デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 遅筆で本当に申し訳ない……

 取り敢えずようやく書き終えたので投稿。七罪、変身するの巻。仮面ライダーの一話みたい。
 七罪編はあくまで士道くんが中心の章なので、オリ主が空気になりがち。是非も無し。
 これで九巻の内容は約半分弱ってとこですかね……?

 それでは、どうぞ(注意:TS要素有り)



第86話

 決行はすぐだった。

 翌日、七罪が朝食を摂り終えたことを確認してから、士道や十香達と共に部屋へと突撃する。

 皆の手には麻袋やらロープやら、所謂、拘束する道具が携えられていた。……ロープはともかく、麻袋って何だよ。

 因みに俺は手ぶらだ。運搬担当である。

 

「な、何……一体!?」

 

 七罪が狼狽に満ちた声を上げるが、こちらに一切の返答はなかった。ただ一言、琴里が口を開く。

 

「確保ーっ!」

『おおーっ!!』

 

 その号令に合わせ、士道と十香、四糸乃が一斉に動く。

 混乱している七罪は抵抗する間もなく、麻袋を被せられ、再度の琴里の号令で今度はロープでぐるぐる巻きにされてしまった。

 有り体に言って、ただの拉致現場だった。

 

『んー! んんんーッ!?』

 

 俺が担ぎ上げると、ようやく現実を認識したのかびったんびったん暴れ出す七罪。

 はっはっは。腕も足も出ない芋虫みたいな状態で暴れられた所で、下手すれば手が滑って落としてしまうかもしれなくなるだけだぜ。

 ……ふむ。

 一つ思いついたので、実践。

 軽く七罪の身体を持ち上げて、手を離す。俺とぶつかる前に、キャッチして受け止める。

 

『ぴぃっ!?』

 

 真っ暗で何もかもが不明な状態での浮遊感。からの落下の感覚。普段から空をびゅんびゅん飛んでる奴とは言え、こんな状況なら怖くもなる。

 小さな悲鳴と共に大人しくなったのを確認して、止まっていた歩をまた進める。

 泣き言と怨嗟の声が小さく、しかし延々と漏れ聞こえるのが怖い。

 歩くこと数分。

 目的地に着いた俺達は、七罪をゆっくりと下ろし、拘束していたロープや麻袋を取り外す。

 

「う……」

 

 眩しいのか、手で影を作る七罪。暫くして目が慣れた辺りで、この場の光景を目にした七罪は、今度は口をポカンと開けた。

 

「な、何よ、ここ……」

「はぁーい、一日限定エステサロン、『サロン・ド・ミク』へようこそー」

 

 暖色系の光に照らされた部屋。アロマでも焚いているのか、微かに花の香りが漂っている。部屋の中にはシングルサイズのベッドが一つ置いてあり、傍らに看護婦のような恰好をした美九がいた。

 呆然としていた七罪に声を掛けたのも美九である。

 

「ちょ、ちょっと、何よこれ……」

「何って、今美九が言っただろ。エステサロンだよ。お肌のケアをするんだ」

「……ちょっと待ってよ。え? 意味わかんない。なんで――」

 

 答えたのは士道。内容も明確だったと言うのに、何故か余計に混乱しているようだった。

 だが、急にハッと肩を揺らすと、やはりそうかとでも言わんばかりの表情で、

 

「は……ははっ、成程ね……私にこんなことさせて、勘違いのブスの滑稽な姿を嗤おうってわけ? あっはは……いい趣味してるわアンタら。私と同じくらい性根が腐って……」

「とうっ」

「あたっ!」

 

 七罪のネガティブ発言を遮ってその脳天にチョップしてる琴里を尻目に、俺は俺で美九に近付く。

 七罪の対応は士道や琴里達に任せるとして、俺は俺で必要な準備や確認しとくか。

 この部屋の隣には耶俱矢と夕弦の二人が待ち構えており、彼女達は七罪の髪を整える担当。さらにその先には多数の衣装を取りそろえた部屋と続く。

 そして最後が……。

 まあ、いいや。

 

「準備の方はどうだ?」

「おおむねバッチリですかねー。使う予定のアロマオイルも最高級の物を用意してもらいましたし、部屋の雰囲気もいい感じですー。後は七罪さんが暴れたりしなければいいんですけどぉ……」

「琴里も付いてるし、そういうことは無いだろうさ。暴れてどうにかなる程力も回復してない」

 

 それに、実は前に一度美九からエステをしてもらったことがあるのだが、その時あまりの心地良さに寝てしまった覚えがある。美九から迫られてやってもらったが、あれは割と癖になる。いつかそのうちまた頼もうかと思う程度には。……少々身の危険を感じるので未だにそれ以降やってもらってないが。

 ともかく。

 あんな心地良さならば、七罪も暴れて抵抗しようとはするまい。ずっと緊張状態なのだろうし、俺と同じように眠ってしまうかもな。

 

「それよりもぉ……だーりんも、約束、覚えててくださいねー?」

「……まあ、そういう話になったしな。仕方ない」

「やたー!」

 

 喜びを顔いっぱいに浮かべる美九。聞こえてくる鼻歌に、コイツ鼻歌すら綺麗なんだなーと現実逃避気味に考えを巡らす。

 今回の件に関して、俺は美九に一つ貸しを作っている。というより、作らされた。最初は何も言ってこなかっただが、急に悪い顔した美九にそう持ち掛けられたのだ。

 何かお礼はしたいとは思っていたし、それ自体は別にいい。

 だけど、内容がなあ……ま、その時はその時だ。

 

「――じゃあ、頼むぞ美九」

「はいはーい。任せちゃってくださぁーい」

 

 小さく手を振り、部屋の奥の扉から外に出て行く。美九の視線がちょっと危ない気がするが……ここで犠牲という言葉を使っていいものか。

 出る直前で再度中を振り返り、俺自身のこれからと美九の変態性に溜息を一つ溢す。

 さて。

 

「さあ士道」

「……何だ」

「覚悟を決めねえとなあ……」

「やっぱりそうだよなあ……」

 

 陰鬱な息を漏らす。

 

「今更ぐちぐち言わない。提案した七海も、それを承諾した士道も、言ったからには責任を持ちなさい。ほら、さっさと準備してくる!」

 

 琴里に急かされて、俺らは予定の部屋へと向かうのだった。

 俺らにも担当する部屋がある。俺ら以外の奴等で七罪のコーディネートをした後の、要は仕上げの部分。正直俺が居る必要は無いと思うが、まあ提案者としてきちんと付き合えということだな。

 

 

 

 およそ四、五時間程経っただろうか。

 三時間程の仮眠を挟み、残った時間で最終調整や段取り確認をしていると、琴里から連絡が入った。どうやら七罪の衣装選びが終わったらしい。

 結局この時の為に俺も士道も殆ど徹夜だったし、丁度良く休憩を取れた。

 連絡から数分。この部屋へと続く扉が開く。

 入ってきたのは、押されるようにしている七罪を先頭に、琴里や八舞姉妹など、今回協力してくれた精霊の皆。

 そして七罪は、見違える程綺麗になっていた。

 ボサボサだった髪は一部結わえられて耳の高さで纏められたツインテールにされており、服装も病衣からシックなお嬢様然とした服装へと着替えさせられていた。諸所に散りばめられた花や蝶の意匠がなんとも可愛らしい。

 やはり、素体は良い筈なのだ。本人の自己否認の所為で色々台無しになっていただけで。

 まあこれを本人に言ったところで巡り巡ったネガティブ思考の果てに逃げ出すかはっ倒されるかの未来しか見えないが。

 

「……ほら、士道」

「……ええい、こうなりゃもうヤケだ」

 

 横に立つ士道の脇腹を小突くと、士道は自暴自棄にでもなったかのようにそう呟いて七罪の前に立った。

 

「よく来ましたね! ここが七罪変身計画、最後の部屋。メイクアップルームです!」

 

 指と指の間にリップグロスやアイライナー、コンシーラー等のメイク用品を挟み込んだ士道が高らかに宣言する。

 ――()()()()()で。

 同じく高くなった声で俺も前に出る。

 

「ということで、俺……はあ。私達のメイクで貴方を変身させてみせます」

 

 何か迫力でも感じたのか、七罪が一歩後退った。実際自棄になって鬼気迫る部分はあると思う。主に士道から。あ、目の端に涙が。……すまん。

 

「な、何言ってるのよ。そんなんで私が変われる訳……」

「変われます!」

「て、適当なこと言わないでちょうだい! 私なんかが……!」

「本当に、そう思いますか? メイク程度じゃ、人は変われないのだと。変われる訳がないのだと」

「あ、当たり前じゃない!」

 

 七罪が叫ぶと、士道は指に挟みこんでいたメイク用品を、腰に付けていたポーチにしまい込んだ。今回メインで仕事するのは士道なので、俺の方の荷物はあまりない。俺の仕事は精々意見を出す程度で、もしくはもしもの時のための用心棒。

 士道はゆっくりと自分の首元に手を持っていく。

 そして、首に貼られていた小さな絆創膏のようなものを勢いよく剥がした。

 

「それは私が、いや……俺が、男だとしてもかぁっ!?」

「は……!?」

「ちなみに、俺の方も男だ」

「えぇ……っ!?」

 

 俺も喉の造りを変え、声を元に戻す。

 七罪の方はと言えば、突然目の前の()()から男の声が聞こえてきたからか、ビクッと肩を震わせていた。

 あっはっは。どっきり大成功。七罪の反応も小動物みたいでかわいいものだ。あっはっはー。

 ……はあ。何でまたこの姿に……。

 俺達の声に、ようやく七罪は正体に気付いたようだった。

 

「ま、まさか……アンタ達、士道に、七海……!」

「ご名答」

 

 頷く。

 繁々と俺らの顔を交互に見詰める七海。へっ、そんなに見詰められると照れちゃうぜ。

 ともかく。

 俺の発案により、士道は原作において誰よりもヒロイン力が高いと言われる士織ちゃんモードになってもらいましたー。わーい。どんぱふー。

 ついでに俺も巻き添えを喰らって万由里との騒動以来の七霞モードである。解せぬ。

 

「へ、変態……ッ!?」

「「…………」」

「あ、傷付いてる傷付いてる」

「まあでも否定できませんもんねー。大変可愛らしいんですけどぉ……」

 

 うるせえ。

 

「と、とにかくだ! 美九や女性スタッフ等色んな人達の訓練により、俺のメイク技術は男を女と誤認させられるレベルにまで達してしまった!」

「半分以上は士道自身の素質だがな。知らない奴に見せてみた所、外見だけなら百パー士道だとバレない」

「……とにかく、今の俺にならお前に自信を持たせることが出来る! 勝負だ、七罪。俺の、俺達の全身全霊全技術以て! お前を! 『変身』させてみせる!」

「……っ!」

 

 顔を強張らせる七罪。もしかすると、心のどこかで自分も変われるかもしれないと、そう思ってくれたのかもしれない。

 だが、彼女はキッと眼つきを鋭くし、何かを押し込めるかのように奥歯を噛んだ。

 

「……いいわ。やってもらおうじゃない。でも、忘れないでよ。私が納得しなかったら、勝負はあんたの負けだからね!」

「ああ、分かってる。七海も、それでいいよな?」

「ん。よし。じゃあ七罪、椅子へ」

 

 座るよう促すと、七罪は素直にそれに従った。顔が近付いたからか、まじまじと俺と士道の顔を見てくる。

 その視線から感じるのは、不信、疑惑、驚愕、そして……ほんの少しの期待か。

 ブンブンと、道具の準備や点検をしていると七罪が頭を振る。

 そこから何かを察したのか、士道がにこりと七罪に笑いかけた。

 

「大丈夫だ」

「……っ」

 

 かぁっと頬を紅潮させる七罪。俯いてしまう。はてさて、これは何に対する照れ隠しなのか。

 ちょっと下世話だな。止そう。

 

「……あの、一ついい?」

「ん? どうした。寒いだとかあるなら調節できるが」

「そうじゃなくて、その……その顔で男の声出されると気持ち悪いんだけど」

「「…………」」

 

 俺達はどこか悲しそうに、それぞれの方法で声を戻した。

 

「じ、じゃあ始めるぞ! まずは全ての基本、洗顔からだ」

「これを怠ると化粧乗りが悪くなる。結果に大きく差が出ちまうのさ」

 

 女声と呼べるくらいには声が高くなった俺達で七罪に指示を出しながら、入念に顔を洗ってもらう。洗い終わったら終わったで、化粧水を顔全体に馴染ませる。

 

「――よし、後は俺に任せろ」

 

 手早く七罪の顔に化粧下地を施し、パフを使ってうっすらとファンデーションを乗せ始める士道。

 おお、徹夜で猛特訓した成果が出てる。

 ……いや、普通一日でこうはならんだろ。何、士道の隠れた才能怖いんだけど。家事スキルに化粧スキルまで手に入れたらもうお嫁にいけるやん。笑える。士道に言ったら怒られそうだから心の内に留めておこう。

 

「言っておくが、七罪」

 

 作業中、士道が口を開く。

 

「俺達は別に、メイクでお前の顔を別人に作り替えようとなんてしちゃいない。俺達は背中を押すだけだ。お前が、凝り固まった『自分は駄目だ』って考えから抜け出せるように、手伝いをするだけだ」

「……ふ、ふん、口だけは達者ね」

 

 七罪は不機嫌そうにそう言うが、俺も士道もそれが強がりだと気付いているので、静かに笑みを浮かべるのみ。

 そして、頬にチークを乗せ、アイメイクを施し、時折色や程度を俺と相談しながらメイクを続け――最後に、唇にグロスを塗っていく。

 

「――さ、完成だ」

「こ、これで完成? 随分とあっさりしたもんね」

「士道が言ったろ。元の顔を殺す気はねえんだよ――っと、おぉ……」

「な、何よ……」

 

 七罪が振り向き、その顔を目にした瞬間、思わず声が漏れた。

 終盤、この大きな姿見を取りに行っていて席を外したが、一度リセットして再度見ると随分と変貌したものだ。

 艶を失ってた髪は照明の光を照り返してキラキラと輝いてるかのようで、肌も血色が大分良くなった。服も相まって、一見すれば淑やかな令嬢を思わせる。

 そして、貌。

 頬や目の輪郭など、元との違いはと言えば言う程大きなものはない。だが、それら一つ一つの僅かな違いが、七罪の相貌を一気に変えている。

 端的に言って、大変可愛らしい。

 へえ。美九や狂三とかは出かける時など、ほんの少しだけ化粧をしている時があるがやっぱり変わるもんだな。初めて見た時も少し驚いたし。

 ……美九、興奮するのは分かるが、くれぐれも飛びつくなよ? 今は俺の袖を引っ張るくらいで収まってるけど、それ以上は駄目だぞ?

 

「な、何よ、何なのよ……」

 

 俺以外の奴らも一様に驚いた表情をしているのに気付いたのだろう。七罪が動揺してる。

 俺は士道にサムズアップすると、先に男の姿に戻ったからか不満気な顔を向けてたが、やりきった顔で同じように返してきた。

 ふ、まあぶっちゃっけ俺要らなかったし先に戻ってても問題ないよネ。

 さて、そろそろ焦らすのも止めよう。

 

「さあ七罪、これが、お前だよ」

 

 一気に姿見に掛けられていた布を取り払う。

 

「え――」

 

 七罪の顔が驚愕に染まる。

 信じられないものを見るような調子で、ぺたぺたと自分の顔を触る。呆然としているその様子に、俺も士道もやや苦笑気味である。

 

「こ、これ……私……?」

「ああ、間違いなく、七罪、お前だよ」

 

 ぽん、と小さく士道が七罪の肩に手を置いた。

 うむ。ここまで素直に驚いてくれると、提案した身としても嬉しい限りだ。今回あまり仕事してないが、喜ぶくらいは許してほしい。

 

「うむ! 綺麗だぞ!」

「あら、いいじゃない。どう? 感想は」

「あらあら、これはこれは大変見違えましたわねェ……ふふ、とても可愛らしいですわよ」

「止めないでくださいだーりん。私はあの子をお家に招待するという使命が……っ」

 

 招待するだけならいい。だがだったらその手をわきわきさせるのやめなさい。あと顔どうにかしなさい。

 

「――どうだ? 七罪。勝負の結果は」

「……っ!」

 

 士道の言葉に、息を詰まらせる七罪。

 自惚れでなければ、この勝負は士道の勝利だろう。あの七罪の反応を見るに、少なくとも悪い印象は持っていない筈だし。

 

「あ……あ……」

 

 七罪の目がぐるんぐるん泳ぎ回り。がくがくと足が震え始める。

 脳が処理エラーでも起こしているのか、頭から湯気が出てくるのを幻視した。気がした。

 そんな様子の七罪を心配してか、士道が声を掛ける。

 

「お、おい、七罪……?」

「う、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

 ガリガリと頭を掻き毟って、大声を上げながら七罪は元来た道を駆けて行ってしまった。

 それはまるで、鏡に映る変身した自分から逃げているようにも見えた。




 殿町への紹介だとか、神無月マネージャーのくだりはカットかなあ……

 ということでお化粧。主人公が正直不要。ちなみに今回一番何もしていないの狂三である。
 士道くんは何で一晩で化粧技術をマスターできているのか。化物では?
 一応七海もちょくちょく手伝ったりはしていたという裏設定を今作りました。
 
 七罪編の終盤から折紙編に入るわけですが、また士道中心。
 なんか考えてたような気もしますけど、随分前なのでもう忘れ気味。

 それでは次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 正直、美九はともかく狂三が薄くでも化粧してるってのは完全にイメージです。

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