艦隊これくしょん―軽快な鏑矢― 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
注意事項です。
・『啓開の鏑矢』の時系列はガン無視。今回は時事ネタで時系列行方不明。連載物の最終話です。
・無駄にネタに走る可能性大。
・キャラ崩壊あり、注意。特に電ファンの方。注意!
・駄文、駄文、アンド駄文
それでもいい方は、抜錨の用意を。
それでは抜錨!
そしてすいませんでした。
「まったく……ひどいめにあった」
航暉が軽くふらつきながらそういうと電は苦笑いだ。
「いなづまはどこまでついてくるの?」
「筑摩さんたちからお守りしますので、今日は部屋にもお邪魔しようかと」
「そこまでひつようかなぁ……」
「あと、六波羅医務長から24時間は電脳などの異常がないか見ておけと言われているので、明日の朝までは誰かが一緒にいないと駄目みたいなのです」
「そ、そうなの……?」
「それでこの後は私達538で朝までご一緒します」
「……なんだかあやしいいいかただね」
「そうです?」
そういいながら航暉は階段を登る。いつもの感覚で足を上げて転びそうになったりとかなり危なっかしい。
「ぎたいをとっかえひっかえしてるひとのきがしれないよ」
それをうしろからニコニコ笑顔でサポートする電。至極嬉しそうである。
「それにしてもびょういんぎでねるのか。すこしあれかもなぁ」
「どうしたのです?」
「いや、びょういんぎにいいおもいでがないんだ」
そう言った航暉は部屋のドアを開けようとして手を伸ばす。微妙に届かず、背伸びを続ける航暉のかわりに電が手を伸ばす。その動作が遅れたのは故意か事故か、それは電のみが知っているのだろう。航暉は自分でドアを開けようと必死で電の方を見ていなかったのである。
ドアを開けた関係で電は先に司令官の部屋を見る。本棚とデスクとクローゼットにベッドぐらいしかない部屋にはすでにランプシェードがついていた。中を見た電がすぐにドアを閉めた。
「……司令官さん。少しだけここで待っててほしいのですが、よろしいのです?」
「えっと……どうしたの?」
「少しだけまっててもらえます?」
「あ、うん。わかった」
そう言うと電が音もなくドアを開け、体を滑り込ませる、その数瞬の後、ドアが閉まる。
「……なにをやっているのですか――――――――っ!」
ドアの向こう側でなぜか電の大声、航暉が一瞬肩を跳ねあげた。
「司令官が心配なのはわかりますが、それは必要ないのですっ!」
「……」
「言い訳はいいのです! とりあえずお姉ちゃんたちは司令官さんのベッドから降りてください!」
「……」
「いいから早く降りるのです! 如月ちゃんはちゃんと服を着る! サービスならもう大浴場で十分なのです!」
「……」
「よく聞こえなかったのでもう一度言ってほしいのです」
「……!」
「司令官さんのベッドで―――――――」
航暉はこの先を聞くことを放棄した。どんな惨状になっているのか恐ろしく気になるが、ここで聞いたら後には戻れなくなることは目に見えている。電のあんな声初めて聴いたなぁと現実逃避しつつ病院着の背中を壁に付けて待っていた。
「お待たせしたのです」
しばらく経って部屋に入るとどこか気まずそうな雷に不満げな響、暁と如月が部屋の隅で震えている。何があったのかは聞くべきじゃないのだろう。なんとなくそんな気がする航暉だった。
電は早々に残りのメンバーを追い出した。部屋には航暉と電のみが残る。
「司令官さんの部屋でのんびりするのも初めてなのです」
「そうかもね。ここにはおれもよるしかいないしね」
航暉はそういいながら壁を背にベッドの上に座った。
「司令官さん、仕事熱心もいいですが、ちゃんと休んでくださいね」
「やすんでるよ、ちゃんと」
「でも、起きてる時はずっと仕事してますし……」
「それがしきかんのしごとさ。きみたちはぜんせんでいのちをはる。しれいかんはそにぶん、ふつうのときにがんばる」
航暉は笑った。ベッドから飛び降りた航暉がカギを取り出し、デスクの引き出しを開けた。
「おれたちしょうこうは、ぜんせんでいのちをはらない。こうほうでぶたいのしきをとるからね。でもそのかんかくになれるべきではないとおれはおもっている。ぶかがたたかっているじてんで、そのじょうかんもどうじにせんじょうにたつ。そうであらねばならないとおもっている」
取り出したのは航暉のサブの拳銃――FN-FiveseveN、軍が支給する拳銃だ。
「おれのせんじょうは、きみたちがまけないじょうきょうをつくることだ。せんじょうにおいて、ぜったいにいきてかえれるようにすること。だからそのために、ふつうのときにがんばるのさ」
航暉はそういって少し恥ずかしそうに笑った。
軍が活躍するのは非常時だ。その非常時にそなえるのが軍隊の仕事である。だからこそ平時にさまざまに手をつくす。非常時に負けないために。
「それがおれのしごとであり、いくさばだ」
「そう言う司令官は非常時はさらに忙しくなってるのです。最前線の指揮まで同時に執ってるんですよ?」
「それがおれのしごと、きみたちがぜったいにかえってくるために、すべてをかける。こんなしれいかんをしんじてくれるぶかがいるなら。いっしょうをかけてもおしくない、そういうしめいだとおもっている」
そう言って拳銃を手に取った航暉、おもいな、とつぶやいた。
「これもそのためのぶきだ。きみたちがかえってくるためにひつようなら、おれはこれをつかう」
そう言うと航暉はその銃をしまった。また鍵を閉める。
その姿を見て、電はいつもの司令官の影を幻視する。その鳶色の瞳の色はいつもの瞳だった。どこかに悲しみを隠すような深さを持つその色にランプシェードの明かりが映りこむ。その瞳が細められ、大きく口を開けた。
「……からだがちぢむとどうもねむくなるのがはやいね」
「なら横になったほうがいいのです。ちいさい司令官さんはもう寝る時間です」
「こどもあつかいされるとなんかちょうしがくるうなぁ」
「子どもサイズなのですから、ね」
航暉は不満そうにしながらも横になった。
「電気消しますか?」
「ランプシェードはつけといて」
航暉はそう言った。ベッドに横になる。
「……べっどからおんなのこのにおいがする」
「今日は諦めてほしいのです。そういうのが嬉しい殿方も多いと聞きますし」
「とのがたなんてことば、どこでおぼえてくるんだか」
航暉の肩の位置に軽く腰掛けた電が笑う。
「……司令官さん」
「どうした」
「……前から聞きたいことがあったのですけど、今聞いてもいいのです?」
「どうぞ。こたえられるかわからないけど、いうのはタダだ」
そう言った航暉に電が少し不安げな、どこか期待が混じったような色で口を開く。
「司令官さんはどうして私達水上用自律駆動兵装を人間みたいに扱うのです?」
「……そんなことか」
笑った気配。
「いったでしょ? ぶかをまもるためならなんでもするって」
ベッドの縁に添えた電の手にそっと触れる。
「きみたちはきかいじゃない。そうおもってるからさ」
「でも、脳は高性能電脳で、体だって機械だらけなのですよ。体だって義体のリサイズをしないと大きくなれないのです」
「それでもせいちょうする、アイデンティティ・インフォメーションをもっている。こころはいくらでもおおきくなる」
そんな航暉の声をきいて電は小さく笑った。
「司令官さんは優しいですね」
「“きべんか”なのさ」
電は一瞬きべんか―――――詭弁家と変換するのを一瞬手間取った。
「そんなことないです。司令官さんは、司令官さんは……」
「ほんとうにやさしかったら、とっくのとうにいなづまたちをぜんせんからさげてるよ。したしいひとにてっぽうをもたせてあいてをころせなんていいやしない」
どこか自嘲が混じったような声だ。電はそれを聞いて振り返った。
「“じんるいのきぼう”だ、“せかいのしゅごしゃ”だとはやしたてて、せんそうにおいたてるにんげんのひとりさ。だから、せめてものつぐないなのかもな」
そう言う声はどんどん小さくなっていく。もう半分寝ているような状況なのだろう。
「きみたちのかんじょうはほんものなんだと、おもう」
それでも彼は言葉を止めなかった。
「きおくとおもいでをわかつものはない。でもね、きみたちがもつのはおもいでだとおもう。おもいでであってほしいとおもう」
彼の瞼が重くなっていく。電の手に触れた体温がいつもよりも高い彼の手から少しずつ力が抜けていく。
「おもいでにひとはいかされる。おもいでがあるからみらいをえがく。だから、いきていてほしい。それをきかいのようにつかいすてられないんだ」
ぶきようだけどね、と言った声はなんとか聞き取れるだけの音量だった。
「……ありがとう、なのです」
電がつぶやくように返した声に、返事はなかった。
後ろを見ると穏やかな寝顔の航暉がいる。少し高めの体温でほのかに赤みを増した肌が、暗めのランプシェードに照らされて深く丸い陰影をつけていた。それを見て、電は微笑んだ。
「……ありがとうございます。司令官さん。今日はお疲れ様でした」
電は静かにその髪を撫ぜる。黒く柔らかい髪は手に心地よく、ずっと撫でていたくなる。それでも、起こすのはかわいそうだ。ほどほどでやめなければ。
「司令官さん、わかってるのです……? 私達が命を張れるのは司令官さんだからなのですよ? 司令官さんが私達と一緒にいてくれるから、私達は私達でいられるのです」
つぶやいた言葉はちゃんと聞こえるだろうか。聞こえてなくてもいいのかもしれない。
「司令官さんだから、みんな元気に頑張れるのです。司令官さんだから、みんな生きて帰ってくるのです」
帰ってきたいと思える基地になった。それは、航暉がここの基地に来てからだ。
「ここでの毎日は楽しいのです。戦うのは怖いですし、誰かを傷つけるのはやっぱり嫌なのです。それでも、ここで頑張れるのは……司令官がここにいるからなのです」
そう言ってクスリと笑って、枕の横に手をついた。
今は誰もいないし、きっとこれはノーカウントになるはずだ。暗い部屋ならきっと大丈夫、電は心をそうごまかした。
彼の頬に顔を近づけた。髪が彼に触れないようにそっと掻き上げて、目をつむる。そっと彼にかぶさるように体をゆっくりと倒した。彼の産毛に触れるか触れないかまで顔を近づけ、唇で彼の頬にわずかに触れる。恥ずかしさで目を閉じたままそっと顔を放した。
「……おやすみなさい、司令官さん」
わずかに残る唇の熱と顔の熱さを気にしながらそう呟いて、少しの罪悪感と満足感に浸りながら彼女は暗い天井を見上げたのだった。
「ん……?」
朝の光に目が覚める。航暉は自分の頭を掻くように右手を上げる。ガシガシと髪を掻いて気がつく。……腕が太い。
「やっと戻ったか」
髪の質も硬めに戻っている。声の高さもいつも通りの声だ。
「ベッドで寝たのに悪夢を見なかった。少し進展、かな。……ん?」
体を起こそうとして腰の位置に大きな抵抗を感じた。掛け布団をわずかにめくる。
「――――――!?」
航暉は一瞬パニックになった。なぜ電が俺の布団の“中に”いる? あと、なぜ俺は何も着てない?
後者についてはすぐに理解した。縮んだ体のサイズに合わせて最小サイズの病院着を着ていたが、体が戻るときにきつくて無意識のうちに脱いだらしい。だが、電がなぜここでこうしているのか全く理解できない。腰というか胸を枕にするようにしているし彼の胴に抱き着くようにしているのが非常にアレな構図である。
「い、電起きろ。頼む、起きてくれ……!」
そういいながら航暉は電の肩を叩いた。いつもより甘い呻きを上げて電がゆっくりと頭をもたげる。寝ぼけまなこでとろんと目じりが落ちた目で電は彼を見上げた。いつも髪を止めているバレッタは外されており、明るい茶色の髪は彼女の頬をゆったりと流れ、流れた毛先が彼の向きだしの腹部をくすぐった。
「しれぇかんさん……? おはよぅございますなのでした……」
「勝手に過去形にするな、とりあえず起きてくれ、非常にヤバい」
「なにがですぅ……?」
航暉の焦りが加速する中、非情にも恐ろしい勢いでドアが開かれた。
「おはよーしれーかん! 体の調子はど……う?」
入ってきたのは雷、その後ろには響と暁の姿もある。一同硬直。
ここで一度状況を整理したい。
朝の光に照らされたベッドには大人の姿に戻った裸の司令官。同じベッドの同じ掛布団の中には末っ子の妹がいて、乱れた髪をゆらして寝ぼけまなこのとろけたような表情で司令官を見つめている。さて、これを見た人は何を思うだろうか。
状況がわかってない電がきょろきょろとあたりを見回した。
「し、しれーかん……? な、なにしてるのかしら……?」
雷の声が響くころになって電はようやく再起動した。
「え、あ、え、は、は、はわ――――――――――っ!?」
顔を真っ赤にして走って逃げる暁。響はぷるぷると震えている。
「い、妹に何をしてるんだい、司令官」
裏切られたと言いたげな目をして響は航暉を睨む。
「ひ、響、その認識は間違ってる……」
「電に手を出さなくとも、司令官には私がいるじゃないか」
「!?」
響が叫ぶようにそう言った。
「響、その認識は決定的に間違ってる! とりあえず話を聞いてくれ!」
「しれーかん」
雷がにこっと笑って言った。
「逃げるなら今のうちだよ?」
11月2日、月刀航暉の一日は今日も長い。
電ルート・完!
正確には”チビッ子月刀司令・完!”です。本当にありがとうございました。
キャラ崩壊がすごいこのシリーズですがこのままいこうと思います。
感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回のネタは……まだ未定ですがネタはいくつかあるのでお楽しみに。
それでは次の機会にお会いしましょう。