、一人の少女。

 うしろでひとつにまとめた黒髪を揺らし、片手をぶんぶんと振りながら来るのは、見間違いようがなかった。

 瑠璃だった。

 土井垣瑠璃。小五郎と英理の友人で、牛乳瓶の底のような厚さの眼鏡をかけていた少女。

 

 しかし現在、彼女の顔にはそんな眼鏡はなくて。

 

「えっへへー! どう!? 昨日、コンタクトレンズを買ってきたの!」

 

 小五郎の記憶のなかでは近い将来に「癒し系女優ナンバーワン」と称されることになる女優・雨城瑠璃の美貌、その片鱗がそこには晒されていた。

 

「え、瑠璃ちゃん!?」

 

 そばの席から慌ててやってきた英理が、彼女を見るなり、「きゃあ! すごい綺麗!」だの「ありがとー!」だのと二人して盛り上がり出す。

 

 その様子を見て、小五郎が「あれ? 瑠璃っぺって中学のときにコンタクトなんてしてたか……?」と内心で首を傾げていると。

 

「どうどう!? 小五郎ちゃん!」

 

 英理とひとしきり騒ぎ終わった瑠璃が、ずいっと彼のほうへと顔を寄せていた。

 

「あ、ああ……やっぱり眼鏡ないほうが綺麗だな」

 

 びくりと驚きながらもそうこぼせば。

 

「ありがとー!!」

 

 そう叫んだ瑠璃によってそのまま勢いで抱擁された。

 

「うおっ!?」

 

 途端、彼の体に密着する何かの感触。

 思わずそれに意識を取られ口元が緩み――、と、そこで唐突に背筋に寒気が走る。

 

 見れば、そんな小五郎に非常に冷たい視線を送る人間が一人。

 

「――ふん」

 

 そう言って、自分の席へと踵を返すのは妃英理。

 

「……あ」

 

 喧嘩しないと決心したしょっぱなから、小五郎は何かを思い切り間違った気がした。

 

 

 

 


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