艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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こちらではお久しぶりです。久々の更新です。
まだ今日は8月32日で夏だからセーフ!(アウト)
ということで夏祭り編開始です。
今回の原案は東方魔術師 先生、そして設定・ストーリーなどをエーデリカ先生と共有しての夏祭り編です。
エーデリカ先生の《艦隊これくしょん~鶴の慟哭~》夏祭り編はこちらからどうぞ。
→ http://novel.syosetu.org/43550/59.html

それでは、抜錨!



Z1「夏祭り……?」

 

 

「諸君。緊急事態だ」

 

 航暉がいつになく真面目な顔でそう切り出した。司令部員全員と第50太平洋即応打撃群に所属する各戦隊の代表が集まった定例会議はいきなり異様な空気で始まった。両手を会議机につき、落ち気味になった視線を航暉が何とか支える。そんな航暉の姿を初めて見た電や天龍、赤城は困惑するが、その後ろですでに笑いを必死にこらえている渡井や笹原にさらに困惑する。

 

「提督、何があったのですか?」

 

 赤城が心配そうに切り出した。金剛は気が気ではなさそうである。

 

「上層部に何か言われましたカー?」

「司令官がそこまで憔悴しきるなんて相当の事態だな。どこかに単身切り込んでこいとか言われたか?」

 

 天龍が目線鋭くそういうと、航暉の目線が落ちた。場の空気が張りつめていき、最高潮になったあたりで航暉が意を決したように言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「横須賀鎮守府一般公開、横須賀鎮守府祭において第50太平洋即応打撃群は縁日担当になった。よって、諸君らの全面協力を期待する」

 

 

 

 勢いで言いきったその宣言の余韻が消えたころ、笹原と渡井の大爆笑が会議室に響き渡った。

 

「もー! カズ君面白すぎ!」

「そこまで真面目な顔で言うかお前!」

「お前らは! 縁日の! 恐ろしさを! わかって! ないっ!」

 

 航暉が振り返ってそう叫び返すが一向に二人の大爆笑は終わりが見えない。

 

「えっと……」

「あー、あそこのバカ三人は放っておいて。とりあえず俺から説明する」

 

 困惑気味の艦娘たちの前に立ってさっさと説明を始めたのは高峰である。

 

「夏の横須賀基地一般公開で各隊ごとに割り当てがあって企画ものをやるのは横須賀配備経験者であれば知ってるよね?」

「えぇ……それがどうかしましたか?」

 

 赤城の問に高峰が苦笑いだ。

 

「その役割決めでくじ引きがあって余りものの縁日を押し付けられたってわけ」

「あー……」

「総合司令部前の広場で屋台を出すってことになるんだが、毎度の予算不足で屋台のために全部業者に丸投げというのができない。どうやっても部隊の人間で回すしかないということもあって屋台担当は毎度くじ運のなかった部隊がやることになる」

「今年の場合そのくじ運がなかった部隊というのが……」

 

 天龍が問いかければ高峰が頷く。

 

「我らが第50太平洋即応打撃群ということだ」

「それでも面白そうですね!」

 

 そう言って赤城がクスリと笑う頃には航暉たちの言い合いも一応の終息を見ていた。それを見計らって大鯨が口を開く。

 

「……それで、具体的な内容は何なのでしょうか?」

「我々が仕切らなきゃならないのは司令部前広場のロータリーにある25のテントだ。調理系の飲食販売が中心となるのが通例だ。外部テナントを呼んでもいいが“公共の福祉に反しないように”ということで、よく見る的屋の人を招くわけにはいかないこともあり幅が限られる」

「外部というのは……」

「ほかの部隊に応援を頼むことはOKだ。最悪の場合は手空きの人員の動員も可能だ」

「じゃぁそのテントで何をするんだ?」

「この部隊で一番人数がいて、参加することになる人達の判断に任せる」

「それって……」

 

 川内がニヤリと笑った。

 

「いなづまたち……なのです?」

「そう言うことだな。あまりに趣旨に反するものは待ったをかけるが基本個々人のアイデアを優先する」

 

 航暉の言い分に皆が考え込んだ。

 

「今回の主任務は一般人の歓待だ。老若男女が楽しめるイベントを企画することを命じる。以上解散」

 

 早々に会議を畳んで出ていく航暉に笹原はにやにやしっぱなしだ。

 

「司令長官さー、そんな嫌がることかい?」

「出店側は管理で飛び回るから死にかけるんだ。それは笹原が一番わかってるんじゃないのか?」

「それでも楽しそうな企画だし、ヘッドは雑用とトラブルの時の頭を下げるための要員でしょ? 実働は部下に任せてればいいわけだし頑張ってよ」

 

 それにさ、と笹原が笑う。

 

「“委員長”よりマシでしょ? 運営、特に経理担当に回されてる東郷駈中佐に敬礼」

「……あれもまた悲惨だよなぁ」

「お互い中間管理職として全力尽くせばいいんじゃない?」

 

 笹原の意見に航暉は盛大に肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの業務は激務だった。

 

「しれーかーん! 企画書これ! バージョン1.3.25!」

「あの……お好み焼き用の鉄板のレンタル先なのですが……」

「カズ君、調理系のガス配線図そろそろ出るー?」

「待て待て待て待て! 俺は聖徳太子じゃねえんだ! 一人ずつ来い一人ずつ! 一番速かった雷。要件!」

 

 航暉は通常の艦隊業務の申請書類などを裁きつつも艦娘からの企画書の確認や財務予算などの整理と校正などを並行してやらねばならない。普段は隊長クラスとだけやり取りしてればいいものを艦娘からの提案、報告をいくつも受けなきゃならないのだ。

 

「これ、企画書のリテイク! これで予算計算あってると思うけど」

 

 雷から渡されたのは拡張現実タグが埋め込まれた企画書だった。電子処理の方がかさばらないがどこに誰のデータがあるかを把握するために、紙媒体でやり取りしている。ミスを減らすための措置だがこれが意外にめんどくさい。拡張現実タグを読み取りとかなりのページ数の企画書が表示される。

 

「原価は?」

「大体一食当たり72円だから300円で150食売れば元は取れるわ。ちゃんと今度はガス代と電気代を換算したわよ?」

「企画書はこれを決定稿に。3日後の衛生講習会での認定を受けて許可証が来たらそれを付けて提出」

「はーい!」

「以上、次赤城!」

「鉄板など調理器具貸出メーカーからの見積もり来ました。ご確認を」

 

 赤城からの書類を組みつつ、さっとデータの演算をする。……間違いなくこのままでは足が出る。

 

「後いくらか切り詰められないか?」

「ここが一番安い見積もりを出していただいてます」

「公的機関だからって足元見てるなこの見積もり……!」

 

 航暉はそうぼやきながらも参考値を確認すべく去年の書類を引っ張り出す。

 

 

――――――軍隊とは戦う組織である前に、巨大官僚組織である。

 

 全ては書類で管理され、書類がそろわない限りすべてのシステムがストップする。それはどこの軍隊にも例外はなく、国連海軍もそんな組織の一つだ。その行事で行われる一般基地公開である横須賀鎮守府祭も当然例外になることはない。

 当日のプログラムすべてに大量の書類が付いて回る。その中でも特に書類仕事が多くなるのが、外注である程度の器具をやり取りすることが必然的に多くなる縁日担当なのである。

 

「……どう考えても予算が足りねぇ。赤城、とりあえずこの業者にもう少し安くならないか言っておいてくれ。こっちは経理担当と喧々してくる」

「カズくーん! その前にガスと電気の配線! 締め切り今日の正午なんだって!」

「それを早く言え笹原っ!」

「月刀准将ちょっとよろしいですかっ!?」

 

 追加で顔を出したのは青葉である。青葉が飛び込んでくるということはおそらくパンフレット関連だ。――――――正直それどころじゃない。

 

「警備・広報は高峰に回せっ!」

「じゃなくてっ! 花火担当の521から大和さんと武蔵さんを借りたいって連絡がっ!」

「さらに人員が減るのかっ……!」

 

 521戦隊の司令官は中将が付いており、航暉がどうこういえる相手ではない。そもそも部隊の設立時に相当の無理を言って一航戦や大和型を引き抜いている以上強くは出れない。

 

「ええい! 大和武蔵の希望を尊重! 貸出OKなら杉田の同意取り付けて持ってこい!」

「了解しましたっ!」

 

 青葉の返事を聞く余裕もなく、会場配置図を引きずりだす航暉。隣にはバカみたいに分厚い安全管理マニュアルを広げる。最新版が電子データではなく書類で出すあたりが官僚組織たるゆえんなのかもしれないと思いつつ、航暉はガスの配置図と電源ケーブルの配置図の作成に取り掛かった。

 

 

 

 そんなこんな第50太平洋即応打撃群執務室が阿鼻叫喚の地獄絵図で業務を回しているころ、その喧噪からやや遠い部屋に人影があった。4人部屋の居室で穏やかな雰囲気で駄弁っているのはドイツからの出向組―――――ビスマルク、プリンツ・オイゲン、Z1、U-511改め呂500である。4人は出向とはいえ、欧州アフリカ方面隊の所属には変わりなく、無理に激務に晒すこともないということで一般公開に関わる業務を免除されているのだ。

 

「日本のFestは初めてね。こんな暑い時期だとまだビールの時期には早いわよね」

 

 そう言ったのはビスマルクである。日本の湿度に溶けそうなせいか、このようなオフの日には部屋でのびていることが多い。だらっと仰向けになったビスマルクと同じベットに腰掛けたプリンツ・オイゲンが優しく笑う。

 

「姉様、オクトーバーフェストじゃないですし、日本式なんですよきっと」

「でっちが……えーっと、オ・ボン……? その時期にフェストをするのが日本式だーって」

 

 向かいのベッドで横になり本を読んでいる呂500がそう言ってページを繰った。

 

「オ・ボン、ねぇ……」

 

 この暑い時にわざわざフェストをしなくても……というのは根本的に暑さが苦手なビスマルク。プリンツ・オイゲンもどこかそれには共感するらしく頷いていた。

 

「それにしても……何を考えてこの時期にお祭りなんて……」

「なんでも先祖の英霊が帰ってくるらしいよ」

 

 そう言ったのは椅子に座ったレーベリヒト・マースことZ1だ。その答えにビスマルクが頭をもたげる。

 

「英霊って……Seeleのこと?」

「うん。ボンっていうのは先祖の魂が帰ってくるから歓迎してもてなしてまた天国に帰っていくまでの時期のことを言うそうだよ」

「レーベちゃん詳しいね」

「うん、イナヅマに教えてもらった。その時期はいろんな会社が休みになるからその時に合わせて基地の一般公開をして活躍を知ってもらうのが目的なんだって」

 

 呂500の問いに答えるとレーベは笑った。

 

「イナヅマが、ドイツの皆さんにもしっかり楽しんでほしいのですって言ってたよ」

「……なんだか悪いわねぇ」

 

 そう言ってビスマルクはむっくりと起き上がった。

 

「ビスマルク姉様?」

「少し散歩にアドミラル・ツキガタの部屋まで行こうと思うのだけれども、ついてくる人、いる?」

「姉様が行くなら、ぜひ!」

 

 真っ先に目を輝かせながら起立するプリンツ・オイゲンそれを見たZ1がにこっと笑った。

 

「部屋にずっといるのも健康に悪いし、うん、付き合うよ」

「みんなが行くならろーちゃんも行くって!」

 

 呂500もベッドから跳ね起きる。

 

「決まりね、じゃぁ少し歩くわよ」

 

 ビスマルクがにっこりと笑って部屋を出る。

 

「一般公開なら私達はホスト側、もてなす用意はしなくちゃね」

 

 そう言って意気揚々と廊下に繰りだし――――――。

 

 

 

 

「だから、なんで中央回廊来場者向けの給水タンクの予算がこっちの管轄なんだって聞いてるんだ。あそこは横須賀港務隊の管轄域だろう。正面ロータリーから5分も歩いたところにある給水タンクをなんでこっちの管轄で外注委託するんだよ」

 

 

 

 

 ――――――響いてくる声に唖然とした。大量の書類が右へ左へ行き来してその音の間を声が埋めていく。当の月刀航暉准将はどこかと通話中らしく、右手にはペンで何かをメモしつつ左手には提出された書類を漁っているところだった。

 

 

「そもそも、海軍の給水車じゃだめなのか?……すでに駆り出してる? なら陸軍が持ってるだろ。……失礼。金剛、そこに置いておけ、後で目を通す。笹原! その書類ファイナライズするなよ! 変更入るから!……それで、なんとかならんか?……恩に着る、今度なんか奢ってやるよ」

 

 通信が終わったタイミングで航暉のテーブルにはまたわっと人が集まった。

 

「テートクゥ! それでコルク材なんですガー!」

「さっきのリテイク持ってきましたー!」

「これ杉田大佐の同意書ですっ!」

「だから一人ずつ喋れっ!」

 

 ……その様子を見てそっとその場を離れるドイツ艦4人。

 

「ヤーパンのお祭りって……」

「……すごく激務なんですね」

「……うん」

「……ですって」

 

 すごすごと退却するドイツ組には日本のお祭りって怖いという感想が鮮明に刻まれたのである。

 

 

 

 




……夏祭り始まってねぇ!

次回こそ夏祭り当日ですのでおたのしみに

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それでは、次回お会いしましょう。

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