艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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それでは演習編最後の戦いが幕を開けます。

それでは、抜錨!


加賀「鎧袖一触よ」

 

 

 

 朝潮は周囲の空気がぎすぎすしていくのをひしひしと感じていた。

 

『さて、それではアクロバティックタイムトライアルのルールを説明します』

 

 無線の奥の大淀が粛々と司会進行を続けていた。

 

『スタートは各チームの得点の昇順で位置を決めさせていただきました。この体勢からスタートします。号砲と共にあらゆる戦闘行動が許可されます』

『あらゆる戦闘行動とはどういうことかしら~』

 

 そう言ったのは猫ひげを書かれた龍田だ。前から三列目……最後尾の列に配置された正規空母チーム以外は見渡せる位置でそう聞いた。

 

『あらゆる戦闘行動は文字通りの意味です』

『ということは……航空戦は?』

『アリです』

『砲撃雷撃』

『もちろんアリです』

『進路妨害も?』

『アリです』

「本当になんでもアリね」

 

 朝潮の前にいる陽炎が肩を竦めた。

 

『スタート地点から10キロごとにチェックポイントの浮標を浮かべてあります。二つのブイが対になって浮かんでいるのでその間を通過していただければどのような航路を取っていただいても構いません。チェックポイントは全部で三つ、3つ目のチェックポイントから10キロ進むとゴールがあります。そこに各チームの行動可能艦が全艦ゴールした時点で順位が確定します』

 

 朝潮は頭をひねる。行動可能艦と言ってきたことは途中で撃破されることもあり得るということだ。

 

『得点は1位が700点、2位が600点の順で最下位7位が100点。途中で全艦行動不能判定がでて誰もゴールできなければ0点です。これをチームの何割がゴールできたか掛け合わせまして素点が決まります』

 

 すなわち、2位でゴールできたとしても、一隻しかたどり着けなければ100点となるということだ。うまいこと周りから守りつつ急がなきゃならない。どうするべきかと朝潮は頭を悩ませていた。

 

『その他にも各チェックポイントの一位通過したり、相手チームの所属艦娘を行動不能に追い込んだりするとボーナスポイント50点が入りますので積極的に狙っていくことをお勧めします』

 

 それを聞いてわずかに顔色を悪くする朝潮。朝潮たち駆逐艦チームの順位は現在二位、順位的にも前におり、またこの並び順でも一位の戦艦と並んで最前列だ。そして相手を沈めれば自らのチームにボーナスポイントが入り、沈められた方は素点が減る。この仕組みで今のランキング上位が最前列にいるというのが何を示すか。

 

「これ、スタートと同時に一斉攻撃が来ますね……」

「朝潮もそう思った? あたしもよ」

 

 陽炎がそう言って肩を竦めた。駆逐チームの真後ろには重巡チームが、左斜め後ろには潜水艦チームが控えている。一斉雷撃も一斉砲撃も十分にあり得る。

 

『あと、注意事項ですね。えっとー、昨晩の違法行為により顔に落書きされた方。ペナルティとして武装表示欄上から二つ目の武装を封印処置させていただきましたのであしからずご了承くださいね』

「青葉! 何積んでる!?」

 

 最上が弾かれるように振り返れば冷や汗でぐっしょりになった青葉が顔を上げた。

 

「……20.3センチ主砲、です」

「あちゃぁ……」

 

 利根が頭を抱える、額に肉と書かれた青葉が戦力外になりそうだ。

 

「そして龍田は5連装魚雷発射管クマか……」

「ほんとごめんなさーい……」

『あとゴールを潜った時点で戦闘行動は禁止となります。ゴールを潜った艦への攻撃やゴールを潜った後から救援に舞い戻ることは許されませんのでご注意くださいね。……それでは2分後にスタートです。時間合わせ、3,2,1、マーク』

 

 厳しい戦いの幕があける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねー龍田さん』

「……潜水艦チームの伊401さんが何かしら~」

 

 朗らかな声が無線から響いて魚雷が反応しないため“少々”不機嫌な龍田が反応する。

 

『うーん、まぁ簡単に言えば“一緒に頑張りませんか?”っていうお誘い』

「……それは私達への挑発かしら?」

『まっさかぁ。でもいいの? 協力してくれないと、撃っちゃうよ?』

 

 そうか、だから私か。と龍田は納得と同時にいろいろ歯噛みした。

 

「貴方達の利点はなにかしら~?」

『まぁ、一個交換条件を出そうかなって思って。わたしたちは潜水艦(ビッグイーター)だから水上艦なら相手を大体“喰える”。だけど航空戦はそうはいかない。わたしたちは潜ればいいえけど、大鯨はそうはいかないからね。大鯨の分の対空戦をお願いしたいんだ。その代り、戦艦や空母は対処できるし、頭数を減らすことができる。龍田さんたちにとっても私にとっても悪くない話だと思うよー?』

 

 対潜警戒をしなくて言い分確かに楽になるだろう。龍田はチームの仲間に目を走らせた。球磨が即座に頷いた。

 

「ここは手を組むのが得策だクマ。現状で戦艦チームと駆逐チームを追い抜かなきゃいけない状況で後ろの赤城達も捌くのは現実的に厳しいクマ。味方は多いに越したことはないクマよ」

「そうねぇ……でもその盟約を守ってくれる保証はどこにあるのかしら?」

『そんなものはないよ。でも、それはお互い様でしょ?』

 

 その言葉を聞いて龍田が笑みを浮かべた。

 

「いいわぁ、じゃぁ話に乗りましょう」

『決まりだね。大鯨のことをよろしく頼むね』

 

 伊401からの通信が途切れる。

 

「龍田、切るタイミングは見きわめなきゃいけないクマよ?」

「もちろんよー。まだ午前中だから火力では空母や戦艦にはかなわないわ。なら、ゴールの順位を上げるしかない。そうなると……」

「低速の潜水艦に速度を合わせての移動は難しい。かしら?」

 

 夕張の声に球磨が頷いた。

 

「そう言うことクマ。向こうもそれをわかって声を掛けてきているはずクマ。だから気を付けながら進むクマよ」

 

 直後開戦10秒前のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!来た来た来た!」

 

 開戦直後に迫りくる魚雷の山に全力で疾走する駆逐艦ズ。上空に一斉に上がった弾丸の山は一位の戦艦チームを狙っているものと信じたい。

 

「ツーマンセルを徹底! とりあえずソナーは常にオン! とりあえずダッシュで逃げろー!」

 

 旗艦の白露が叫んで秋月と連れだって一目散に距離を取る。逆にとりあえず魚雷の射角から逃げようと真横に全速前進したのは朝潮陽炎ペアである。

 

「ちょ、きついきついきつい!」

「言ってる余裕あったら逃げましょうよっ!」

 

 そう言った朝潮は真横を通過した潜水艦からの魚雷(おくりもの)に肝を冷やしつつも前をゆく陽炎を追いかけた。

 

「戦艦の皆さん! 戦線組みませんかっ?」

 

 叫んだ陽炎に朝潮がぎょっとする。そう叫ばれた日向たちもぎょっとしたらしい

 

「対潜で協力しますからっ! トップチーム同士後ろを黙らせてから競い合っても問題ないと思いますがっ!」

『……こういうのは正々堂々とだな』

『Yes! 協力するねー!』

『金剛!?』

 

 長門の声が断ち切れる。

 

『こちらとしても早々に潜水艦に対処したいネー! 対潜をお願いする代わりに空母などの重量級をこっちで持つことでどうデショウ?』

「交渉成立ね! 白露!」

『はーい! なんですかー?』

「戦艦チームと交渉成立。対潜戦闘行くよ!」

『了解っ! っと、こっちも重巡チームから発光信号受信、テ・イ・セ・ン・ノ・ヨ・ウ・イ・ア・リ……停戦の用意あり、共同戦線を張ろうとのこと!』

「今のとこは断るのもアレね……対潜装備積んでるのって朝潮と白露よね?」

『そうだね! さっさと終わらせちゃおうか?』

「重巡チームは最上さんと利根さんが水上機を持っているはずだから対潜はそこまで重要視しないはず。吹雪綾波バディを重巡チームに同行させて! 白露たちは一度戦艦チームに合流して再編成、再編して潜水チームを潰しにかかるよ!」

『了解!……って私の仕事奪わないでよー!』

「ごめんねー」

 

 陽炎がそう言って無線を切った。

 

「朝潮、悪いけど対潜用意」

「はいっ! いつでも行けるように用意できてます!」

「さっすが、それじゃ、戦艦チームの皆さんと一緒だから私達はそこまで速度を上げられない。生き残ることを意識していくわよ」

「はいっ!」

 

 朝潮の威勢のいい返事が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当によかったのかしら」

 

 加賀の問いに赤城は微笑んだ。

 

「我々の速度では駆逐隊を追い越すことはできない。そして我々空母の戦い方はアウトレンジからの攻撃が真骨頂。ちょうど最後尾に配置して貰えたことですし、到着順位を捨てて距離を取るしかほぼ道はないでしょう。我々空母が勝ち残るには相手への攻撃ポイントで勝つしかない」

 

 赤城はそう言って直掩機を見上げる。上空でホイールワゴン機動を続ける烈風の演習機は進み続ける彼女たちの真上できれいな正円を描いている。それがどれだけ高度に制御されているか、こればかりは空母系の艦娘にしかわかるまい。

 

「……まだまだですね」

 

 それでも赤城はそう呟いた。

 

「これでまだなんですねぇ……」

 

 横に立つのは敵チームであるはずの瑞鳳だった。空母同士艦載機を潰しあっても仕方ないということでとりあえず今は共同戦線を張っている。

 

「月刀大佐の指揮に比べればまだまだです……」

「……正直あの人と比べること自体が間違えているような気もしますけど」

 

 瑞鳳が苦笑いを浮かべるとその向こうから声が届いた。隼鷹だ。

 

「話してるところ悪いけど、ちょーっときな臭くなってきたよ」

「隼鷹?」

「1時方向、戦艦チームの主砲に動きありだ。長距離砲撃の可能性が出てきたよ」

「こちらも艦爆を上げておきましょうか?」

 

 大鳳がそう言うと赤城が頷いた。

 

「空母連合全艦へ、これより敵対艦船への空爆を開始します。空母12隻の絨毯爆撃、力を見せつけますよ」

『了解っ!』

 

 地獄のような攻撃が幕を開ける――――――。

 

 

 

 




次回から一気に戦闘回……(いろいろ報われなかった)空母連合の反撃がはじまる。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
演習編もそろそろ大詰め、気合、入れて、行きます!

それでは次回お会いしましょう。

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