艦隊これくしょん―軽快な鏑矢― 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
啓開の鏑矢だとこの話は14話あたりの話になるのかな、と。
注意事項です。
・『啓開の鏑矢』の時系列はガン無視。つまり時系列をいったりきたり
・無駄にネタに走る可能性大
・キャラ崩壊あり、注意
・駄文、駄文、アンド駄文
それでもいい方は、抜錨の用意を。
それでは抜錨!
Здравствуйте. 響だよ。早々悪いんだけど、一言言わせてほしい。
ごめん。死にそう。
「姉さん、そろそろ起きてくれ」
「あと5ふん……」
「あと五分もこの姿勢は無理だ」
私のベッドは二段ベッドの上段、なぜ下段で寝ているはずの暁姉さんが私のベッドを占領しているのか正直理解に苦しむ。一緒に寝ているだけならまだいい。私の可愛い姉だ。まあ許す。
でも、蹴落としかけておいて足首を極めにかかっているのはいかがなものなのか、と抗議をしても許されるはずだ。しかも上半身は完全に宙に浮いていて……というか逆さづりの状態放してくれないとなると苦しさも一入というものだろう。何とかベッドの手すりにつかまって耐えてはいるが。
「姉さん、そろそろ、ほんとに……頼む」
「あと、50分……」
「だからそんなに耐えられないって!」
直後、足の圧迫感がなくなりいきなりベッドから叩き落とされる。
「~~~~~~っ!」
鼻の頭が痛い。さすがに怒っても許されると思うんだがいかがなものだろう?
「暁姉ぇに響姉ぇ、おはよう。……って響姉ぇはまた襲われたの?」
「あぁ、……電、部屋を交換してくれる気になったかい?」
「響お姉ちゃんのお願いでも無理なものは無理なのです」
「つれないなぁ……」
朝ごはんを食べに食堂に行くと妹二人が先に来ていた。二人とも明るいブラウンの髪でそっくりな顔立ちだが性格はまるっきり正反対ともいえる二人……雷と電だ。しゃきしゃきしてるほうが姉の雷、マイペースなのが末の妹、電だ。
「レディに対して失礼だと思わないの?」
「レディはいくら寝ぼけてても足首を極めにかからないと思うよ」
そういいながら朝ごはんをもらう。今日のメインはアジの開きらしい。
「そういえば、響お姉ちゃん」
「何だい、電」
「合同演習の話って聞いてます?」
「あぁ、エニウェトク基地に行っての演習だったね。演習だと嫌な記憶しかないんだが」
「まぁ、グアムみたいなことにはならないと思うのです」
電はそう言って笑った。
「それに、エニウェトク基地には知り合いがいるのです!」
「そうなんだ。誰?」
「前にウェーク基地で一緒だった千代田さんです!」
楽しみなのです、といって席に着いた電の向かいに腰掛ける。私の隣には暁が、電の隣には雷が腰掛ける。
「なら少しは楽しめるといいね。何はともあれ、いただきます」
4人の声がそろう。今日のごはんもおいしい。
「さーて、演習とはいえ、張り切っていくわよーっ!」
そんな風にハイテンションなのは雷だ。その横では緊張顔の電。
「う、うまくいくでしょうか……」
「なーに不安そうなんだ、雷ほどとは言わないから自信を持て自信を」
激励を飛ばすのは軽巡の天龍……演習“紅組”の旗艦で、今回の私たちの“ボス”だ。
「で、天龍。どうするんだい?」
私が声をかけると彼女は笑った。
「単純だ。航空機からはひたすら逃げる。さっさと近づいて水母を潰す。質問は?」
「作戦って言えるのかい? それは」
「細かに作戦を立てたって逃げも隠れもできねぇんだ。最初は単縦陣で近づくが
あとは自由に殴り合え」
「……了解」
正直この人、あんまり旗艦に向いていないと思う。
《こちら“白組”千代田。“紅組”の皆さん、準備はいいですか?》
通信が飛んでくる。ニヤリと笑った天龍が空を見上げる。
「いつでもいいぜ、少しはうまくなったのか?」
《千歳姉ぇみたいにはいかないかもしれないけど、負ける気はないわ!》
「オーケー千代田、見せて見ろ」
そういえば天龍も千代田と顔見知りだった、と今になって思い出す。
《それじゃあ、行くよ……状況開始!》
相手の無線に合わせて飛び出していく。
「おっしゃぁ! 天龍様の攻撃だぁ! ビビらずついて来いよ!」
先陣を切って天龍が飛び出す。その後ろに4人でついていく。私がしんがり、一番後ろだ。
「水上電探コンタクトなのです!」
「おっし、狙えるか?」
電が敵をレーダーで捉えたらしい。
「やってみます!」
「対空電探、後方に反応だ。ゲタ履きだね」
私の電探も航空機を捉える。後方から捕捉された。精密射撃が来る可能性もある。……まぁ、相手は水母と駆逐艦だけだから来るはずないってのはわかってるけど。
「うちます!」
電の砲が閃く。数瞬後に弾着、水柱は見えない。
《……痛い。帰りたい》
「よくやった電! それじゃあ突っ込むぞ!」
どうやら初撃がいきなり相手にヒットしたらしい。電探だけでよくやる。
「それじゃ、全速全開で突っ込むよ!」
「暁の出番ね、見てなさい!」
真っ先に飛び出したのは雷と姉さんだ。ところで雷、なぜもう錨を構えてるのか聞きたい。
敵艦隊が見える。砲弾が飛来する。弾幕の帯に捉えられる、なかなかうまい。
「でも、甘い!」
叫んだのは姉さん、主機を全開のまま踵に荷重しつま先を浮かせるようにしてターン、方向転換をしつつ砲身を振り、後方へ向けて発砲。接近してきていた水上機を蹴散らすとそのまま転進、脇に落ちた砲弾の水柱の陰へ。その水柱が治まるころには、主砲ユニットは再び前に。発砲、爆炎、飛翔音。立つのは水柱。直撃はしていないようだが、吹雪らしき悲鳴が無線に乗ったから至近弾は出たようだ。
その間にさらに距離を詰めていくのは雷。それについていくように私と電が進んでいく。
「一番槍は電に取られたけど、少しはお姉ちゃんらしいところ見せなきゃね!」
相手もこちらに近づいてくる。あれはおそらく、白雪か。
「それじゃ、いっきまーす!」
雷が一気に速度を上げる。さすがにここまで近づくと互いの照準精度が上がっていく。私の髪を敵の弾が掠めた。電が合図を出してきた。左舷転進1ポイント、敵旗艦へ向け回頭。
白雪に向けていきなり錨を投擲した雷を尻目に斜め左へと緩やかに転進。電は進路を妨害してくる叢雲との一騎打ちに突入するようだ。
「ちょ、何投げてんのよ!?」
「どんな手段でも当てれば勝ちなのですっ!」
私の右側でダミー魚雷を無理矢理投げつける電。叢雲は完全に目が点になっている。魚雷は撃つもので投擲するものじゃない。確かに酸素魚雷は一撃必殺の飛び道具だが、だれが物理的に飛ばせと言った。
「ほら! 主砲なんて捨ててかかってきなさい!」
「なんで鎖を振り回して戦わなくちゃいけないんですか!?」
「どんどん撃ってきなさい? 特Ⅲ型に特Ⅰ型が勝てると思ってるのかしら?」
「吹雪型を、舐めるなぁ!」
「魚雷はバットじゃない! 振り回すのはやめなさい!」
「当たればいいのですっ!」
前から少し思っていた。それが確信に変わる。
「……この部隊、いろいろ雑すぎる」
《雑なんかじゃねぇ、それでも作戦が回るほど個人が強いんだ》
「艦隊機動なんてへったくれもないね」
《“兵は詭道なり”だ。さて、あとは響、お前だけだ》
目の前には僚艦の戦闘風景に唖然としている水上機母艦。いつの間にか敵の防衛ラインを超えている。
「さて、やりますか」
「……で、旗艦を沈めて帰ってきた、と」
「そうだ。で、司令官。勝利報告受けたのになんでそんな顔をしてるんだい?」
目の前で白い詰襟を着こんだ私の部隊の司令官、月刀航暉第551水雷戦隊司令官が頭を抱えている。
「エニウェトクの神南大佐から私の部隊の所属艦がかなり……そう、独創的な戦法を取っていると連絡があったんだ。……確かに各自全力を尽くせ、作戦も任せて自分たちで戦って来いと言ったのは俺だ。でも錨を投げる、魚雷を手で投げる、魚雷で殴る。防弾板を蹴り込むあたりは予想外だ」
いつもの鳶色の瞳を閉じてこめかみを揉む司令官。たぶん、私が戦闘中に感じた気持ちと同じはずだ。言葉を選んでくれているあたりは司令官が優しい証拠だろうか?
「でも、勝ってきたじゃねぇか」
「……まぁ、固定概念にとらわれず、柔軟な兵器運用が可能だってことは認める。だがな天龍、兵器の使用法には意味があることも知ってくれ」
そう言うと司令官は顔を上げた。どこか顔が疲れている。
「専用の武器でも作った方がいいんじゃないか? 電?」
「はわっ?」
「本物の魚雷でやったら手首から先が綺麗さっぱり吹っ飛ぶからな」
「え、えっと……」
「まぁ、必要だと思えば言ってくれ」
「あぅぅぅぅ」
頑張れ、電。魚雷でぶん殴る戦法で印象が固定されてしまう前に、なんとかするんだ。
「……司令官。この部隊こんなので大丈夫なのかい?」
「ん? 大丈夫だろう。なんだかんだでうまくいってるさ」
それをまとめてしまう司令官はある意味一番個性的なのかもしれない。
……いかがでしたでしょうか?
こんな感じのものが続きます。たぶん。
優先順位は『啓開の鏑矢』の更新を優先していくと思うので、こちらは定期的な更新は行いません(断言)
感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それは、次の機会にお会いしましょう。