艦隊これくしょん―軽快な鏑矢― 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
これでいいのかこの作品パート2です。
注意事項です。
・『啓開の鏑矢』の時系列はガン無視。今回は時事ネタで時系列行方不明。前回の続きです。
・無駄にネタに走る可能性大。特に今回はn次創作要素多め。他作品ネタあり。
・キャラ崩壊あり、注意。今回特に注意!
・駄文、駄文、アンド駄文
それでもいい方は、抜錨の用意を。
それでは抜錨!
「さて、しごとしますか」
肩をぐるぐると回しながら航暉は司令室に入った。
「今日の予定は決まってるのです?」
そう問いかけてくるのは午前の予定がなかった電である。
「1330からでんのうけーゆでかいぎ、あとはきちないのしょるいとくんれんかんとくぐらい」
回転する座面に苦戦しながらもなんとか椅子によじ登るようにして座る。デスクの脇のジャックにQRSプラグを差し込むと目を閉じた。
「いなづまもせつぞくしてくれる?」
「? はい」
電も航暉の隣のジャックにプラグを突っ込む。
《――――――接続完了か。これでやっとまともに仕事ができそうだ》
「!?」
《言ったでしょ? 電脳とQRSプラグは生きてるって。だからアバター用の音声ライブラリ使った電脳通信ならこうしていつも通りの声で会話できるって訳。いちいちサ行で詰まってられないしね》
そう言う声はいつも通りの航暉の声であり、驚きに目を見開いていると目の前の子供が笑う。
《どうしたの?》
「い、いえ……なんというか見た目と声が全く合ってなくて、少しきも……違和感があるのです」
《気持ち悪いって言おうとしたよね?》
「えっと、そんなことは…………はい」
じとっとした目線を送ればしゅんと肩を落とす電。
「まぁ、いいや。おんなのこにキモいっていわれるのもあれだし、きょうはにくせいでやるよ」
苦笑いを飲み込んで航暉が笑えば、電はバツの悪そうなにへらっとした笑みを送る。
「じゃあ、いなづま、さいしょのしごとだ」
航暉は胸を張ってそう言ったが、すぐに眉がハの字に垂れた。
「……ざぶとんかはこ、つくえにめせんがとどかない……」
いきなり前途多難だった。
その体のサイズでよくやると思う。
それが電の素直な感想だった。
「むー、いつもの72ぱーせんとかー……やっぱりこれだときついなー」
時刻は1134WAKT、午前11時34分。それまでに電子書類は残り1/3になっていた。身長半分×サイン無理=いつもの仕事量×0.72が片付いているとはかなりの仕事量だと思うのだ。
椅子の上に秋ダンボール+座布団二枚で高さ調整したところで結局デスクのタッチパネルに手が届かなかった。結局はいつもの司令官用の椅子をどけて食堂の椅子を持ち込んでその椅子の上に立って事務作業スタートとなった。机に片手をついて残りの手でタッチパネルを操作していく。
「いなづま、それをきちしゅうし1002のふぁいるにとじといて。ふぁいるはたなのうえから2ばんめのひだりはじにあるはず」
「はい……!」
「えんしゅうけいのしょるいのまとめっておわってる?」
「えっと……これなのです」
渡されたファイルをぱらぱらとめくってから電の方を見上げた。
「うん、これならだいじょうぶかな。えにうぇとくとえんしゅうをくむよ。おそらくさらいしゅう、うぇーくきんかいになるはずだ。あとでつうしんするからそっちによけておいて」
航暉自身があまり動けない分電がぱたぱたと動き回ることになっている。大体はプリンタと書類が詰まった棚と航暉の間で書類のピストン輸送だ。この1時間ほどはノンストップで動き回り書類を繰っていたため少々疲れてきた。紙の書類だけでこれである。電子処理だけでオッケーな書類も含めて目を通している航暉はどうしてずっと休憩なしで続けられるのか少し気になる。
「司令官さん、そろそろ休憩しませんか? 書類仕事は午後に回しても大丈夫だと思いますし……」
「うーん……ま、のこりはいなみしょーいにおしつけるとしてはやいけどごぜんのぶんはしゅうりょうにしようか」
この事件の犯人のことは未だに許してないらしい。さらっと罰則を追加してうなじからコードを引き抜くと航暉は椅子から飛び降りた。机の影に彼の姿が消える。
そして、出てこない。
「…………司令官さん?」
電が訝しみながら机の影に回り込む。
「!? 司令官さんっ!?」
気絶して床に倒れている航暉に駆け寄った。頭を支えつつ気道を確保。首の横に手を当てて脈拍を図りつつ耳を彼の口許に近づける。耳に息がかかり少しくすぐったい。呼吸正常、脈は少し早いぐらい。それよりも気になったのは―――――。
「熱が出てるのですっ!?」
艤装なしでも子供一人ぐらいなら楽に抱えられる。
目指すは医務室。彼を抱きかかえたまま廊下を走る。
「医務長さんっ!」
「司令をお姫様抱っこってなかなかない絵面だけどどうしたの?」
「仕事が終わった途端に倒れっちゃったのです!」
「どれ、そこに寝かせて」
医務室に飛び込むと何やら薬をいじっていた夏海が顔を上げる。航暉の様子を認めるとちゃんと医師の顔になる。
診察ベッドに寝かせた航暉の様子をぱぱっと見て熱を測り、電脳の活性チェック、血圧に瞳孔の確認を終わらせると夏海は微笑んだ。
「普通に電脳の使い過ぎ、寝かして電脳休めさせればすぐに下がるわよ」
落ち着いた様子でそう言った夏海に電は胸をなでおろした。
「電脳化が許されるのは6歳以上、で、縮んでしまった月刀大佐は見た目からして推定3~4歳。体に想定以上の負荷がかかってても不思議じゃない。この辺りは私の医師としての監督不足とずっと一緒にいて気がつかなかったあなたの観察不足ってところかしら」
電子カルテに何かを打ち込むと夏海は笑う。
「ま、電脳が熱暴走起こしてる様子もないしこれ以上悪くなることはまずないわ。この後24時間は誰かの監視下に置いておいた方が安心だとは思うけどね。あとは仕事厳禁。特に電脳に負荷をかけるような仕事はね。伊波少尉と合田司令官に頑張ってもらいましょう」
そう言うと夏海はどこかに連絡を取る。
「――――――、よし。CSCの認可が下りた。電特務官!」
「は、はいなのです!」
夏海が僅かに声のトーンを張った。
「ウェーク島医務長権限で月刀大佐の指揮権を差し止めます。電特務官はこの後私が月刀大佐の復帰を許可するまで第三分遣隊指揮官代理を務めてください。この間出撃などの指揮は
夏海はどこかぽかんとしている電に微笑んだ。
「こうでもしないと月刀大佐無理矢理職務に復帰するわよ? それに今日は夜間訓練もないし、SC待機もないからねー。それに」
そう言うと夏海はちょいちょいとそばに寄るようにジェスチャーをした。
「24時間フルタイムの監視体制を敷くから、監視や診察とかこつけてあんなことやこんなことしたい放題よ?」
電の顔が一気に赤くなる。
「私は1700時まで監視しとくからその後のシフト割りは頼むわねー、電ちゃん?」
「えっと、あの……」
「とりあえず私は合田少佐と打ち合わせてくるわね。基地の指揮権は合田少佐が持つことになるから、それじゃ」
「あの、ちょ、ちょっと医務長さん!」
手をひらひらと振って医務室から出ていく。電は横で眠る上司の寝顔を見てくすりと笑った。横にスツールを持ってきてそこに腰掛けると、航暉の顔をより近くで見つめる形になる。
「司令官さんは小っちゃい時から頑張り屋さんだったのです?」
まるっとした頬を軽くつつく。
ムニン。
「……。」
もちのような弾力で指を押し返してくる。もう一度。
ムニュン。
(……これは)
ムニュンムニュンムニュンムニュン
(…………癖になりそうなのです!)
慌てて周りに人がいないことを確認する電。さすがにこの姿を他の人に見られたら終わる。
そしてもう一度。
ムニムニムニムニムニ。
「うーん……」
航暉が呻いたため一度手を止めたがそのまま寝息が戻る。もう一度ゆっくりと頬を押そうとして。
「はわっ!?」
指をそのまま咥えられてしまった。
「え、あ、ちょ、司令官さん……!」
顔が熱いのがわかる。危ない。この状況は危ない。
何が危ないって指をチュウチュウと吸ってくるのが危ない。指を放そうとすると甘噛みしてくるのが危ない。濡れた指が空気に触れて甘く切なく冷えるのが危ない。
「~~~~~~~~~~っ!」
指を無理に引き抜くこともできるが、相手は上官で病人だ。しかも今は3歳児から4歳児相当の子供である。それは酷な気がした。
(司令官さん早く起きてくださーい……!)
その数分後。
「で、しれーかんと何してたの?」
「な、なんでもないのです……」
「なんでもないのに電は顔を真っ赤にして司令官に覆いかぶさるようにベットに突っ伏してたんだー。ふーん」
何とか指を解放して貰えたものの息も絶え絶えになっていたら、お昼ご飯にしようと呼びに来た雷に捕まった。
「それはその……」
「まぁ電がそこまで道を踏み外すとは思ってないけど、言葉に詰まる程度にはイケナイことをしてたってことでいいのかしら?」
「えっと……」
目の前の姉の瞳が濁っているように見えるのはたぶん気のせいだろう。気のせいだ。気のせいだと思いたい。
「見なかったことにしてあげる。そ・の・か・わ・り」
こそこそ話をするように耳に手を当ててきた。
「しれーかんの監視のシフト、夜は駆逐隊で組めるようにして」
「な、ななななななななな、お姉ちゃんたちも何をする気なのですか!?」
「何をするんじゃなくて、何をしようとする人から守るのよ。……筑摩さんとか夜中に担当させたら何するかわからないじゃない」
「それは……そうかもしれませんが……というより! なんで監視シフトのことをもう知っているのです!?」
「ん、医務長から聞いたわよ?」
「ってことは……もう知れ渡って?」
「うん。この後オフシフトなんでしょ? いま午後の訓練の簡易化できないか筑摩さんとか龍鳳さんとかが合田少佐に詰め寄ってる。さすがにそれはむりだと思うけどね」
そんな理由で訓練中止はおそらく前代未聞である。さすがに許可は出るまい。
「で、指揮権喪失時はその艦隊の取り纏め役である旗艦に指揮権が委ねられる。第三分遣隊の旗艦は電でしょ? つまり電に決定権がある訳、この監視シフトも六波羅医務長がなにか言ってこない限りは電に全権があるわけね」
雷はゆっくりと妹の顔を覗き込んだ。
「どうする? 司令官を駆逐艦同盟で守り切るか、ここで顔を真っ赤にして何かをしてたことを筑摩さんとかにバラすか、電が決めなさい」
ここまでくれば完全に脅迫である。選択肢などあるわけない。
「―――――――わかりましたっ! スウィングとミッドナイトシフトは駆逐隊で組むのですっ!」
「パーフェクトだ、電」
その声に目が覚めたのか航暉がごそごそと動いた。
「……司令官さん、おはようございますなのです」
「うーん。あれ、いむしつ……」
「仕事が終わってからいきなり倒れたので心配しました。大丈夫なのです?」
「すこしあたまがいたい、かも……。あれ? でんのうあくせすけんがとまってる?」
「医務長さんがこれから24時間は仕事禁止だとおっしゃっていたのです」
「だからってでんのうとめなくても……」
「とめないと仕事するのが目に見えてます。ワーカホリックも大概にしないと困るのは部下の方なのです。今日明日は耐えてください」
電はそう言ってさらりとした髪を撫ぜる。その瞬間にさっきの記憶が蘇る。
「……いなづま?」
「な、なんでもないのですっ!」
「?」
火照った頬を持て余しながらも電は笑って席を立つ。
「司令官さん、ごはんは食べられそうです?」
「すこしだけいただくよ」
「わかりました。なにか食べられそうなもの用意してくるのです」
電は姉にアイコンタクトを取ってから医務室を出た。
電にはやるべきことが沢山ある。
まずは廊下の影で不審なオーラを出している重巡洋艦を何とかすることから手を付けようと廊下を蹴った。
さすがに前回あとがきの「バナナはおやつに入りますか?(意味深)」をやるには時間が早すぎたとおもうのでこんな形になりました。かなりマニアックかなぁ、これ。
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次回「駆逐艦vs.重巡vs.軽空母!? 病気の司令官を癒せるのは誰だ!?」をお送りします(たぶん大嘘)
次回は本編の作戦終了後に投稿です。たぶん。
それでは次の機会にお会いしましょう。