デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 このご時世だから漫画を回収できなくてヒロアカの続きが書けないよう。

 今回は比較的早めに更新できました。折紙編の本編最終回です。残すはエピローグのみ……折紙編全4話!? うせやろ!?

 正直万由里めっちゃ使いにくい。そしてそれ以上に主人公が使いにくい。何かしらの理由をつけて行動を縛らないと全部こいつだけで解決しやがる。

 それでは、どうぞ。


第91話

 道中色々あったものの。

 俺達の姿は今、最終目的地である高台の公園……の端の方にあった。それ程遅い時間という訳でもないのだが、もうクリスマスまで一か月とちょっとというような時分、陽が落ちるのはとても早い。もう星明りが街を照らしている。

 吹き抜ける風が服の隙間から体を冷やしてきやがるので無意識に身を縮こまらせていたら左右から八舞姉妹に腕を取られながらくっつかれました。ぬくぬくする。それはそれとしてうなじの辺りからやっぱり風は侵入してくる。ちくせうめ。

 

「星が綺麗なもんだなあ」

「訂正。ここは、月が綺麗、と言うべき場面では?」

「俺はお前たちに死んでほしくないし、死んでもいいと思ってもほしくないかなあ」

 

 表情を見る限り、耶俱矢の方は一般的に使われる返しの言葉までは知らなかったようで。

 三人肩を寄せ合い空を見上げる。

 

「……して、此度の真意を聞こうではないか」

「あー……バレてたか」

「真実を暴く我が邪眼を掻い潜れると思ったか。それに、かの者の美貌は我らが颶風の御子に劣ると言えど目立つ。一度は偶然と片付けられるとしても、そう何度も見かければ誰でも気付くであろう」

 

 まあ流石にな。あわよくばとは思っていたが、俺も絶対バレないと確信していた訳ではない。最悪折紙にさえ気付かれなければ良かったので、何が何でも二人にバレるのを阻止しようともしていなかったしな。

 ちなみに、視線を下ろし、士道と折紙の二人の方に向けてみた感じ、折紙には気付かれていないっぽい。手を結んでいい雰囲気を出しているが、そこに周囲を気にするような素振りは見受けられない。

 こっちは手どころか腕組んでたわ。

 

「我らとの逢瀬の裏で何か企てていたことに関する詫びは後々別途要求するとして、そろそろ話してくれてもよいのではないか?」

「首肯。士道が会ってすぐの女性とデートをしているという時点でほぼ間違いなく精霊関連のことでしょうが、ここにきてこうも接近したのにも何か理由があるのでしょう?」

「理解が速くて助かるが申し訳ないな……二人は、あの転入生、鳶一折紙についてどう感じる?」

 

 双子の視線が同時に士道達に向く。

 今あの二人は向かい合って何か話しているようだが……あれこれ佳境では?

 

「どう、と申すがな御主……いや、どう思う、ではなく、どう感じる、か。むむむ……むっ?」

「観察。んん……んー……おや、いえしかし……」

 

 二人を以てしても、これほど注意深く観察してようやく微妙な違和感を覚える程度か。まあ今まで折紙=デビルなんて夢にも思っていなかったんだ。<フラクシナス>、ひいてはラタトスクの技術でも察知できていなかったと考えると、純粋な精霊である二人でもその程度なのは納得できる。その事実を知っているのも現状俺を士道、そして琴里を含む<フラクシナス>のクルー達くらいだからな。

 

「精霊狩り、識別名『デビル』……二人は直接会ったことはないんだったか」

「戦慄。……まさか」

「そういうこった……そろそろ臨戦態勢を整えておいてくれ。なんなら離れていて欲しいくらいなんだがな。俺は近くで援護に回る」

 

 二人にとっては久し振りのデートだったと言うのに、最後にこの事態に巻き込んでしまうのに思う所がないなんてことはないが、それは折紙のことが二人にバレるのを想定していた時点で割り切っている。

 折紙を反転させないよう士道の怪我を未然に防ぐというのも考えた。

 だがここで一度反転させなければ、折紙自身が自分との折り合いを付けられない。自分の感情を呑み込むこともできない。かつて確かに在った『なかったこと』を受け入れられない。

 故に反転はさせなければならない。反転させた上で士道に封印してもらわなくてはならない。

 他の皆には言っていない。『このタイミングで『デビル』として折紙が覚醒します』……と言ったところで、無駄に警戒レベルが上がるだけだ。下手すればその危険度からこのデートも一旦の保留になる可能性もあっただろう。

 まあ、俺が近くで監視すると言ったり、それとなく準備を進言していたりしたので直接言葉にはしていないもののある程度は向こうも察していたのだろうけどな。

 流星が一つ瞬いた。

 ああ、願わくば。

 ――どうか平和に終わって欲しいものだ。

 

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

 

 蜘蛛の巣のような漆黒が広がっていく。その闇を纏う折紙。

 力の奔流を顕現させた『神威霊装・統合』で防ぎ、咄嗟にしゃがんでいた士道を庇う。

 

「折紙!」

「やっぱりこうなったか……立てるか、士道」

 

 士道は一つ頷くと、防ぎ切れない霊力の圧に吹き飛ばされそうになりながらもしっかりと立ち上がり、前を見据えた。

 

「七海、力を貸してくれ。ここで折紙を止めないと、街が、皆が、大変なことになる!」

「元よりそのつもりだ……俺の霊力で折紙の障壁を打ち破る。そっからはお前に任せるぞ」

「ああッ!」

 

 片目だけで視界を使うイメージで近付こうとするもの全てを拒絶するかのような霊力障壁を視認する。流石に情報量が多すぎて完全に使い切ると眩暈がしそうだ。

 手を翳す。霊力を集中させる感覚。

 天使は、武器は絶対に直接向けない。攻撃を弾くのにやむを得ず使うにしても、折紙自身には向けたくない。

 だからイメージは侵蝕。その霊力だけを打ち消すように……っ!

 士道の頭を掴んで一緒に身を屈める。

 直後に元々顔のあった場所を黒い光線が貫いていく。

 すぐさまその場所から移動し、取り囲むように展開していた『羽』から脱出し……立ち止まった瞬間に目の前に充填の完了しているらしき『羽』が現れた。

 

「危ない!」

「チィッ!」

 

 <聖破毒蛇>を脚甲の形にして纏わせ蹴り上げることで狙いをずらし、なんとか難を逃れる。成程、羽の包囲網は囮で、本命の一撃をずっと溜め続け包囲から出てきたところをすぐさま撃ち抜くつもりだったのか。

 折紙本人が直接そう思考しているとは考えにくいが、それでもある程度の制御下にはあるのだろうし、あまり悠長にもできないか。

 ふと、ずっと視界を使わずとも感じていた霊圧が軽くなった。だが、無くなったわけではないようだ。これは、中和……?

 

「かか! 流石に少しばかり肝が冷えたが、最早ここは我ら颶風の御子の領域内!」

「参戦。おイタはそこまでですよ、鳶一折紙」

 

 ふと周囲を見渡すと、確かに風の領域でこの高台公園を囲っており、視たところ少なくとも『羽』の光線程度では貫かれない程度の結界のような役割を果たしているようだった。流石に大技を撃たれると完全に防ぐことは難しいだろうが、それでも時間稼ぎとある程度の威力減衰を見込めるだろう。

 ご丁寧に上空を開けているあたり<フラクシナス>の援護も考慮してくれているらしかった。器用な事をするものだ。

 

「直接傷付けるような真似は止せよ! 士道を折紙の所まで送り届ければ俺達の勝ちだ!」

「我らを露払い扱いとはな! だが七海の顔に免じて今回は赦してやろう!」

「請負。八舞の二人が合わされば、最強です」

 

 新たな精霊の出現を感知したか、少なくない『羽』が二人の方を向くが、突風に煽られ照準を合わせることができないでいる。

 しかし。

 

「……精、霊…………」

 

 より多くの敵を認識した折紙がそのままで居続ける訳もなく。

 いくつかの『羽』が一箇所に集まり、円環状に組み合わさり、応じるように霊力が集まっていく。

 ああ、これは知らない。いや考えれば分かることだ。原作では限定霊装を纏った精霊達と<フラクシナス>が相手であったのに対し、今回は力の封印されていない八舞姉妹に、イレギュラーな存在である俺。数はともかく、個の脅威として俺達はより危険と判断されたのだろう。故に、攻撃手段が変わる。

 だが理解できることと、最適な判断ができることは別だ。そこで俺はすぐに離れるのではなく、様子見を選択してしまった。

 闇が、溢れ出す。

 

「ッ!?」

 

 鳥肌が、冷や汗が、何かを考えるよりも先に身体が逃げろと大声で叫んでいる。

 だが、それよりも先に。

 

「に、げろ、ぉぉぉぉぉおおおおお!!」

 

 幸運にも双子の方は何か言うよりも先に従ってくれた。士道は俺が抱えて離脱。余計距離が開くが、霊力障壁も密度やそこに割く霊力量の関係上今よりさらに大幅に拡大するということはないだろう。

 それよりも先にあの降り注ぐ闇の粒子から逃げる方が先決。

 込められた霊力を視れば分かる。二人もそれを感じ取れたからこそすぐの離脱を決めれたのだろう。

 一粒一粒が俺や士道程度なら致命傷、悪ければ即死になりかねない程の破壊力。それが、幾千幾万。精霊ならばもしかするとまだ耐えられるのかもしれないが、何より量がマズイ。たとえ1ダメージでも1000ヒットすればこっちは瀕死になるようなものだ。俺の扱う霊力なら打ち消せるが、動けなくなるのもマズイだろう。

 それに八舞姉妹は元々あまり耐久力に優れているわけではないので回避しか実質的な選択肢はない。俺や士道は言わずもがな、だ。

 俺の能力による再生は別とする。

 取り敢えず行動範囲が狭まれない空中に逃げ、飛翔しながら追撃を避け続ける。

 

「ええい、鬱陶しいわ!」

 

 竜巻のような烈風が横薙ぎに振るわれた。闇の粒子も吹き飛ばし、打ち消して、束の間の空白ができる。

 

「裂帛。はあッ!」

 

 風の弾丸……というにはあまりに巨大な塊が何個か打ち出され、霊力障壁にぶつかる。確かに反転した折紙の力は莫大だが、こちらも完全な精霊である。消失こそしなかったものの、確かにそこに穴は開いて、隙ができていた。

 そこを狙って飛び込み、士道を投げ飛ばす。

 

「折紙!」

「……」

 

 士道の呼び掛けにも返答はない。まるで機械のように『羽』がその先端に霊力を溜めるだけだ。

 <聖破毒蛇>で打ち払いはするが……

 

「俺の声が聞こえるか!? 頼む、返事をしてくれ、手を伸ばしてくれ、折紙!」

 

 ……これ以上は厳しい。更に『羽』の数が増えてきている。

 

「一度離れるぞ」

「でもっ、まだ!」

「これ以上は対応しきれなくなる。迎撃の『羽』も増えてきている。蜂の巣にでもなりたいのか?」

「っ……」

 

 一度大きく霊力を撃ち出して隙を作り、士道の腕を掴んでその場から離脱する。

 意味がない訳ではないだろう。確かに声は届いた筈だ。それは折紙が自分と過去に向き合う一助になった筈だ。

 

「七海! 琴里から<フラクシナス>の方から<ミストルティン>で援護するって――」

「今は駄目だ。敵と認識されたら<フラクシナス>も撃ち落としかねないぞ」

 

 確かそんなシーンがあった筈だ。

 増加した『羽』によるレーザーを脚甲で受け止め、離脱。

 そのまま方向転換して障壁を打ち破ろうとするが……俺だけなら無理矢理押し通せるだろうし、士道にも炎の回復があるとはいえ、たとえ治るにしてももし士道が足をやられて止まろうものならその体は穴だらけになるだろう。

 手応えはあったものの、今以上の『羽』に狙われたので退避。

 くっ、今ので脅威度が更新でもされたのか、折紙の身体がゆっくりと浮上してくる。その間も光線と粒子が俺の行動を縛ってくる。

 

「<破軍歌姫>――【輪舞曲】!」

「<贋造魔女>――【千変万化鏡】……【行進曲】!」

 

 音の壁に阻まれ折紙の浮上が止まる。勇猛な調べが、身体に力を漲らせてくれる。

 美九の<破軍歌姫>に……これは、七罪の? しかし姿は見えない。音だけが届いている。

 

「シドー!」

「十香!?」

 

 風の結界の開いた上空から四つの人影。

 十香、四糸乃、狂三に万由里。

 五河家、もしくは東雲邸でゆっくりしていた筈のこの場に居なかった精霊達が勢揃いしていた。

 

「どうして、ここに?」

「あれ程の霊力であれば私や狂三は当然、封印状態の精霊だって気付く。だから、急いで駆け付けた」

 

 さらに言えば、ここに到着した時点で八舞姉妹が先に気付き、風で上から皆を投げ入れたらしい。直接戦闘能力に劣る美九と七罪は風域の外に残したままなんだとか。

 限定霊装を纏った十香と四糸乃が各々の天使で『羽』を打ち払い、完全に霊力を解放した狂三と万由里が粒子を堰き止める。

 確かに戦力は揃った。

 だがそれ即ち、相手も相応の対応をしてくるという意味だ。

 

「…………」

 

 言葉はなく。そこには無機質な殺意のみがあった。

 粒子を降らす円環以上の量の霊力が一箇所に集中している。その規模は、これまでのどの攻撃も比べ物にならないほど。

 まずい。この威力は風域も打ち破る。純粋な精霊でも直撃はアウト。ならば選択肢は、撃たせないか、防ぎきるか。

 

「十香、四糸乃、士道を頼んだ!」

「任された!」

「わかり、ました……!」

 

 飛び出し、障壁を貫いて、霊力が集中しているその一点を狙って飛翔する。その勢いのまま蹴り抜く。

 無事霊力は霧散したが、完全には打ち消せなかった。漂う霊力が『羽』を通して俺に狙いを定める。

 だがもう、俺には後ろを任せれる。

 放たれるは、雷の矢と漆黒の弾丸。

 万由里の<滅殺皇>と狂三の<刻々帝>だろう。

 元よりあの時十香が使った<滅殺皇>は精霊達の霊力を万由里が集め譲渡したもの。万由里自身が使うこともでき、その場合は弓矢の形として顕現するらしい。厳密には自分自身の天使ではないためそう長くは扱えないようだが、<雷霆聖堂>よりは取り回しがしやすいのだとか。

 俺はその場に残り、再度霊力が集まらないよう俺の霊力で空間ごと折紙の霊力を抑え続ける。だがそれでも、元々存在していた『羽』や粒子にまでは手が回らない。消し過ぎない程度の調整のためにも集中する必要はあるだろうから、どうせと無視し続けるのも難しい。

 だから、士道が折紙のもとに再度辿り着くまでの間、俺のことは二人に任せよう。

 

「……頼む」

「きひ、きひひ! ええ、七海さんの頼み事とあらば、わたくし、応えてみせますわ」

「ん、おっけー」

 

 俺が動けない中、傍に降り立ち、それぞれの得物を構える。こちらを狙う『羽』を悉く撃ち落とし、射抜き、迫る粒子を影が、雷が相殺する。

 意思は希薄でも、霊力を込められないという事態には流石に反応するのか俺を排除しようと攻撃が激烈になっていく。相応に、二人の負担が大きくなる。だがそれを感じさせない涼し気な顔で迎撃し続ける。

 ふと、冷気が頬を撫でた。

 これは……四糸乃の。そうか、どうなるか不安だったが、無事彼女は士道を邪魔する――そして今までの自分という――壁を打ち破るための力を手にしたらしい。

 そして俺を迎撃するための攻撃の余波を掻い潜って再び士道は折紙の元に辿り着いた。

 

「折紙ッ!」

 

 だが、しかし。

 彼女の瞳は目の前で自分の名前を呼ぶ人物すら映さない。

 

「一人で抱え込まないでくれ! 五年前、言ったよな!? お前は一人じゃないって!」

 

 それでも。

 諦めるわけにはいかない。

 何度も呼びかけ続ける。

 彼女自身の、内側からの衝動を願って。

 

「迷ったなら、俺を頼れ! 俺を使え! 全部、俺にぶつけてくれて構わない! だから!」

 

 だから。

 

「絶望だけは――しないでくれ……ッ!」

 

 打ち消し続けていた霊力が一瞬、しかし大きくブレた。

 

「お前が何度世界を壊そうが、俺が必ず何とかしてやる! 何度絶望しそうになっても、俺が必ず助けてやる! だから、手を伸ばしてくれ!」

 

「俺には――お前が、必要だ!」

 

「――――」

 

 その声は、果たして。




 大分端折ってますが、メインは士道ですし原作の方読みましょう。

 十香と四糸乃の活躍は凡そ原作通り。七海の視点からは語られません。美九と七罪も同様。
 八舞姉妹は途中から遊撃と撹乱に専念。あれで障壁の密度緩めたり集めて風域を破ろうとする『羽』の対応してたりと色々やってる。
 <フラクシナス>も士道が二度目の接近の時攻撃の余波から守っていたり。流石に万由里と狂三だけでは攻撃の密度も上がっていたので二人を完全に守り切るのは難しかった。
 狂三は原作程分身体を使い潰しはしません。七海がいて少し過去が変わっているからということで……加速はしていました。が、消費が激しすぎた。
 万由里の<滅殺皇>は流石に<雷霆聖堂>出す訳に行かなかったのでそれっぽい理由を付けて登場。
 反転折紙の攻撃パターンに関してはまんま<絶滅天使>の流用。光か闇かの違いです。

 端折ったせいで駆け足気味ですが、やってることは大体原作と同じなのでいいでしょう。いいと言ってください。

 それでは次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 何話だったけなと思って目次見て折紙編の話数の少なさにびっくり

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