デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 明けましておめでとうございます(大遅刻)。

 書き終えたので次話投稿。
 もうすぐ私立大入試も始まるなか、果たしてここで書いていていいのか。ヤバい。
 どうも文章が崩れ気味です。

 それではどうぞー。


第75話

「―――『この中に、私がいる。誰が私か、当てられる?』……」

 

 琴里が難しげな表情をして呟いた。

 五河家宛にとある手紙が送られたのに気付いたのは、つい先程のことだ。

 差出人は七罪。中身は、何枚もの写真と、一枚のカード。カードにはこうあった。

 

『この中に、私がいる。

 誰が私か、当てられる?

 誰も、いなくなる前に。

             七罪』

 

 そして写真には士道と関係が深い精霊やクラスメイト達。

 殿町や七海は分かるが、亜衣麻衣美衣の三人衆やタマちゃん先生まで写ってるのは少し予想外だった。

 

「ど、どういう……ことだ?」

「……額面通り受け取るなら」

 

 士道の声に答えたのは、琴里ではなく令音だった。今し方、琴里によって〈フラクシナス〉から呼び出されていたのである。

 ちなみに、七海も一緒に呼んでいて、今彼は写真を手に取って何か考え中だ。このような手紙を送った七罪の真意を測っているのかもしれない。

 

「……七罪が、この十五人のうちの誰かに化けている……ということになるだろうね」

「俺も同意見だ」

 

 七海が持っていた写真を机の上に並べ、令音に同意を示す。

 

「今、写真を視てみたが、どれも普通の写真だ。『この中に』って部分の言葉遊びみたく写真そのものに化けている訳ではないらしい」

 

 士道はその言葉で思い至る。

 

「なら、他の皆も七海の視界ってやつで視れば、誰が七罪か判るんじゃないか?」

 

 それは正論に思えた。そう、先日学校であったように、七海の視界は化けた七罪を見破ることが出来るのだから、それを使わない手はない。

 しかし、七海は首を横に振った。

 

「俺が七罪が化けた候補にあることを考えてみろ」

「……あっ」

「そう。俺がもし、七罪だったらどうする? 『誰もいなくなる前に』とあるからには時間制限付きなのだろう。そんな中、本物か分からない奴の言葉を信じるか?」

 

 言われてみれば、その通りだ。

 七海の時間制限が予想通りなら、もし七海に七罪が化けていた場合、それまで自分以外を指し続ければいいのだから。外れたとしても、七海ですら見破られない秘策があったとでも言えば、圧倒的に情報で負ける此方は信じてしまうかもしれない。

 そこで七海が候補に入るようになるとしても、アドバンテージは向こうにある。意図的に情報を操作することぐらいやるだろう。

 

「……と言ってもだ」

 

 七海は片手を軽く挙げ、

 

「こういう事を霊力無しで出来るのは俺ぐらいのものだろうが」

 

 七海の指先には蝋燭程度の小さな炎。普通ならば有り得ない、タネも仕掛けもない不思議現象。

 世の理を逸した事象を成すのは、精霊か、もしくは七海ぐらいのものだろう。

 

「そうね。貴方には七罪の知り得ない特殊能力がある。ここでそれを示したのは、たとえ私が七罪だとしても問題ないから、か。とにかく、取り敢えずは貴方を候補から除外してもいいかしらね」

「いや、それは止めとこう。理由は……後で士道にだけ教えておくさ」

「……あー、成程ね。了解したわ」

 

 二人……と恐らくは令音さんも。の中では通じることがあったらしい。彼女達程頭の回転が早くない士道にとっては、もう少し時間をとってほしいところである。

 

「俺は、何をすればいいんですか?」

 

 何だか置いてけぼりにされた感があった。

 何であれ、今回の事の発端は、士道がファーストコンタクトで七罪の機嫌を損ねてしまったことである。原因は未だに分からないし、七海も教えてはくれないが、それに皆が巻き込まれてしまっているのだ。黙って見ていることなど出来なかった。

 だが。

 

「……そうだね。さしあたって、デートしたい順番でも決めておいてくれたまえ」

「…………は?」

 

 令音の言葉に、士道は間の抜けた声を発した。

 

「デー……ト? ど、どういう事ですか?」

 

 士道が眉根を寄せながら問うと、今度は琴里があっけらかんと返してきた。

 

「そのままの意味よ。明日から士道には、この写真に写ってる十五人全員と、一人ずつデートしてもらうことになるわ。そして―――そのデート相手に、何か違和感を覚えないかどうかチェックしてもらう」

「……! そ、そうか!」

 

 七罪がいくら変身能力を持ち、姿形や声などの外的要素を再現できるとはいえ、会話をしていれば、いつもと違う点に気付くことができるかもしれない。

 しかし、問題が無いわけではなかった。

 

「……でも、写真に写ってる全員と……だよな」

 

 士道が頬に汗を滲ませながら言うと、令音が「……ああ」と返してきた。

 

「……勿論一日で全員済ませろという訳じゃあない。急ぐにしても―――一日三、四人くらいが限界だろう」

「いや、そうじゃなくてですね……」

 

 肩に、ぽん、と手を置かれる感覚。振り向くと、七海が色々悟ったような顔でうんうんと頷いた後、ぐっと親指を立てた。

 その表情はまるで、「お前ならできる。頑張れ」と言っているようだった。

 士道がややげんなりとしていると、令音は理解したのかしていないのか、いまいちよく分からない寝ぼけ眼のまま言葉を続けた。

 

「……勿論、こちらでできるサポートは最大限させてもらう。あくまで七罪の目に触れない範囲で……だがね」

「それじゃ後の説明は俺がやっとこう。二人はやるべき事が他にもあるだろ?」

「ええ、それじゃ、お願いするわ」

「んじゃ、取り敢えず士道の部屋に行くか」

 

 七海に連れられ、士道は自室へと移動する。

 

「さて、何から説明したものか……」

「……七海は、誰に化けていたか、知ってるのか?」

「『化けていた』……か。もしゲームがもう始まっているとしたら、とてつもなく危うい質問だが……そうだな、まずはこれだけは言っておこう」

 

 七海は若干姿勢を正して、

 

「俺は基本容疑者から外していい」

「でも、さっきは外すべきじゃないって……」

「ブラフに決まってんだろ。誰が犯人か分からない状況でそうそう情報は明かすもんじゃない。だが、俺の場合は俺だと断定できる要素が二つある」

 

 指を一本立てて、

 

「一つはさっきも言ったが、霊力が感知されない超常現象。タネも仕掛けもなく人は指から炎なんて出せない。もう一つが、眼だ」

「眼……?」

「あー、眼帯付けてる方だ。俺は七罪の前で一度も眼帯を外していない。ならば、七罪はこの眼においては完全な推測でしか変化できない」

 

 お風呂の時も目を開けないようにしていたらしい。

 でも、確かにその二点なら、目の前の七海を七海として断定することも出来るだろう。選択肢が一つ減り、強力な助力もあるのは、願ってもいないことだ。

 

「だが、それで変に俺を選択肢から外すと七罪がどう動くか分からない。だから俺は大っぴらにお前を手助け出来ないし、俺らしく過ごす。お前も、俺を容疑者として扱うんだ」

 

 ルールがあれだけとは限らない、と七海は言う。

 今はまだ、七罪の行動は七海が予想できる範囲にあるらしい。だが、聞くと、七海の知識との相違があるらしく、やはり予測の範疇を越えないのだとか。

 

「んで、さっきの質問の答えは、是だ。だが、俺はそれを明かさない。それが正しいとは限らないし、明かすとどうしても色眼鏡を掛けちまうのが心理ってもんだ」

「そう、だな。情報は等しいに越したことはないのか」

「こちらはどうしても受け身にならざるを得ない。正確には、受け身であると見せかけなければならない。開示できる情報が少なくなるのは許してくれ。こちらでも七罪特定のアプローチはしてみる」

「分かった。よろしく頼む」

 

 士道には士道の、七海には七海のやるべき事とやれる事がある。

 その後、令音を呼び、〈フラクシナス〉及び七海のこれからの行動指針を決め、とりあえずの解散となった。

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 ――――十香、四糸乃、殿町。

 今日とりあえず調査したこの三人に異常は見受けられなかったように思える。確かに十香の唐突な少食化や四糸乃のハロウィンドッキリなどはあったものの、テレビの影響だったり、よしのんが唆したからだった。

 だから、七海がやけに驚いているのが妙に気になった。

 しかし、気にすることはないとばかりに本日最後の相手に送り出したので、士道は一度七海に情報の精査を任せ、こうして急いでいるのである。

 時刻は夜。

 肌寒くなった十月の夜は、風呂上がりで火照った体には心地よい気温だった。

 本日最後の相手は夕弦。七海的に夕弦と士道が形だけとはいえデートをするのはいいのかと思い訊いたところ、結構な時間を思考に費やした上で、まさしく苦渋の決断といった表情で、構わない、と言ってくれた。

 ただ、絶対にふざけた真似はするなよ、と強く、それは強く念を押されもしたが。

 

「若干遅れているな……」

 

 時間を確認すると、数分だが予定より遅れている。急がなくては。

 さらに歩を早め、待ち合わせ場所の公園へと急ぐと、そこには既に夕弦の姿があった。

 

「憤慨。人を呼び出しておいて遅れるとはいい度胸です」

「すまん、夕弦。前の用事が少し長引いてさ」

 

 慌てて走り寄り、手を合わせて頭を下げる。数分とはいえ、遅れたのは事実である。非はこちら側にある。

 まあ、正確には呼び出したのは士道ではなく令音達〈ラタトスク〉なんだが、そんなこと夕弦が知るはずもないだろう。

 

「赦免。まあ、いいです。夕弦は心が広いので、五分くらいは誤差としてあげます」

 

 言って、ふうと息を吐き、腕を組む。

 そこで士道は軽い違和感に頭を掻いた。

 何か不審な点が夕弦の言動にあったわけではない。どちらかというと、いつもは双子のもう一人の片割れ、耶倶矢と一緒にいる光景に見慣れているからか、今のように夕弦一人という状況への物珍しさが影響しているのかもしれなかった。

 一応事前にラストは夕弦だとは聞いていたが、それこそトイレ以外は常に一緒と言っても過言ではない二人が別々なのは、なんとも不思議な気がする。

 それに、七海とも。

 今回は彼も七罪探しの事情を知る側なので当たり前とは言え、こうして夕弦だけと言うのは新鮮である。

 そんな士道の思考を視線から察したか、夕弦がやれやれと肩をすくめた。

 

「溜息。そんなに夕弦が一人でいるのが珍しいですか」

「ま、まあ。確かに、あまり見ないなとは思っていたけど」

「苦笑。夕弦と耶倶矢は一心同体ですから。そう言ってもらえると、夕弦としては嬉しいです。七海も、どうも忙しいみたいですし」

 

 成程。本日も二人の八舞は仲良し姉妹であるらしかった。

 

「質問。それで、一体どうしたのですか。こんな時間に呼び出して」

「えっと、あー、それはだな……」

「疑問。……?」

 

 しまった。何も考えていなかった。士道は己の失態にようやく気付いた。

 皆との会話の中で違和感を見つけ、七罪を探し出すことに躍起になっていたせいで、肝心の会話の内容に思い至ってなかった。

 いや、確かに士道は会話すべき事は事前に伝えられているのだ。夕弦本人しか知らない内容で、士道に知られても大丈夫なものを令音達や七海から既に聞いてはいる。

 ただ、それを切り出す切っ掛けがないだけで。

 

「あー、その、最近どうかなって思ってさ」

「質問。どう、とは」

「えっと、夕弦や耶倶矢、七海っていつも一緒にいるだろ? ただ最近七海も忙しいみたいだから、なんていうか……」

 

 どうも上手く話し出せない。

 夕弦達と士道との仲は決して悪くないし、むしろ一緒に食事だったりプチ旅行だったりする程には仲がいい。確かに七海を経由した関係ではあるが、互いの距離はそれほど離れてはいない筈だ。

 しかし改めて二人で、となるとどうも勝手が違う。

 

『シン。夕弦の君への不審感が少し上昇している。あまりざっくりとし過ぎる会話は控えた方がいいだろう』

「それは分かってるんですけど……」

 

 どうしようもないのが現実である。

 

「……そ、そういや七海で思い出したけど、七海が最初に出会った精霊って二人なんだよな。ちょっと、話を聞いてみたいなー、なんて……」

「承諾。いいですよ。士道が聞きたいと言うのなら、話すことは吝かではありません」

 

 少し移動しながら話しましょう、とのことで付近を当てもなくぶらぶらすることにした二人。

 思わぬ収穫に少し驚いた部分はあったが、会話が続き、情報を得られるのなら願ってもいない状況だ。夕弦が話した内容と七海や耶倶矢の記憶とが合っていれば七罪探しを一歩前進できる。

 

「懐古。そうですね、どの話をしましょうか? 初めて出会った時? 遊園地デートをした時? 夕弦達と七海の思い出話はいっぱいありますが」

「そうだなあ……じゃあ、三人が出会った時の話をしてくれないか?」

「了解。はい。では、少し付き合ってあげます」

 

 夕弦はどこか懐かしそうに目を細めて、

 

「回想。――――最初、夕弦達にとって七海は、ちょっとおかしな人間、程度のものでした」

 

 そして語り出す。

 耶倶矢との『勝負』の最中に現れた闖入者のこと。

 その闖入者に勝負を挑まれ、二人して詐欺紛いの手で負けたこと。

 途中、現れたASTと七海とが戦闘をしたこと。

 その他、買い物したり、遊園地に行ってみたり、旅館の混浴で一緒に温まったり etc etc……

 夕弦はそれらを語る度に幸せそうに微笑んだ。時に若干怒ったり、楽しそうにしたり、嬉しそうに笑うものの、やはりそれは幸せそうで。

 士道はそんな彼女を見て、

 

 (これは、聞く側にとって相当恥ずかしいぞ……!)

 

 単純に惚気話にしか思えなかった。

 

「――――最後に、夕弦と耶倶矢は七海に救ってもらって……と、どうかしましたか?」

「い、いや、何でもない……」

 

 なんとか耐えきったようである。しかも、夕弦にとっては自覚無しというのがまた恐ろしい。

 だが、ただ聞いていただけの士道ではない。きちんと予め知っていた情報と相違点は無かったかを確認しながら聞いていた。

 と言うのも、七海と八舞姉妹の出会いの話は七海と士道及び〈ラタトスク〉が接触して間もない時期に聞いているのだ。勿論、七海から。

 その時の七海は恥ずかしかったのか、今しがた聞いた内容に七海から聞いた以上の内容も含まれていたが、七海ならそうするという想像は簡単につくし、後で七海本人に聞いてみてもいい。

 ……いや、七海本人に聞いちゃ駄目なのか?

 七海のややこしい立ち位置について考えていると、

 

「呼掛。士道」

「ん? どうした?」

「吐露。少し、悩みを聞いていただいていいですか?」

「悩み……?」

『ふむ。精神状態からは検出されなかったが……』

 

 これは七罪特定に繋がる会話だろうか、と一瞬考え、すぐに振り払う。

 どんな状況であれ、誰かが悩みを抱えているというのなら相談に乗るのが普通だ。

 

「心配。七海のことですが」

「七海がどうかしたのか?」

「首肯。七海は、また、無理をしていませんか?」

 

 それは、何だかんだで七海と最も一緒にいる時間が長いからこそ分かってしまうことなのだろう。

 

「想起。今の七海は、修学旅行の時と同じ感じがします。一人で抱え込んで、無理をして、限界が来ても離そうとしない。そんな無茶を、七海はまたしてませんか?」

 

 今回の騒動。実際に中心にいるのは士道なのだが、夕弦がそれを知るはずもない。

 不安や心配の相手が七海で、士道を含んでいないのは当然のことであり、寧ろ彼女達だからこそ七海がまた無理をしようとしているのは分かるのだろう。

 士道はそれを惜しいとは思わないし、夕弦がそれ程に七海に思いを寄せているのが判って嬉しいとも思う。

 

「大丈夫」

 

 だから、士道は力強く頷いた。

 

「アイツは無理なんかしてないさ。だけど、もし俺達の知らない所で無茶しようとしてたら、その時は目一杯叱ってやれ。お前はいつもそうやって、ってな」

 

 悪戯っぽく士道が笑うと、最初きょとんとした顔だった夕弦も、次第に笑みを浮かべて、

 

「同意。そうですね。ついでにお詫びも要求しちゃいましょう」

「お、いいな。ケーキとかお菓子類はあいつ滅茶苦茶美味いし、ぱーっと騒ぐのもありだな」

「同調。十香や琴里も誘いましょうか。人数が多いに越したことはないですし」

「ははっ。そりゃ七海も大変だなあ。一体何人分になるのやら」

「戦慄。十香が満足するだけのお菓子……聞くだけでも準備の大変さが想像できます」

 

 二人に眠気が襲ってくるまで、そうして七海をダシに盛り上がる。

 士道や琴里では収まらない、〈フラクシナス〉ですら知らない情報を七海は持っている。故に、七海は一人で解決しようとしてしまう。

 どうしてもその情報差故に七海の行動を諌めることも協力することも難しくなっているが、だからって七海に全て任せる理由にはならない。

 自分達だって七海を支えることぐらいは出来るんだ、って。

 七海に分からせなければなるまい。

 夕弦は、そう決意した。




 センターはそれなりでした。

 士道側のヒロインのデートは割愛。敢えて言うとしたら、なぜ七海が驚いていたか、でしょうか。
 地の文が少ない気がしますが、気にしてはいけません。……いけません。

 迫り来る大学入試を舞で迎え撃ちながら日々を過ごそうと思います。勉強しろ。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 そろそろ歩法を習得するべきか……?

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