艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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さーて、お祭り当日です!
お祭りの昼間に何があったかはエーデリカ先生の『艦隊これくしょん~鶴の慟哭~』をご覧ください。

それでは、抜錨!


呂500「縁日めぐりですって!」

 

 

 

 横須賀鎮守府祭当日、夕刻。

 

「えっと……これでいいのかな」

 

 Z1がそう言って少し戸惑ったように姿見を見た。姿見にはアッシュグレーの髪色に合わせてか落ち着いた藍色の浴衣に包まれた自らの姿を見る。

 

「大丈夫そうですねぇ、似合ってますよ」

 

 着付けてくれた綾波にそういわれ僅かに頬を染めるレーベ。これが日本式フェスタの正装ということでこれを来て行けというらしい。

 

「お祭りは夕方からが本番なので楽しんできてくださいね」

「なら、ヒメちゃんのお世話、イナヅマに預けてよかったのかな……」

「電さんは電さんで楽しんでると思いますよ。さっきも暁さんたちが差し入れ持ってきてましたし」

「そうなんだ、それならよかった。Danke、アヤナミ」

「どういたしましてだから……ビッテシェーン?」

「うん、合ってるよ」

 

 そう言ってZ1が笑えば綾波は笑って彼女の背中を押した。

 

「さぁ、楽しんできてくださいね」

「うん、行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにたくさんの人ですって!」

 

 白にピンクの水玉模様の浴衣を着た呂500がそう言って人ごみの中に飛び出していく。それを慌てて捕まえたのはビスマルクだった。薄い緑の袖が揺れる。

 

「あんまり走ったら怪我するわよ」

「それでもいい匂いがろーちゃんを呼んでるのー!」

 

 腕をじたばた振って抗議する呂500を適当にあしらいながらビスマルクはあたりを見回した。

 

「それにしても夕方なのに人が沢山いるのねぇ」

「艦の一般公開が終わってるから縁日の方に人が流れるってアヤナミが言ってたよ」

「通りで混み合ってるわけですねぇ……」

 

 人ごみに圧倒されながらプリンツ・オイゲンがそう言う。歩けないほどではないがすごく活気が出ている、手作り感満載のものから、明らかに玄人の屋台までまでいくつも店が出ておりどこもかなりの盛況だ。

 

「あ、アドミラールがいる、ヘーイ・アドミラールツキガタ!」

「ビスマルクか、楽しんでるか?」

「こっちのゾーンにはいま来たばっかりよ」

 

 エプロンにバンダナで武装して鉄板の前に立つ航暉はどこか疲れたような表情をしながらも広島風お好み焼きを焼いている。

 

「アドミラールも表に立つのね?」

「赤城と加賀がここの担当なんだが赤城がいろいろ手を出すせいで他のところの食材まで割りそう担ったから今は俺がやってる。本当は加賀がやってるんだが流石に3時間焼きっぱなしはきついだろうから交代要員で出張ってるよ」

「そ……それはお疲れさま」

 

 そう会話しながらも航暉はお好み焼きをきれいに切り分け、半玉ずつ容器に突っ込んでいく。

 

「アドミラールさん、一ついただいてもいい?」

「一つ400円だが、お世話になっている分200円でいいぞ」

「あ、いいのっ!? ダンケー!」

 

 そう言ってプリンツ・オイゲンがお金を払って焼きたてを買う。

 

「夜は食べ過ぎるといろいろ大変じゃないの?」

「その分お酒を控えるから大丈夫ですー」

 

 そう言って買ったお好み焼きを手に微笑むプリンツ・オイゲン。一度オ=コノミヤーキ食べてみたかったんだぁとは彼女の談である。

 

「いまきたばっかりならゆっくり見て回るといい。二一〇〇(フタヒトマルマル)の花火まで時間はたっぷりある。金剛の射的とかも結構人気だぞ」

「Danke. ありがとう」

 

 Z1が頷いて、それじゃ行こうかと振り返る……一人姿が足りない。

 

「あれ? ローちゃんはどこいったかな?」

 

 ……あれ? と顔を見合わせるビスマルクとプリンツ・オイゲン。

 

「勝手にいなくなった―――――!?」

 

 その叫びが聞こえない程度に離れてたところで水玉の浴衣の少女が人ごみをすり抜けていた。

 

「いろいろ食べたいものがあるんですって!」

 

 一人身軽に人の合間を抜けていくと呂500の鼻を甘いソースの香りが鼻をついた。そっちの方にふらふらと体を持っていかれる。

 

「あ、ろーちゃんいらっしゃい」

「タイゲーさん、こんばんはですって!」

「はい、こんばんは」

 

 笑顔で応じる大鯨の前には鉄板で焼かれた太麺の焼きそばがあった。

 

「焼きそば……?」

「はい、ろーちゃん食べますか?」

「食べるー!」

 

 呂500はそう言ってお代を払って周りを見る。たくさんの人ごみの中でどこか浮ついた雰囲気が満ちている。一つ向こうでは射的や輪投げのゲームで子供たちが盛り上がっているし、かなりの数用意された椅子と机のセットはどれも埋まっていた。

 

「本当にたくさんの人が来るんだねぇ」

「そうですね。この辺りだと一番大きなイベントですし、花火の規模もかなり大きいのでいろんな人が見に来るんですよ」

「へー……」

「えっと、食べるのお箸で大丈夫? フォークの方がいい?」

「うーんと、はしで!」

 

 そう言うと大鯨がどこか嬉しそうに笑った。

 

「ろーちゃん本当に日本になじんだね」

「えへへー? ろーちゃん頑張ったって」

「うん、頑張ってる頑張ってる。はい、おまちどうさま」

「ダンケっ! タイゲーさんも頑張ってですって」

 

 受け取ってそう言う呂500は大鯨に手を振ってから他の店を物色に入る。イカ焼きの屋台やカルメ焼きの屋台などを見て回る。いつの間にか両手には一杯の晩御飯が納まっていた。

 

「食べたくて買ったけど、こんなに食べ切れるかなぁ……」

 

 いろいろ両手が一杯になっているのをみてきょろきょろとあたりを見回す呂500。そう言えばビスマルクたちはどこに行ったのだろう。

 

「あれ……? ビスマルクさんたち、迷子……?」

「誰が迷子だって?」

 

 真上から降ってくる声に顔を上げればそこにはビスマルクの顔があった。

 

「迷子は貴女の方よ、まったくみんなで探したじゃない」

「?」

 

 首を傾げる呂500にビスマルクは溜息をついた。

 

「まぁいいわ、ほら。レーベが食べる場所押さえてくれたわ。いらっしゃい」

「はーい!」

 

 お祭りの夜の部はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《青葉、聞こえるか?》

「こんどはなんですかぁ……?」

《今どこにいる?》

「金剛さんの射的で出禁食らいました」

《……本職が本気を出すな》

 

 無線の奥がどこか疲れたような声を出す。疲れてるのはこちらもだ、と青葉は思うが、お互い口に出してもむなしいだけなのは暗黙の了解である。

 

「それで、今回の“事案”は?」

《スカートめくりをして回ってる男の子の補導だ。情報言うぞ。青い半ズボンに黒のTシャツ、青い野球帽、身長は120センチ前後》

「そんな子供結構いますよ?――――最終目撃地点は?」

《13分前に正面ロータリー西側のテーブル群》

「迷子情報は?」

《確認できる限りでは上がってきてない。親も探し回ってるかもな》

 

 了解です。と返して周囲の喧騒を見て回る。

 

「それにしても今日の忙しさは何なんでしょうねぇ、……電ちゃんたちのボヤ騒ぎから始まって東郷中佐の応援に行って、屋台の釣銭泥棒の仲裁に入って……」

《いろいろネタが増えたから後々の材料にはなりそうだけどな》

 

 天龍の店の釣銭泥棒は傑作だった、と高峰は笑う。

 

《よりによって天龍のくじ引き店での釣銭騒ぎだぞ? 見極めがきかないって怖いねぇ》

「仲裁の間ずぅぅっと龍田さんを抑えてたこっちはたまったもんじゃなかったですけどね」

 

 犯人なんてなますにしちゃえばいいじゃないーと物騒なことを言って長刀をとりに行こうとする龍田を抑えるだけで青葉の体力は危険域だった。そんな暴力描写で18禁になりそうな絵面を白昼堂々起こさせてたまるか。

 

《まぁ、これまで一般人の(・・・・)けが人ゼロで終わってるんだ。それだけでも成果だろう》

 

 そう言う高峰の声を聞きながら周囲をきょろきょろ見回して歩く青葉。その後ろに小さな影が立っているのに気が付かなかったのは注意力が散漫すぎたとしか言いようがない。

 

「それっ!」

 

 子供特有の高いトーンが響くと同時、足元が妙に涼しくなった。

 

「―――――っ!」

《どうした!?》

 

 声にならない叫びに無線の奥が激烈に反応する。

 

「淡い緑かぁ、いい趣味―」

 

 そう響く声に反射的に振り返れば人ごみに紛れていく―――――青い半ズボンに黒のTシャツ、青い野球帽、身長は120センチ前後の男の子。

 

「対象を捕捉、これより成敗(かくほ)に入ります!」

《……あー、了解。応援に行くからやりすぎるなよ》

 

 そう言う高峰には答えず青葉は少しずつ歩みを速めていく。

 

「ふふふふ、ソロモンの狼を怒らせるとはなかなかやりますねぇ」

 

 そう言う青葉の声はかなり重低音が混じっている。

 

《……こりゃひと波乱あるかな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これはちょっと、食べ過ぎたわね」

 

 目の前にあった焼きそばやらお好み焼きやらを食べきるとビスマルクはそう言った。調子に乗って買いすぎた感じは否めない。プリンツ・オイゲンも呂500もZ1も似たような表情を浮かべていた。

 

「この後ってなにがあったかしらー」

「盆踊り大会のあと花火ですって」

 

 膨れたお腹を持て余した呂500は満足顔で頷いた。

 

「踊れば少しは腹がこなれるかなぁ……」

 

 プリンツ・オイゲンはお腹周りを気にしながら周りを見回した。

 

「あれ……あれはアオバさん?」

 

 視線の先には……モーセのごとく人の波を割り、前へ進む青葉の姿があった。服はいつものセーラーだが雰囲気が戦闘モードである。

 

「えっと……アオバ? どうしたのかしら」

「あぁ……ビスマルクさん、小っちゃいガキ見ませんでしたか?」

 

 これくらいの、と腰の上あたりの高さに手をかざしながら青葉が冷えた笑みを浮かべる。

 

「見てないけど……どうしたの?」

「女性のスカートとかをめくって回る悪ガキ探してます。見かけたら通信でも何でもいいんで連絡をお願いしますね」

 

 さらっとそう言って青葉が敬礼、反射的に答礼を返してしまうドイツ艦の面々はやはり軍人である。見送ってから顔を見合わせる4人。

 

「と、とりあえず気を付けながら盆踊りにでも行きますか……? ビスマルク姉様は私がお守りしますので」

「あ、その前にろーちゃんあっちの輪投げしたーい!」

「なら輪投げしてから行こうか」

「わーい!」

 

 また人ごみの中に消えていくビスマルクたち、鎮守府祭の夜の部はまだはじまったばかりである。

 

 




もう少し続くよ夏祭り編

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それでは次回お会いしましょう。

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