七罪編後編三話です。
再度申しますと、主人公の持ってる知識は原作十一巻まで。アンコールは時系列に準じて、です。作者自身の確認も込めてもう一度。
正直、自分でどこまで書いてよかったか分からなくなるという。
それでは、どうぞ。
七罪が目を覚ましたらしい。
エレンから七罪を救出したのが昨日の話。命に別状は無いと言っていたものの、傷自体は深く、転送した時点で気を失っていたとのこと。
どうにも表現が曖昧になるのは、俺が別に直接見ていた訳ではないからだ。全部、クルーの人達から聞いた。
もともと俺は監視状態の身。七罪救出時はエレンがいたからこそ俺も戦線に出たけど、むしろそれが例外的。本来なら俺は自宅か五河家で誰かと一緒に大人しくしてなくちゃいけない。七罪救出後はそっちに人員を回さざるを得なかったから、俺も家で待機する他無かった。七罪が気になって、暇潰しをする気も起きなかったし。
だが俺は今、〈ラタトスク〉が所有している地下施設の一角にいた。
なんでも、七罪が目を覚ました後、琴里と士道がそれぞれ会話を試みるも、顔面を引っ掻かれて拒絶されてしまったらしく、俺にもお鉢が回ってきたということだ。藁にも縋る思いというか、何かしら打開策がないか模索中なんだろうな。
まあ俺は一応関係者の中では一番近い所で七罪と関わっていたし、こうなるのはある意味当然か。
「一応言っておくけど、変に刺激しないでよ? ただでさえ彼女、豆腐メンタルなんだから」
「さらりとひでえな、お前」
俺も否定も弁護もしないが。
案内役兼監視役、そして顔に引っ掻き傷を作った琴里と士道に連れられたのは、現在七罪が療養中のガラスで覆われた隔離スペース。視線の先では、近くに集めたぬいぐるみを手持無沙汰に弄ぶ七罪の姿があった。
「俺からも言うけど、士道や琴里で無理だったんだ。期待はしないでくれ。寧ろ俺、嫌われてるっぽいからなあ……」
「うん……そうなんだけどね……。見ず知らずの他のクルーよりは、まだ面識のある貴方の方が何かしらの動きがあると判断したのよ。正直、入った瞬間にぬいぐるみを投げつけられる未来しか見えないわ」
「あー……あれって、遊んでるんじゃなくて、弾を手元に置いているってことなのか……」
はてさて、鬼が出るか蛇が出るか。
意を決し、俺は部屋の入口に手を掛けた。
ゆっくりと扉を開け、中に入ると、それに気付いた七罪がこちらに視線を移す。
瞬間、その視線は怨嗟の篭った鋭い睨みへと変わった。
「……よ、」
「出てけっ!」
何か言う前に、予想通りぬいぐるみが投げつけられた。綺麗に俺の顔面を狙ったそれをキャッチし、視線を開けるようにずらすと、すぐに第二投がやってきた。それをもう片方の手で掴むが、さらに第三投、第四投と続け様に投げつけられる。
取り敢えず、最初にキャッチしたぬいぐるみを俺からも投げて第三投に当てることで勢いを相殺、防御。次いで第四投も同じようにもう片方で防御。第五投目をキャッチして第六投目に当てて、第七投目は殴り返して次に当てて……を繰り返すうち、ちょっとしたスリル感が楽しくなり始めたあたりで七罪の近くに残弾が無くなったらしく、攻撃が止んだ。
あたふたとして、最終的に布団に潜り込んだ彼女が目元だけ出してこちらを睨みながら言った次の台詞は、
「ば、化物……ッ!?」
「酷くない? 俺でも傷付くよ?」
勿論、冗談だが。
取り敢えず、離れてても仕方ないので、壁際あった椅子を持って来つつ、七罪が丸まってるベッドに近付いていくことにする。
限界まで俺から離れ、ベッドの端で布団に潜り込む七罪に苦笑しつつ、話を切り出す。
「久し振り、と言えばいいのかな。まあ、こうして直に話すのは暫くぶりだな」
「何の用よ……裏切り者のくせに」
「それは悪かった。俺にも俺の目的があったこととはいえ、お前を騙していたことには変わりない。改めて、謝るよ」
すまなかった、と頭を下げる。
七罪に原作がどうのという話をする訳にはいかないから、説明はできない。ただただ、誠意を込めて謝罪するしかない。
「や、やめて……調子狂うから……一応、納得はしてる……つもり、だから。そっちにも、理由があった、って……」
「そう言ってもらえると助かる」
さて、あんまり引き摺っても暗くなるだけだし、話題を変えた方がいいか。
「傷の方はどうなんだ? 痛みとか、ないか?」
「……アイツもそうだけど、なんで、私なんか助けたりしたの?」
「士道のことか? なら、答えは一緒さ。エレンにやられてたからな。寧ろ、助けない理由がなかっただろ」
「あぁ……もうッ! 違うでしょ! アンタは目的の為に裏切ることを平然とやり遂げるような奴でしょうが! そんなアンタが善意百パーセントで私を! 散々嫌がらせしてきた私を! 助けたりする訳ないじゃない! 知ってるんだから! 知ってるんだからッ!」
ボッフボッフと布団の中でベッドを叩きながら荒れる七罪。
その様子に、俺は苦笑するしかない。
士道からも聞いたのだろうけど、恐らくは似たような反応になったのかなあ。それに、現に俺は七罪を裏切っているのだから、その言葉に言い返せない。
ただまあ、こうして会話が出来ただけマシなのか……な? わかんね。
「落ち着け、落ち着け。裏切ったことに関しては何回でも頭を下げるから。そう暴れられると会話にならねえ」
「う、る、さぁぁぁぁぁぁぁいッ! 黙れ黙れ黙れェッ! 皆して私を見下してんでしょ!? 散々自分達を嫌がらせしておいて、いざとなったら助けられた私を嘲笑ってんでしょ!? 言いなさいよ。何が目的――っ」
騒いでいた七罪の声が、急に苦し気に途切れた。
どうしたのかと思えば、傷に障ったのか、小さく呻くような声が聞こえてきた。
「言わんこっちゃねえ。大丈夫か? 人を呼んできた方がいいか?」
「い、いいわよ……別に。暫くすれば治るから……」
「……酷くなったら言えよ?」
立ち上がりかけた身体を、再度椅子に座らせる。
大きく深呼吸をするようなくぐもった声が数度繰り返された後、相変わらず殺意の篭った、だが、幾分かは薄れた視線のまま、七罪が口を開いた。
「……少し、気になってたんだけど」
「ん? おう。答えられる範囲なら答えるぜ?」
「アンタ、どうして私のことを知っていたり、他の人達の言動をああも正確に予測できてたの? その所為で調子に乗っちゃった私が訊くのもアレだけどさ」
んー。ここで原作がどうのこうのっていう話はしない方がいいだろうし、はぐらかすか。
それに折角七罪から話題を持ち掛けてきてくれたんだし、きちんと乗ってやらないとな。まあ出来れば布団からいい加減出てきて欲しいものだが……無理矢理剥ぐ訳にもいかんし、取り敢えずは放置で。
「それだけじゃないぞ。お前さんの能力、天使、抱えてた秘密まで。接触した時点でそれは分かってた」
「……実は、昔会ったことが?」
「ねえよ。あの時が初めて……じゃねえや。学校で士道にアンタが化けてた時か」
「そう言えば、目がどうのこうのって……」
「んー……まあ、その辺はいずれ話すさ」
笑って誤魔化した。だが、話題を逸らすことには成功しているらしく、七罪はそれ以上の言及はせず、恨めしそうに布団の隙間から俺を睨むばかりであった。
俺の視界や能力に関しては今言わない方がいいだろう。下手に警戒されたくないし。あーいや、むしろ隠す方が警戒されるかな。でももう誤魔化しちゃったしなあ。誤魔化した傍から、『やっぱ教えてあげる』なんて言ったら余計警戒されそう。
あと、流石に気になるので、投げつけられ、無残にも床に散らかったぬいぐるみたちを集めとこう。
俺は椅子から立ち上がり、周囲に散らばったぬいぐるみを拾い集めることにした。
立ち上がる時に布団がびくりと動いたが……気にしないでおこう。
「……結局」
「ん?」
半分ほど集めたあたりで、背中から声がかけられた。作業は続けたまま、続きを促す。
「どうした?」
「……アンタって何者なの?」
「……と言うと?」
「目の話もそうだけど、精霊かと思えば今のアンタからは霊力を感じないし、でも天使を持ってるし。天使も、私みたいに模倣するものかと思ったら、あのゴスロリの女の抵抗を無効化するし、かと思えば変形するし。実力だってそう。あのエレンとかいう奴と同じくらい強かったし」
ねえ。
「――アンタって、結局何なの?」
……俺が何者か、ねえ。
まあ霊力を感じない理由、天使が扱える理由、ゴスロリの女ってのは狂三のことかな。狂三の抵抗を無力化できた理由。全部七罪に話していない俺の能力故なだけなんだけどな。それに、俺はエレン程強くない。あの時は短期決戦どころか、そもそも時間稼ぎ目的、決着を付ける気がなかったからこその小手先勝負だった。あのまま行けば負けてたのは俺だっただろう。
だけど、彼女が聞きたいのはきっとそういうことじゃなくて。
はてさて、どう答えたものかね。
「……俺にも分からん」
「……」
「俺はただ、皆を守りたいだけだ。心配かけたり、頼ってしまうことも多々あるけれど、俺はアイツらに幸せであってほしい。勿論、お前もだ、七罪。そのためなら俺は、」
「俺は何だってする――とでも?」
「ああ」
ぬいぐるみを集め終え、七罪の傍に並べながら笑顔を浮かべる。
それを見た七罪は、何故か怯えるような顔で、
「……帰って」
「え?」
「帰って。もう話すことなんてない。話したくもない。早く私の前から消えて」
……これ以上ここにいても彼女は頑なに態度を変えないだろう。
仕方ないかと諦め、俺は立ち上がる。ぬいぐるみは既に並べ終え、その周囲だけやたらとファンシーだった。
そして、部屋から退出するその間際。
「…………狂人め」
狂人。
その言葉が何故か、やけに耳に残った。
◇◆◇◆
「悪い。やっぱ無理だったわ。布団の中から出てすらこなかった」
退出し、外で待機、且つ中の様子を監視していた琴里と士道に対して首を横に振る。
引っ掻き傷を二人が付けているってことは、少なくとも七罪は二人に対しては一応姿を見せたのだろう。あ、いや二人とも無理矢理布団引っぺがしてたわ。琴里は知らないが、なんかそんな感じがする。
「こっちでも精神状態を確認してたけど、駄目ね。嫌われている、というより怖がられてるわよ、七海」
「……まあ、それはひしひしと伝わってきたよ」
「でも、一度癇癪を起こしたとはいえ、初めて普通に会話できたのは確かなのよねえ」
その理由が傷が痛んで大人しくなったから、じゃ駄目だとは思うがな。
一人、去り際に掛けられた言葉を反芻する。
「……狂人、か」
「? 何か言ったか、七海?」
「いや。何でもねえ」
俺が少なからず狂っている自覚はある。壊れている自覚はある。
だけどそれを治す気は無いし、治せるとも思っていない。
あの日、あの時、あの場所で。楓を殺してしまったその時から、俺は段々と崩れていったのだろう。
クスクスと小さな笑い声が頭の中で聞こえる。もしかすると、こんな思考をしている俺を見て楓が笑っているのかもしれない。もしくは、あいつならそうするだろうという思いから生じる幻聴か。
俺は。
どうすればいいのだろう。
俺の行動は正しくはないかもしれない。もっといい方法があったかもしれないし、あれが最善策とは決して言えまい。
だが、間違ってはいない筈だ。彼女達を危険から遠ざけるという点において、俺は間違っていなかった筈なんだ。事実、少なくとも直接的に危険に晒されることはなかっただろう。そりゃ俺じゃ手の届かないことはあった。どこかで負担を強いることはあった。だけどその時は、それしか方法が思いつかなかった。
俺は。
「……あ」
そうして悩んでいると、唐突に士道が手を打った。
ああ、そうだ。今は俺よりも、七罪のことだな。なんか知らん間に話が進んでいた。
「なあ二人共。上手くいくかは分からないけど、七罪のコンプレックスをどうにかするってことならこんなのはどうだ?」
そして、その士道の案を聞いて俺達は、
「いいわ。他に有効な手段もないし、試してみましょう。必要な物は全部〈
「ああ、頼む。俺は皆に協力してもらえるかどうか聞いてくるよ」
「俺からも話しを通しておこう」
「ええ、お願いするわ。――決行は明日。七罪の朝食が終わり次第急襲をかけるわ」
「ふむ……それじゃ士道、皆に話を終えたらちょっといいか。琴里も、クルーの人達を一部借りたいんだが……」
「いいけど、どうするの?」
「ま、その時に話すさ」
こっちもこっちで、そういうのに詳しそうな奴を別途呼んでおくか。
そして琴里は、チュッパチャップスを指で挟み、口の端をニッと上げると、
「さあ――私達の
そういえば最近サマポケ始めました。
とりあえず先のことは置いておいて、二亜と六喰をそれぞれどっち側に入れようか悩乱中。
主人公側にもロリ枠入れて良いだろうとは思うものの、六喰を入れると某中二病以外全員巨乳枠にもなってしまうという。かと言って士道に入れると士道側にロリ枠全員入るという。ううむ……。
そのうち主人公の性格や考え方について言及できるようなシーンが書ければいいなと思いつつ、どこで書くか全く予定が立たない。お陰でよく分からない独白を文字数稼ぎのためだけに使ってしまう。あはは。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
卓球むつかしい。