艦隊これくしょん―軽快な鏑矢― 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
大暴走してますがどうぞお付き合いください。
それでは、抜錨!
本日3回目の鉄拳制裁が飛んだ。その直前に叫ばれた言葉がタイトルにあるアレである。
「2度もぶった!」
「どこのモビルスーツパイロットですか。あのですね、赤城さん。つまみ食いはルール違反なんです。なんで完成したアスパラのベーコン巻を5つも口に放り込んだんですか? 味見の限度超えてますよ?」
正論で突っ込みを入れ続けるのは大鳳である。それを苦笑いで眺めるのは二航戦の蒼龍と飛龍だ。
「ま、まぁ、まだ何とか修正効く量だから大鳳さんもそのぐらいで……」
蒼龍が慌ててフォローを入れると、ぱぁぁ……と表情が晴れる。おそらくおもちゃを目の前にした子犬と同じ表情と言えばわかるだろう。そう言う表情だ。
その横であっと声がしたのはその時である、
「加賀さん! あなたもなにやってるんですか!」
多聞丸に怒られますよ!? と続くところからして誰が言ったかおわかりになると思う。そう、飛龍である。
「……私の顔に、何かついていて?」
「もうばっちりデミグラスソースがついてますけど何か?」
イラッとした風にそう言うのはやはり大鳳。
「加賀さんももう一度グーで行きますか?」
「やるなら五航戦の子たちにして頂戴。
「しませんよ! 翔鶴さんはつまみ食いなんかしてないでしょうが!」
むすっと顔を逸らす加賀の隣で赤城がそろっと動き出す。
「……で、まだ懲りませんか赤城さん。三回目行きますか?」
「うっ……でもでもでもっ! こんなにおいしいそうな弁当を前に待てはしんどいんですっ!」
「……仕方ありませんね」
大鳳が溜息をついてそう言った。赤城の顔が期待にほころぶ。
「今後一口ずつつまみ食いにつき、この演習の副賞で来る間宮券の配分率、減らしていくことにしましょうか?」
「そんな殺生な!」
「そうです。それは横暴じゃないの?」
「だまらっしゃい一航戦の埃。つまみ食いした分とトレードです」
大鳳がちらりと翔鶴や飛龍たちに目配せをした。今のうちに早く弁当を仕上げて!
弁当作りはいよいよ最終段階に入る。
「でもさぁ、この弁当箱、少し小さいんですよね」
蒼龍の声に渋々ながら頷く翔鶴。
「でも、どうするんです? アスパラベーコン巻も数が一気に減ってしまいましたし……」
「任せて、いい案があるの」
飛龍は企み顔で笑って見せた。
「はいっ卵焼き完成!」
卵焼き機を丁寧に振って形を整えるとまな板にその卵焼きをぽんと置く。
「やっぱり上手く作るわねぇ」
飛鷹はそう言ってそれを弁当箱に収まるサイズに切り分け丁寧に弁当箱へ並べていく。余った切れ端をさらに小さく切るとその一つを手に取った。
「……さっすが、絶妙な塩味」
「甘いのが好きとかいろいろあるけど、どれ……」
龍驤も余った切れ端を口に突っ込んだ。
「ん、美味しいやん。ちょっと塩薄い?」
「冷えればちょうどよくなるよ? 素材の味を生かしてって言うと聞こえがいいけどね」
瑞鳳が笑ってそう言う。その横では弁当箱をじーっと見ながら隼鷹が不満そうだ。
「なぁ、やっぱり酒のアテが足りない気がするんだけどなぁ……」
「さすがに角煮を作るには時間が足りないし、たこわさとかそう言うのを用意してもアレでしょう?」
そう言ったのは千代田だ。千歳おねぇのために鍛えたと豪語する包丁さばきでウィンナーを飾り切りしていくのはさすがの腕だ。
「時間もないしそろそろ仕上げ、いくわよ!」
「はいっ!」
飛鷹の声に一段と活気づく軽空母チーム、終了まであと少しである。
「ハイっ! それでは皆さん出来上がった弁当を提出してくださーい!」
大淀の声に集まった弁当箱を見て航暉は一瞬眉をひくつかせた。ふたを開ける前だがいろいろ問題がありそうなものがいくつか見受けられるのである。
「……さて、とりあえず正規空母チームの“弁解”を聞こうか」
「はいっ! 正規空母特製の赤城三段甲板弁当です!」
正規空母チーム旗艦の赤城が胸を張ってそう言った。目の前には他のチームよりかさのある包み……まげわっぱの弁当箱を三段重ねて風呂敷で包んだそれが明らかに周りから浮いているのだ。
「この曲げわっぱの弁当箱に入るサイズでお弁当を作ってくださいって言ってなかったか?」
「でもまげわっぱの個数に関してはなにも言及されてなかったはずですが」
さらっと涼しい顔で言うのは加賀である。
「これってどう対処すべきなんですかね……」
浜地提督の言葉に大淀は苦笑いだ。
「とりあえず、次回はちゃんと個数に関して規定しておかないとダメですね」
「ってことは今回はオッケーってことになる訳ですね」
「……そうなりますね」
間宮の小さく引きつった笑みに悩みながらも大淀が答える。
「……では、中身に入ろうか」
三段甲板を崩して三つの弁当を並べるとそれぞれ中身が出てくる。中はなかなかこったつくりになっていた。
「なるほど、上から和風、洋風、ごはん、ですか……」
鳳翔が感心したようにそう言った。スクランブルエッグやアスパラの色合いが目を引く二段目に、落ち着いた色合いの煮物がどこか人を安心させる和風の一段目、まげわっぱいっぱいに詰められた三段目のご飯もこれだけおかずがあれば余ることはないだろう。もっとも
「この分量食いきれるかどうかの方が問題ですね」
これには明石も苦笑いだ。それを言うと、正規空母チーム全員がきょとんとした。
「「「「「「これが普通では?」」」」」」
「……」
「と、とりあえずそれぞれの料理を実食してみますか」
鳳翔が場を取り直して箸をとる。食べてみるとどれも味がいい。でもさすがにこれは……。
「量が、多い……」
「ですね……」
正規空母チームが首を傾げて一言。
「「「「「「これが普通では?」」」」」」
「……」
「と、とりあえず次のチームいこうか……」
「ですね……」
次に手に取ったのは軽巡チームの弁当箱だった。
「……一つだけ聞かせてくれ、何があった?」
「……見てわかりませんか~?」
「あ、うん。夕張が縛られてるのは見てわかるんだが、何があった?」
「弁当箱の中を見てもわかりませんか~?」
弁当箱を開けて、鳳翔の眉が吊り上がった。
「……」
「えっと、これもしかして……」
「野菜炒めに紫キャベツ突っ込んだのか」
「ご名答でーす。その結果簡易BTB溶液状態になりましてー」
「酸性中性アルカリ性に合わせて恐ろしい色合いに変色したと」
「はいー。味は問題ないんですけどね~」
細かい描写は省くが、ごはんや鮭のムニエル、ポテトサラダなど可愛らしいレイアウトに交じって不自然にカラフルな色の野菜炒めが入っている。……ほかがまともなだけに野菜炒めのインパクトが強すぎた。確かに味はまともなのだが、視覚的に恐ろしく食べにくいのだ。
「次、いってみようか」
「はい……」
一番危なそうなチームを超えただけあって、少し気が楽だ。次に手が伸びたのは潜水艦チームだ。
「あれ? ごはんだけ?」
「そんな訳ないじゃないですか。どうぞ箸を入れてみてください」
大鯨にそう言われてそっと箸を入れる。ご飯の奥から濃い色合いが顔を出す。
「これは……牛肉?」
「牛肉の赤ワイン炒めです。ご飯との相性ばっちりですよ」
「さらに下にはおかかですか……確かにこれはご飯が進みますね」
白いごはんの下に濃いめに味がついた牛肉、醤油漬けにしたおかかが挟み込まれごはんと層を成している。牛肉とおかかの出汁がいい塩梅にご飯に沁み渡り、ガッツリとパンチを聞かせながらも赤ワインの上品な甘みと苦みが味を引き締めていた。
「弁当ならでは……ですね。冷えるにしたがって味が染むようにできてます……」
間宮さんもこれには感心しているようだ。伊8と伊401が互いにハイタッチした。
「これならパパッとかきこんでもお腹に溜まりますし、評価高いですよ」
何とか潜水母艦の面目を保てたことにほっとしつつ、その次に控えていた軽空母チームの弁当が開かれた。
「おー、定番だ」
「タコさんウィンナーに卵焼き……」
「卵焼きはこの瑞鳳が作りましたぁ! どうかな……?」
程よく冷えた卵焼きは味も落ち着いており、言うことなしに旨い。
「ご飯と一緒にいただくにはこれくらいの塩梅がちょうどいいですね」
鳳翔からそう言われてぴょんと飛び上がる瑞鳳。それを見て龍驤は(あざとい……)と思ったのは彼女だけの秘密だ。
「言わないでいいんかぁ? 瑞鳳の作った卵焼き、食べりゅ?って」
「もぅ! 龍驤さん!」
「なら私から行こうか」
その会話に割り込んだのはまさかの日向である。
「瑞雲の作った卵焼き、食べりゅ?」
「そう言うのを真顔でやるのが日向さんらしいですね。ほんと」
「瑞雲がどうやって卵焼きを作るのか気になるがな」
間宮が苦笑いで答えながら戦艦チームの弁当箱を開けた。中からはおにぎりに卵焼き、から揚げにウィンナーなどが綺麗に盛り付けられている。
「あれ、このそら豆に使ってるマヨネーズは……」
「やっぱりカズキは気がついてくれますネー! ハイっ、オリジナルのマヨネーズデース! 粒マスタードが効いてて美味しいでしょー?」
「確かに大人な味に仕上がるな、それでいてしっかり主張してくる、そんな味だ」
「でしょー?」
金剛がハイテンションで答えるなかおにぎりに手を付けた浜地が驚いた顔をした。
「これ、食べても食べてもなくならないんだけど……」
「あぁ、それはな」
長門は至極嬉しそうな顔で笑った。
「二合分のご飯をおにぎり二つ分に見えるまで超圧縮した魔法のおにぎりだ!」
「……」
なんだろう、正規空母チームと同じ空気を感じてしまう。
「米は偉大だな。なんといっても腹持ちがいい!」
そう語る長門をほほえましく見ながら他のおかずにも手を伸ばしていく。なかなか美味しい。一つひとつの料理の完成度が高い。さすがは戦艦といった所だろうかと思いながら、航暉は一通り味見を終えた。
「あとは重巡と駆逐艦チームですね」
「なら重巡の子たちからいきましょうか」
重巡の弁当を開けると顔を真っ赤にして俯く羽黒。
「わぁ、きれいですね」
きれいに真ん丸にまとめられたポテトサラダにはレタスの緑が光り、人参の甘露煮だろうか? その赤もきれいだ。
「カラフルで見た目にも美味しそうですね」
褒め殺しとも取れる評価を前に羽黒がみるみる赤くなっていく。
「あの、あのあのその……ごめんなさいっ!」
「は、羽黒ちゃん!?」
「羽黒の奴もそろそろあの上がり症を直さないといかんのぉ……」
利根がやれやれと言った風貌で羽黒の後を追いかけた。航暉の方をみて小さくウィンクして見せる。
「で、最後の駆逐チームだけど……」
「どうしても秋月さんが牛缶を使いたいというのでそれを活かして時雨煮を作ってみました」
綾波が満面の笑みで差し出した弁当箱はかなり肉分の多い弁当箱だった。それを見てほほえましそうに笑うのは鳳翔だ。
「人気のメニューを集めたら確かにこうなりそうですね」
「もう少し色合いがあるとさらによかったかもしれないですね」
とりあえず全員分の弁当を口にして審査員一同はなかなか悩んだ。これ、順位付けなきゃいけない訳だが、どうしよう。
悩みつつも、なんだかんだ言って楽しみつつ午前の分は幕を閉じだ。
「……で、タカ君どうするの?」
「どうするって何が?」
高峰はQRSプラグを引き抜きながらそう言った。自動で首の後ろに回収されたコードを確認しつつ笑う。
「わかってるくせに、ハイフォンの横流し疑惑、裏とれたんじゃないの?」
「食糧というよりは周囲の地域住民への懐柔策の一つとして活用したらしいってのが本当のところかな? とりあえず監視カメラの映像を見る限りは間違いなく食糧は国連海軍管理区外に出ている。明らかな越権行為だ」
「その代価は掴めたの?」
「そっちの方はまだ、でも、おそらく掴める」
高峰は笹原の方を見て笑った。時計は12:43を示している。
「急いで飯を食わんとな、午後の種目に間に合わなくなる」
「だね、急ぎましょうか」
次の種目はまさかの陸上種目、どんなことになるか正直楽しみな高峰であった。
料理部門獲得得点
軽空44
重巡38
潜水37
戦艦32
駆逐30
軽巡24
正空23(正規得点43よりつまみ食い減点―20)
料理部門終了時における途中経過
1位:潜水(117)
2位:正空(103)
3位:駆逐(100)
4位:重巡(88)
5位:戦艦(82)
6位:軽空(75)
7位:軽巡(64)
ネタをつぎ込み過ぎたかもしれませんが……はい。
感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は続きの前に短編を挟もうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは次回、お会いしましょう。